『アトランティス』『リフレクション』ウクライナの未来と過去、二つのパーソナルで小さな物語

『アトランティス』『リフレクション』ウクライナの未来と過去、二つのパーソナルで小さな物語

2022-06-24 13:00:00

毎日テレビのワイドショーでウクライナの戦争のことが放送されない日がない現在。ただ日本のテレビでは、戦争の次に食レポが放送されるという、やはり遠い国の出来事でしかない。

監督が言うように『アトランティス』と『リフレクション』は大きな戦争物語ではなく、ウクライナの人々のパーソナルで小さな物語だ。大局的な戦況をニュースで知るよりも、その小さな物語を映画館で観ることの方がウクライナに暮らす人々の視点を知るきっかけになることは間違いない。

2019年に製作された『アトランティス』が2025年のウクライナの未来を描き、2021年に製作された『リフレクション』がクリミア侵攻が始まった2014年のウクライナを描く。2022年、観客は、二つの映画の真ん中にいる。製作年順で観るか、映画の中の時間順で観るか。未来のウクライナに住む登場人物はこう語る。

「普通にはもう戻れない。今の自分を受け入れて生きるべきだ。ここが、俺たちの生きる場所だ」

ウクライナ・キーフよりヴァシャノヴィチ監督の最新メッセージ

これらの映画は、2014年から始まり現在も続いている私の母国ウクライナに対するロシアの戦争がテーマです。

ニュースで伝えられない人々や出来事に焦点を当てています。パーソナルで小さな物語かと思われるかもしれません。しかし何千もの個人の物語がウクライナの国民性を作り上げています。

それはロシアの侵略やその爪痕や悪影響に対する何百年もの抵抗により形成されました。

こうして話している間も何万もの英雄たちが自由と民主主義のために命をかけて戦っています。

皆さんがこの映画を観ることで我々は勝利に少し近づきます。ウクライナの視点を知ってくださるほどロシアのプロパガンダと戦意は弱体化していくのです。

ウクライナのキーウより感謝と敬意をこめて。では映画をご覧ください。

 

ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ監督インタビュー

<『アトランティス』>

―― 映画の世界に入ったきっかけを教えてください。

全くの偶然でした。私の父は指揮者で作曲家ですので、自然とピアノの道に進んでいました。でも実際には、ピアノを弾くよりも、教室で女の子たちの写真を撮るほうが好きでした。写真は父に教わりました。キエフ・テンの一眼レフで女の子を撮影して、暗室にこもって現像ばかりしていました。音ではなく、映像で何かをしたかったのだと思います。限られた画角の中で、レンズを通してこの世界を自分なりに捉え、それを表現するのは大きな喜びでした。

―― この映画の出発点は何だったのでしょうか?

まず、私たちの生活に大きな影響を与えた戦争について語らなければならないということです。紛争は 3 年近く続いていました。ウクライナ国内では、紛争を題材にしたジャンル映画がいくつも作られていましたが、私は普通の軍事ドラマにはしたくなかったのです。そんな時、「地球の水質が壊滅的に悪化している」という情報を知りました。この危機は、やがて東部地域全体にとって取り返しのつかない大災害となることが予測されました。この問題の主な原因は、廃坑が多いことです。坑道から出る水をうまく汲み上げられず、その結果、地下水の鉱物化が進みました。この状況は年々悪化し、やがて人が住めない砂漠と化し、しかも、この変化は元に戻すことができない・・・。そして、もうひとつ、ウクライナ東部の素晴らしい産業景観をカメラに収めたかったのです。そこは本当に魅惑的な場所で、火星まで行ったような錯覚を覚えます。直径数ミリから数メートルのパイプが何千本も並んでいて、それがとても華麗に、複雑に織り込まれているのです。それらが狂おしいほどの色彩で、信じられないような雰囲気を作り出していました。そこで、物語を近未来の 2025 年に移し、紛争の結果、そして製鉄工場の終焉も描こうと考えました。地雷原、失業者、環境破壊。このような暗い状況でありながら、私は、この戦争ですべてを失った主人公に出口を見いだしたかったのです。この死の領域で何が彼を支え続けたのか、それを理解したかったのです。

―― この物語の舞台は、ウクライナ東部の紛争が終結した 1 年後の 2025 年です。そのころには戦争が終わっているという希望はありますか?

残念ながら、今となっては楽観的すぎたかなと思っています。

―― 主演俳優がとても素晴らしいのですが、プロでない俳優を起用したのはなぜですか?

戦争を生き抜いた人たちの映画ですから、戦争を経験していないプロの俳優では、私が必要とする感情の全容を伝えることはできないと判断しました。特に私自身が、トラウマとなるような体験をしていませんから。彼らには、自分にはない特別な体験を共有してもらうことで、より信憑性が高く、理解しやすい映画になると考えました。そこで、キャスティングは敢えて戦争体験者の間で行いました。主役のアンドリー・ルィマルークに会ったとき、彼は戦争から帰ってきて働いていました。彼は、カムバック・アライブ財団のミッションでしばしば戦闘地域を訪れ、私の共同プロデューサーであるウラジミール・ヤツェンコのロケハンを手伝うこともありました。私は写真で彼の顔を見て、オーディションを受けるように誘いました。アンドリーは、悲劇と希望の両方を醸し出しています。リュドミラ・ビレカ(主演女優) やワシール・アントニャックと同様に、本当に素晴らしい仕事をしてくれました。

―― 「ブラック・チューリップ」のミッションは、事実に基づいているのでしょうか?

そうです。両陣営の兵士の死体の発見と発掘に取り組んでいる人道的支援団体が実際に存在します。私たちは彼らと密接に連絡を取り合い、映画にも参加してもらいました。この団体とは、映画の信頼性を確保するために、あらゆる面で話し合いました。とても感謝しています。私たちが映画のために作成した兵士の死体模型にとても感激してくれたので、教育用に寄贈しました。また、映画の中の法医学専門家の役には、本物の法医学専門家を起用しました。

―― 本作の撮影は非常に独創的ですが、なぜこのような手法を選んだのでしょうか?

ドキュメンタリーの仕事をしているうちに、ワンシーン・ワンカットの手法を使うようになりました。私は、ヒーローの旅を長回しで撮影すること、そしてこれらのショットを使って、ユニークな構成の完全な物語を伝えることができることにいつも魅了されています。特にドキュメンタリー映画制作において、このスタイルを高く評価しています。長編では、より自由度が高く、自分が見たままの現実をシミュレートすることができるのです。カメラの動きや編集に制限をかけることは、一方では限界を設けることになりますが、他方では、より強い生の感情を生み出す解決策を提供してくれます。観客は共犯者となり、スクリーンの中の登場人物と一緒に状況に完全に没頭することになるのです。

―― カーチャとの出会いが希望の出発点ですが、この映画はラブストーリーでもあるのでしょうか?

はい、そうです。カーチャとの出会いは、主人公が生き延びるための唯一の希望なのです。自分を受け入れるための希望であり、命をかけて戦うきっかけとなるのです。残念ながら、自殺した主人公の友人には、そのような幸運はありませんでした。戦争に関連した PTSD を持つ人々のうち、高い割はほぼ終了し、編集に入る予定です。『アトランティス』とは全く異なる作品ですが、戦争や PTSD など、似たようなテーマを扱っていま合で自殺によって人生を終えるというのはよく知られた事実です。カーチャとの出会いは、主人公の人生を再構築し、意味を持たせてくれた。「ブラック・チューリップ」の使命に共感した二人は結ばれ、愛へと導かれるのですが、それが彼らの状況を打開する唯一の方法だったのです。また、この作品は、しばしは男性によって破壊され、女性によって再生される、もろい世界についての物語でもあるのです。

―― ミロスラヴ・スラボシュピツキー監督の『ザ・トライブ』では編集、撮影、製作を担当されましたが、同じスタッフと仕事をされたのでしょうか?別の役割に移った感想はいかがですか?

美術としてウラドレン・オドゥデンコ、音響監督としてセルヒー・ステパンスキーという同じチームといつも一緒に仕事をしています。彼らは私の友人であり、ウクライナで最高のプロフェッショナルです。監督、撮影、編集の 3 つの役割を完璧にこなすことは、私の中で共存し、互いに補完し合っています。自分でもよくわからないことを、人と会話して説明する必要はないんです。内なる対話を続けながら、カメラを持って、そのシーンに最適なポイントや解決策を探っていくのです。そうすると、仕事がとても速くなるんです。また、編集段階で自分のミスに気付くこともあり、分析することで次の作品に役立つ貴重な経験を積むことができると思っています。

―― 本作は 2019 年のヴェネチア国際映画祭オリゾンティ部門作品賞を受賞しました。受賞の瞬間は憶えていますか?

レッドカーペットでアルベルト・バルベーラ(ヴェネチア国際映画祭ディレクター)が私にウィンクをしてきたので、何かしら受賞することを悟ったのですが、授賞式が後半になるにつれ、大きな賞が近づいているようで緊張しました。そんな時、アンドリーが携帯電話を取り出し「オレグ・センツォフが釈放されたぞ!」と言ったのです。彼はウクライナ人映画監督で、クリミアで抗議活動をしたためにロシアで投獄されていました。このニュースを聞いて、普段は絶対に準備しないスピーチがひらめきました。本当に嬉しくて、ステージの上で、会場の人々とそのニュースを共有しました。忘れられない思い出です。ヴェネチア映画祭で初めて、ウクライナの国旗がリドのシネマパレに立ち並びました。これまでになかったことなので、ウクライナの国旗を探すのに苦労したそうです。

―― 『アトランティス』はウクライナ国内に留まらず、海外でも多くの観客を集めました。特に日本では温かく迎えられました。それはなぜだと思いますか?

現在も生きている被爆者がいることと関係があるのではないでしょうか。彼らにとって、環境破壊というテーマは、今も生活の中に強く残っているでしょうし、ロシア大使館の前には千島列島を占領した問題でデモが集まっていると聞きますし、そのことも関係があるように思います。

―― 次回作『リフレクション』の公開はいつになるのでしょうか?

撮影す。『アトランティス』の時と同じように、多くの観客に見てもらえるよう、さまざまな映画祭に出品する予定です。他の映画監督と同様、私にとって最も重要なことは、賞を得ることでも、レッドカーペットを歩くことでもなく、できるだけ多くの人に映画を見てもらうことなのです。

 

<『リフレクション』>

―― 映画の中では紛争が描かれていますが、戦場から戻った後のことも描かれていますね。これは、特に経験者であれば、あまり話したがらないことです。

この戦争に関して言えば、誰も本気で向き合うことなく、7 年も経っています。当初から、参加したい人と様子を見ている人の間に溝がありました。今はもっとひどい状況です。人が死んだり負傷したりしているのに、他の人たちはそのことについてまったく話したがらない。他の国々と違って、我が国の退役軍人は社会的な存在ではありません。リハビリテーション・プログラムもなく、彼らを支援するインフラもありません。彼らの多くは PTSD に苦しんでいますが、誰も専門的な手助けをしないため、自殺の割合が高くなっています。ウクライナに住む私たちにとって、とても「不都合」なテーマなのです。

今回、私は、元受刑者にも焦点を当てることにしました。想像するのも難しいかもしれませんが、21 世紀の今日、ドネツクの真ん中に「Isolation」という巨大な政治刑務所があります。皮肉なことに、かつては現代アートの中心地だったのです。戦争が始まると、ロシアの特殊部隊がそこを強制収容所にしてしまい、今も稼働しています。そこで何が起こっているのか、想像を絶します。

―― 生き延びた人たちに話を聞いたのですか?

はい、何人かのコンサルタントと一緒に仕事をしました。一人は有名なスタニスラフ・アセーエフで、そのことについて本を書きました(『In Isolation. Dispatches from Occupied Donbas』)。彼は、PTSD に悩まされるようになると、逃げるようになると言っていました。本当に、そうやって生き延びてきたのです。どこにいても、店に行く途中でも、何かがやってくると感じると、彼は走った。もう一人、コズロフスキーという人が自殺しなかったのは、特別な支援が必要な息子がいて、この子の面倒は誰も見てくれないと思ったからです。この刑務所では、すべての独房にテレビが設置されています。なぜか?拷問しているところを他の囚人たちに見せるためです。「さあ、みんな。ここはヨーロッパだ、こんなことはまだ続いているし、誰も気にしていないんだ」と言いたかったのです。だから、この映画は 2 部構成になっています。「その後」も重要だと思ったからです。

―― ここでは 2 つの世界がぶつかり合っています。人々は普通の生活を送り、子供たちがペイントボールで遊ぶのを見ていますが、暴力は常に身近にありますね。

これは、私がどうしても強調したかったことです。ペイントボールのような無邪気な遊びがすべての始まりです。子供たちは、お互いを「殺す」ふりをして遊んでいるのです。しかし、やがて彼らは成長し、実行に移すのです。

「キーフ-戦争」という列車があります。首都からまっすぐ戦場へ、わずか 5 時間で行けるのです。アヴディフカという街では、タクシーで前線に行くことができます。人々はレストランに座り、子どもたちは学校に通い、そしてほんの数分車に乗っただけで、戦車や人々が殺し合っている光景を目にすることができます。ウクライナでは、こうした異なるレイヤーの現実がすべて同時に起こっているのです。

―― それを子どもに説明するのがいかに難しいかを伝えたかったのでしょうか。窓にぶつかる鳥であれ、戦争であれ、死は身近にあるのだと認めること?

この鳥は、この映画が生まれたきっかけです。この鳥は、私の娘に本当に起こったことで、彼女はこの映画にも出演しています。プロデューサーから、なぜ彼女を起用するのかと聞かれたとき、「他人の子どもに 17 回もシーンを繰り返せとは言えない」と答えました。自分の子だけでいい。

窓際に座ってから、彼女はいろいろと質問してくるようになりました。子供は 5 歳にもなると、絶対に死なないという約束をさせたがるものです。彼らは、死が自分に起こりうることだとは決して考えない―

―ただ、他のみんなに――親族や動物に起こることです。それが 10 代になると、質問の仕方が変わってきます。私が若いころはそうではありませんでした。インターネットも、YouTube も、TikTok もなかった。この映画の中で、私の主人公はすでに死を経験しています。普通の人なら耐えられないようなことを見て、生き残った。だからこそ、まったく別の視点から娘に語りかけることができるのです。死という観点から、とも言えるでしょう。

―― 彼は拷問を生き延びました。このシーンはどのように見せようと思ったのですか?多くの映画はそこから逃げ、手持ちカメラやさまざまなトリックを使います。あなたは逃げずに見ています。

一方で、拷問をあまり強調したくなかったので、クローズアップは使っていません。しかし、彼のトラウマを理解する必要があるため、それを見せないわけにはいきませんでした。そうでなければ、彼の心の旅についていけないからです。この男は、ヒーローではありません。自分の主義主張のために死ぬのは彼ではなく、他の誰かなのです。独房で自殺しようとしたときでさえ、外科医としてその方法を知っているはずなのに、できないのです。彼は弱く、普通なのです。

この映画を見ることができない(あるいは見たくない)観客がいることは承知していますが、その人たちも彼の旅について行くことはできないでしょう。彼と一緒に経験しない限り、次に何が起こるかを理解することはできないのです。

―― この作品では、左右対称の長いテイクが採用されていますね。ピエタ(Pietà)の表現を思い浮かべました。

このスタイルは、私の過去作『ブラック・レベル』ですでに試しています。撮影監督として好きな手法です。シンメトリーが好きなのです。友人であり画家でもあるアートディレクターと密接に仕事をしていますが、起点となるのは場所そのものです。フレーム内で何が起こっているかが重要なのです。17 世紀の巨匠たちの宗教画のようなものです。

これらのシーンが慌ただしくないのは、楽しみがなくなると、小さなディティールに気が付くようになるからです。それが映画のマジックです。私たちは、現代の映画であまりにも楽しませてもらっています。誰かがそれを取り去ると、ただ座って考える時間ができ、この人と一緒にいることができるのです。

賛否両論あるようですが、うまくいっているのです。例えば、移動式火葬場のシーンでは、観客に少し考えてもらいたいのです。ロシア兵の死体を処理する必要があるため、人々は常に移動式火葬場を利用しています。この戦争はロシア社会から隠されていて、彼らはそのことを知らないし、知りたくもない。

―― この映画には明るい色がどこにもありません。“普通の”世界でさえも灰色で空虚な感じがします。なぜでしょう?

この男は、たとえ戻ってきたとしても、決して起こったことから遠く離れてはいない。戻ってきても、本当に戻ってきたとは言えない。娘や前妻との関係が深くなっても、自分の一部分だけが生きているのです。

―― 主役のロマン・ルーツキーは、あまり表情に出ませんね。彼の表現はとても繊細です。

彼は自分の役柄に深く入り込もうと決めました。私はよく、映画を作っているときは俳優と一緒に暮らしたい、と言います。プレプロダクション、リハーサル、ロケ地の選定など、常に俳優がそばにいます。1 年でも 2 年でも、必要な限り、そのすべてを一緒に過ごします。『アトランティス』の主人公のように、実生活で友達になることもあります。

リハーサルのほとんどは、撮影現場でスタッフと一緒に、フルコスチュームで行います。私は多くのことを自分ひとりでやっているので、実験する余裕があります。いくつかのシーンを撮影し、それを俳優に見せ、うまくいくかどうか考えるのです。この映画の撮影日数は 25 日でしたが、リハーサルを含めると 96 日になります。最終的に使わない素材はあまり撮らないようにしています。

―― 監督、脚本、撮影、編集を担当されたそうですね。この方法の方が簡単ですか?

私はあまりおしゃべりな方ではないので、自分が何を望んでいるかを他人に説明するのは難しいのです。自分自身にさえも説明できないことがありますから。自分の直感に従って、何が正しくて何が間違っているのかを確認しながら、ストーリーを進めていくことが重要です。いろいろなことをやっていると、自分の間違いに気づいたりして、とても勉強になります。もちろん、友人のウラジミール・ヤツェンコ

(プロデューサー)がそばにいて、もう老夫婦のようなものですが、彼は言葉にしなくても私のことを理解してくれています。他人とコミュニケーションを図るのは、とても複雑なことです。私たちは皆、異なる経験や価値観を持っているのですから。

―― この戦争を「隠そうとする」人がまだいるとおっしゃいましたが、この映画では何も隠していません ね。論争になる心配はないのでしょうか?

この特別なテーマでは、拷問や実在の人物について話しているので、それらに注意を向けさせたいのです。だから、隠していないのです。これが現実なのです。それを受け入れるかどうかは別として、事実なのです。今、アフガニスタンや他の多くの場所でも起こっていますが、ウクライナでは 7 年もの間、ずっと続いているのです。もうウクライナとロシアの戦争という問題ではなく、人間性の問題なのです。ヨーロッパでは、人々は自分たちの価値観のために戦う準備ができていない。それが最大のカタストロフィーです。私は、論争やスキャンダルを恐れているわけではありません。ただ、人々の目を覚まさせたいのです。

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『アトランティス』ストーリー

2025 年のウクライナ東部。ロシアとの約 10 年におよぶ戦争によってあらゆる街が廃墟と化し、人が住むには適さないほど大地が汚されたこの国は、何もかも荒みきっていた。製鉄所で働く元兵士のセルヒー(アンドリー・ルィマールク)は、戦争終結から 1 年が経った今も PTSD に苦しみ、唯一の友人であるイワン(ワシール・アントニャック)とともに射撃訓練を行っている。そんなある日、生きる気力を失ったイワンが燃え盛る高炉に身投げし、経営者からは製鉄所の閉鎖が発表された。

すでに家族と死別し、どこかに行く宛てもないセルヒーは、水源が汚染された地域に水を運ぶトラックの運転手になった。ぬかるんだ平地で地雷除去作業にいそしむ兵士は、「片っ端から爆破処理をしているが、先は長い。少なくとも 15 年から 20 年はかかる」とつぶやく。その後、セルヒーは車の故障で立ち往生していたカティア(リュドミラ・ビレカ)という女性を近くの街へ送り届けた。戦争前には大学で考古学を学んでいたと語るカティアは、ブラック・チューリップという団体に所属し、無報酬で戦死者の遺体の回収を行っていた。「つらい作業だ。なぜできる?」。セルヒーが問いかけると、カティアは「死者たちのためよ。肉親に別れを告げさせて、彼らの生と戦争を終わらせるの」と答えた。

後日、ブラック・チューリップに加入したセルヒーは、カティアとともに各地の遺体発掘現場を回っていた。すると、セルヒーがかつて命を救ってやった女性がお礼を言いにやってくる。国際的な環境監視組織で活動しているその女性は、復興まで途方もない歳月を要するであろうこの国を去ると告げ、セルヒーにも海外への移住を勧めてきた。「即答はできない」「よく考えて。決心がついたら電話を」

戦争後の新たな生活に適応できず、ずっと魂の抜け殻のような日々を送ってきたセルヒーは、ある雨の日、胸の奥底にしまっていた過去をカティアに打ち明け、心のよりどころとなった彼女に“これから” について語り出す。自分たちは何を受け入れ、どこで、いかにして生きていくべきなのか……。

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『リフレクション』ストーリー

ロシアがウクライナに侵攻し、侵略戦争が始まった 2014 年。その年の 11 月、ウクライナの首都キーウで暮らす外科医セルヒー(ロマン・ルーツキー)が、12 歳になった娘ポリーナ(ニカ・ミスリツカ) の誕生日を祝うためにサバイバルゲームの会場を訪れる。そこには別れた妻オルガ(ナディア・レフチェンコ)と、彼女の新たなパートナー、アンドリー(アンドリー・ルィマルーク)もいた。兵士のアンドリーは前線でロシア軍の攻撃に遭って死にかけたというが、「一週間休んで戦場に戻るよ」と事もなげに告げる。

キーウの街は平穏を保っているが、セルヒーが勤める病院にも東部戦線から次々と負傷兵が搬送されてきた。地雷の爆発で重傷を負った兵士を救えなかったセルヒーは空しさを覚える。後日、ドライブ・イン・シアターでポリーナからアンドリーが再び戦場に赴いたと聞かされたセルヒーは、「パパは行かないの?」と問われ、言葉に詰まってしまう。

その冬、従軍医師となったセルヒーは、戦場での移動中に道に迷って人民共和国軍の検問所にさまよい込む。車を運転していた同僚は銃殺され、セルヒーは捕虜となった。

捕虜収容所ではウクライナ兵への非人道的な拷問が行われていた。セルヒーが外科医だと知った収容所の所長は、血まみれでぐったりした兵士の死亡確認を命じる。この世の地獄を見たセルヒーは、独房で自殺を試みるが死にきれない。そんなセルヒーの前に、捕虜となったアンドリーが連行されてきた。惨たらしい拷問で虫の息となったアンドリーを極限の苦しみから解き放つため、セルヒーは彼の首を絞めて絶命させた。そしてウクライナ兵の遺体を処分する移動火葬車の運転手に取引を持ちかけ、アンドリーの遺体をこっそり市外に運び出してもらう。

やがて捕虜交換によってキーウに帰還したセルヒーは、戦場で消息不明となったアンドリーの身を案じるオルガとポリーナと対面するが、残酷な真実を告げることができない。その後、セルヒーはアンドリーの不在を寂しがるポリーナを慰めるため、彼女と共に過ごすようになる。マンションの壁に激突して墜落したハトを荼毘に付しながら“死”について語って聞かせ、ポリーナが生前のアンドリーと交わした約束をひとつずつ叶えてやろうとする。それはセルヒーにとっても、失われた日常を取り戻すためのかけがえのない時間だった。そんなある日、アンドリーの遺体が発見されたとの知らせが届く……。


予告編

 

公式サイト

6月25日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
7月2日(土)よりアップリンク吉祥寺にて2作品同時、7月15日(金)よりアップリンク京都にて『アトランティス』、22日(金)より『リフレクション』公開

■『アトランティス』
監督・脚本・撮影・編集・製作:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
出演:アンドリー・ルィマルーク、リュドミラ・ビレカ、ワシーリ・アントニャク

2019 年/ウクライナ映画/ウクライナ語/109 分/シネスコ/デジタル 5.1ch/ 原題:Атлантида/英題:Atlantis/日本語字幕:杉山緑

字幕監修:梶山祐治 字幕協力:東京国際映画祭
協力:ウクライナ映画人支援上映 有志の会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

©Best Friend Forever

■『リフレクション』
監督・脚本・撮影・編集・製作:ヴァレンチン・ヴァシャノヴィチ
出演:ロマン・ルーツキー、アンドリー・ルィマルーク、ニカ・ミスリツカ

2021 年/ウクライナ映画/ウクライナ語・ロシア語/126 分/シネスコ/デジタル 5.1ch/ 原題:Відблиск/英題:Reflection/日本語字幕:額賀深雪

字幕監修:梶山祐治
協力:ウクライナ映画人支援上映 有志の会
提供:ニューセレクト 配給:アルバトロス・フィルム

©Arsenal Films, ForeFilms