『シャドウプレイ【完全版】』公開記念トークショーに『少女邂逅』の枝優花監督と「電影と少年CQ」のゆっきゅんさんが登壇、監督の視点やものづくりを通してロウ・イエ作品の魅力を語る。

『シャドウプレイ【完全版】』の公開を記念し、『さよならスピカ』『少女邂逅』の枝優花監督とアヴァンポップユニット「電影と少年CQ」のメンバーで映画やJ-POP DIVAについての執筆など多方面で活躍するゆっきゅんさんが登壇し、監督の視点やものづくりを通してロウ・イエ作品の魅力を語った。



──『シャドウプレイ【完全版】』を観た感想や印象に残ったシーンは?

枝:情報量も尋常じゃなくて。私は試写で拝見させていただいたのですが、すごく疲れてしまってボーッとしていたので、記憶が朧げなんですよね(笑)。私はロウ・イエ監督がすごく好きなので、何作か観ていて、今までの作品の中で一番規模も大きくてお金もかけていて、でも今までよりもハードではなかった印象があって、アクションとかは確実に凄いんですけれど、今日話しながら解明したいです。

ゆっきゅん:私は、サスペンスとかノワール的な映画には興味がないので、そういうジャンル映画的な物は観ないんですけれど、だけどこれはロウ・イエ監督の作品だから、もちろんジャンル映画としては、物語としてはそうだし、アクションもあるのだけれど、結局描いているものっていうか、今までとあまり変わらない。人間の影というか夜を撮る人だなって。ただ、画面がすごく暗いから映画館で観るのが大正解だと思います。パソコンとかで観てもただの「黒」みたいな区別がつかない感じがして。

一貫してこういう作品であっても「孤独」や「愛」だったりが描かれていてというのは、印象に残ったシーンとしては、ヌオがピンクのウィッグで香港のクラブで働いていたところに、ヤンが来て、タバコを吸いながら出て行って、つけま(つけまつ毛)をこういう風にして、語りかけるシーンがとても可愛くて。嘘だったりとか、隠していることだったりとか、思惑とか、イヤな要素も重なり合った世界が描かれているんだけれど、その中でああいうイノセンスていうか、ピュアなものが映っていると、結構感動しちゃう。すごく可愛かった。

──初めて観たロウ・イエ監督作品とその中で最も好きな作品について、観た時期やなぜ好きかなど、その理由と併せて教えていただけますでしょうか?

枝:2017年に渋谷のアップリンクで観た『ブラインド・マッサージ』が本当に好きで、ロウ・イエの真骨頂、見えない光の照らされていない部分が描き出されているところが、個人的には一番色濃く出ている感じがして、眼が見えない人たちの話なので、その中のセリフの中で「眼が見える人たちは影に隠れることが出来るけれど、眼が見えない人たちは影に隠れることが出来ないから光に晒される」それが自分の中ですごく衝撃を受けて、ちょうど長編映画を撮る前に観たのですが、その時に私も、自分の作品を作る上で「見えている物が全てではなくて、見えないものにこそ本質がある」というのを自分の中ですごく感じていて、タイミングも良く、いい出会いでした。

ゆっきゅん:2017年の22才の大学生の時に『ブラインド・マッサージ』をアップリンク渋谷で観ました。数週間で終わった、すごく貴重な機会だったみたい。その後、友人からすごく薦められて『スプリング・フィーバー』を観て、スプリング・フィーバーもすごく良かったですね。観たのは結構前なんですけど、いくつか観たけど1本あげるのなら『スプリング・フィーバー』です。



──本作脚本のマー・インリーが監督したメイキング作品『夢の裏側』では、ロウ・イエ監督の音楽や美術、細部に至るまでのこだわりと検閲との闘いが描かれております。お二人が作品を作る上で大事にしていることはなんでしょうか?

枝:撮影する時は全て偽物じゃないですか、ドキュメンタリーですらも偽物ぐらいに思っているんですけれども、全部が偽物、役者もそうだし、美術とかも再現してやっているわけで、その中で、唯一本物で撮れるなといつも思っているのが感情だなと思っていて、だから結構役者とかに感情だけは嘘をつくなみたいなことをずっとやっていて、こちらもそれを見抜いて捉えていかないといけないんですが。その後ロウ・イエの作品を観るとどうやって撮ったのかよく分からない。なんでこうやって撮れるのかとか、それがいかに難しいのかが分かるので、役者のコンディションもありますし、単純に天気が悪いというだけでやっぱり現場の空気も変わってしまいますし、自分のコンディションが悪いと見抜けなくて嘘を発見してしまうということもあります。本当に難しいのにどうしていつもこんなに本質を撮れるのかなあっていうのをこのメイキングの中でいろいろ、それも細かく、本当にどの部署もプロフェッショナルで、さらにそれをロウ・イエがこてんぱんに言っているのを聞いて、こういうものづくりが出来たら本当に理想だなあって、すごく羨ましいなと思いながら観てました。どうやって衣装を選んでいるのか、どうやって撮影のシーンを撮って、役者にどう語りかけているかとかそういうのを全て『夢の裏側』でまとめている。

ゆっきゅん:私はそんな厳しいものづくりはしてませんので(笑)。自分で自由に。なんか映画ってなると関わる人の数が違うじゃないですか。どんなに小さな現場であっても。私は歌詞とか書いて歌うぐらいなので、自由にやらせてもらっているなと思いますね(笑)。

でも、なんか譲れないことは譲らないというか、例えば私は作曲をしてないし、演奏もしてないので、でも頼む人はその専門家なわけですよね。だから映画での衣装は衣装のプロで、でなんか自分がアマチュアな部分に対して絶対わがままを言わなければならないじゃないですか。それはめっちゃ思います。(わがまま言うことが)めっちゃ疲れる。でもそれが仕事。自分は何にも分かんないし、言っていることも、もしかしたらとんちんかんかもしれないけど、でも歌うのは私じゃないって?思って。

枝:でもそれは、私もやる人が50代くらいの大御所とかで、結局遠慮しちゃって、こんなひよっこが。

ゆっきゅん:ダメですよ、遠慮。

枝:遠慮はダメで、だから「お前、遠慮するなよ」って言われてから、好き放題やってます。自分でも言っていることが分からないけど「これはやりたい」って。どれだけ「わがまま」になれるか。

ゆっきゅん:言って無理なこともあるかもしれないけど、譲らないようにするっていうことは多分何を作る人にとってもありますよね。その道のプロに馬鹿かもしれないけど言う。一人で解決するタイプではないので。

枝:プロって言う人たちに自分の「わがまま」を「おもろい」って思わせるって言う試練があって、「じゃあやってみよう」ってなって、「これなら俺でも思いつく」ことは言えないから、とんちんかんでも訳のわからないことでも言ってみると「じゃあやってみよう」って言って」新しい物がうまれる。だからいつも言われるのは俺らを越えて来いよとは言われます。それは、「技術的」なことではなくて「思い」として越えて来いって言う意味で。

──「私、枝さんが(シャドウプレイで)印象に残ったシーンが聞きたいです」(ゆっきゅん)

枝:「人を燃やすところ」。人を燃やすところなんて生きてて観られないじゃないですか。それがいいか悪いかじゃないんですけれど、スクリーンとかだと観れるじゃないですか。なんかそう言う、言葉があっているのか分からないのですが「夢がある」なと言う。そう言うのがこの映画はいっぱい観れるのがいいなって。

ゆっきゅん:その話を聞いて、つけまつ毛についても、適当に日常の中にあるけど、映画に残そうと思って、パッと印象的に残る生活のシーンではないかもしれないけれど、映画の中で観ると「あつけまつ毛外してるってなるからそれも映画の一つの方法、なんか向かい合って話さないですよね。と言うのをすごく思って、向き合って話せないようなことを描いているから、だから性愛とかもそうだけど向き合って話せないようなことを物語にしているなって思いました。

──観客の皆様へのメッセージ



枝:ロウ・イエのファンの方もいらっしゃると思いますが、初めて観た方がどう感じているかが私は楽しみなのですが、メイキング『夢の裏側』もぜひ一緒にセットで観たらさらにものづくりとかも面白さも観れるんじゃないかなと思って。ぜひ観てください。ありがとうございました。

ゆっきゅん:皆さまもぜひプロにわがままを言っていいものつくってください。

 

予告編



公式サイト DICE+紹介記事リンク

1月20日(金) アップリンク吉祥寺アップリンク京都、新宿K'sシネマ、池袋シネマ・ロサ、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中

監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
撮影:ジェイク・ポロック
録音:フー・カン
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:ジュー・リン 美術:ジョン・チョン
衣装:マイ・リンリン ヘアメイク:ジョー・イエン
ライン・プロデューサー:シュー・ラー
プロデューサー:ナイ・アン、ロウ・イエ、イー・ジア
エグゼクティブ・プロデューサー:チャン・ジアルー、ロウ・イエ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン

2019年/中国/129分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/原題:風中有朶雨做的雲

日本語字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク

©DREAM FACTORY, Travis Wei