『秘密の森の、その向こう』時空を超えた出会いが教えてくれる、家族の繋がりの物語
第72回カンヌ国際映画祭の脚本賞、クィア・パルム賞を始めとした59の映画賞を受賞し、人々の中に不滅の名作として刻み込まれた『燃ゆる女の肖像』。その名作を生みだしたセリーヌ・シアマ監督の最新作が、再び観る者の心を震わせる。
「秘密の森の、その向こう」。このタイトルからも想像できるように、本作はちょっと変わった寓話のような物語だ。主人公は8歳の少女ネリー。大好きな祖母を亡くし、両親と共に祖母の家の片付けにやってくる。森の中に佇む祖母の家は、ネリーの母マリオンが幼少期を過ごした家でもあった。ところが、突然母が思い詰めた様子でどこかへ出て行ってしまう。夫婦の関係性もあまり円満なようには見えない。父と残されたネリーは、かつて母が遊んだという森に一人探索に向かい、そこで自分とそっくりの少女に出会う。ネリーが名前を尋ねると、少女は「マリオン」と名乗った。
ネリーが出会った少女は、ネリーと同じ8歳の頃の母マリオンだったのだ。本作の制作にあたり、シアマ監督の頭には次のような疑問符が浮かんでいた。
「子供時代の母に出会ったとしても、母は母のまま? 母ではなく姉になる? 母ではなく友達? それとも、そのすべてに当てはまる?」
意気投合した二人の少女は、一緒にクレープを作ったり、池でボート遊びをしたり、俳優ごっこをしたりして楽しいひと時を過ごす。それはまるで、昔からの親友のようである。かと思えば、ネリーは手術を控えたマリオンに励ましの言葉をかけ、マリオンは母の家出を心配するネリーに「絶対戻ってくる」と声をかける。その姿は、姉妹のようでもあり、思いやりに溢れた母子のようにも思われる。
8歳の少女マリオンは、母となったマリオンの大人のしがらみや彼女を内側に閉じ込めていた殻を脱ぎ捨てた純粋な心の部分なのかもしれない。大人だからと言えなかったこと、我慢していたこと。それらを忘れて純粋な心で母子が触れ合った時間、それが二人の少女が過ごした特別な時間なのではないだろうか。この作品を観て、自分の両親や自分の子ども、周りの人々との繋がりを再確認してみてはいかがだろうか。
ストーリー
8歳のネリーは両親と共に、森の中にぽつんと佇む祖母の家を訪れる。大好きなおばあちゃんが亡くなったので、母が少女時代を過ごしたこの家を、片付けることになったのだ。だが、何を見ても思い出に胸をしめつけられる母は、一人出て行ってしまう。残されたネリーは、かつて母が遊んだ森を探索するうちに、自分と同じ年の少女と出会う。母の名前「マリオン」を名乗るその少女の家に招かれると、そこは“おばあちゃんの家”だった──。
セリーヌ・シアマ監督
1978年、フランス、ヴァル=ドワーズ生まれ。フランス文学で修士号を取得後、ラ・フェミス(フランス国立映像音響芸術学院)の脚本コースで学ぶ。2004年、脚本家としてデビュー。2007年に卒業制作を発展させた長編『水の中のつぼみ』が、カンヌ国際映画祭「ある視点部門」に正式出品され高い評価を受ける。続く『トムボーイ』はベルリン国際映画祭のパノラマ部門のオープニング作品として上映され、テディ賞を受賞。さらに、カンヌ国際映画祭監督週間オープニング作品となった『ガールフッド』(未)が、セザール賞有望若手女優賞、音楽賞、音響賞にノミネートされ、自身も監督賞にノミネートされ、ストックホルム国際映画祭でグランプリを受賞する。また、脚本で参加した『ぼくの名前はズッキーニ』でセザール賞脚色賞を受賞する。そして、『燃ゆる女の肖像』でカンヌ国際映画祭脚本賞とクィア・パルム賞に輝き、ゴールデン・グローブ賞と英国アカデミー賞の外国語映画賞にノミネートされ、世界的な名監督としての地位を不動のものとする。その他、ジャック・オーディアール監督の『パリ13区』の脚本も手掛ける。
予告編
公式サイト
9⽉23⽇(金・祝) ヒューマントラストシネマ有楽町、Bunkamuraル・シネマ、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督・脚本:セリーヌ・シアマ(『燃ゆる女の肖像』)
撮影:クレア・マトン(『燃ゆる女の肖像』)
出演:ジョセフィーヌ・サンス/ガブリエル・サンス、ニナ・ミュリス、マルゴ・アバスカル
2021年/フランス/73分/カラー/ビスタ/5.1chデジタル/原題:Petite Maman
字幕翻訳:横井和子
提供:カルチュア・エンタテインメント、ギャガ 配給:ギャガ
ⓒ2021 Lilies Films / France 3 Cinéma