『灼熱の魂 デジタル・リマスター版』今注目のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の出世作がデジタル・リマスター版で甦る

『灼熱の魂 デジタル・リマスター版』今注目のドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の出世作がデジタル・リマスター版で甦る

2022-08-10 10:38:00

『DUNE/デューン 砂の惑星』『ブレードランナー 2049』『メッセージ』など、今やハリウッドで最も注目されている監督の一人であるドゥニ・ヴィルヌーヴ。そんな彼の存在を世界に知らしめた出世作であり、2011年に公開されるや世界を驚愕させた衝撃作でもある『灼熱の魂』がデジタル・リマスター版となって再びスクリーン上に甦る。

原作はレバノン出身の劇作家ワジディ・ムアワッドの戯曲、『Incendies』。小さな劇場でこの戯曲を観たドゥニ監督は、「初めて『地獄の黙示録』を観た時」のような衝撃を覚え、すぐに本作を自分が映画化するのだと確信したと語る。

物語は、他界した母親ナワル・マルワンの遺した謎の二通の手紙に導かれ、彼女の子どもである双子の姉弟ジャンヌとシモンが、母親の生きた痕跡を辿り、遺言の真意に迫っていくというもの。カナダから中東へと舞台を移しながら、現在と過去を行き来するような構成となっている本作は、まるで重厚なミステリー小説かのような緻密なストーリー展開をみせる。一方で、映像はドゥニ監督らしくダイナミックそのもの。車から立ち上る炎の勢いや、果てしなく広がる大地の匂いまで画面越しに伝わってくるような繊細かつ壮大な映像に仕上がっている。緊張感のある映像が終始続いていき、最後には本作を衝撃作たらしめている恐ろしい真実とその裏に隠された母親の愛の物語が待ち受けている。

レディオヘッドの『You and Whose Army』という楽曲で幕を開ける本作。その瞬間から最後のクライマックスに至るまで、瞬きするのも惜しいほど物語は濃厚に、かつ鮮やかに紡がれていく。思わず息を吞むような「1+1=」の衝撃は、あらゆる人にとって忘れられない記憶となり得る底知れないパワーを秘めている。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督インタビュー

――ワジディ・ムアワッドの戯曲を知ったいきさつと最初の印象を聞かせてください。

初めて『地獄の黙示録』を観た時の印象と同じで、ただ驚きました。戯曲はとても小さな劇場、Le Theatre des 4 Sousで上演され、私は二列目に座っていました。というのも千秋楽のチケットをギリギリになって手に入れたので。まるで顎に強烈なパンチを受けたような衝撃で、膝を震わせながら劇場から出てきたことを覚えています。すぐに自分がこの作品を映画化するのだと確信しました。

――映画は映像的にも豪華で、真に映画的です。戯曲がこれほどまでに映像的な可能性を持っていることをどのように予見したのですか。

『灼熱の魂』は偉大なクラシックの作曲家による楽曲のような戯曲で、非常に明確なイメージを直接想起させます。またワジディの演出には、とても貴重な美の力強い演劇的イメージがそこかしこに含まれています。それは舞台のための演出ですから、そのまま使うことはできませんでしたが、私はいつでも起源である戯曲に戻ってそこから直接映画の言語に解釈することができました。またワジディはいくつかの鍵となる助言もしてくれました。

――どうやってワジディに『灼熱の魂』を舞台から映画に変換することが可能だと説得したのですか。

私が書いた50ページほどの下書き原稿を読んだあとに、ワジディは『灼熱の魂』を私に委ねることに同意しました。彼は創造の自由付きという最良の形で作品を提供してくれました。私にただ白紙委任状を渡してくれたのです。これこそが脚色を成功させる唯一の方法だと思います。原作者は相手が自分で間違いをおかすことさえも容認しなくてはなりません。

――戯曲もそして映画も、舞台を単に“中東の国”としか説明していません。それについての考えを聞かせてください。

場所を特定するべきかどうか、この問題は脚色作業の間じゅうずっと私を悩ませました。最終的には戯曲を踏襲して映画も想像上の場所を舞台にすることに決めました。コスタ=ガブラスの『Z』のように政治的偏見から自由であるためにも。映画は政治をテーマにはしていますが、同時に政治とは無関係でもあります。また『灼熱の魂』の舞台は歴史的な地雷源でもあるのです。

――本作は時にほとんどオペラ的と言えるほどにドラマティックです。その大胆さは、夢も希望もない哀しみやメロドラマではなく、むしろ真に悲劇的で気持ちを高揚させるものにしています。これほど感情が強く表現される映画を作ろうと思い立ったきっかけは何ですか。

非常にドラマティックな素材をメロドラマにすることなく映画に置き換えるにあたって、神話的な要素は自然の光と影の中だけに留め、ありのままのリアリズムの冷静さを選びとることにしました。感情をそのものだけに終わらせることを避け、カタルシス効果を得るための方法とする必要がありました。『灼熱の魂』はまたジャンヌとシモンが母親の憎しみの根源へと至る旅でもあります。これはとても普遍的なテーマで私も深く心を動かされました。しかし脚本の中のドラマティックな要素のバランスを取るのにずいぶん長く時間がかかってしまいました。何しろひとつひとつのシークエンスがそれぞれ1本の映画の素材になりえるほどですから!

――キャストも大変魅力的です。どのようにキャスティングしたのですか。

『灼熱の魂』ではプロの俳優とヨルダンに住むアマチュアの俳優を起用しました。ヨルダンのキャスティングディレクター、ララ・アタラはイラクからの難民を支援するために彼らをキャスティングしたいと考えており、実際彼らは映画に大きく貢献してくれました。大変だったのは、全員のアクセントをゴラン地域のアラビア語のアクセントに直していくことでした。このため北アフリカ出身の俳優たちの中には、新しく言葉を習わなくてはならない人もいました。
ルブナ・アザバルは、ハニ・アブ・アサドの『パラダイス・ナウ』とトニー・ガトリフの『愛よりも強い旅』で見ていました。パリのキャスティングディレクター、コンスタンス・ドモントフォイが、彼女と会うことを提案したのです。ルブナはナワルの自然な強さと野心を持ったたぐいまれな女優です。ルブナこそがナワルでした。双子のキャスティングには苦労しました。メリッサ・デゾルモー=プーランに決めるまでに長い時間がかかり、シモン役の俳優もほうぼう探し回りましたが、結局身近なところで見つかりました。マキシム・ゴーデットは私の前作に出演しています。『灼熱の魂』に出演した俳優全員にとても満足しています。

 

 

ストーリー

初老の中東系カナダ人女性ナワル・マルワンは、ずっと世間に背を向けるようにして生き、実の子である双子の姉弟ジャンヌとシモンにも心を開くことがなかった。そんなどこか普通とは違う母親は、謎めいた遺言と二通の手紙を残してこの世を去った。その二通の手紙は、ジャンヌとシモンが存在すら知らされていなかった兄と父親に宛てられていた。遺言に導かれ、初めて母の祖国の地を踏んだ姉弟は、母の数奇な人生と家族の宿命を探り当てていくのだった……。

 

ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督

1967年10月3日 カナダ、ケベック州生まれ。ケベック大学モントリオール校で映画を学ぶ。初の長編『Un 32 Août Sur Terre』がカンヌ映画祭ある視点部門、テルライド映画祭、トロント国際映画祭などを含む35の国際映画祭で上映され、続く2作目の『渦』は約40の国際映画祭で紹介されベルリン国際映画祭国際批評家協会賞ほか25の賞を受賞。長編3作目『Polytechnique』はカンヌ国際映画祭監督週間などに出品、トロント批評家連盟により最優秀カナダ作品賞に選ばれている。本作『灼熱の魂』でも世界30を超える映画祭で絶賛され、カナダのアカデミー賞であるジニー賞8部門受賞、第83回米国アカデミー賞外国語映画賞にもノミネートされた。本作の成功により、ハリウッドに進出、2013年にはジェイク・ギレンホール出演の2作品『プリズナーズ』『複製された男』を発表。その後、エミリー・ブラント、ベニチオ・デル・トロが出演する『ボーダーライン』がカンヌ国際映画祭コンペ部門に出品、エイミー・アダムス、ジェレミー・レナ―が出演した『メッセージ』がヴェネチア国際映画祭でプレミア上映、東京国際映画祭で特別招待作品として先行上映が行われた。2017年にはカルト的な人気を誇るSF映画の続編『ブレードランナー 2049』を発表、米アカデミー賞で撮影賞・視覚効果賞に輝く。最新作はティモシー・シャラメ主演の『DUNE/デューン 砂の惑星』。2023年には『Dune:Part Two』が公開予定。

 

 

予告編

 

公式サイト

8⽉12⽇(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク京都ほか全国順次公開

監督・脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ
原作戯曲作者:ワジディ・ムアワッド
挿入歌:レディオヘッド
出演:ルブナ・アザバル、メリッサ・デゾルモー=プーラン、マキシム・ゴーデット、レミー・ジラール

2010年/カナダ・フランス/仏語/131分/ビスタ/5.1ch/原題:Incendies/PG12

日本語字幕:松浦美奈
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム



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宗教間の紛争や迫害、差別などをテーマとした作品