『ノルマル17歳。 ― わたしたちはADHD ―』ADHD、それを語る出発点になる映画

『ノルマル17歳。 ― わたしたちはADHD ―』ADHD、それを語る出発点になる映画

2024-03-28 13:28:00

『ノルマル17歳。 ― わたしたちはADHD ―』

オーディションで発掘した2人の新人、鈴木心緒と西川茉莉に加え、幅広く活動する眞鍋かをり、人気アナウンサー・キャスターの福澤朗、映画「八月の濡れた砂」、テレビドラマ「飛び出せ!青春」で名を馳せた村野武範等個性的な俳優陣が脇を固めている。

監督は広告業界やアメリカなど海外の映画事業に携わるなど豊富な経験をもとに多彩な活動を行う北宗羽介。特質すべきは、脚本を担当したのが、本作品が初執筆作品となる神田凜で、まだ20代の新鋭だ。

この作品は、議論を始めるための映画であると言える。
ADHDつまり注意欠如・多動症と診断される児童の数は学童期の児童数の5から7%と言われていて、本人だけでなく両親を含め、多くの方が悩みを抱えている。この作品は、このADHDを抱える2人の女子高生が主役の物語だ。この作品の中では、ADHDの問題を、2人の主人公が出会い、友情を育みながら、お互いに成長しながら乗り越えていくストーリーとなる。

主人公それぞれの両親は、どことなく、子供を否定してしまうように見えてしまうが、実際、ADHDを抱える子どもを持つ親等の養育者は、子育ての悩みを想像以上に抱えていることだろう。だが、そういった悩み以上に子供たちは困難を抱えて社会の中で生きていかなければならない。子供たちは自分たちのことは他人には理解されないと思い、その人間関係の出発点である親、家族から始まって、友人、先生、そして社会の周りの人々と、同心円のように広がる世界の中で生きづらさを抱えてしまう。
彼女たちは、周りの人々との関係の中で違和感を感じ、生きていくためには、自分たちが普通でありたいと考えるようになる。

映画の中では、絶えず郊外と都市部が適度に共存する美しい街並み(撮影は東京の多摩市や日野市などで行われている)が映し出される。映画を見ていて、主人公たちに共感していくと、いつしか、彼女たちが普通で、周りが実は異常ではないかと思ってしまう。現代社会自体こそが、絶えず人々を不安に貶めるくらい、落ち着きがなく、社会自体が行動の抑制が困難なくらい、まさにストレス社会であり、社会そのものがADHDの症状を内包しているのではないか。静かで美しい街並みの中に、生きづらさは潜んでいるのかもしれない。
そう考えると怖い風景だ。

ADHDを抱える子供たちを認め合う多様性、優しく受け入れる寛容性。
ADHDを抱える子供たちの問題は、彼らの自らの成長によることだけで解決する、すなわち本作品のように彼女たちが「普通」から脱却し「本当の普通とは何か」へと目覚めていくのを待つ、いわば彼ら任せで解決するのではなく、社会として、そして共生する仲間としてどう手を差し伸べていくのが正しいのかを、この映画をきっかけに、ADHDの問題を語り合い議論していただければ、この映画としては本望であろう。

なお、劇中で登場する八百屋さんは、武蔵野市内の市役所に程近いグリーンパーク商店街のグリーンショップヤナギヤさん、神社は武蔵境駅近くの杵築大社で撮影されたという。映画をUPLINK吉祥寺で見たあと、散歩がてら尋ねてみてはいかがだろうか。

 

北 宗羽介 監督

北 宗羽介
監督
学生時代から映画・演劇制作に携わり、広告代理店を経て起業。広告制作・映像制作・IT関連事業などを展開。独立系映画の製作・配給や、海外映画の日本撮影サポートなどを行なう。ロサンゼルスに日米中合同で映画会社を設立してプロジェクトの展開にも携わる。
フェミニズム的視点から作品を手がけることが多く、女性だけの殺陣チーム「凜派(りんぱ)」の運営代表としても国内外で活動している。黒澤明、オーソン・ウェルズ、アレハンドロ・ホドロフスキーなどに影響を受ける。
映画『CANNA TOKYO』('24/監督・脚本・製作)、『初恋』('20/製作委員会メンバー/三池崇史監督)、『自治の種まく人』('13/監督/短編ドキュメンタリー)ほか


ストーリー

進学校に通う絃(いと/西川茉莉)はまじめな子であったが、発達障害のひとつであるADHDと診断されており、ひどい物忘れで生活や学業に支障を来していた。
重要なテストの日、絃は目覚まし時計をかけ忘れて寝坊してしまう。
 
ショックのあまり絃は登校せず、いつもは行かない道をさまよって見知らぬ公園に来てしまう。
そこで突然、茶髪で派手なメイクのギャル女子高生・朱里(じゅり/鈴木心緒)に声をかけられる。
「何してんの?」「あ…今日は寝坊して」
「あたしなんかほとんど寝坊か欠席。学校行ったけど落ち着かなくて帰ってきた。あたし発達障害あってさ。ADHDっての。知ってる?」
いきなりADHDだと言う朱里に驚く絃。
 
朱里は強引に絃を街へと遊びに誘う。
古い商店街や裏山が見渡せる公園、野良猫たち。 普段は家と学校の往復しかしない絃にとって、それは新鮮な世界であった。

 



『ノルマル17歳。 ― わたしたちはADHD ―』予告編

 


公式サイト

2024年4月5日(金) アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
鈴木心緒、西川茉莉、眞鍋かをり、福澤 朗、村野武範 、小池首領、今西ひろこ、花岡昊芽 ほか

Staff
監督:北 宗羽介  脚本:神田 凜、北 宗羽介
音楽:西田衣見   撮影:ヤギシタヨシカツ(J.S.C.)
エグゼクティブ・プロデューサー:下原寛史(トラストクリエイティブプロモーション)
プロデューサー:北 宗羽介、近貞 博、斎藤直人
製作:八艶、トラストフィールディング     配給:アルケミーブラザース、八艶
後援:日本発達障害ネットワーク(JDDnet)、NPO法人えじそんくらぶ ほか
文化庁「ARTS for the future!2」補助対象事業

©2023  八艶・トラストフィールディング /80分/カラー/5.1ch