『ボーはおそれている』ユーモアと悪夢が共存、恐怖が永遠に続くのにめちゃくちゃ笑える傑作!

『ボーはおそれている』ユーモアと悪夢が共存、恐怖が永遠に続くのにめちゃくちゃ笑える傑作!

2024-02-14 16:17:00

『ボーはおそれている』治安の良くないダウンタウンのアパートに住む、ボー・ワッセルマン(ホアキン・フェニックス)。これから始まるボーの3時間に及ぶ旅の物語は、全く想像もつかない展開の連続だ。

物語の最後に着地する場所がエンドクレジットのバックで延々と映され、映画を見た観客は遠い惑星に辿り着いた感覚に襲われる。

ジョルジュ・バタイユの小説「眼球譚」などを好んで読んでいたというアリ・アスター監督だけあって、物語も、キャラクターの性格の屈折度合いが半端ない。

本作に関する情報を一切得ずに観ることをお勧めします。

公式サイトに掲載されている著名人、マーティン・スコセッシ、ポン・ジュノ、ギレルモ・デル・トロ、エマ・ストーンのコメントを一つのコップにほうり込んでミックスして本作の宣伝コピーを作ってみた。

「アリ・アスターらしさ全開!現代にはこんなレベルの映画を作れるフィルムメーカーはほとんどいない。ユーモアと悪夢が共存、恐怖が永遠に続くのにめちゃくちゃ笑える傑作!」

 

プロダクションノート


――映画について

今、最も独創的な映画人の一人であるアリ・アスターによる最新作は、夢か?現実か?分からなくなってしまう未知への旅を描く。母親の元へ帰省しようとするが、見えざる何かに動きを監視されているのではと怯えながら、不思議で邪悪な世界に誘われていく一人の男性の物語。意味深長で、現代社会における感情的なカオスと蓄積された不確実性に正面から立ち向かう『ボーはおそれている』で、主人公は人生の終わりの淵を旅して、いたるところで恐怖とユーモアと遭遇する。

市内のアパートで一人暮らしをしている小心者のボー (ホアキン・フェニックス)は、悪夢のような日々を過ごしている。不安と妄想に陥りがちなボーは、長らく通っているセラピスト(スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン)から、近いうちに母親(パティ・ルポーン)を訪ねるよう提案される。しかし、出発前夜に騒動が起こり、ボーの人生は予期せぬ方向へ。夢か現実かわからなくなった世界で、目的地にたどり着くことができず、地図に載っていない道を旅しながら、ボーは今までの人生で出会った人たちによる、嘘に直面していくのだ……

『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』のアリ・アスターが送り出すのは、支配と継承そして逃避のめくるめく映像世界。それは、ボーが体験し記憶に深く刻まれた世界だ。壮大な冒険談であり、怖がりの主人公を繊細に描いた本作は、空疎な人生を巡る人間研究であり、自分を取り巻く家族や環境、内面の問題に対処するのが苦手な人間が巡る英雄的な旅である。心理的なアスター監督の3作目はブラックユーモア満載、大作映画であり非常に現代的でありながら、懐かしさも覚える。レールから外れたある男の一生を、顕微鏡で観察したような作品になっている。

「アリ・アスターは、私たちが今、体験している悪夢とは違ったカフカ的な悪夢を見せる」ボーの幼なじみのエレーヌ役を演じるパーカー・ポージーはこう語る。「町をさまようこと、家の中で生活すること、親に対する恐怖心、文化と資本主義の騒乱が意味するもの、そのすべてから救済される方法をボーは一心不乱に模索しているの」

――構造

アスターの前作『ミッドサマー』のダニー(フローレンス・ピュー)と『ヘレディタリー/継承』のアニー・グラハム(トニ・コレット)は、それぞれ言葉では表せない家族のトラウマから逃げ出し、母親不在だった。

ボーの場合、見方によっては、母親に持て余すほどの存在感がある。モナは高圧的で、大きな成功を収めていて、遠く離れた場所から息子の精神的な生活を心から気にかけている。そしてボーは何よりも母親の元に行きたいと願っている。

前作での問題を抱えた母親との関係を逆転させることで、今回、ボーの旅は地獄というより精神的邂逅となり、家にたどり着く途中で立ちはだかる数々の試練と苦難の真相に迫るため、彼は自らの過去に向かってまっしぐらに突き進む。本作は4つの章と2つの追加シーンで構成される。母と息子の関係を決定づけたクルーズ船のフラッシュバックシーンと謎めいたラストシーンだ。アスターが説明する。「従来の映画の構造から抜け出して、小説みたいに感じる物語にしたかった。型にはまらない、ある意味、常識破りな、もしかすると直感で理解できる作品にしたかったのかも」

アスターは撮影のパヴェウ・ポゴジェルスキと再びタッグを組んだ。物語の各章は、私たちが生きている世界をビックリハウスのゆがんだ鏡で見たように描かれている。ボーは都会から郊外、地方へと移動し、旅する場所と風景が変化する。本作はピカレスク的だ。メチャクチャになってしまった世界で、風采の上がらない主人公が冒険する様子が様々なエピソードで語られる。

物語の冒頭で、ボーは荒れた地域にあるアパートで一人暮らしをしていて、依存症や大量消費、暴力、狂気に満ちた日々のストレスを何とかやり過ごしている。事故の後、ボーは富裕層が暮らす郊外で、ネイサン・レインとエイミー・ライアンが演じる外科医とその妻の息子代わりとなる。夫婦の愛する長男は戦死し、ティーンエイジャーの娘は精神的にボロボロになっている。

陽気な外科医ロジャーを演じたレインが語る。「カフカ的な第1章が物語全体を構成し、第2章はブラックコメディーのような展開。ミステリアスな第3章は、さらに知的かつ超現実的になり、ラストの第4章では誰も予測できない場所にたどりつく」

フラッシュバックシーンでは、アルメン・ナハペシャン演じる少年のボーが登場し、不安なプレティーンと支配的な母親(ここではゾーイ・リスター=ジョーンズが演じている)の複雑な絆が築かれる。2人を混乱させるのは、自身も母親との問題を抱えている反抗的な13 歳のエレーヌだ。子供同士は親しくなるが、エレーヌは母子の絆から逃れようと決意し、ボーは逃れられない。やがて彼らは離れ離れになる。

「エレーヌとボーは正反対だ。彼女は強引で騒々しくて、自分の意見を口にするのを恐れない」ナハペシャンはこう続ける。「ずっと支配されて育ってきたボーは、それまで女の子と付き合ったことがなかったから、エレーヌに何を言われても従う。彼女がボーに生まれて初めて楽しさを教えてくれるんだ」

ボーが過去と現在から逃げ出すと、映画はミステリアスな第3章に突入する。森に入り込んだボーは旅回りの劇団と出会い、個人的かつ心理的な新時代の芝居を見る。アスターが言う。「彼は催眠状態で芝居に入り込み、もし自分がもっと活発な人間だったらどんな人生だっただろうと想像する」

――撮影現場

本作の撮影は、モントリオールで行われた。都市部から郊外、地方へとさまざまなロケーション撮影を行い、複合的な物語の世界を表現した。生き生きとした多様な世界を作り上げたのは、アカデミー賞にノミネートされたこともあるプロダクションデザイナーのフィオナ・クロンビー(『女王陛下のお気に入り』)。都会の通りをボーが暮らす近隣地域に変え、また彼が旅の途中で立ち寄る場所を作るために、まったくタイプの異なる2件のモントリオールの家を探し出してきて装飾し、また映画の中盤で出てくる森の迂回路用に、キャップ・セント・ジャックにある自然公園に野外劇場を作った。

「アリの脚本で最も興味深かったのは、出来事から出来事へ、場所から場所へとストーリーが進み、ビジュアルの変化によって、自分もボーと一緒に旅しているように思えるという点よ」とディズニーの『クルエラ』でプロダクションデザインを手掛けたクロンビーが語る。「視覚的に動きがある、コンテンポラリーな環境で仕事をするのは楽しかった。様々な世界をつなげて、1つの世界観を作り上げる方法を探すのは、ワクワクするような挑戦でした」

――撮影

本作で、アスターと撮影のパヴェウ・ポゴジェルスキは3度目のタッグを組んでいる。2人の出会いは、アメリカン・フィルム・インスティチュート[40]の学生だった時代までさかのぼる。ポゴジェルスキはアスター監督の『ヘレディタリー/継承』と『ミッドサマー』で、外界から遮断された小さなコミュニティーを見事な映像で描き上げた。本作では対照的に、広い世界へ踏み出している。

ポゴジェルスキは、こう語る。「『ボーはおそれている』はアリのこれまでの作品と比べて、はるかに壮大なスケールで複雑な作品だ。それに今回は、かなり意欲的なストーリーで、ホメロスが描いた冒険談のように、異世界を旅する」

このクリエイティブなコンビは10 年にわたって緊密な関係を築き、作品を重ねるごとに進化し、友情を深めてきた。ポゴジェルスキは言う。「アリは、どんな映画になるのか、いつも明確なビジョンを持っているから、あとはカメラとレンズを選ぶだけでいい。そして作品を作るごとに意欲的になっている。『ミッドサマー』は不可能に思えたけれど、今回はさらに大掛かりだ。大事なのは、アリが思い浮かべたイメージを形にすること。一緒に限界を押し広げる方法を見つけ、最終的にはやり遂げることができる」

ポゴジェルスキは、街角と都会のアパートの廊下で繰り広げられる混沌としたオープニングの数分間の撮影にすぐ取り組んだ。精神科医から処方された薬をのむための水を買うため、フェニックスがアパートのロビーを出て、ひどく荒れた通りを抜けてコンビニまで猛ダッシュする姿を追いかけて撮ったトラッキングショットは見事だ。路上の至るところで、近所の変人たちがたむろしている。

ポゴジェルスキが振り返る。「このシーンでは、カメラを移動させるのがかなり難しい時もあった。ホアキンをはじめ、みんなが動いている状況で、いろんな人を撮ろうとしていたからね。こういったシーンは、撮影前に駐車場で何度も練習した。ホアキンがコンビニの中で走り回るシーンでは、開いた窓からカメラを持って店内に入るなど試行錯誤して、何とかうまく撮影できたよ」

独特の撮影方法を試すためには、計画して問題を解決する必要があった。例えば、ガラス張りの家の中で撮影した時は、光の動きが予測できず反射もすごくて、また動いているキャラクターをとらえるために複雑なフロアを移動しなければならなかった。さらにモントリオールの森での夜間撮影ではたくさんの木の葉に撮影を邪魔された。

「アリはこの作品で限界を押し広げ、シーンの演出や企画、ストーリーの伝え方という観点から見て、監督として成長した。この映画の製作では、これまで以上に多くの障害があったが、アリは数学的な方法で取り組み、すべて事前に計画を立てて見事に演出した。僕は彼の頭の中にあるイメージを実行するだけでよかった」とポゴジェルスキは言う。

昔からアスター作品の製作を手掛け、スクエア・ペグの共同経営者でもあるラース・クヌードセンも同意する。「アリの全作品をプロデュースしてきたので、自信を持ってこう言えます。本作は一番の意欲作で、不可能と思えるほど作るのが難しい映画でした。アリはいい意味で完璧主義者です。映画監督として、製作するすべての映画で自らに挑戦し、今までになかった新しいオリジナルな作品を作るために、より高いハードルを設定し続けています」

アリ・アスター
監督
1986年生まれ、アメリカ・ニューヨーク州ニューヨーク出身。アメリカン・フィルム・インスティチュートで映画を学び、ある父子の性的虐待を題材にした『The Strange Thing About the Johnsons(原題)』、息子を溺愛する母親の狂気を描いた『Munchausen(原題)』といった短編で注目を集める。そして2018年、A24製作の『ヘレディタリー/継承』で長編監督デビュー。祖母の死をきっかけに恐ろしい運命へ導かれていく一家を描いた同作は、多くの批評家や映画監督から絶賛された。2020年2月21日に長編第2作『ミッドサマー』、2024年2月16日に約3時間の大作『ボーはおそれている』が公開。

 

ストーリー

主人公・ボー (ホアキン・フェニックス)は、いつも不安に怯えている。

近所の不良の振る舞いや、うがい薬をちょっと飲んでしまったことなど、些細なことにビクビクし、悪夢のような日々を過ごしている。ある日「いつ帰って来れるの?」と、さっきまで電話をしていたはずの母が怪死していると連絡を受ける。

ボーが母の元へ駆けつけようとアパートを飛び出すと、世界は激変していた……。

現実なのか?夢なのか?分からなくなってしまった世界で実家にたどり着くことができないボー。地図に載っていない道を旅しながら、ボーは生まれてから今までの人生が、転覆してしまうような体験をする。これは運命なのか、それとも……

『ボーはおそれている』予告編

 

公式サイト

 

2024年2月16日(金) 日比谷シャンテ、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次公開

 

監督・脚本:アリ・アスター 『ヘレディタリー/継承』『ミッドサマー』
製作:ラース・クヌードセン、アリ・アスター
主演:ホアキン・フェニックス 『ジョーカー』『カモン カモン』『ナポレオン』(2023/12/1 公開)
出演:ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ヘイリー・スクワイアーズ、ドゥニ・メノーシェ、カイリー・ロジャーズ、アルメン・ナハペシャン、ゾーイ・リスター=ジョーンズ、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ 『ヘレディタリー/継承』、『ミッドサマー』
プロダクションデザイン:フィオナ・クロンビー 『女王陛下のお気に入り』、『クルエラ』
編集:ルシアン・ジョンストン
衣装デザイン:アリス・バビッジ
音楽:ボビー・クルリック
キャスティング:ジム・カーナハン
視覚効果監修:ルイ・モラン

上映時間:2 時間59 分 映倫区分:R15+ (仮)

配給:ハピネットファントム・スタジオ
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