『FEAST-狂宴-』エンディングが二つあるうちの一つが日本で公開

『FEAST-狂宴-』エンディングが二つあるうちの一つが日本で公開

2024-02-26 16:56:00

『FEAST-狂宴-』はフィリピンのブリランテ・メンドーサ監督の作品。メンドーサ監督は、商業映画のプロダクション・デザイナーからキャリアをスタートさせ、広告業界へ転身。CMのプロダクション・デザイナー、アート・ディレクターとして活躍していたので、映画のけれん味を十分に理解している監督だ。

交通事故を起こし轢き逃げをしてしまった息子、代わりに自首する父親。そして一家の主人をその事故で亡くした家族との物語。8割以上のフィリピン人がカトリック教徒という国で、息子は贖罪の念に苛まれ、息子の将来を見据えた父親は身代わりとなって自首し、刑務所に収容される。被害者家族は、裕福な加害者家族に使用人として雇われ、粛々と言いつけられた仕事をこなす。

無宗教だというメンドーサ監督は、人々の癒されていく姿を描きたいと願い、コロナ禍に本作を製作したそうだが、どっこい、内心はそう単純ではなく、実は本作にはエンディングが違う二つのバージョンがあるという。一つはフィリピン国外で公開予定の、今回日本で公開されるバージョン。そしてもう一つは、フィリピン国内で公開されたバージョン。こちらは日本公開のハッピーエンドではない結末だ。

対照的な結末にするというアイデアを持ち出したのは、主演のココ・マーティンだった。ココは、オスカーを受賞した韓国の『パラサイト』を挙げこう述べている。「私たちはそれに驚きました。そして、なぜ私たちはねじれた結末を迎えることを恐れる必要があるのでしょうか?」

残念ながら日本では一つのエンディングしか見られないが、十分にもう一つのエンディングを想起できる作りになっているので、その辺りを想像してみるのも本作の楽しみ方の一つではないだろうか。

参考:ブリランテ・メンドーサが、 2 つの異なる結末がある理由を説明

 

ブリランテ・メンドーサ 監督インタビュー


――あなたが主人公の立場だったらどうしますか?

本作はいくらか行ったインタビューに基づいているのですが、実際フィリピンではこのようなことがそれなりに頻繁に起きるんです。怖いというのは本能ですよね。留まるべきか、逃げるべきか当然迷うはずです。私が主人公だったら、すぐに助けを呼ぶでしょうね。父親の立場だったとしても、助けを呼ぶでしょう。誤って誰かを傷つけてしまったら、助けを呼ぶ。それが私の本能です。何か暴言を吐いてしまったり、正気を失ったりしたら、そのことを追々強く後悔すると思います。そしてその埋め合わせをできるだけ早くしようと試みます。私はそういう性格なんです。

劇中においては、このような状況で本人はどうしていいかわからず、父親の本能として普通は守ろうとするだろうとリサーチを参考に考えました。一度、車を運転していた赤の他人が、誤って私の友人をはねてしまったことがありました。私は他の車の後部座席にいたのですが、車から飛び降りて運転手に立ち向かいました。彼らは夫婦で、運転していたのは妻で、彼女は妊娠していて免許を持っていませんでした。彼らは逃げたので、私は走って彼らを追いかけました。停車して、彼らが座席を交換するのを見ました。

――父親が金持ちであること、特権階級であることは、父親の行動を左右したと思いますか?

地位よりも、父であることによる本能によって、行動が起こされたのだと考えています。愛する人を守ろうとする本能は、とても父親らしいものです。息子は海外に行く予定があり、妻と別居している。父親として自分の人生を、そんな息子に捧げる。そうすることで息子を守り、逃亡者になったり刑務所に入ったりしないようにしたかったのです。

――宗教を信じますか?

私は無宗教ですが、スピリチュアルな人間です。フィリピンは東南アジアで唯一のカトリックの国で、80%以上のフィリピン人がカトリック教徒で、とても信心深い。私たちにはこのような伝統があり、聖週間には多くの人々が伝道を実践します。映画の中で描かれていることは全く非日常的ではありません。カトリック教徒ではない人にとっては、これは何なんだ、なぜ彼らは自分を傷つけるんだ というような疑問を持つかもしれません。でも、これはフィリピンではごく普通の光景なんです。文化や伝統、食べ物だけでなく、制度としての家族、一族のようなものを守り、一緒にいる必要があるという考えを映画に取り入れようとしました。宗教も、私たちの国において非常に重要な要素なのです。そのようなニュアンスで、本作において宗教は表現されています。オープニングに登場する「フィエスタ」(祝祭)も、フィリピンでもよく見られる光景です。

聖体行列も行われています。フィリピン人の人間性、信念、生き方を世界の他の地域にも見せられたらいいと思ったんです。また、宗教的であることと、実際の生活で実践していることとが対照的であるという皮肉でもあります。

――息子が感じている罪悪感は、カトリックと関係があるのですか?

そうです、だから神父に罪を告白するのです。罪を犯したのは自分なのだから、彼は自分自身を許すことができない。相手家族にお返しをしたにもかかわらず、彼は罪悪感を感じ、最終的に自分自身を許すために、神に、司祭に、そして罪を犯した相手に許しを請うことになるのです。

――映画に登場する2人の母親のキャラクターについて教えてください。

冒頭、加害者の母親の最初の反応は、罪を隠そうと、消し去ろうとします。彼女はとても保護的で、家族に何か悪いことが起こってほしくないのです。それは本能でもあります。もう一人、被害者の母親は貧しいので金銭に解決を見出します。これも本能だと思います。私がやろうとしているのは、宗教的であることと正しいこと、家族を愛することと守ること、これらが対立することの皮肉をいっぺんに表現することです。また、被害者の妻が示談に応じなかったのは、夫のために正義が必要だからです。しかし、彼らはとても貧しいので、加害者家族が彼らを養うことで、ある意味で正義が果たされるのです。自分たちが犯罪を犯したことを知り、家族がその責任を負うことで、貧しい家族が受けた不当な仕打ちを償うことができたと感じるのです。

この映画の登場人物は皆、家族に関して、守るべきもの、優先すべきものを持っています。例えば、父親は、息子を守りたいという本能がある。母親も同様ですが、同時に、正義を貫くという本能も持っている。これらの相互作用を、 人物描写や演出よって明るみに出すというのが私の意図です。フィリピンで富裕層と貧困層の間に格差があるのはよくあることですが、金持ち一家は、金持ち一家としての生活において自分たちに欠点があるのを何とかして改めようとし、許してもらえるように手を差し伸べようとしているのです。母親は以前ウェイトレスだったので、 被害者側の母親の状況の良き理解者でもあります。

――それが、2つの家族の対立という大きな構図で物語を進めなかった理由なのですね。

貧しい方の一家が、金持ち一家全員を毒殺するという編集の選択肢も実はありました。しかし、そのカットを使わなかったのは、パンデミック時に起こったことを踏まえ、復讐することよりも、許すこと、前向きになることに焦点を当てたかったからです。何を見せ、何を共有するかは、映画人としての責任でもあると思います。というのも、私が作る映画には、復讐に燃え、悲しく、悲劇的な雰囲気があることを誰もが期待しているからです。でもこの作品では、誰もがお互いを許し、誰もが許しを請うような終わり方を心がけました。人々は何らかの形で善良になれる。人々の間で何が起こったかにかかわらず、人類はどうにかして生き延びていける。私たちが今経験しているこの状況において、私たちは皆善良になれる。それがこの映画で私が共有したかったことです。

――物語の中で重要な役割を果たしている食べ物についてはどうですか?

お気付きかどうかわかりませんが、フィリピンの中でもこの映画で描かれている地域は違う言葉を話します。パンパンガ州は、食の中心地と言われています。私はそこの出身なんです。私たちはおいしい料理、エキゾチックな料理を作るんですが、それはスペイン人がフィリピンに定住したときに伝わったんです。スペイン人が料理の作り方を教え、地元の人たちはその教えを地元の食材と融合させようとしました。だから、とてもおいしいんです。自分のことだけを考えるのではなく、他者にも手を差し伸べて問題に対処していくことのメタファーとして、この映画に食のエッセンスを取り入れようとしました。例えば私は末っ子で、ある地方に行くと3人の姉妹がいるのですが、みんな料理がとても上手なんです。彼女たちは同じレシピをそれぞれのバリエーションで料理して、私に全部味見して意見するように言うんです。彼女たちの家に行き、料理を食べることで喜んでもらう。そういうコミュニケーションの方法もあるんです。

――キャスティングについて教えてください。

今までの作品と比べると、今回のキャストはフィリピンでとても有名な俳優ばかりです。父親役のリト・ラピッドは現在上院議員です。上院議員になるまでは、とても有名なアクションスターでした。ココ・マーティンは、『キナタイ -マニラ・アンダーグラウンド- 』、『サービス』、『マニラ・デイドリーム』で主役を演じてもらいました。彼はいまやフィリピンで最も人気のある俳優で、7年ほど続いたテレビシリーズやテレビ番組をこなしています。

ジャクリン・ホセは『ローサは密告された』でカンヌ国際映画祭主演女優賞を受賞し、私たちが初めて一緒に仕事をした『マニラ・デイドリーム』では母親役を演じてもらいました。ほとんどの作品はテレビで放映され、テレビではとても人気があります。被害者の妻役の女性もとても人気があります。

――ビジュアル面についても詳しく教えてください。

撮影に関して、この映画では土地の色、風景、伝統、文化、宗教、食べ物、つまり場所そのものを見せたかった。観客に、このコミュニティが実際にどのようなものかをイメージしてもらいたかった。川が流れ、新鮮な魚や食べ物が手に入り、お祭りも盛んなんです。人々は本当に食べ物が好きで、私たちが食べる食べ物や味などについては、地域のコミュニティの中で活発な意見交換が行われています。この映画では、そのすべてを取り入れようとしました。悲劇的でネガティブなものを見せるのではなく、許しや悔い改めを描いて、映画を観た後に良い気分になってもらえるようにしました。

――人気俳優と仕事をするのは簡単ですか?

とても難しい。私がココ・マーティンを発見した15~16年前は、外で撮影することができ、とても楽でしたよ。でも今は、ボディーガードやスケジュール表が必要だし、、野次馬達たちがいて、とても大変です。1マイル先の人たちも彼を知っていて、撮影があろうものなら人々が群がり、コントロールするのが難しくなります。特に私の映画作りではその場の感情を大事にしていて、リハーサルや過度な演出をしたくないので、色々なチャレンジがありました。

――観客の反応は?

この映画は私っぽい作品ではなくメインストリームの監督が撮るような作品だから、私や私の映画を知っている人たちはがっかりするだろうと思っていました。しかし、フィリピン人の方から、私が描いてきたマニラの日常などではなく、私たちの国の素敵で美しいものをいちフィリピン人として見出だせたという予想外の感想をもらいました。何か別のものを期待していた方も多い様です。

――香港映画祭との協力関係はいかがでしたか?

この作品は香港映画祭が製作したものなのですが、彼らは私に声をかけてきて、セックスも暴力も政治も無い映画を撮るように言ってきました。「本当にいいんですか?」と聞きましたが、でも私にとっては、いつもと別のことをテーマにした映画を撮るというのはチャレンジでした。だから挑戦したんです。

――疲れを感じることはありますか?

いや。パンデミックが起こったときでさえ、中断になったけれどもHBOとのプロジェクトに取り組んでいました。私にとっては、挑戦すればするほど、足かせになるような状況があるたびに、止まりたくなくなる。そういう生き方をしたかったんです。こんなエネルギーがあるということは、映画作りをやめたら病気になるということだと思う(笑)

ブリランテ・メンドーサ
監督
1960年7月30日生まれ。フィリピン、サン・フェルナンド出身。マニラの聖トマス大学で広告芸術を学び、映画、テレビ、舞台、CM のプロダクションデザイナーとして活動を始め、その後CM ディレクターとなり成功を収める。45 歳で初長編監督作品『マニラ・デイドリーム』(05)がロカルノ国際映画祭のビデオ部門金豹賞などを受賞し世界に名を知られるようになる。『サービス』(08)が、フィリピン映画として84 年以来のカンヌ国際映画祭コンペ出品作となり、『キナタイ─ マニラ・アンダーグラウンド─ 』(09)で第62 回カンヌ国際映画祭監督賞を受賞。『グランドマザー』(09)で第66 回ヴェネチア国際映画祭コンペティション部門に出品。イザベル・ユペール主演『囚われ人 パラワン島観光客21 人誘拐事件』(12)が第62回ベルリン国際映画祭コンペティション部門に出品され、世界三大映画祭のコンペティション部門出品を果たす。『ローサは密告された』が第69 回カンヌ国際映画祭にて主演女優賞を獲得。フィリピンの暗部をえぐり、会問題や社会的リアリズムを通してフィリピン人の物語を描写し、「ドキュドラマ」というカテゴライズにされることが多いフィリピン映画「第3 黄金期」を牽引する監督である。ダンテ・メンドーサ名義でほぼ全ての監督作でプロダクションデザインも担当している。フランス芸術文化勲章のシュヴァリエ叙勲の名誉を受けた最初のフィリピン人である。フィリピン映画シーンのオピニオンリーダーとしても活躍しており、映画財団や映画祭を創設し、フィリピン全土で映画制作ワークショップを開催するなど、フィリピンの若手映画制作者を手厚く支援する仕組みを10 年以上かけて構築してきた。フィリピン初のNETFLIX 犯罪ドラマ『AMO 終わりなき麻薬戦争』(18)も監督。その他、『アルファ、殺しの権利』(18)、尚玄を主演に迎えた『GENSAN PUNCH 義足のボクサー』(21)などがあり、北海道で撮影を行った『CHAMELEON カメレオン』が公開を控えている。

 

ストーリー

息子が起こした交通事故の罪を被り、刑務所に収監されていた家族の長の帰還を祝う宴の準備が進められている。収監されている間、妻と息子は、協力しあって家族と家計を守り、亡くなってしまった男の妻と子供たちを引き取り使用人として面倒を見ていた。しかし、宴の日が近づくにつれて後ろめたさと悲しみが再びあらわれ、「失った者」と「失わせた者」との間の平穏はかき乱されていく……

 

『FEAST -狂宴-』予告編



本編映像(交通事故シーン)


公式サイト

 

2024年3月1日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

監督:ブリランテ・メンドーサ
脚本:アリアナ・マルティネス
撮影:ラップ・ラミレス 美術:ダンテ・メンドーサ
編集:イサベル・デノガ 音楽:ジェイク・アベラ
出演:ココ・マーティン、ジャクリン・ホセ、グラディス・レイエス、リト・ラピッド

2022年/香港/タガログ語、パンパンガ語/104分/シネスコ/原題:Apag(英題:FEAST)

後援:フィリピン政府観光省 配給・宣伝:百道浜ピクチャーズ
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