『No.10』物語という概念を突破し、正体不明の域に到達した映画(ヴァーメルダム監督)

『No.10』物語という概念を突破し、正体不明の域に到達した映画(ヴァーメルダム監督)

2024-04-05 14:13:00

果たして私は一体、今何を観たのだろう?という気になる『No.10』。呆然とするか、物語の破綻を埋めようと必死になって頭をフル回転させるか、どちらかだ。いずれにしても言葉を失うことに変わりはない。

こんな調子で世界中の映画批評家らを大混乱に陥れた本作。『ボーグマン』(2013)でカンヌ映画祭パルム・ドールにノミネート、第46回シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞したオランダの鬼才、アレックス・ファン・ヴァーメルダム監督が贈る通算10作目の最新作である。

彼は「本作で物語という概念を突破し、正体不明の域に到達した」のだという。さらには、これから鑑賞しようとする私たちに向けて、「何も知らないというのは素晴らしいことです。実際のところ、何も知らないのが一番良いのです」と意味深な一言を言い放っている。

宣伝のためのプレス資料にさえ、「各メディアや海外の映画祭でも本作の内容に驚きつつも、これからのご鑑賞者のためにその事実を伝えないかたちで作品の批評が行われており、作品ご紹介の際、SNSなどでご感想を投稿の際は映画の結末に触れない形でお願いできたらと思います」と書かれている。

不穏な、しかし、ありがちなサスペンスとも一線を画す、異様な空気感漂う映画。プレスの言葉によると、「音楽もヴァーメルダムによるもので、土星人サン・ラーも羨むであろう宇宙ジャズともいうべき旋律が、何光年も離れた場所から奏でられる」のだ。これは本作の空気感をよく言い表している。

なにはともあれ、前情報なしでご鑑賞いただくよう強くお勧めしたい一作だ。

 

アレックス・ファン・ヴァーメルダム 監督コメント

※太文字が監督のコメントです。


何も変わっていない。
世界はまだ同じだ。
通りを歩いて、⾓を曲がり、
そしてすべてが以前と同じだ。
あるいは全く異なっているのか、
奇妙なことに。

物語を書き始めるときは、これまでに⾏ったことのない場所に到着するように、シーンを次々と構築して配置するだけだ。

(『No.10』を観る最善の⽅法は、事前にそれに関する宣伝をすべて避けることだ。これを強調するために、ヴァーメルダムは、かつて映画館に⾏ったものの、⾒たい映画が売り切れていたと説明する。そこで彼は、すでに反対側のスクリーンで上映が始まっていた映画のチケットを購⼊、観始めたときはその奇妙に⾒えるナチスをテーマにした作品に、彼は深刻な疑念を抱いていた。

だがヒトラーのそっくりさんがスクリーンに現れて「助けて」と⾔ったとき、彼は⾃分がユダヤ⼈移⺠のエルンスト・ルビッチ監督による古典的なブラックコメディ『⽣きるべきか死ぬべきか』(42)を観ていることに気づいた。彼は初め、何の映画を観ているか何も知らないときは、何を期待すべきか全く分からなかったが、その後、⾃分⾃⾝がそれに完全に魅了されていることに気づいた。)

何も知らないというのは素晴らしいことだ。実際のところ、何も知らないのが⼀番良い。

(ヴァーメルダムは、とあるアメリカ⼈宣教師がアマゾンの熱帯⾬林のなかで、数字や過去や未来という概念が完全に⽋如した⾔語を操る先住⺠族を発⾒した物語に出くわした。)

彼ら先住⺠族は神を信じなかったので、司祭は司祭である意味を失った。なぜか?それは、これらの⼈々が幸せで、彼らが楽園に住んでいるからだ。そして司祭は彼らに、彼らは楽園に住んでいるわけではなく、彼らが死んだ後により良い楽園があり、そこに到達するにはこれまでとは違う⼈⽣を送らなければならないということを説く必要があった。それが私にインスピレーションを与えたのだ。

(編集について)

私と編集のヨープ・テル・ブルフはお互いの存在がお互いをより強くする関係だ。私たちにはエゴはなく、争ったり、フラストレーションを感じることはない。何を加え、何を省くか。私たちはストーリーをどう伝えるかだけを考えている。そして編集が進むにつれ、ますます満⾜感が増していく、編集によって驚異的な何かが発⽣し、奇跡が起きる。何かを省けば、繋がる2 つのシーンが連動する。太陽が輝きはじめ、状況は100%良くなる。どうしてそんなことが可能なのか?映画⾃体が語りはじめ、それはそれまで想像していたものとはまったく異なるものに成⻑する。それは⾃分を幸せにしてくれる。とてもエキサイティングなことだ。

アレックス・ファン・ヴァーメルダム
監督
1952年生まれ。オランダの脚本家、映画監督、俳優。
1986年に長編映画『アベル』で監督デビュー、本作で主演・脚本も兼任した。衝撃作『ボーグマン』(13)でカンヌ映画祭パルム・ドールにノミネート、第46回シッチェス・カタロニア国際映画祭でグランプリを受賞し、世界中を大混乱に陥れた。戦慄と衝撃、緊張が渦巻くサスペンスに満ちた作品『No.10』はアレックス・ファン・ヴァーメルダム監督の記念すべき通算10作目の最新作となり、本作で物語という概念を突破し、正体不明の域に到達した。

 

ストーリー

幼少期に記憶を失い、森に捨てられ、里親に育てられたギュンター。大人になった彼は舞台役者として生計を立て、共演者と不倫、一人娘は肺がひとつしかない突然変異だった。役者仲間の裏切りによって残酷な仕打ちを受けるギュンターは復讐を誓った。だがその先に、とてつもない驚愕の事実との対峙が待っている。

『No.10』予告編


公式サイト

 

2024年4月12日(金) 新宿シネマカリテ、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

製作:マルク・ファン・ヴァーメルダム 撮影:トム・エリスマン 美術:ゲルト・パレディス 編集:ヨープ・テル・ブルフ 音楽:アレックス・ファン・ヴァーメルダム 音響デザイン:ヤン・シャーマー 衣装デザイン:カトリーヌ・ファン・ブリー

出演:トム・デュイスペレール、フリーダ・バーンハード、ハンス・ケスティング、アニエック・フェイファー、ダーク・ベーリング、マンデラ・ウィーウィー、リチャード・ゴンラーグ、ジーン・ベルヴォーツ、ピエール・ボクマ

2021年|オランダ=ベルギー合作|101分|カラー|ビスタ|G|原題:Nr.10

© 2021 GRANIET FILM CZAR FILM BNNVARA
提供:キングレコード 配給:フリークスムービー