『別れる決心』刑事と容疑者の複雑な心理描写が秀逸な韓国発サスペンスロマンス
1つ目の殺人で別れ、2つ目の殺人で再会する、刑事と容疑者。2人の絡まり合う複雑な感情が、視線と繊細な演技、かつ秀逸なカメラワークで綴られてゆく、韓国発のサスペンスロマンスである。
監督は、『オールド・ボーイ』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝き、『イノセント・ガーデン』でハリウッドデビュー、『お嬢さん』では英国アカデミー賞で非英語作品賞に輝き、比類なき作品で世界の観客と批評家を唸らせてきた異才パク・チャヌク。本作では、第75回カンヌ国際映画祭コンペティション部門にて監督賞を受賞。アカデミー賞国際長編映画賞部門の韓国代表にも選出され、世界中の批評家から高い評価を得た。
脚本は、Netflixシリーズ『シスターズ』で緻密なストーリー構成が話題となったチョン・ソギョン。刑事ヘジュンを演じるのは、『グエムル-漢江の怪物-』や『天命の城』などで知られるパク・ヘイル。物語のカギを握る女ソレを演じるのは、『ラスト、コーション』(アン・リー監督)、『ブラックハット』(マイケル・マン監督)のタン・ウェイ。
監督は本作について、「観客を知らず知らずのうちに引き込み、興味を抱くような作品になっています。だから、暴力もヌードもセクシャルなシーンもあまりないんです。しかし、人間なら、大人なら誰でも共感できる、そんな複雑な感情を描きたかったんです」と語る。
刑事と容疑者という立場で出会ったヘジュンとソレの、互いの本心を探る静かでスリリングな心理描写にじわじわと引き込まれ、次第に目が離せなくなる。映画ならではの演出を伴う絶妙なアングルと、不器用なふたりの愛を切り取ってゆく優雅なカメラワークに、ハッとしたり、息を飲んだり。そうして観終わると、すぐにまたもう一度、観たくなってしまう。そんな不思議な引力のある映画だ。
巧妙な仕掛けの効いた上質なサスペンスとして、あるいはファム・ファタールの香り漂う官能のラブストーリーとして、いずれにせよ、映画界に美しい痕跡を残す作品となっていくに違いない。
ストーリー
男が山頂から転落死した事件を追う刑事ヘジュンと、被害者の妻ソレは捜査中に出会った。取り調べが進む中で、お互いの視線は交差し、それぞれの胸に言葉にならない感情が湧き上がってくる。いつしかヘジュンはソレに惹かれ、彼女もまたヘジュンに特別な想いを抱き始める。やがて捜査の糸口が見つかり、事件は解決したかに思えた。しかし、それは相手への想いと疑惑が渦巻く“愛の迷路”のはじまりだった……。
パク・チャヌク監督インタビュー
――本作のはじまり
2016年に『お嬢さん』を発表し、英国BBCで放送された初のテレビ・シリーズ『リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ』や短編映画『Life Is But a Dream』など手がけた後、長編映画の世界に戻ってきました。きっかけは、これまで多くの作品でご一緒してきた脚本家のチョン・ソギョンとのロンドンでの会話からでした。
それ以前、私の頭の中にはふたつの素材があったんです。ひとつはある曲で、若い頃から大好きだったイ・ボンジョ作曲の韓国歌謡「霧」で、当然のように霧の町を舞台にしたロマンス映画であるべきだと思いました。次に、私が好きなスウェーデンの推理小説、警察官のマルティン・ベック・シリーズのような、私好みの性格の刑事キャラクターを登場する映画をつくりたいと思いました。穏やかで、もの静かで、清廉で、礼儀正しく、親切な刑事が見たかったんです。脚本家のチョン・ソギョンとの会話の中で、ふたつの構想がひとつに融合し、徐々に形になっていきました。
――パク・チャヌク映画に初出演のふたり
パク・ヘイルとは長い付き合いなので、1本か2本は一緒に撮影したと思い込んでいたのですがある日、彼とは映画を撮ったことがないことに気づいたんです。映画の中のヘジュンは、とびきり優しく、端正で礼儀正しく、風変わりなユーモア感覚のある人間です。そのキャラクターは、パク・ヘイル以外に思い浮かばなかったんです。
『ラスト、コーション』を観たときから、タン・ウェイと映画を撮りたいと思っていました。自信に満ちたソレというキャラクターは、彼女なら説得力が出ると思ったんです。そして、彼女とパク・ヘイルなら、魅力的な組み合わせになると思いました。
――タイトルの“別れる決心”が意味するものは?
カップルが『私たち、うまくいかないと思う』と言えば、別れる決心をしたという時です。でも、このように毅然とした態度で意思表示をしても、端から見るとあまり説得力はないんです。ふたりは別れることを望んで、合意しているのかもしれないけど、心の底では別れたくないと思っていることを考えると、このタイトルはふたりがお互いに離れられなくなることを示唆しているのです。
――本作についてひとこと
本作は、大人のための映画です。喪失の物語を悲劇的なものとして語るのではなく、繊細さとエレガンスとユーモアをもって表現しようとしました。大人たちに語りかけるような形で……。
パク・チャヌク
監督・脚本
1963年8月23日生まれ。1990年代、熱心な映画ファンで、大学在学中から映画評論家として活躍。92年に『月は…太陽が見る夢』で監督デビュー。『JSA』(00)が韓国歴代国内興行記録を塗り替え大ヒット。『復讐者に憐みを』(02)を経て、『オールド・ボーイ』(03)が第57回カンヌ国際映画祭にて韓国映画初のグランプリを受賞。『親切なクムジャさん』(05/ヴェネツィア国際映画祭コンペティション出品)、『サイボーグでも大丈夫』(06/ベルリン国際映画祭コンペティション出品)の後、『渇き』(09)では第62回カンヌ国際映画祭審査員賞を受賞。また、初めての英語作品『イノセント・ガーデン』(13)を発表し、同じく韓国出身のポン・ジュノ監督の初の英語作品『スノーピアサー』(13)では製作を務める。その後『お嬢さん』(16)で第69回カンヌ映画祭コンペティション部門上映だけでなく、第71回英国アカデミー賞で英語圏以外の作品賞を獲得。他にも、BBCで放映された初のテレビ・シリーズ「リトル・ドラマー・ガール 愛を演じるスパイ」から、アップルとのコラボ短編映画「Life Is But a Dream」まで、独自の映画世界を構築。本作は6年ぶりの長編映画となる。
『別れる決心』予告編
公式サイト
2023年2月17日(金) TOHOシネマズ 日比谷、アップリンク吉祥寺、ほか全国順次ロードショー
監督:パク・チャヌク
脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
出演:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ギョンピョ
提供:ハピネットファントム・スタジオ、WOWOW
配給:ハピネットファントム・スタジオ
原題:헤어질 결심|2022年|韓国映画|シネマスコープ|上映時間:138分|映画の区分:G
© 2022 CJ ENM Co., Ltd., MOHO FILM. ALL RIGHTS RESERVED