『シド・バレット 独りぼっちの狂気』ピンク・フロイドを作ったピュアすぎる天才アーティストの生き様を描くドキュメンタリー作品

『シド・バレット 独りぼっちの狂気』ピンク・フロイドを作ったピュアすぎる天才アーティストの生き様を描くドキュメンタリー作品

2024-05-14 16:42:00

ピンク・フロイドを知らなくても、昭和の悪役プロレスラー、アブドゥーラ・ザ・ブッチャーの入場行進曲「吹けよ風、呼べよ嵐」なら、誰も耳にした曲であろう。その曲を作ったのが、ピンク・フロイド。その伝説は語り継がれ、音楽ファンには神のような存在のような領域まで上り詰めたバンドだ。

このピンクフロイドの草創期、サイケデリックに彩られたアンダーグランドのカルトカルチャーのトップランナーとして突っ走っていた時期を牽引し、ある意味ピンク・フロイドの方向性を決定づけたのが、シド・バレットだ。しかし、シドは、メジャーデビューの翌年1968年には、過剰な薬物摂取の影響と体調不良からバンドを脱退してしまう。前にあげた「吹けよ風、呼べよ嵐」も彼がバンドを出た後の楽曲で、今、名曲として残るピンクフロイドのナンバーもシドとは関係がない。シドがピンク・フロイドで活動していたのはたった3年で、ピンク・フロイドの歴史はその後の方が長い。だが、多くのミュージシャン、そして、ピンク・フロイドのメンバー自身が、一目を置き、大きな影響を受けているのは間違いない。そのシド・バレットを深く描いているのが本作品である。

シドの芸術家としてナイーブ…それは、非常にピュアすぎる、研ぎ澄まされた感覚、普通の人が持ちえない感覚。シドは、共感覚とよばれる独特のセンスを持った純粋アーティストであったらしい。脱退後の行動や他の人の理解を超える楽曲から狂気の人として語られることが多かったが、この映画では、超芸術家としての側面が理解でき、実は虚気じみた楽曲も計算されたアートとしての価値も語られていて、改めて、シド・バレットを理解することができる。だからこそ、商業的、ビジネスとしてのミュージック業界には到底馴染めるものではなく、シドが、世界メジャーへ上がっていくピンク・フロイドを脱退するのも理解できるし、共感を持つことができる。

この映画で特に注目したことがある。シドの後、メジャーとなったピンク・フロイドは、ロジャー・ウォーターズとデビット・ギルモアとの決裂を迎えてしまう。その二人が、この映画の中で、シドについて語っているのは非常に感慨深い。

 

ロディ・ボガワ 監督

 

ロディ・ボガワ
監督

ニューヨークの映画監督。『I WAS BORN, BUT...! (2004年)、『JUNK』(1999年)、『SOME DIVINE WIND』(1991年)、『TAKEN BY STORM - THE ART OF STORM THORGERSON AND HIPGNOSIS』(2013年)などの⻑編映画のほか、『IF ANDY WARHOLʻS SUPER-8 CAMERA COULD TALK』(1993年)など数多くの短編映画やビデオを制作している。
『TAKEN BY STORM - THE ART OF STORM THORGERSON AND HIPGNOSIS』は当初本作の監督を務めていたアートデザイナー、ストーム・トーガソンにフィーチャーしたドキュメンタリー映画。トーガソン個⼈のアーカイブからセレクトされた映像や写真のほか、制作をともに⼿がけたカメラマンや芸術家、そしてジャケット制作を託したアーティストらへのインタビューからトーガソンの⼈⽣やキャリアを振り返る。インタビューにはデヴィッド・ギルモアなども参加をしている。
ストーム・トーガソンの死後、制作途中であった本作の監督を引き継ぐ形で完成へと導いた。

 

ストーム・トーガソン 監督

 

ストーム・トーガソン
監督

1944年⽣まれ。1968年にロイヤル・カレッジ・オブ・アートで知り合ったオーブリー・パウエルとともにアート集団「ヒプノシス」を結成。乳⽜が振り向いているジャケット写真が衝撃的なピンク・フロイド『原⼦⼼⺟』でその名を世界に知らしめ、『狂気』のほか『炎〜あなたがここにいてほしい』、『アニマルズ』などの代表作のジャケットのデザインを⼿掛けている。『狂気』の⼤ヒットにより、レッド・ツェッペリン、ジェネシス、ピーター・ガブリエル、ブラック・サバス、イエスらの作品も⼿掛けるように。1983年のヒプノシス解散後もアルバムジャケットのデザインを続け、ミューズやフィッシュ、ザ・クランベリーズ、ビッフィ・クライロ、アンスラックス、メガデスらの作品を担当している。2013年4⽉18⽇、逝去。享年69歳。

 

Pink Floyd ピンクフロイド

ビートルズ、ローリング・ストーンズ、レッド・ツェッペリンなどと並んで英国を代表するロック・バンドであり、史上最も成功したロック・バンドの1つであるピンク・フロイド。プログレッシヴ・ロックの歴史を作り、常に最前線を歩んできた彼らは、もともとは'60年代半ば、サイケデリック・ロック・バンドとして、天才シド・バレット(G, Vo)を中⼼に結成された。他のメンバーは、ロジャー・ウォーターズ(B)、リチャード・ライト(Key)、ニック・メイソン(Dr)。バンド名は、ピンク・アンダーソン、フロイド・カウンシルという2⼈のブルースマンから取られている。

1967年、2枚のシングルをヒットさせたあと、ファースト・アルバム『夜明けの⼝笛吹き』を発表。⾼い評価を得たこのアルバムは、シド・バレット⾊の濃い内容だった。翌年頭に、デヴィッド・ギルモア(G)がバンドに参加。⼀⽅、シドは精神に不調をきたしており、実質的にバンドをクビに。ピンク・フロイドはそれまでの実験的な⾯に、⻑い楽器パートを含んだ曲構成を取り⼊れ、のちにプログレッシヴ・ロックと呼ばれる体裁を徐々に整えていった。そして、彼らの⾳楽が最⾼の形で実を結んだのが1973年の『狂気』。楽曲、演奏、精神、録⾳、すべての⾯において成功したアルバムといっていいだろう。全⽶No.1を獲得し、チャート内に742週とどまるという記録を打ち⽴てた。いまだに、最も売れたロック・アルバムの1枚である。

その後も1975年『炎〜あなたがここにいてほしい』、1977年『アニマルズ』、1979年『ザ・ウォール』と傑作アルバムを連発していく。1985年に、ロジャー・ウォーターズはバンドを脱退。

1983年『ファイナル・カット』をリリース後実質的に活動停⽌。1986年に、ロジャーはバンドを脱退するが、ギルモアを中⼼とした他のメンバーとの法廷闘争まで発展。

結局ギルモア中⼼のフロイドとして継続。1987年『鬱』、1994年『対(TSUI)』を発売。その後のツアーも⼤成功。2006年“ライヴ8”でたった⼀度だけの奇跡の再結成を果たす。2006年7⽉7⽇、ピンク・フロイドの創始者でもあるシド・バレットが死去。また2008年9⽉15⽇にはリック・ライトも死去。2014年にはラスト作『永遠/TOWA』をリリース。現時点まで全世界で2億5千万枚以上のセールスを誇り、永遠にロック史に輝く”時代を超越する⾳芸術”は未来永劫語り継がれてゆく。

2017年はピンク・フロイド・デビュー50周年の記念すべき年。5⽉13⽇から英国V&A(ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム)でピンク・フロイド⼤回顧展「The Pink Floyd Exhibition:Their Mortal Remains」がスタート。またメンバー個々の活動も、ロジャー・ウォーターズ25年振りの新作『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント』を発売し、「US+THEM」と題された⼤規模ワールド・ツアーを敢⾏。またデヴィッド・ギルモアも2016年にピンク・フロイド以来45年振りに世界遺産ポンペイで⾏なったライヴ『ライヴ・アット・ポンペイ』を2017年10⽉に発売。ニック・メイソンは2018年より初期ピンク・フロイド(65年〜72年)の楽曲のみを演奏するライヴ・バンド、ニック・メイソンズ・ソーサーフル・オブ・シークレッツ(Nick Masonʼs Saucerful Of Secrets)を結成してライヴ・ツアーを⾏なっている。

 

イントロダクション

メンバー、家族、友人、歴代のガールフレンド……
数十名の証言から浮かび上がるシド・バレットの知られざる素顔

 ピンク・フロイドを創った男として初期には活動の中心でありながらも、5年あまりで表舞台から姿を消し、巨大化したピンク・フロイドのインスピレーションの源としてロック史の一隅を閉める「伝説」となった男―。本作は、ときにゴシップ誌の見出しを飾るほど私たちを魅了してやまないシド・バレットの「狂気」と「天才」の真相に、多数の証言と記録映像、幻想的な映像パートで迫る。ロジャー・ウォーターズ、デヴィッド・ギルモア、ニック・メイスンら、ピンク・フロイドのメンバーはもちろん、実妹ローズマリー、幼少期の友だちや美術学校時代の教師や学友、ピート・タウンゼント(ザ・フー)やグレアム・コクソン(ブラー)らミュージシャン、ミック・ロックやダギー・フィールズら写真家、美術家、歴代のガールフレンドまで数十名が勢揃い。ロンドンのアンダーグラウンド・カルチャーの巣窟、UFOクラブでのライトショーや、デビュー間もないころの初々しいスチルにMVなど、上昇気流に乗るバンドの姿をとらえた場面から、ストレスとドラッグに苛まれ精神の均衡が崩れ、バンドを去ったのちの秘話まで、これまでまことしやかに語られてきたシドにまつわる逸話を答え合わせすることもできる。監督と聞き手をつとめたのはシドの旧友にして、レッド・ツェッペリンやブラック・サバス、そしてピンク・フロイドのアートワークでも名を馳せたアート集団「ヒプノシス」のストーム・トーガソン。トーガソンの死後、映像作家のロディ・ボガワが意志を引き継ぎ、シド・バレットという神秘をときあかす決定版を完成させた。

『シド・バレット 独りぼっちの狂気』予告編


公式サイト

 

2024年5月17日(金) 渋⾕シネクイント、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

監督︓ロディ・ボガワ、ストーム・トーガソン
出演︓ロジャー・ウォーターズ
デヴィッド・ギルモア
ニック・メイスン
ピート・タウンゼント
グレアム・コクソン
ミック・ロック
ダギー・フィールズ
ノエル・フィールディング
トム・ストッパード
アンドリュー・ヴァンウィンガーデンほか

2023年/イギリス/94分/16:9/原題:Have You Got It Yet?The Story of Syd Barrett and Pink Floyd

配給︓カルチャヴィル
©2023 A CAT CALLED ROVER.ALL RIGHTS RESERVED.
©Syd Bar ret t Music Ltd
©Aubrey Powel l_Hipgnosis

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