『シチリア・サマー』「美とは異なった存在であること」を忘れてはならない。世界は数えきれない美によって構成されているのである。

『シチリア・サマー』「美とは異なった存在であること」を忘れてはならない。世界は数えきれない美によって構成されているのである。

2023-11-21 00:01:00

『シチリア・サマー』、愛や恋以前の初期衝動状態、「君と一緒にいたい」という15歳のニーノ(ガブリエーレ・ピッツーロ)と17歳のジャンニ(サムエーレ・セグレート)のシチリア島を舞台にした物語。

実際に1980年に起きた事件を元にした本作は、時代設定を1982年に、2年ずらして描かれる。設定をスペイン開催のサッカーのワールドカップ期間とし、シチリア島でもその試合のテレビ中継に人々が熱狂する様を背景として用いているからだ。

イタリアが決勝戦で西ドイツを3対1で勝利し、優勝した日に悲劇は起きる。国中が、シチリアの小さな島中が勝利に熱狂し一つになったその時、集団からは「異なる存在」として認定された二人の少年に向けて銃弾が放たれた。

実際の事件は1980年、今から44年前のことだ。ワールドカップで優勝した瞬間、国が一つとなり、人々は喜びに酔いしれる。そこで映画的には、その時の人々の感情との見事な対比として二人の少年の死を描く。ただ「異なる」という理由だけで。

「美とは異なった存在であること」を忘れてはならない。世界は数えきれない美によって構成されているのである。


実際に起こったジャッレ殺人事件

1980年10月31日、シチリア島で10代と20代の若者2人が遺体で発見された。2週間前に失踪していたジョルジオ・アガティーノ・ジャンモンナと、アントニオ・ガラートラ(愛称トーニ)が、果樹園の木の下で手を繋いで横たわっているのが見つかり、2人の頭には1発ずつ銃弾が撃ち込まれていた。

事件は直後から同性愛者に対する憎悪によるものと目され、イタリア中からジャーナリストやテレビカメラが殺到する事態となったが、この悲劇は、シチリアの「沈黙の掟オメルタ」が同性愛者カップルの身の上と結びつけられることへの怖れがもたらしたものと取り沙汰された。

 

ジュゼッペ・フィオレッロ 監督インタビュー


©️Leandro Emede

――本作が初監督作品ですが、なぜこの映画を撮ろうと思ったのですか?

“なぜ人は愛し合う2人に嫌悪を抱くのか、そしてなぜ愛が憎しみを生むのか?”という疑問に突き動かされました。しかし残念ながら、私は未だにその答えにたどりつけておらず、これからもたどりつくことはないでしょう。これは人間が生まれ持つ矛盾だと理解し、私はこれからも物語を伝える事でその答えを探し続けたいと思います。

また、1980年に起きた若者2人が犠牲になったジャッレ事件の記憶が忘れられないためにも、ただ純粋に恋に落ちる2人の物語を本作で伝えたい、という衝動にも駆られました。

もう一つのきっかけは、2人の若者の死体が発見された当時、多くの若いシチリア人がすぐに街頭に繰り出し、この明らかに同性愛嫌悪的な犯罪に抗議したという事実です。これは、シチリアとそこに住むシチリア人が陰謀論者で無責任な人々ではないことを表しています。これらの抗議の直後、性的指向で差別されることなく、自由に人を愛することができる権利を守るという、最も重要な運動がシチリアで起き、“アルチゲイ”という団体が生まれました。

――ジャッレ事件が元になっているとのことですが、監督はこの事件をどのように知ったのですか? また、この事件はイタリアではどれくらい、どんな事件として知られているのでしょうか?

この事件は私が子供の頃から知っているニュースでよく話題になっていましたが、当時の私はこの事件を深く理解するには幼すぎました。現代のように詳細を知るのに便利な検索ツールもありませんでしたから。当時は同性愛をタブー視する傾向もあったため、家の中では明確に語られることはなく、噂として話題になるレベルだったのです。大人になってから、2人の遺体発見から30周年であることを記載したイタリアの新聞記事を目にしました。事実が詳細に書かれた精度の高い内容で、2人が当時置かれていた状態を鮮明に想像することが出来ました。

私はその記事に心を深く動かされました。そしてその新聞の切り抜きを何年も保管し、いつかその物語を自分自身で語ることを誓ったのです。 イタリアでは、ジャッレの事件は明確な同性愛者犯罪であると同時に、司法が失敗した事件としても認識されています。真実を解明するために行われたことはあまりにも少なく、費やされた時間もあまりにも短かったからです。私自身も本作の中で事件の真実を提供することはできませんでした。なぜならこの事件で実際に有罪判決を受けた者はいないからです。常に仮説しかありません。だからこそ、私は2人の少年の愛に焦点を当て、誰もが偏見に惑わされることのない詩的な映画を作ることを選びました。

――主演2人をどのようにキャスティングしたのですか?決め手は何だったのでしょうか?

 全てのキャスティングの過程がそうであるように、本作の主役2人を見つける道のりも長く慎重なものでした。何百人もオーディションをしましたが、参加してくれたその一人一人に感謝しています。私の心に大切なものを残してくれました。その中で現れたのがガブリエーレ・ピッツーロとサムエーレ・セグレートです。2人の間には特殊なエネルギーが流れていて、強いつながりがありました。彼らは会うやいなや、お互いを受け入れ、感情が一気に高まるのが見て取れたのです。私は2人の瞳の中に、演技を遥かに超越する特別な何かを感じました。私は優れた俳優を探していたのではなく、リアルで素朴、かつ繊細な少年2人を探していたのです。

――本国で公開した際の反応はいかがでしたか?

こんなに観客から感情的な反応が返ってくるとは思っていませんでした。自分が長年作ることを夢見ていた映画、また1人の観客として観たい映画を作りましたが、私のこの願望が一般の人々をも巻き込んだという事実は、奇跡としか思えません。自分の想いと観客の想いを重ねること、それは決して簡単なことではありません。観客は皆、様々な理由でこの映画に感情移入をし、強い感動を胸に映画館を後にしていました。私はまた、観客、とりわけ若い人達で映画館がいっぱいになっているのを目にし、興奮を覚えました。映画館は“生きて”いるということ、映画を観るための最高の場所であり続けるということをイタリア、ひいては世界に示したのです。映画館は、自分の知らない何十、何百もの人々と感動を分かち合うことができる神聖な場所であり、それは家でテレビを見ているときには決して起こり得ないことです。

――劇中歌はどのように選んだのですか? どのような意図がありますか?

 映画という大きなモザイク画を創作するにあたり、フランコ・バッティアートの音楽が最初の構成要素でした。私はバッティアートの音楽とともに育ち、いつか監督として映画を作るなら、必ず彼の曲を使うと心に誓っていました。また映画の中で重要で感情的なジャンニと母親が躍るシーンでは、ウンベルト・ビンディの曲"Il mio mondo"を採用しました。イタリアの偉大なシンガーソングライターによる美しい曲ですが、ジャッレ出身の2人の少年と同様、ビンディもまた彼のセクシュアリティによって長い間差別され、困難な人生を送りました。それはとても許しがたいことで、彼が私たちに残してくれた美しいものと、素晴らしい音楽に敬意を表したいと思ったのです。 

ジュゼッペ・フィオレッロ
Giuseppe Fiorello
監督・脚本
1969年3月12日、シチリア生まれ。90年代から劇映画、テレビ映画の多くの作品で活躍している。主な出演作に、マルコ・リージ監督『モニカ・ベルッチ ジュリア』(98)、ジュゼッペ・トルナトーレ監督『シチリア!シチリア!』(09)、ロベルタ・トッレ監督『キスを叶えて』(10)等。2012年に、エマヌエーレ・クリアレーゼ監督『海と大陸』でイタリア・ゴールデングローブ賞助演男優賞を受賞、ナストロ・ダルジェント賞最優秀助演男優賞にノミネートされた。俳優・脚本家・監督・プロデューサーなどマルチに活躍している。本作が初の長編映画監督作。

 

ストーリー

1982年、初夏の日差しが降りそそぐイタリア・シチリア島。バイク同士でぶつかり、気絶して息もできなくなった17歳のジャンニに駆け寄ったのは、16歳のニーノ。

育ちも性格もまるで異なる2人は一瞬で惹かれあい、友情は瞬く間に激しい恋へと変化していく。2人で打ち上げた花火、飛び込んだ冷たい泉、秘密の約束。だが、そんなかけがえのない時間は、ある日突然終わることに──。



『シチリア・サマー』予告編


公式サイト

 

2023年11月23日(木・祝) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー

 

Staff
監督・脚本:ジュゼッペ・フィオレッロ
プロデューサー:エレオノーラ・プラテッリ/リッカルド・ディ・パスクアーレ
撮影監督:ラミロ・シビータ
編集:フェデリカ・フォルチェージ
音楽:ジョヴァンニ・カッカモ/レオナルド・ミラーニ
美術:パオラ・ペラーロ
衣装:ニコレッタ・タランタ
キャスティング:マウリーリオ・マンガーノ

Cast
ニーノ ガブリエーレ・ピッツーロ
ジャンニ サムエーレ・セグレート
リーナ(ジャンニの母) シモーナ・マラート
カルメラ(ニーノの母) ファブリツィア・サッキ
アルフレード(ニーノの父) アントーニオ・デ・マッテオ
フランコ エンリコ・ロッカフォルテ
チッチョ ジュゼッペ・スパータ
トゥーリ アレッシオ・シモネッティ
トト シモーネ・ラッファエーレ・コルディアーノ
イザベッラ ジュディッタ・ヴァジーレ
ピエトロ ロベルト・サレーミ
ジュゼッピーナ アニータ・ポマーリオ

2022年/イタリア語/134分/スコープ/カラー/5.1ch/原題:Stranizza d'Amuri/PG-12/日本語字幕:高橋彩

後援:イタリア大使館 配給:松竹
© 2023 IBLAFILM srl

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