『未帰還の友に』太宰治の反戦小説を没後75年に映画化

『未帰還の友に』太宰治の反戦小説を没後75年に映画化

2023-12-11 16:24:00

『未帰還の友に』は太宰治没後75年記念映画。太宰は当時三鷹に住んでおり、この小説の中では吉祥寺や高円寺のお店が言及されている。

小説の書き出しは、次のように始まる。

「君が大学を出てそれから故郷の仙台の部隊に入営したのは、あれは太平洋戦争のはじまった翌年、昭和十七年の春ではなかったかしら。それから一年経たって、昭和十八年の早春に、アス五ジ ウエノツクという君からの電報を受け取った」

吉祥寺が出てくるくだりは、こう書かれている。

「日本では、酒がそろそろ無くなりかけていて、酒場の前に行列を作って午後五時の開店を待ち、酒場のマスタアに大いにあいそを言いながら、やっと半合か一合の酒にありつけるという有様であった。けれども僕には、吉祥寺に一軒、親しくしているスタンドバアがあって、すこしは無理もきくので、実はその前日そこのおばさんに、「僕の親友がこんど戦地へ行く事になったらしく、あしたの朝早く上野へ着いて、それから何時間の余裕があるかわからないけれども、とにかくここへ連れて来るつもりだから、お酒とそれから何か温かいたべものを用意して置いてくれ、たのむ!」と言って、承諾させた」

小説の全文は、作者の死後75年たっており著作権フリーなので、青空文庫のサイト『未帰還の友に 太宰治』で読むことがきる。

福田雄三監督は、ほぼ忠実に太宰の短編小説を映画化し、小説にないシーンとして新宿ムーラン・ルージュの舞台シーンを加えている。

企画の発端は、福田監督の友人で本作でも音楽を担当している原將人が監督の前作で、同じく太宰治の原作『女生徒・1936』のパンフレットに次のように寄稿した文を読んだことによるという。

「太宰治に『未帰還の友に』という、戦争中に、ただただ酒を求めてさまよう自らの姿を戯画化し、未帰還の若い吞み友だちのことを追悼した、反戦小説があって、高らかに反戦を謳ってないところが本当にすばらしくて、福間くんに、いいよ、いいよと絶賛していたら、太宰を撮ることにしたよという。撮ったものを見たら、『女生徒』を中心とした女性一人称で書かれた戦争中の小説をまとめたものだった」

主役の先生を窪塚俊介、出征する兵隊鶴田を土師野隆之介、マサ子を清水萌茄が演じる。

 

プロダクションノート


――新たな「幻野映画事務所」の立ち上げ

映画『私の青空・終戦63』(09)、『女生徒‣1936』(13)等の作品を監督した福間雄三を中心に、幻野映画プロジェクトを発展的に解消し、ここで新たに、「自由に映画を作る・見せるシステム」を確実に構築し、継続的な映画製作の基盤づくりを図るために、2022年5月に結成され、第1回作品として、太宰治原作『未帰還の友に』の映画化が、企画されました。
2022年8月中旬、文化庁助成金の交付決定、年内完成試写を目指し、シナリオ作業を本格化する。「2022年という年は、2月24日にロシアのウクライナ侵攻がはじまり、21世紀において、またも、「残虐な戦争」が、始まってしまい、今だに終わりが見えず、最悪な事態に追い込まれている。」(文化庁提出「企画意図」から)

――太宰治と新宿ムーラン・ルージュ(伊馬春部)

当初、太宰治原作『未帰還の友に』に、太宰作品「満願」を加えるという企画に変更してあったものを取り止め、監督の友人でもある、田中じゅうこう監督(映画『ムーラン・ルージュの青春』など)の提案で、新宿ムーラン・ルージュの舞台シーンを入れ込み、二人は、初の製作・監督で、タッグを組み、シナリオ・演出にも参加することになる。

新宿ムーラン・ルージュの劇作家としても、著名である伊馬春部は、筆名「太宰治」以前から井伏を介して知遇を得、「津島君」と呼んでいた旧友。「青い花」に参加して互いの文学に理解を深め、太宰は尊敬と信頼の念を抱いていた。*「太宰治三鷹とともに」(三鷹市スポーツと文化財団)参照。

 

福間雄三 監督


福間雄三

監督
1951 年、新潟県生まれ。1967 年、高校時代から8 ミリフイルムで短編映画を作る。作品に『朝・モチーフ・イメージ』(67)、『荒野』(68)、『赤い靴』(76) などがある。2002 年に映画批評の掲載及び映画の制作・上映を目指し、ウェブサイト「ネット・リュミエール」を開設。映画館の特集上映(深作欣二、黒澤明からゴダールまで)などで観た作品の批評を掲載(約450 本)するなど、約13 年間続ける。その間に、2009 年7 月には、小型HD カメラによる撮影・編集も担当し、映画『遺書』(短編23 分)、ドキュメンタリー映画『私の青空・終戦63』(92 分)などを完成させる。また、2010 年4 月に「幻野映画プロジェクト」を正式に立ち上げ、2012 年に、長編劇映画第一回作品『女生徒・1936』を完成させ、翌年、太宰治・桜桃忌に、東京立川、横浜での2館同時上映を実現させる。2022 年5 月に幻野映画事務所を設置し、8 月に文化庁の補助金の交付決定を受け、11 月に撮影開始。本作が長編映画の第三作目である。

 

ストーリー

小説家の先生(窪塚俊介)を慕う学生たち。先生は中でも、鶴田(土師野隆之介)に特別に友情を感じるようになる。そんな中鶴田は出征が決まり、一時先生と酒を交わす時間が取れる。二人の常連の居酒屋の娘・マサ子(清水萌茄)は新宿ムーランルージュの舞台に立っていたが、鶴田との恋は手紙のやりとりで続いていた。だが出征が決まった鶴田は苦しみながらも彼女との別れを決心し、先生にそのことを告げるのだった‥。そして時代は戦争の泥沼の中で、多くの若者たちの犠牲を強いていく。



『未帰還の友に』予告編


公式サイト

 

2023年12月15日(金) アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Cast
窪塚俊介
土師野隆之介/八島諒 亮王 清水萌茄 蒼井染 君澤透
名倉右喬 橘レイア 水島裕子/萩原朔美

Staff
企画:福寿祁久雄 製作:田中じゅうこう
プロデューサー:櫻井陽一 協力プロデューサー:溝上潔
原作:太宰治「未帰還の友に」(太宰治全集・筑摩書房刊) 脚本:大隅充・福間雄三
音楽:原將人・山本無二 撮影:根岸憲一(J.S.C) 照明:佐藤仁 録音:岸川達也
美術:吉見邦弘・田中太賀志 編集:小西智香 整音:吉田茂一 メイク:小堺なな
製作:幻野映画事務所 制作協力:幻野プロダクション 配給:トラヴィス

2023年/日本/カラー/ヨーロピアンビスタ/DCP/75分/ステレオ
©️GEN–YA FILMS 2023

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