『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』TBS入社時の研修で見せられた『日の丸』に衝撃を受けたという佐井大紀(28歳)監督の挑発

『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』TBS入社時の研修で見せられた『日の丸』に衝撃を受けたという佐井大紀(28歳)監督の挑発

2023-02-24 11:11:00

『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は、タイトルに偽りがある。

40年前に亡くなった寺山修司が2023年の現在「日の丸」をテーマに映画を観る観客を挑発するのではないことは当然だとして、誰が「挑発」するのか。それは、TBS入社時の研修で見せられた『日の丸』に衝撃を受けたという佐井大紀(28歳)監督だ。TBSの新企画、TBS社員がドキュメンタリー映画を作るという"TBS DOCS"に挑戦し、映画館の観客を「挑発」しようと試みた映画が『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』だ。

テレビ・ドキュメンタリー『日の丸』がTBSで放送されたのは1967年、建国記念日が制定された2日前の2月9日木曜日だった。構成の寺山修司32歳、演出の萩元晴彦37歳。放送後、テレビ局に電話や手紙で抗議が来たという。萩元は、放送の3年後1970年にTBSを退社し日本初の独立系テレビ番組制作会社テレビマンユニオンを創立する。

1967年に旗揚げした演劇実験室天井桟敷の主宰を務める寺山修司は、後に演劇を劇場の舞台から解放する『邪宗門』や、劇場から飛び出しリアルな街を舞台にする『人力飛行機ソロモン』や『市街劇ノック』を、舞台ではなく客席を舞台にする『観客席』、そして手紙を舞台にする『書簡演劇』など演劇という構造自体を問い直す演劇を作ったのだった。

その寺山の活動からすれば、『日の丸』は、当時のマスメディアであるテレビという社会の中での立ち位置を利用して、ブラウン管の中に映される人々、それを見る人々という関係の中で個人の集まりである社会の「今」を捉えようとした「TV演劇」の試みだった。萩元からすれば、後に出版される村木良彦・今野勉との共著『お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か』という命題の実験の場だった。

さて、そのコンセプトを寺山の没後40年に再構築しようとし、自ら質問者として街頭に出ていった佐井監督の目論みは、作品の半ばで崩壊するのだった。それはTwitterを利用して、大衆に当時のテレビと同じ質問を投げかけた時に起きた。

パンフレットの寄稿者である堀江秀史(静岡大学准教授)のテキストを引用しよう。

「ここで決定的になるのが、−―あれ、何だこりゃ−―という思いである。語られる内容にではない。制作における方法意識の欠如にである。寺山=萩元ドキュメンタリーを知るものなら誰しも思うに違いない。映画でのちに語られるところによれば、萩元は『日の丸』その他の質問形式のドキュメンタリーにおいて、質問者に「記録用紙」たれと厳命したという。質問者と回答者に生じる「情緒的なコミュニケーション」を排し、同じ声質で同じ質問を繰り返す機械になることが、この作品には必要だと考えたのである。そしてそれによって引き起こされる反応こそが、回答そのものよりも雄弁に現代の日本人像を描き出すと考えた。彼らが手掛けた一連の作品は、テレビメディアにしか出来ないかたちで、現代における「幸福」や現代日本の「国家意識」を捉え、ドキュメンタリー史に名を残すこととなった。この映画はそんな『日の丸』を基点に作られたのではなかったか。方法を手放して「日本人とは何か」、「日の丸とは何か」を追求するのでは、それが悪いわけではないが、われわれが見慣れたそこらのドキュメンタリーと大差はない。

しかし早まるなかれ。そんな危うさを次の批判が救う。即ち、製作段階のこの映画が採った、ツイッターで質問を投げて回答を募集するというやり方に対して、そんなやり方でいったい何が分かるのか、「村木(良彦)さんが泣きます」(注:後のテレビマンユニオン創設メンバーで『日の丸』の演出)というDMである。ここから、映画ははじめて寺山や萩元を紹介し、『日の丸』はじめ寺山らのドキュメンタリーが採った方法について掘り下げ始める(観客の疑念は監督の手の内にあるのだ)」

寺山修司の『日の丸』という呪縛から解き放たれた佐井監督は、自分の作品として、どのように映画を作り上げていったのかは、映画館で確認してほしい。

佐井大紀監督メッセージ

『現代の主役 日の丸』がTBSで放送された1967年、それは日本で初めて建国記念の日が施行された年であり、東京オリンピック開催の3年後。また3年後の1970年には「人類の進歩と調和」をテーマに掲げた大阪万博を控える、高度経済成長期の真っただ中でした。

翻って2022年も前年には東京オリンピックを開催し、3年後の2025年には大阪万博を控えています。60年代当時ベトナム戦争という不安が世界を覆っていたように、近年はコロナパンデミックの脅威が世界中を脅かし続けている…。今しかない。1967年と2022年という時代が運命的に類似していると暗示をかけられた私は、今こそ『日の丸』を試みて日本の姿、日本人の姿を浮かび上がらせるべきなのだと妙な確信を得てしまったのです。

監督プロフィール

1994年4月9日生まれ、神奈川県出身。2017年TBS入社。ドラマ制作部所属、『Get Ready!』『階段下のゴッホ』など連続ドラマのプロデューサーを務める傍ら、2021年9月には企画・プロデュースした朗読劇『湯布院奇行』が新国立劇場・中劇場で上演された。ほかにもラジオドラマの原作や文芸誌『群像』への寄稿など、テレビメディアに留まらないその活動は多岐にわたる。『日の丸~寺山修司40年目の挑発~』は初のドキュメンタリー作品かつ劇場公開作品となる。好きな映画監督は、神代辰巳、黒沢清、イエジ―・スコリモフスキー、エドワード・ヤン。

 

ストーリー

1967年。それは日本で初めて建国記念の日が施行された年であり、東京オリンピックの3年後、また、その3年後の1970年には人類の進歩と調和をテーマに掲げた大阪万博を控える、高度経済成長真っ只中。2022年もまた、前年には東京オリンピックが開催され、3年後の2025年には大阪万博を控える。60年代当時、ベトナム戦争という不安が世界を覆っていた様に、近年はロシアによるウクライナ侵攻やコロナパンデミックの脅威が世界中を脅かし続けている。1967年と2022年。この偶然にも類似した2つの時代を舞台に、人々の胸の内にあった声を対比していく。

政治に無関心な日本人、国家に無頓着な日本人、平和慣れした日本人、個を持たない日本人。近年の日本人は、どこか停滞した機械的な存在のようにも感じる。戦時下、日本という祖国のために自らの命をも懸けた日本人。現代の日本人とその在り方は全く異なっている。1967年、スマホはもちろん、PCさえも存在していない時代。テレビも白黒の映像からカラーの映像へと変わり、高度経済成長は高齢化社会へと変貌した。果たして、55年という決して短くない時間は日本と日本人にどのような変化をもたらしたのか、あるいは何も変化していないのか。

あなたにとって日の丸とは何か、赤い丸は何を表しているのか、日の丸をどう思うか、という質問からさらに、国歌や外国人、戦争にまで言及し、「かつて」と「いま」の日本人の想いを探る。過去と現在のインタビューを並べたとき、果たして何が浮き彫りになるのか。そこに映し出されるのは、過去、そして現代の日本と日本人の姿。インタビュー対象者の生々しい表情と戸惑いは、いつしか観る者の戸惑いへと変わっていくー。

 

予告編

 

公式サイト

2月24日(金) 角川シネマ有楽町、ユーロスペース、アップリンク吉祥寺アップリンク京都ほか全国順次公開

監督:佐井大紀 
製作:米田浩一郎、安倍純子 企画・エグゼクティブプロデューサー:大久保竜 
チーフプロデューサー:松原由昌 プロデューサー:森嶋正也、樋江井彰敏、津村有紀 
総合プロデューサー:秋山浩之、小池博 TBS DOCS事務局:富岡裕一
協力プロデューサー:石山成人、塩沢葉子
出演:高木史子、シュミット村木眞寿美、金子怜史、安藤紘平、今野勉 
語り:堀井美香、喜入友浩(TBSアナウンサー)

2023年/日本/87分/5.1ch/16:9   

製作:TBSテレビ
配給:KADOKAWA

©TBSテレビ