「パリコレのトップアーティスト、イサマヤ・フレンチが7歳の頃に夢中になったのがケヴィン・オークインの本『Making Faces』」渡辺三津子が語るケヴインの影響力

『メイクアップ・アーティスト:ケヴィン・オークイン・ストーリー』の公開を記念して、10月19日にアップリンク吉祥寺で開催されたトークイベントに、現在もファッション誌の第一線で活躍しているファッションジャーナリスト/元VOGUEJAPAN編集長の渡辺三津子氏が登壇し、パリコレの近況やケヴィンが一世風靡した90年代当時のファッションやセレブについて語った。

 

――先日パリコレから戻られたばかりの渡辺さんですが、現在のパリやパリコレの様子、ファッション業界の近況などお聞かせいただけますか?

3年ぶりのパリコレクションというのが、“行ってよかった”っていう心が浮き立つようなものがありまして、パリは街自体もほとんどマスクをしている人もいませんでした。コレクション会場は、密に密を重ねるみたいな環境の悪い場所なのですが、そこでもマスクをほとんどしている人はなく、私たち日本人や韓国の方たちは、あまりにも密な状態の時はマスクをしていましたが、だからといって浮くという感覚もなく、皆さんそれぞれがコロナに対して“自分の意志で対応すれば良いじゃない”という雰囲気で、コロナのことをあまり考えずに色んなことを楽しめる状況になっていて、ファッション界自体もこれからコロナを経て新しい時代に向かってさらに溜めていたエネルギーを一気に出して新しい時代を築こうというパワーと、皆でそういう風に向かっていこうという活気をすごく感じました。

――現在に至るまで、渡辺さんはファッション雑誌界の第一線で活躍されていらっしゃいますが、編集者の視点からケヴィンが活躍した90年代のファッション誌に、ケヴィンが与えた影響は何だと思いますか?

ケヴィンの活動というのは80年代から考えた方が、いかに彼が先駆者であり、時代を変えた人なのかが分かりやすいかと思います。80年代の初頭ぐらいまでは、ヘアもメイクアップも、とにかく派手に盛って、素顔が分からないくらいに飾り立てるようなヘアメイク、そして、ファッションも肩をいからせて、全身ピーコック状態のようなファッションの表現が多かったのですが、そういうものに対してケヴィンは、最初にヴォーグの仕事を21歳ぐらいでしたときに、彼もグラマラスの表現は得意とするところなのですが、一切そういうものを抜いてニュートラルカラーでそのモデルの美しさを見た目はシンプルに、でもものすごく手をかけた状態で、作り上げたというのが業界に衝撃を与え、だからこそすぐに、USヴォーグの契約をしましょうという話になったと思います。一つの美意識が時代を変えるパワーを持っているということをファッション界全体が感じたということですね。それだけすごい才能を持っていたということを映画を観て改めて感じました。

――渡辺さんが抱くケヴィン・オークインの素晴らしさとは何ですか?

“多様性” ”多様な美”というものをメイクアップアーティストの仕事の中心に置いたというのは、ケヴィン・オークインが初めてですし、今の時代に繋がる先駆けだったんだということをこの映画を観て改めて感じました。”人それぞれに必ず美しさがある”というと綺麗ごとにも聞こえるのですが、ケヴィンのメイクアップを見ると、彼の最初のモデルは妹さんですし、本の中にも大人になってから、家族をメイクアップした写真が出てくるのですが、本当に美しく、その人らしさを表現するようなもので、こういう考え方は素晴らしいし、テクニックをもって、人々の考え方を変えさせたというところが凄いなと思います。



今回のパリコレでも今一番ファッション界で注目されているメイクアップアーティストがイサマヤ・フレンチというイギリス人の女性の方なのですが、バーバリーのビューティーディレクターに就任したり、トム・フォードやイヴ・サンローランのショーのメイクをしたり、色んな形で活躍していますが、彼女がインタビューで答えていたのが、彼女が7,8歳の頃に夢中になって見た本がケヴィン・オークインの本だったということで、『Making Faces』がとにかく大好きで夢中になって見ていて、それを大人になって仕事を始めて、改めて思い出したというを話しているのですが、彼のメイクというマジック、魔術によって、人はそれぞれの自分の美しさを見出すことができるというマジックを、小さな女の子が自分の一生を決めるような出来事として、ケヴインから受け取り、今の時代に合わせ今の時代に合わせたアンドロイドのような人間とデジタル表現の融合したようなビューティーというものを表現して第一線で注目されています。ケヴインの時代にはなかったデジタルという表現を取り入れながら、それでもケヴィンのスピリットがそこに流れているというのが感動的だなと思いました。

 

予告編



公式サイト DICE+紹介記事リンク

10⽉7⽇(金)より 渋谷ホワイトシネクイントにて公開中
10⽉14⽇(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、アップリンク吉祥寺、シネ・リーブル梅田、アップリンク京都、シネ・リーブル神戸ほか全国順次公開

監督:ティファニー・バルトーク
出演:ケイト・モス、リンダ・エヴァンジェリスタ、ナオミ・キャンベル、シェール、イザベラ・ロッセリーニ、ブルック・シールズほか

2017年/アメリカ/102分/原題:Larger Than Life: The Kevyn Aucoin Story