誰も見たことがなかったミレニアル世代のパリを映し出す『パリ13区』 モノクロ映像×斬新なサウンドであぶり出される “色” がある
パリをすこしでもかじったことのある人が、パリらしい場所として真っ先に思い描くのは、画家が暮らしたモンマルトル、16区の高級住宅地、5区のカルチェラタンなどだろう。
ところが、「13区」と言われるとそのイメージはあまり輪郭を持たない。中華街と工場の跡地に建てられた高層住宅によって形成されたアジア系、アフリカ系移民たちの集う街というだけの、あまり特筆すべきところのない、いわゆる生活感溢れる街である。
そんなパリ13区を舞台に、ミレニアル世代の男女4人によって繰り広げられる孤独、愛、セックスにまつわる不器用で愛らしい人間模様を描いた本作『パリ13区』。
カンヌ国際映画祭パルムドール受賞作品『ディーパンの闘い』で知られる69歳の巨匠ジャック・オディアール監督が、アメリカのグラフィック・ノベリスト、エイドリアン・トミネの短編集『キリング・アンド・ダイング』の中の3編を原作に、『燃ゆる女の肖像』で一躍世界に躍り出た43歳のセリーヌ・シアマ、若手注目監督のレア・ミシウスと共に脚本を手がける、まさに世代を超えた逸材がコラボを実現させた最新作だ。
フレンチ・エレクトロ・シーンで異彩を放つRoneの音楽を背景に、モノクロ映像によって現代のパリを映し出す。ノスタルジーを喚起するモノクロ映像とは対照的に、斬新なサウンドが現代の疾走感を、さらには「色」まで与えてくれるかのようで、不思議と鮮やかな印象が残る。こうした仕掛けを通して、これまで誰も気に留めることのなかった臨場感溢れる「パリの今」が見事にあぶり出されている。
ストーリー
コールセンターでオペレーターとして働く台湾系フランス人のエミリーのもとに、ルームシェアを希望するアフリカ系フランス人の高校教師カミーユが訪れる。
二人は即セックスする仲になるものの、ルームメイト以上の関係になることはない。
同じ頃、法律を学ぶためソルボンヌ大学に復学したノラは、年下のクラスメートに溶け込めずにいた。
金髪ウィッグをかぶり、学生の企画するパーティーに参加した夜をきっかけに、元ポルノスターでカムガール(ウェブカメラを使ったセックスワーカー)の“アンバー・スウィート”本人と勘違いされ、学内中の冷やかしの対象となってしまう。
大学を追われたノラは、教師を辞めて一時的に不動産会社に勤めるカミーユの同僚となり、魅惑的な3人の女性と1人の男性の物語がつながっていく。
カンヌ国際映画祭2021
『パリ13区』ジャック・オディアール監督記者会見
――いつからエイドリアン・トミネ氏の小説(グラフィック・ノベル)を映画にしようと思ったのですか?
ジャック・オディアール:ずいぶん前ですね。いつだったかな? 私が西部劇を撮る前から。人づてにトミネのことを聞き、私は当時知らなかったのですが、彼の小説を読んでみたところ、素晴らしいと思ったので。
――あなたは小説を映画にする際、フィクションをリアルに表現するために、人物の内面を表現するために、どのような手法を用いたのでしょうか? キャラクターの職業を変えたりしましたか? 他の脚本家たちとどのようにやりとりしたのでしょうか? つまり、登場人物の作り方、オリジナルのテキストにどのようにフィットさせたのかを伺いたいのですが。
オディアール:バンド・デシネ(グラフィック・ノベル)から着想を得ています。それだけでも大変です。それに3つの物語が混ざり合っていたので、さらに大変でしたね。それと、映画の登場人物は、バンド・デシネの登場人物とは異なります。数え上げれば色々ありますが、とりわけ大仕事だったのは、現在の13区を、今時のフランスの若者たち、パリ13区に住む若者の姿を表現することだったのではないかと思います。
若者、というかいわゆる青年ですね。30歳前後くらいかな。彼らは大抵大学を出ていて、バック(バカロレア)に加えて何年か勉強して、とにかく学歴がある。一方失業したり、住まいが定まらなかったりもする。そういう社会の中流階級、教育を受けているけれど、なかなか仕事にありつけない大人たちに、私は普段から興味を持っていました。一般的に、彼らは本来いるべき階級よりも下にいるとみなされたりもする。そもそも彼らの階級がどんなものかなんて考慮されることすらないしね。
――この場所を舞台に選んだのはどのようなお考えからでしょうか? また、パリ13区というのは、他の地域と何が違うのでしょうか?
オディアール:私が13区をこの映画の舞台に選んだ理由はとても簡単です。私自身、実際に長いこと住んでいましたので、よく知っているからです。13区は、ここ10年〜15年ほどの間、パリの中で再開発が活発に行われた地区として知られていました。セーヌ川とイタリア広場の間の狭いところで、こんなに色々なことが起こるのはこの地区ぐらいです。その中心にオランピアードという信じられないくらい巨大な集合住宅の建造物がある。私はこれ、非常に美しいと思ってるんですけどね。ウエルベック(仏・新進の作家)も作品で扱ったりしているし、決して人々に知られていない場所ではないですから。
私が好きなのは、この地区が私にとってパリの現代性を訴えかけてくる場所だからで、そういう場所は必ずしも多くないんです。私はパリ中を歩き回りました。でもパリを捉えるのは難しいし、フィルムに治めるのも難しいです。オスマン風のいかにもパリらしいパリや美術館を舞台にしても面白くないしね。
13区のオランピアードは本当に異色の街として存在しています。それが素晴らしく美しい。その上、社会的にはとても雑多で、パリの他の地域よりも多くのリアルなイメージが存在しているように感じるんです。オランピアードは、あらゆるものが「ミックスされた地区」の1つの象徴なんです。
『パリ13区』予告編
4月22日(金) 新宿ピカデリー、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー
監督:ジャック・オディアール 『君と歩く世界』『ディーパンの闘い』『ゴールデン・リバー』
脚本:ジャック・オディアール、セリーヌ・シアマ『燃ゆる女の肖像』、レア・ミシウス
出演:ルーシー・チャン、マキタ・サンバ、ノエミ・メルラン『燃ゆる女の肖像』、ジェニー・ベス
原作:「アンバー・スウィート」「キリング・アンド・ダイング」「バカンスはハワイへ」エイドリアン・トミネ著(「キリング・アンド・ダイング」「サマーブロンド」収録:国書刊行会)
2021年/フランス/仏語・北京語/105分/モノクロ・カラー/1:1.85/5.1ch/原題Les Olympiades 英題:Paris, 13th District/日本語字幕:丸山垂穂/R18+
提供:松竹、ロングライド 配給:ロングライド
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