『WALK UP』韓国のゴダール!ホン・サンス監督による4階建てのアパートを舞台にした芸術家たちの物語

『WALK UP』韓国のゴダール!ホン・サンス監督による4階建てのアパートを舞台にした芸術家たちの物語

2024-06-25 11:41:00

都会の一角にある4階建ての洗練されたアパートを舞台に繰り広げられる、4章から成る人間ドラマ。

1階がレストラン、2階は料理教室、3階が賃貸住宅、4階が芸術家向けのアトリエ、地下は大家の作業場となっている小さいながらも洗練された素敵なアパートで、芸術家たちの物語が全編モノクロで紡がれてゆく。居住空間に多少でもこだわりのある人なら、一度はこんなアパートに住んでみたい!ときっと思うだろう。

監督は、ベルリン国際映画祭で銀熊賞を5度の受賞を果たし、「韓国のゴダール」や「韓国のエリックロメール」などと評されるホン・サンス。本作は『小説家の映画』(22)に続く長編第28作目となる。映画監督ビョンスに扮するのは、ドラマ『冬のソナタ』(02)のキム次長役で知られ、Netflixドラマ『寄生獣 ―ザ・グレイ―』(24-)などで活躍するクォン・ヘヒョ。ホン・サンス作品では『それから』(17)以来の単独主演となる。韓国を代表するイ・ヘヨンや、ホン・サンス監督常連俳優のソン・ソンミ、チョ・ユニらが共演。

ぎこちない会話が生み出す間合いや空気感は、返って生々しくリアルだ。飲んだり食べたり、一見、生活の自然な一コマを切り取って、多弁ながら無駄な会話を削ぎ落としたつくり。しかし、美しく洗練された風景に比して、心にチクッと引っかかるなにか、どちらかといえば心地悪さが、苦味のような違和感を伴って印象に残る。人は優秀で素晴らしいところよりも、誰にも見せたくない、見られたくない愚かさにこそ共感するもので、映画の人物にそれを見ることで、自分が許されたような、救われたような気分になったりもするのだ。そんなカタルシスもある。

洗練されたカメラワーク、画や音、言葉、それらすべてを操る彼だからこそできる繊細で蠱惑的な演出。彼自身の人生の一部の投影でもあるこの物語を通して、夢か現かはたまた“もしもの人生”を提示したパラレルワールドか、その曖昧な境界線を追体験しつつ、ウィットに富んだ美しきホン・サンス ワールドに、あなたも没入してみてはいかがだろうか。

 

ホン・サンス 監督

ホン・サンス
HONG SANGSOO
監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽
1960年10年25日、韓国、ソウル生まれ。監督、脚本家。韓国中央大学で映画製作を学んだ後、1985年にカリフォルニア芸術工科大学で美術学士号、1989年にシカゴ芸術学院で美 術修士号を取得。アメリカ留学中に短編の実験映画を数多く製作した。その後、フランスに 数か月滞在、シネマテーク・フランセーズに通い映画鑑賞に明け暮れた。韓国に戻り、1996 年に長編デビュー作『豚が井戸に落ちた日』を発表、批評家や数多くの国際映画祭で絶賛される。2004年に『女は男の未来だ』が、初のカンヌ国際映画祭コンペティション部門に出 品を飾り、男女の恋愛を会話形式で描くその独創的なスタイルから、“韓国のゴダール”、”エリック・ロメールの弟子“などと称され絶賛された。『アバンチュールはパリで』(08)以降、フランスの名女優イザベル・ユペール主演の『3人のアンヌ』(12)や『へウォンの恋愛日記』(13)まで、続けてカンヌ、ヴェネツィア、ベルリンの三大映画祭にて出品を果たしている。2013年には、チョン・ユミが主演を演じた『ソニはご機嫌ななめ』が、本国韓国でもヒットを記録した。2012年には、特集上映「ホン・サンス/恋愛についての4つの考察」で来日時のトークイベン トで意気投合した加瀬亮を主演に迎え、『自由が丘で』(14)を発表。2015年、『正しい日 間違えた日』が第68回ロカルノ国際映画祭グランプリと主演男優賞を受賞し絶賛を浴びる。本作に出演したキム・ミニと再び『夜の浜辺でひとり』(17)でタッグを組み、第67回ベルリン国際映画祭主演女優賞(銀熊賞)に輝く。以降はキム・ミニを主演に作品を発表し続けている。第70回カンヌ国際映画祭では、『それから』がコンペティション部門に、『クレアのカメラ』がアウト・オブ・コンペティションにと、同年に2作品が招かれたことでも注目を集めた。2020年、キム・ミニ主演作となる『逃げた女』では、第70回ベルリン国際映画祭で自身初となる銀熊賞(監督賞)に輝く。2021年に、25作目『イントロダクション』で第71回同映画祭の銀熊賞(脚本 賞)を受賞、同年に第74回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクションで26作目『あなたの顔の前に』が上映される。本作は「2022年 第96回キネマ旬報ベスト・テン」の外国語映画部門で第10位に輝いた。2022年、27作目となる本作『小説家の映画』で、第72回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞、3年連続4度目の銀熊賞受賞の快挙を果たした。同年にクォン・ヘヒョを主演に迎えた28作目『WALK UP』が、サン・セバスチャン国際映画祭にて出品、2023年には29作目『IN WATER』が第73回ベルリン国際映画祭エンカウンター部門に出品。30作目となる『IN OUR DAY』が第76回カンヌ国際映画祭の監督週間クロージング作品として上映。2024年には、再びイザベル・ユペールを主演に迎えた最新作『A TRAVELER'S NEEDS』が第74回ベルリン国際映画祭で銀熊賞(審査員大賞)を受賞するなど、名実ともに韓国を代表する監督の1人として 現在も精力的に作品を発表し続けている

 

主演クォン・ヘヒョ コメント

ホン・サンス監督について

天才です。物事であれ人であれ、何事においてもその本質を見抜く目を持っているなと思います。一緒に映画作りをしていて感じるのは、かなり大きな勇気の持ち主だという点です。
作家であれ映画監督であれ、何か物語を作る多くの人は、まずは「大衆はこの話が好きかな?」「どんな話を書いたらウケるかな?」と考えると思いますが、ホン監督はそういうことには悩みません。自分の感じたままを描く勇気があるんですよね。


クォン・ヘヒョ
俳優
1965年11月6日、韓国、ソウル生まれ。妻は女優のチョ・ユニ。漢陽大学校演劇映画科で演技を学び、1990年に舞台で俳優として活動をスタート。1992年、イ・ジャンホ監督作『ミョンジャ・明子・ソーニャ』で映画デビュー以降、映画、ドラマ、舞台と幅広く活躍し続けている。多数のテレビドラマに出演し、『冬のソナタ』(02)のキム次長役、『私の名前はキム・サムスン』(05)の料理長役でも知られる。映画では、オ・ギファン監督『ラスト・プレゼント』(01)、イ・ヨヌ監督『僕らの青春白書』(14)、オム・テファ監督『隠された時間』(16)、シン・スウォン監督『オマージュ』(21)などに出演。ヨン・サンホ監督の長編アニメーション『我は神なり』(13)では声の出演もしており、2020年に第73回カンヌ国際映画祭のオフィシャルセレクション、カンヌレーベル作品として出品された同監督の『新感染半島 ファイナル・ステージ』にも出演。同監督が手掛けた日本の大ヒット漫画「寄生獣」を映像化した現在Netflixで配信中のドラマ『寄生獣 ―ザ・グレイ―』(24-)にも出演している。ホン・サンス監督作品では、イザベル・ユペールと共演した『3人のアンヌ』(12)、『あなた自身とあなたのこと』(16)、『夜の浜辺でひとり』(17)、『それから』(17)、『川沿いのホテル』(18)、『逃げた女』(20)、『あなたの顔の前に』(21)、『小説家の映画』(22)、『WALK UP』(22)、最新作『A Traveler's Needs』(24)があり、『それから』の演技で2017年釜山映画評論家協会賞主演男優賞を受賞。『川沿いのホテル』では、2019年アジアン・フィルム・アワードの助演男優賞にノミネートされた。本作『WALK UP』は『それから』以来の単独主演作。

 

ストーリー

映画監督のビョンスは、インテリア関係の仕事を志望する娘のジョンスと一緒に、インテリアデザイナーとして活躍する旧友ヘオクの所有するアパートを訪れる。そのアパートは1階がレストラン、2階が料理教室、3階が賃貸住宅、4階が芸術家向けのアトリエ、地下がヘオクの作業場になっている。3人は和やかに語り合い、ワインを酌み交わすが、仕事の連絡が入りビョンスはその場を離れる。ビョンスが戻ってくると、そこには娘のジョンスの姿はなく……。

 

『WALK UP』予告編

 

公式サイト

 

2024年6月28日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺、Strangerほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本・製作・撮影・編集・音楽:ホン・サンス 
出演:クォン・ヘヒョ、イ・ヘヨン、ソン・ソンミ、チョ・ユニ、パク・ミソ、シン・ソクホ

2022年/韓国/韓国語/97分/モノクロ/16:9/ステレオ 原題:탑 字幕:根本理恵 配給:ミモザフィルムズ
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