『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』好奇心をデザインの原動力としたアーティスト
フィンランドのデザインブランド、マリメッコのアイコンといえば、大きな花柄のイメージがある。それをデザインしたマイヤ・イソラのドキュメンタリーが『マイヤ・イソラ 旅から生まれるデザイン』だ。
彼女のことをよく知らなくとも、その花柄のデザインは記憶にあるだろう。
1927年にフィンランドで生まれ、2001年74歳で亡くなった彼女のマリメッコのデザインは北欧、フィンランドのデザインとこの映画を見るまで思い込んでいたが、実はマイヤ・イソラが世界を旅して創作したデザインだったことを知ることになる。
北欧、ヨーロッパ、アメリカはもちろん、モロッコ、アルジェリアのアラブ圏のモチーフがマリメッコのファブリックのデザインに使用されていることを知る。まさに邦題通り「旅から生まれたデザイン」だったのだ。
また、彼女は孤独であることを好み「一人で生きられないなら、私は不完全な人間だ」という考え持っていた。しかし、そう言いながら、恋多き女性でもあり、三度も結婚を繰り返す彼女だった。
彼女の創作の原動力はなんだろうかと考えると、それは旅であり、恋愛であり、そして最も大きいのが好奇心だろう。旅で見聞きしたものをデザインとして昇華し、晩年は宇宙にも関心を持つのだった。
マリメッコの創業者であるアルミ・ラティアに見い出され、専属デザイナーの社員としてマイヤ・イソラは働くのだったが、そのうち会社も大きくなり、彼女が好きだったソファーが事務所に置かれなくなった時に、「ソファーに横になれないのなら会社を辞める」と言って辞めるのだった。しかし、ラティア社長の計らいで、社員から自宅で働いてもよい「業務委託」となり、マリメッコのデザイナーとして仕事を続けたのは、現代の働き方の参考になるエピソードと言えるだろう。
ドキュメンタリー作品としての作り方は新しくはないがユニークな構造だ。素材としてマイヤ・イソラが娘のクリスティーナに出した手紙、それを朗読する俳優、娘はこのドキュメンタリーのためにインタビューに応えており、手紙のマイヤの言葉に合わせた映像は、写真や映像、そしてアニメーションによって表現されている。
映画は、「マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部でもある」というモスクワ出身のレーナ・キルぺライネンが監督した。彼女の初のドキュメンタリー作品は『The Voice of Sokurov(ソクーロフの声)』(2013年)で、本作は2作目となる。
レーナ・キルペライネン監督インタビュー
この映画は、マイヤの人生を形成した出来事に基づいており、アーカイブ資料と新しいドキュメンタリー映像の組み合わせで構成されています。マイヤの精神状態を描写する新しいフィクションの映像、アニメーション、クリップ映像によって、マイヤ自身の個人的な物事の体験の仕方が効果的に表現されています。カットアウトされたアニメーションは、日常生活と結びついた様々なファブリックのデザインの誕生を説明し、マイヤの絵画と密接に結びついています。マイヤのデザインに影響を与えたもの、例えば自然界にあるディテールや形なども、新しい映像で紹介しています。
一方、本作の舞台は現在でもあり、娘のクリスティーナがアトリエで語りかけているシーンもあります。彼女のアトリエは、マイヤの自宅に近い場所にあり、マイヤが遺した大部分の絵画、オリジナルデザイン、写真などがそこにあります。イソラ家の家族アルバムは、マイヤとその家族の様々な時代の物語を綴っています。アーカイブ写真では、マイヤが舞台、インテリア、ファッションでデザインしたファブリックが紹介され、抽象から具象へと発展していくマイヤの芸術もまた、彼女のライフストーリーの中に映し出されています。
また、音楽はマイヤの人生の主要な出来事を通して、特定の雰囲気を作り出すために使われており、それぞれの時代や場所で典型的なもの、そしてマイヤ自身が聴いていたものに由来していますが、映画用に新しく作曲もしています。
マイヤ・イソラのファブリックは、私の人生の一部でもあります。子供の頃、家のリビングルームに ”Kataja”(マイヤ・イソラが手掛けた「自然シリーズ」の一つ)のカーテンがあり、カーテンが作り出す穏やかな雰囲気が大好きでした。私は都会で育ちましたが、両親はフィンランドの地方出身で、夏には田舎で過ごしました。この”Kataja”のカーテンは、私にとって都会と田舎を隔てる緩衝材のようなものでした。大人になってから仕事の関係で別の都市に引っ越すことになり、勤務先が用意したアパートは最上階の小さな1ベッドルームで、反対側の建物に面した大きな窓がありました。建物のコンクリートとの間に暖かさが欲しくて、マイヤ・イソラの "Lyhty "のファブリックのカーテンをつけました。さまざまな色合いの赤の "Lyhty “は、新しいアパートが自分の家になった感覚をもたらしてくれました。
監督プロフィール
ロシア・モスクワのVGIK (The All-Union State Institute of Cinematography)卒業。監督、撮影監督、脚本家として活躍。撮影監督として、サハ・ヤクチア地方の ”The children of the big bear”(1993)、トゥーラ地方の ”On the edge”(2002)などの作品に携わる。監督としては ”Zero” (2002)、”Metro”(2003)などの実験的作品を制作。初の長編ドキュメンタリーは “The Voice of Sokurov(ソクーロフの声)”(2013年)、本作は2作目の長編ドキュメンタリーである。
ストーリー
日本でも人気の北欧を代表するデザインブランド「マリメッコ」。ケシの花をモチーフとした「Unikko(ウニッコ)」など、2021年に70周年を迎えたマリメッコを代表するデザインの多くはマイヤ・イソラが手掛けたものである。マリメッコの成長と共にデザイナーとしての才能を開花させ、創業前の1949年から87年までの38年間に500以上という驚異的な数のデザインをマリメッコに提供。そのタイムレスな魅力にあふれた大胆でカラフルなデザインは、半世紀以上経った今でも私たちの暮らしを彩りつづけている。1人のデザイナーが手掛けたものとは思えないほど多彩なデザインを次々と生み出したマイヤ・イソラの創作の源とはなにか。創業者アルミ・ラティアとの唯一無二のパートナーシップによってマリメッコの成功を支えた、類稀なデザイナーの足跡をたどりながら、創作の秘密に迫っていく。
予告編
公式サイト
3月3日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、YEBISU GARDEN CINEMA、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督:レーナ・キルペライネン
出演:マイヤ・イソラ、クリスティーナ・イソラ、エンマ・イソラ
2021年/フィンランド、ドイツ/フィンランド語/97分/カラー、モノクロ/ビスタ/5.1ch/原題:Maija Isola、英題:Maija Isola Master of Colour and Form
後援:フィンランド大使館
配給:シンカ + kinologue
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