『地下室のヘンな穴』12時間進んで、3日若返る”穴”をめぐるフランス版世にも奇妙な物語

『地下室のヘンな穴』12時間進んで、3日若返る”穴”をめぐるフランス版世にも奇妙な物語

2022-09-01 17:22:00

入ると肉体が3日分若返る“穴”。
もしあなたの家にこの奇妙な穴があったとしたら、あなたは臆することなく入るだろうか?

第72回ベルリン国際映画祭にも正式出品された世にも奇妙なフランス映画『地下室のヘンな穴』。監督は“フランスのスパイク・ジョーンズ”の異名をとるカンタン・デュピュー。殺人タイヤの恐怖を描いたコメディ・ホラーの『ラバー』、鹿革ジャケットへの異常な執着心が故に殺人鬼に豹変してしまう男を描いた『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』など、奇想天外なストーリーで世界を魅了してきた。最新作『地下室のヘンな穴』は、本国で公開されるや『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』『トップガン マーヴェリック』といったハリウッド超大作にも引けを取らない初登場第3位、フランス映画ではNo.1の大ヒットを記録している。

新居の地下に、「入ると3日分若返る“穴”」がある。こう聞くと、まるで手軽なタイムマシンのように思われ、若さを取り戻すことのできる魔法に胸を躍らせてしまうのも無理はない。本作におけるマリーも紛れもないその一人だった。魔法のような穴の虜となったマリーは、次第に穴に入ることをやめられなくなる。

ところが、これはただの魅力的な穴ではない。入ることで3日分若返るだけでなく、12時間進んでしまうのだ。穴に入ることは、言わば過去を取り戻しつつも現在を犠牲にしていく行為、とも言えるかもしれない。

夫アランとの生活にはズレが生じ始め、二人の関係にも溝が生まれていく。不可逆性の恐ろしさが、流れるようなタッチで滑稽に描き出される。興味本位で始めたことが、取り返しのつかないことになったとしたら。

もしかしたら、あなたの身近にもそんな”穴”のような何かが見つかるかもしれない。その先に待っているものを、あなたは受け止められるだろうか。

 

 

キャストインタビュー


左:レア・ドリュッケール(マリー役) 右:アラン・シャバ(アラン役)


中央:アナイス・ドゥムースティエ(ジャンヌ役) 右:ブノワ・マジメル(ジェラール役)

――本作は、アラン(アラン・シャバ)とマリー(レア・ドリュッケール)がカメラに向き合って「自分たちに何が起きているのか説明できない」と言い、人から異常に思われることを心配しているシーンから始まります。これは皆さんがカンタン・デュピュー監督の映画に出演している時にも起きることですか?

アラン・シャバ:カンタンの映画の評判にはいつも驚いています。私の意見は真逆ですね。彼の映画を変わっていると思う人がいるのは理解できますが、彼の映画は不可解でも過激でもありません。本作は特にそうです。確かに変わった会話から始まりますが、その意味はあとで明らかになります。

アナイス・ドゥムースティエ:カンタンと一緒に映画を作っている時、その映画について友人や家族に話すと、いつも彼らは戸惑っていました。私が映画の内容を要約すると、驚きと笑いの中間のような反応が返ってくることが多いです。こういうことが起きるのはカンタンの映画だけです。彼のユニークさと、うわべだけではなく本当に面白い物語を見つける能力の裏づけでしょう。

――彼の過去作同様に、変わった設定の中で展開されながらも、最終的には2組のカップルに対する彼のかなり理性的なビジョンが明らかになります。

アラン・シャバ:本作は間違いなく、彼の映画の中で最もまっすぐな作品です。第四の壁(演劇において舞台上の役者と観客の間にある見えない壁)を壊すような、物語上のひねりはありません。彼が自分の物語にしがみつき、決してごまかさず、自分の楽しみを捨てずに、他人を楽しませようとするところが好きです。『Mandibles』のおバカなコンビは『ジム・キャリーはMr.ダマー』のようなコメディに通じるところがありましたし、『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』はもっとダークなテーマに触れていました。でも本作は、これらの映画とは違うと思います。技術試写の時、彼は普通の観客のように映画に入り込んでいました。

アナイス・ドゥムースティエ:本作はカンタンの作品の中で私のいちばんのお気に入りです。時の流れやカップル関係の衰退といった深い問題に触れているにもかかわらず、ある種の奇妙さや狂気から逸脱することなく、それがテーマと完全に一体化しているからです。社会における男女の位置づけや、誘惑における男女の競い合いといった、甘美な狂気と現代的な問題の交錯をさらに強めています。孤独を描いた『ディアスキン 鹿革の殺人鬼』にもそのような要素はありましたが、本作は甘美さとメランコリーを両立させることで新たな側面を獲得しています。

ブノワ・マジメル:本作を初めて観た時、彼の映画の中で最も分かりやすい作品であることに気づきました。これは何より愛についての映画です。愛することの難しさや、愛されなくなることへの恐れを、人物ごとに微妙な違いをもって描いています。私とレアの場合は、さまざまな形の不満や苛立ちにそれが表れています。アナイスとアランの場合は、むしろ受容に表れています。

レア・ドリュッケール:人間関係というテーマに関しては、本作は普遍的な概念に触れています。老いを受け入れるか否か、心の距離、それが長年のカップルにもたらす不安定さ、もはや20歳ではない人々、老年でも若年でもない人生の地点にいる人々…。

――本作には、ある種のナチュラリズムがあります。特に夕食のシーンでは、見事なまでに平凡な会話が展開されます。

アラン・シャバ:「うーん...」という言い淀みや、ごく短い沈黙さえも、脚本に書かれていました。役者のアドリブは必要ありません。平凡さ、重なり合うセリフ、時間をかけて盛り上がっていく会話が、2組のカップルの関係性を詳しく伝えながら、このシーンを笑えるものにしているのです。

ブノワ・マジメル:カンタンの映画を語るのに「シュールレアリスム」という言葉を使うのは、語弊があると思います。彼の作風は、むしろ不条理と関係しています。世界や時代についての彼の論調は、時に不穏なものですから。

レア・ドリュッケール:こういう不条理の描き方が大好きです。実生活でもそうであるように、どんな平凡な会話も信じられないものに変わる可能性があります。どこか子供の会話のようですね。

※インタビュー一部抜粋。全文は劇場用パンフレットに掲載されております。

 

ストーリー

マイホームを物色中の中年夫婦アランとマリーが、緑豊かな郊外に建つモダニズム風一軒家の下見に訪れた。すると案内役の不動産業者は、購入すべきか迷うアランとマリーにとっておきのセールスポイントを伝える。地下室にぽっかり空いた“穴”に入ると「12時間進んで、3日若返る」というのだ。やがて夫婦は半信半疑でその新居に引っ越すが、この世のものとは思えない穴の虜になったマリーは、 来る日も来る日も穴の中に身を投じるようになり、保険会社に勤めるアランとの生活サイクルも感情もすれ違っていく。はたして、この謎だらけの穴がもたらすのは幸せか、それとも破滅か。穴のせいで人生が激変してしまった夫婦がたどる後戻り不可能な運命とは……。

 

カンタン・デュピュー監督


© Ph. Lebruman 2018

1974年4月14日、フランス、パリ出身。18歳から映画制作を始め2007年、監督、撮影、編集、音楽を務めた『Steak』で長編デビュー。その後も殺人タイヤのコメディホラー『ラバー』(10)やジャン・デュジャルダン、アデル・エネル出演で鹿革男の狂気を描く『ディアスキン鹿革の殺人鬼』(19)など精力的に作品を発表。奇想天外な設定の物語をフランスの一流役者を用いて映像化する個性的な作品の数々で世界の映画祭を魅了し、同国で唯一無二の地位を確立している。主な監督作に『Wrong Cops』(12)、『リアリティ』(14)、『Mandibles』(20)、最新作に2022年のカンヌ国際映画祭でお披露目された戦隊モノコメディ『Smoking Causes Coughing』(22)などがある。また、DJミスター・オワゾ(Mr. Oizo)の名義でフレンチハウス/テクノ・ミュージシャンとしてヨーロッパを中心に100万枚を超えるセールスを記録し世界的に活躍している。

 

 

予告編

 

公式サイト

9⽉2⽇(金) 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町、アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督・脚本:カンタン・デュピュー
出演:アラン・シャバ、レア・ドリュッケール、ブノワ・マジメル、アナイス・ドゥムースティエ

2022年/フランス・ベルギー/仏語・日本語/74分/シネスコ/5.1ch/カラー/英題:Incredible But True
 
日本語字幕:高部義之
配給:ロングライド

© ATELIER DE PRODUCTION - ARTE FRANCE CINÉMA - VERSUS PRODUCTION – 2022

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