『シャドウプレイ【完全版】』2016年に『シャドウプレイ』を撮影したときには、予言でしかなかったが、今やそれは現実になってしまった

『シャドウプレイ【完全版】』2016年に『シャドウプレイ』を撮影したときには、予言でしかなかったが、今やそれは現実になってしまった

2023-01-15 11:11:00

中国の30年、
そして香港、台湾を舞台に加えて描く、息もつかせぬネオノワール・サスペンス

80年代の改革開放が進み90年代に入り市場経済が推し進められ、2000年に入りバブルが訪れる。人々の欲望が渦巻く現代までの30年間。
『シャドウプレイ【完全版】』は、実話を元に時代に翻弄される中国人の加速する欲望と愛を描く。

 

ロウ・イエ監督インタビュー

━━日本で公開する際に映画の宣伝コピーを「加速する欲望と愛」としました。「加速する」=急激な変化が現代中国社会の特徴だと思います。監督はその加速する社会に対し、人々がどのように順応していくのが良いと思われますか?

実際、僕の希望などは重要ではないと思う。歴史というものは個人の希望などおかまいなしに進むものだから。例えば『シャドウプレイ』にはあんなにも多くの不確定な要素があるが、それらは個人の望みで変わることはあり得ない。ただ、僕はその歴史を経験してきた者として、目撃した状況を語っておきたいだけだ。もし『天安門、恋人たち』が1989年以降の、一部の中国人たちの無力感、喪失感の精神史だとするなら、『シャドウプレイ』は、89年以降にすぐさま一切を忘れ去り、チャンスをつかんで金持ちになった人々の「成金の歴史」だと言える。彼らは物質と引き換えに精神を失い、発展と引き換えに自由を失ってしまった。全てのものには代償が伴うということだ。2016年に『シャドウプレイ』を撮影したときには、予言でしかなかったが、今やそれは現実になってしまった。

━━ メインの撮影現場になった『シエン村』に関してお教えください。

そこは広州のビジネス街に囲まれた『村』で、空間的に非常に特別な場所でした。高層ビルが建っている中で昔のままの『村』が残っている。そんな珍しいロケーションから、『シャドウプレイ』を作る発想を得たんです。もしこの場所に出会わなかったら、この映画は撮らなかったと思います。全ての出発点は『村』ありきでした。

村から周囲のビジネス街のオフィスまで、5分以内で歩き通せるんです。つまりその場所は5分で、30年前の中国から現在の中国までを一気に行き来できる。そのことに非常に不思議な感覚を覚えました。それで映画を通して、それぞれの時代のスピードと落差、そして異なる年代でありながらも同じ場所で物事が起きているという不思議な感じを表現したいと思いました。そのような場所に生きる人々への影響も非常に大きかったと思うので、その機微も描きたかったわけです。

この物語は実際に起きた事件をベースにしていますが、人間関係の描き方はオリジナルで作り上げたものです。『村』は非常に複雑な場所で。周辺との関係、政府との関係、実業家や官僚との関係、その他さまざまなことが入り乱れて、この『村』に凝縮されている。つまり『中国の生きた標本のような地区』でもあるんです。そこにジャンル映画の要素を持ち込むことによって、個人的なことが描けるかもしれないと思ったわけです。社会的な事件を背景としながらも、人と人との関係、なにより『人間』をしっかりと描くこと、それが僕の目標でした。

━━ もともとは歌謡曲の曲名である「風中有朵雨做的雲」をなぜ映画タイトルにしたのでしょうか。

映画のタイトルにした「風中有朵雨做的雲(風のなかに雨でできた一片の雲)」とエンディング曲の「一場遊戯一場夢(一夜のゲーム、一夜の夢)」、僕自身はどちらかというと後者の歌のほうが好きなんです。なので、そちらをタイトルに付けようと思ったんですが、国家電影局からそのタイトルはよくないと言われて、前者に変えたんです。ただしこれらの歌が映画の内容を決定的にするかというと、そうではないと思いますね。映画の内容と関係はあるけれども、映画自体さらに重要な意味を持っていると思います。それから「夜」と「一場遊戯一場夢」はどちらも夢について歌っていて、素敵な曲です。暗闇の夢の中に帰っていくわけですが、劇中ではその夢は決して美しい夢ではなかったということですね。

「一場遊戲一場夢」は僕が大学生の頃、とても流行った歌で、中国の改革開放の時代を生きた人々の記憶に必ず残っている。今再びこの歌を聴けば、また新たな想いをいだくことだろうし、それは単なる思い出ではないはずだ。

━━ ところで、監督も影響を受けたという増村保造はイタリアに留学しネオ・リアリズムの影響を受けた監督です。ロウ・イエ監督は自身の作風を「現実を客観的に凝視し、ドキュメンタリー風に描写する」というネオ・リアリズムの系譜にあると思われますか。

どの系譜に属するのかはよくわかりませんが、ネオ・リアリズムはたしかに北京電影学院で学んでいたときの必須科目でした。また、ほかも影響を受けたのは、日本のヌーヴェルヴァーグの監督たちの作品です。今村昌平、新藤兼人、木下恵介、大島渚、相米慎二監督などです。

━━ 日本では11月にベネチア国際映画祭でワールドプレミア上映された『サタデー・フィクション』の公開が控えており、また次回作『三文字』の制作も発表されましたが、制作の状況を教えてください。

コロナ禍により映画制作は大きな打撃を受けましたが、映画だけではなく、あらゆる人々の日常生活が完全に混乱させられました。『三文字』は秋と冬の撮影がほぼ終了した後、今のところ中断しています。正常な秩序が戻ってきたら、なるべく早く撮影を完成させたいと願っているところです。

(2022年12月メールによるインタビューより)

監督プロフィール

1965年、上海生まれ。上海アニメーションフィルムスタジオにてアニメーターとして働いた後、1985年に北京電影学院映画学科監督科入学。卒業製作映画『デッド・エンド 最後の恋人』(1994年)でデビュー。『ふたりの人魚』(2000年)は、中国国内で上映を禁止されながらも、2000年のロッテルダム国際映画祭と東京フィルメックスでグランプリを獲得。2006年の『天安門、恋人たち』では、カンヌ国際映画祭コンペティション部門で上映された結果、5年間の映画製作・上映禁止処分を受けている。同性愛を描いた『スプリング・フィーバー』(2009)は、カンヌ国際映画祭で脚本賞を受賞。2011年に電影局の禁令が解け、中国本土に戻って撮影された『二重生活』(2012年)は、カンヌ国際映画祭ある視点部門に正式招待。『ブラインド・マッサージ』(2014年)は、ベルリン国際映画祭コンペティション部門に選出され銀熊賞を受賞。日本では本作『シャドウプレイ』は、2018年の台湾金馬奨で監督賞、撮影賞、音響賞、アクション設計賞の4部門にノミネートされ、2019年2月のベルリン国際映画祭パノラマ部門で上映された。

ストーリー

2013 年、広州の再開発地区で立ち退き賠償をめぐり、住民の暴動が起こったその日、開発責任者のタンが屋上から転落死する。事故か他殺か、捜査に乗り出した若手刑事のヤンは、捜査線上に浮かぶ不動産開発会社の社長ジャンの過去をたどる。その過程で見えてくるジャンのビジネス・パートナーだった台湾人アユンの失踪事件。転落死と謎の失踪、2つの事件を生んだ愛憎の根本は、ジャンと死亡したタン、タンの妻のリンが出会った 1989 年が始まりだった。

 

予告編

 

公式サイト

1月20日(金) アップリンク吉祥寺アップリンク京都、新宿K'sシネマ、池袋シネマ・ロサ、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開

監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
撮影:ジェイク・ポロック
録音:フー・カン
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:ジュー・リン 美術:ジョン・チョン
衣装:マイ・リンリン ヘアメイク:ジョー・イエン
ライン・プロデューサー:シュー・ラー
プロデューサー:ナイ・アン、ロウ・イエ、イー・ジア
エグゼクティブ・プロデューサー:チャン・ジアルー、ロウ・イエ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン

2019年/中国/129分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/原題:風中有朶雨做的雲

日本語字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク

©DREAM FACTORY, Travis Wei