『父は憶えている』 "我々は何者なのか、我々はこれから何者になるのか" と問いかけてくる映画

『父は憶えている』 "我々は何者なのか、我々はこれから何者になるのか" と問いかけてくる映画

2023-11-27 22:57:00

映画は、23年前にロシアに出稼ぎにいった男がキルギスの小さな村に帰ってくるところから始まる。男は、記憶をなくし、言葉を発することもなかった。

東京と比較すると全く何もないと言っていい村だ。映画は、キルギスの今を描く。
それはイスラム教の布教活動であり、ゴミが至る所にある環境問題であり、ラジオから流れる選挙に関する報道は、投票率の低さを訴える。なにもない風景の中に世界中の都市と同じ問題が描かれ、その中で結婚、離婚、男女差別、親と子、家族といった万国共通のテーマが描かれる。

クバト監督は、こう語る。「主人公が記憶を無くしたことは無駄ではなかっ たと伝えたかったのです。今のキルギスの人たちは家族の関係ですとか、宗教に対する考え方とか、環境につい て気にしなくなってしまっています。私はこの映画を通じて、忘れないで欲しいと訴えたかったのです。人は常に理性を持って物事に向き合わなければいけません」。

また、この映画にコメントを寄せている東京外語大学のフェロー、アクマタリエワ・ ジャクシルク氏はこう述べている。
「キルギス人の私が、この映画を見て感じることは、大きな社会変化に直面するキルギス人のひとり一人に、"我々は何者なのか、我々はこれから何者になるのか" と問いかけているのではないかということ」。

この作品を観る多くの日本の観客も、キリギス人と同じように、人との繋がりを通して社会の成り立ちを考え、”我々はこれから何者になるのか”について考えるのではないだろうか。


アクタン・アリム・クバト 監督メッセージ




本作は人間の愚かさを描いています。記憶を失った主人公は、人間性の悲劇のメタファーです。

彼はリトマス試験紙のような存在で、道徳の指標でもあります。若い家族の奔放な感情、プライド、女性に対する虐待、人々の間の憎しみ、イスラム教の過激化、汚職、大気汚染、大量のゴミで台無しにされた環境、このドラマチックな物語において、「愛」は理性を取り戻すための儚い希望のようなものです。

歴史的記憶や自らのルーツ、精神的価値観を失った人々が、この冷酷な世界で道徳が守られるかどうかについて語るひとつの試みなのです。

 

アクタン・アリム・クバト
Aktan Arym Kubat
監督・脚本・主演ザールク役
1957年3月26日、キルギス、キントゥー村生まれ。
ビシュケク美術専門学校を卒業後、 プロダクションデザイナーとしてキャリアを積み、90 年に短編ドキュメンタリー “A Dog Was Running” で監督デビューを果たす。その後、10歳の少年の大人の世界への目覚めを描いた中編 劇映画「ブランコ」 (93) が、第46回ロカルノ国際映画祭の短編映画部門で金豹賞(グランプリ)を受賞し、高い注目を集める。98年、長編 劇映画デビューとなる『あの娘と自転車に乗って』 が、 第51回ロカルノ 国際映画祭で銀豹賞 (準グランプリ)に輝き、ヴィエンナーレ 東京など数々の国際映画祭で受賞を重ねる。01年には「ブランコ」『あの娘と自転車に乗って』に続く、自身の少年時代を描いた3部作の最終章『旅立ちの汽笛』を発表する。その後、 9年の歳月をかけて完成させた、監督作にして初主演作『明りを灯す人』 (10) は、第63回カンヌ国際画祭監督週間に出品されたほか、ロカルノ、トロント、モントリオール、ヴェネチアほか数々の国際映画祭で上映され国内外から高い評価を受ける。また同作から、名前をロシア名の〈アブディカリコフ〉からキルギ ス名の〈アリム・クバト〉 に変える。『馬を放つ』(17)でも、メガホンを取る一方、熱い信念を秘めた男を熱演。第90回アカデミー賞®外国語映画賞キルギス代表に選ばれたほか、第67回ベルリン国際映画祭パノラマ部門アートシネマ連盟賞受賞 ベルギー MOOOV 映画祭2017最優秀作品賞受賞など受賞。第35回東京国際映画祭コンペティション部門でワールドプレミア上映された、5年ぶりの作品となる『父は憶えている』(22)も3度目となる監督兼主演作で、劇中一度も言葉を発しない記憶を失った主人公を、これまでにない静謐さで見事に演じている。この作品では映画監督としても活躍する息子のミルラン・アブディカリコフが主人公の息子役を実生活と同様に演じ、親子共演が実現し、本作も第96回アカデミー賞®国際長編映画賞キルギス代表に選出された。

2023年6月に開催された第25回上海国際映画祭では、審査委員長として、石川慶監督などアジアの映画人と共に「アジア新人部門」の審査にあたった。続いて7月にはこれまでの芸術・文化領域での傑出した貢献が認められ、フランス文化省より、フランス芸術文化勲章「シュヴァリエ」を受章した。

また、俳優として参加した、日本・カザフスタン・キルギス共同製作の映画『ちっちゃいサムライ』(23・佐野伸寿監督) では主人公に大自然の中で生きて行く術を教える孤高の猟師を演じている。

ストーリー

一枚の古いモノクロ写真、懐かしい歌声―― 思い出は再び甦るのか?

キルギスの村にひとりの男が帰ってきた。23年前にロシアに出稼ぎに行ったきり行方がわからなかったザールクだ。記憶と言葉を失ったその姿に家族や村人たちは動揺するも、そこに妻ウムスナイの姿はなかった―。心配をよそに、ザールクは溢れる村のゴミを黙々と片付けるのであった。息子クバトは、父の記憶を呼び覚ますために家族のアルバムを見せる。その片隅にはザールクとウムスナイが映る古い写真があった……。

無邪気に慕ってくる孫、村人とのぎこちない交流、穏やかな村の暮らし――。そんな中、村の権力者による圧力や、近代化の波にのまれ変わっていく故郷の姿が、否応なくザールクに迫ってくる。果たして、家族や故郷の思い出は甦るのだろうか?そんな時、家族を結びつける思い出の木の傍から懐かしい歌声が聴こえてくる……。



◆ 遊牧民の国 キルギス ◆

標高5000メートルを越える天山山脈のふもとに広がる雄大な山岳と草原の国キルギス。かつてシルクロードの一地点として栄え、遊牧民の国としても知られている。

近年、生活様式の変化や近代化に伴い経済的には豊かになってきたが、国内政治の不安定化やゴミなど、新たな問題も生まれている。また大国ロシアからの政治・経済的影響などがキルギスを大きく揺さぶっている。

 

『父は憶えている』予告編



公式サイト

 

2023年12月1日(金) 新宿武蔵野館、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

監督・脚本・主演:アクタン・アリム・クバト
脚本:ダルミラ・チレブベルゲノワ 撮影:タラント・アキンベコフ 編集:エフゲニー・クロクマレンコ

2022年/キルギス・日本・オランダ・フランス/カラー/1:1.85/105分/キルギス語・アラビア語・英語/原題:This is What I Remember 原題:Esimde

配給:ビターズ・エンド
©Kyrgyzfilm, Oy Art, Bitters End, Volya Films, Mandra Films