『ファイブ・デビルズ』少女はある香りを嗅ぐと母と叔母の記憶の中にタイムリープする
『ファイブ・デビルズ』はジャック・オディアール監督の『パリ13区』でオディアールと共に共同脚本を務めたレア・ミシウス監督の作品。タイトルの『ファイブ・デビルズ』は、フレンチアルプスの麓にある小さな架空の村の名前。ミシウス監督が参考文献にしたというデヴィッド・リンチの『ツイン・ピークス』のオマージュである。
イングマール・ベルイマン、アンドレイ・タルコフスキー、デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、ジョーダン・ピールなど、ミシウス監督が愛する映画監督の作品のオマージュも盛りだくさんで、監督曰く「頭でっかちな映画にしたくなかった、ファンタジー映画を作りたかった」という監督の意を汲んで本作を観るには、一つの方程式を理解しておくといいだろう。
その方程式とは、
「人とは違う嗅覚を持った少⼥ヴィッキーは、ある⾹りを嗅ぐたびに、⺟と叔⺟の記憶の中へと⼊り込んでしまう」
その方程式を理解しておけば、未知なる場所へと私たちを誘ってくれるタイムリープ映画として楽しめるだろう。
レア・ミシウス監督インタビュー
©️Paul Guilhaume
──本作の物語が生まれた経緯
このキャラクターたちに命を与えたいという思いから生まれました。脚本は、匂いに取り憑かれた女の子のアイデアからスタートし、モザイク画を作るように、少しずつ組み立てていきました。脚本の執筆中、多くのアメリカ人作家の本を読みました。フランスを舞台に映画を撮ってはいても、私が作る映画はいつもアメリカ文学からインスピレーションを得ていたように思います。最終的に残ったのは、舞台とキャラクターを神話化することへの憧れでした。その願望に従って、アルプスの麓の村の、壮大な風景で、人種の混在した家族と神話的なキャラクターを登場させたのです。
──映画の主題について
私たちは『ファイブ・デビルズ』を以下のように要約しています。失敗した、または挫折した人々の物語。この映画は悲劇でもあるのです。どの大人もどこかで道を踏み外し、不幸なままです。その良い面は、彼らが“失敗”したおかげでヴィッキーが生まれたこと。そして失われたものは何もないのだということです。失われた時間を取り戻せないとしても、私たちにはまだ選択肢がある。物事は何も決まっていない。私たちは行動を起こすことができるのです。
──女性同士の愛を描いた背景について
『ファイブ・デビルズ』は遺伝についての物語です。ヴィッキーの持つ魔法の力は、女性から女性へと受け継がれていく。それはおそらく、昨今の多くのフェミニストのように、私が魔女の姿と女性の力に取り憑かれているからでしょう。男性を排除したいわけではないんです。たとえ男性たちが背景のような存在に見えるとしても、これまでの伝統的な男性性に代わる別の姿を提示したいだけなのです。
──35mmフィルムでの撮影について
『ファイブ・デビルズ』は目に見えないものを扱っていますが、本来映画には、何か目に見えないものが存在していると私は思います。ところがデジタルではすべてが見えてしまう。私が想像していた謎を作り出すためには、35mmでの撮影は必要な要素だったのです。
監督プロフィール
1989 年 4 ⽉ 4 ⽇、フランス、ボルドー出⾝。13 歳までをメドック地⽅で、⾼校卒業まではインド洋のレユニオン島で過ごす。パリに戻り、ソルボンヌ⼤学で学んだ後、フランスの映画学校ラ・フェミスに⼊学。映画技術を学びながら、脚本家、監督としての才能を発揮する。最初の短編『Cadavre exquis』(2013/未)は、クレルモン=フェラン国際短編映画祭で SACD 賞を受賞。続く 2 本の短編、『Les oiseaux-tonnerre』(2014/未)と、『パリ 13 区』(2021)の撮影監督も⼿掛けたポール・ギロームとの共同監督作『L'île jaune』(2016/未)は、多くの映画祭で上映され、賞も獲得した。初の⻑編映画となる『アヴァ』(2017)はカンヌ国際映画祭カメラ・ドールを含む 4 部⾨にノミネート。2021 年、カンヌ国際映画祭正式出品されたジャック・オディアール監督とセリーヌ・シアマと共同脚本を務めた『パリ 13 区』が話題となったほか、アルノー・デプレシャン監督『イスマエルの亡霊たち』(2017)、クレール・ドゥニ監督『STARS AT NOON』(2022/未)でも脚本に参加するなど、現在、フランスで個性的な若⼿映画作家として最も注⽬を浴びる⼀⼈である。
監督メッセージ
ストーリー
フレンチアルプスの麓にある⼩さな村〈ファイブ・デビルズ〉。この村で、⺟ジョアンヌ、⽗ジミーとともに暮らす 8 歳の少⼥ヴィッキーは、ずば抜けた嗅覚を持ち、周囲の⾹りをこっそりと再現してはコレクションしている。そんなある⽇、⻑年⾳信不通だった叔⺟ジュリアが突然家を訪れる。それを機に能⼒が増幅したヴィッキーは、ある⾹りを嗅ぐたびに、⺟と叔⺟の記憶の中へと⼊り込んでしまう。
記憶のなかを⾏き来する彼⼥の旅は、閉鎖的な村と家族、そして⾃分⾃⾝の存在にまつわる驚くべき秘密を暴きだす。⺟の記憶に封印された禁断の秘密とは?そして物語は誰も予期せぬ壮⼤な結末へ……!
予告編
公式サイト
11月18日(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺ほか全国公開
監督:レア・ミシウス(『パリ13区』)
脚本:レア・ミシウス、ポール・ギローム
出演:アデル・エグザルコプロス、サリー・ドラメ、スワラ・エマティ、ムスタファ・ムベング、ダフネ・パタキア、パトリック・ブシテー
2021年/フランス/仏語/96分/カラー/シネスコ/5.1ch/原題:Les cinq diables/英題:The Five Devils
日本語字幕:横井和子
配給:ロングライド
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