『ブルーを笑えるその日まで』監督自身の中学時代の苦しい記憶を見事な映像美に昇華させた青春ファンタジー
自身のコンプレックスであった中学時代の記憶をモチーフに、学校という小さな世界で感じた閉塞感、孤独の苦しみや葛藤が、思春期の瑞々しさの中で綴られてゆく。本作の中の「孤独」とは、ただ一人で過ごす時間のことではなく、「存在しているのに、あたかも存在していないかのように扱われることへのやりきれない想い」のことなのだ。
監督を務めるのは、本作が初長編作品ながら「SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023国内コンペティション長編部門」にノミネートされるなど今後の活躍が期待される新星・武田かりん。そして、主人公のアンを演じるのは渡邉心結、もう一人の主人公アイナを演じるのは角心菜。2人とも本作が映画初主演となる。
さらに主題歌にはRCサクセションの名曲『君が僕を知ってる』。現代を描いた若者向けの本作の中で、この名曲だけが明らかに時代を超越している。まるで、青春時代に何らかの生き辛さを味わったすべての大人たちが、かつての自分に寄り添うための架け橋を担っているようでもある。
澄んだ瞳で語られる身を切られるような苦しみと切実な想い……それらが、金魚や万華鏡、こもれびなど印象的なモチーフとともに丁寧に織り上げられ、美しいファンタジーへと昇華された本作。「言葉にしても上手く伝わらないと思い映画にした」という武田監督の渾身の「想い」が、静かな映像の中で饒舌に語りかけている。悩めるティーンエイジャーたちへ、そしてかつてのティーンエイジャーたちにも、等しく確かなカタルシスをもたらしてくれる貴重な映画だ。
武田かりん 監督インタビュー
――『ブルーを笑えるその日まで』はどういう映画ですか?
この映画は、私の10代の頃の不登校の経験だったり、死のうとしてしまった自殺未遂だったり、そういう自分のコンプレックスをもとに作った物語です。
――この映画でどういうことを伝えたいですか?
言葉にしても上手く伝わらないと思い映画にしました。
それでも伝えられるか難しいですが、辛いこと、苦しいことから逃げてもいいよということと、そうやって生きていれば「いつかきっと」っていうことを言いたいです。私も10代の頃、死のうとしてしまったことがあるんですけど、でも今は生きていてよかったなって本当に思うんですが、でもそういう大人の「生きていればいつかきっといいことあるよ」みたいな励ましって、当時10代の私には全然届かなくて、でも大人になってそれって本当なんだって気付きました。言葉では届かなかったこの想いをどうにか今苦しんでる子たちに届けたくてこの映画を作りました。
――10代の頃の記憶について聞かせてください。
10代の頃声が出せなくなってしまった時期が3年間くらいありました。
それが中学校の時だったんですが、私が話しても、話しかけても誰も聞いてくれないから「こんな声いらないや」って思ったら次の日から本当に声が出なくなって誰とも喋らす友達も出来ず不登校になりました。なので私の10代の記憶はずっとカーテンを締め切ったくらい部屋にいたというのが私の記憶です。
――いま不登校などで苦しむ10代へ向けて伝えたいことは?
「生きていれば、いつかきっと」っていうことをとにかく言いたいです。
10代で亡くなる方の原因の一番が自殺だというニュースを見て、それにショックを受けたことがこの映画を作る最初のきっかけでした。当時の私も大人は分かってくれないと思っていましたが、今いる小さな世界の外側にはあなたをわかってくれる人がきっとどこかにいます。
――人と関わることが苦手だったのに、なぜ映画監督を目指したのですか?
映画監督になりたいというよりも前に、『ブルーを笑えるその日まで』を作りたいという気持ちが先でした。
自分の10代の頃のコンプレックスを物語に昇華したいという思いで本作を作りました。
ひとりぼっちで自殺未遂をしてしまったこともあるような私が、大人になってこうして活動をしていることを届けつづけることは意味があることだと信じています。今苦しむ人のために、これからも私の全てをかけて作品を作っていきたいと思っています。
――観客のみなさまにメッセージをお願いします。
企画から、3年。あの頃から、10年。「ひとりぼっちの女の子たちが、手を繋いで"ブルーから逃げる"⻘春映画」を作りたい。ひとりで企画を立ち上げた 3年前から、それが私の全てでした。 素敵なスタッフさん、出演者の皆さん、奇跡のような出会いに恵まれ、小さな点は大きな円となり、気づけば当時思い描いた以上のものが完成していました。
私にとって、この映画は間違いなく、宝物です。そしてこれからは、私だけにとってのそれではなく、たくさんの方にとっての宝物のような映画になれますように。あなたが、ブルーを笑えるようになるその日まで、この映画で、物語で、ずっとそばで、味方でいさせてください。
武田監督 インタビュー動画
武田かりん
監督
2020年東京工芸大学映像学科映画研究室卒業。
学生時代よりプロアマ問わず多くの映像制作に携わる。2020年映画研究室卒業制作として制作した初監督作『そして私はパンダやシマウマに色を塗るのだ。』が複数の映画祭でノミネート・受賞。2022年、10代の頃の不登校や自殺未遂の経験を元にした本作を制作する。
ストーリー
魔法の万華鏡で繋がる二人だけの青春ファンタジー物語
安藤絢子(アン)は学校には馴染めない、ひとりぼっちの中学生。
薄暗い立ち入り禁止の階段が唯一の居場所だった。
そんなある日、不思議な商店で魔法の万華鏡を貰う。それを覗くと立入禁止の扉が開きその先の屋上には同じ万華鏡を持った生徒、 アイナがいた。二人はすぐに仲良くなり夢のような夏休みを送るのだが、屋上には「昔飛び降り自殺した生徒の幽霊が出る」という噂があった。その幽霊がアイナなのではないかと疑念を抱きながらもお互いにとってかけがえのない存在になっていくのだが……。
『ブルーを笑えるその日まで』予告編
公式サイト
2023年12月8日(金) 〜21日(木) アップリンク吉祥寺にて2週間限定上映、ほか全国順次ロードショー
Cast
渡邉心結 角心菜
丸本凛 成宮しずく 佐藤ひなた 夏目志乃 片岡富枝 宮原俐々帆 根本拓洋 鳥谷宏之
土屋いくみ 若林秀敏 松澤可苑 荒澤智也
Staff
脚本・監督:武田かりん
プロデューサー:田口敬太、協力プロデューサー:田中佐知彦
撮影:上野陸生 照明:稲葉俊充 美術:野中茂樹 ヘアメイク:吉田冬樹
助監督:平岡凌 制作:田丸さくら
主題歌:RCサクセション『君が僕を知ってる』(Licensed by USM JAPAN, A UNIVERSAL MUSIC COMPANY)
製作:映日果人/武田かりん/kotofilm
配給:映日果人 配給協力:SPOTTED PRODUCTIONS
協力:埼玉県/SKIPシティ 彩の国ビジュアルプラザ
2022/日本/99min/シネマスコープ/カラー/DCP