1月20日(金)から公開された映画『シャドウプレイ【完全版】』の公開記念トークショーが、新宿K’s cinemaにて22日(日)13時上映回終了後に行われた。本作の監督であるロウ・イエの作品が大好きという映画監督の矢崎仁司さん、作家・脚本家の狗飼恭子さんが登壇した。
まずは一言ずつ挨拶。
矢崎:今日はお越し頂き、本当にありがとうございます。自分の映画の舞台挨拶みたいなんですが(笑)、本当にこんなに来て頂いてすごくうれしいです。ロウ・イエ監督が好きで、その凄さをもっと広めたいと思って今日来ました。よろしくお願い致します。
狗飼:本日は来て頂いてありがとうございます。短い時間ですが、ロウ・イエについて皆さんと一緒にお話しできたらなと思います。
──ロウ・イエとの出会いについて
矢崎:狗飼さん脚本で、アップリンク浅井さんプロデューサーで、『ストロベリーショートケイクス』を作ってロッテルダム映画祭に行った時に、浅井さんに紹介されたのが出会いです。その時上映していた映画が『天安門、恋人たち』で、映画祭で見て、もちろん日本語字幕は無いので、わからない部分が一杯あったんですが、見ちゃうというか、すごい映画を見たなという事だけが残りました。日本に帰って、ロウ・イエ監督の他の作品を見たいと思って『ふたりの人魚』とかを見始めたのが、ロウ・イエ監督への愛の始まりですかね。狗飼さんは?
狗飼:私は2000年でしたが『ふたりの人魚』が一番最初のロウ・イエとの出会いです。あまりにもポスタービジュアルが良くて、この映画見たいなと思って夢中になり、その後ずっとロウ・イエを追いかけていました。『パリ、ただよう花』の時にちらしにコメントを書かせて頂いて、その時にロウ・イエ監督にお会いすることが出来て、サインを頂きました。私が人生でサインをもらったのは、ロウ・イエ監督と矢崎仁司監督の2人だけというのがあります。ですので、今日ロウ・イエの映画について矢崎さんと語らうという夢のような時間を頂いています。
──ロウ・イエの映画制作について
狗飼:矢崎監督とロウ・イエの世界観には共通する部分があるなと思います。
矢崎:惹かれるのは、絵に映っている人物たちの表情でしょうか。どうやってこの表情を引き出すんだろうという。『ふたりの人魚』とか、登場人物に恋しちゃいますよね。秘密を知りたいと思っています。今回メイキングが公開されるので、ずいぶん秘密を見た感じがしました。
狗飼:そうですね、『夢の裏側』という『シャドウプレイ』のメイキングを一緒に拝見させて頂いて、すごかったですね。
矢崎:もし『シャドウプレイ』をご覧になっていいなと思った方は、絶対あのメイキングを見るべきだと思います。こんな風に映画を作ることの凄さ、が見られる。予算は全然違うのですが、『三月のライオン』とかインディーズを撮影する感じと、こだわり方とか似ているなと思います。
狗飼:演出方法が似ているということでしょうか。
矢崎:こだわりですね。こだわってる映画は本当におもしろいなと思う。
狗飼:そうですね、俳優さんのメイクとかにも、ロウ・イエ監督はおっしゃるんですよね。言ってる内容が、私が今まで聞いたことがないような演出の仕方でおもしろかったです。
矢崎:人間は怒ると顔が赤くなる、その部分をメイクで隠されたくないという。本当に人に興味があるんでしょうね。
狗飼:さっきおっしゃっていた、人間の表情の魅力的な動きとかというのは、やはり俳優の顔に対するこだわりがロウ・イエ監督の中にあるからなんでしょうね。そうやって人間の生(なま)を撮っているのに、全部の絵がすごく決まっているのが不思議。どうして両立できるんだろうと思う。
矢崎:見たいものがとても明確なのかもしれません。僕がよく俳優に感情を飲み込んで、出さないでくれとお願いするのですが、どうしても我慢しきれずこぼれるものが美しい。だからお願いするんです。ロウ・イエの映画を見ていると、感情がこぼれる瞬間が、今話していても鳥肌が立つくらい美しく、そこに尽きるのかなとは感じますね。
狗飼:感情移入出来る登場人物とか、感情の筋が通っているとか言われるんですが、ロウ・イエの映画を見ていると、人間の感情なんてわかる訳ないじゃないか、筋なんて通ってる訳ないじゃないかという事を、改めて思いますよね。本当の人間ってどっちかというと、こっち側なんじゃないのかなという気はしますよね。
矢崎:メイキングにもあったけど、どういう感情なんだという時のロウ・イエの答え方が、素敵だったではないですか。どっちでもない、迷っているところ、みたいな返答でしたよね。こういう感情で話しているだけではなくて、そういう事だけじゃないんじゃないか、というような事を俳優と話したりする所は、人間はわからない、そのわからない部分をどう映し撮るかという所に行きついているような気がするんですよね。
狗飼:そうですね。わからなさを恐れていない、と言いますか。
矢崎:浅井さんから聞いた話ですが、『スプリング・フィーバー』の後半で登場人物が街を歩くシーンで、犬の死骸か何かが落ちているんです。その死骸は別に映画に関係していなくて、主人公が歩く道の近くに落ちているだけなんですが、こういう町で撮影しているという、俳優の偶然性のようなものに、ロウ・イエは賭けているような気がしますね。
狗飼:これもまた、凄い場所を見つけたなというロケーションですもんね。こんな場所あるんだという。『夢の裏側』の話をしてしまいますが、もう(この村は)来年にはない、というような話をしていて。土地も主人公の映画、というのは魅力的だなと思います。
矢崎:たぶん場所のこだわり方、同じ殺人事件でも、この場所で起きた殺人事件と、違う場所で起きたものは、全く違うという事をきちんと描いている。この場所でしか起きない事にしている、という、それはすごいなと思いますね。
狗飼:冒頭の暴動のシーンでも、突然ピンク色のビルが出てきたりするじゃないですか。あれも不思議です。メインビジュアルにもありますけれども、ピンクのカツラだったりとか、ピンク色のものが最初にたくさんちりばめられたりとか、冒頭の恋人同士の女の子のブラジャーもピンクと黄色。たまたまあの場所にピンク色のビルがあるって、どういう事なんだろうと。やっぱり、この場所で撮るべき映画なんだろうなというのを決められていた気がします。
矢崎:そうですね。
──ロウ・イエの過去作について
狗飼:矢崎さんの中ではロウ・イエのベストは『スプリング・フィーバー』ですか?
矢崎:『スプリング・フィーバー』も凄いですけど、全部。こんなに新作が楽しみな監督はいないですね。なぜかというと、ロウ・イエはすごい先を走っているから。最近の【タイパ】(タイム・パフォーマンス)とか映画の見方が、憤る部分もありますが、僕らの方が反省しなきゃいけなくて、早送りで見れるような映画を作ってるんだなっていう事なんですよね。悔しかったら、ロウ・イエの映画を早送りで見てごらんって、そう思いますよ。そういう見方をされようが、構わない強さがロウ・イエが先を走ってると思う、一つの理由ですけどね。
狗飼:私もどれがベストですか?と言われたら、たぶん毎日違う答えを言いそうな気がします。
矢崎:今回トークに出るので古い作品を見直したのですが、ラストシーンとか思い出せないです。後半まで来てるのに思い出せない。そのぐらい物語に関係なく、物語みたいなものは、人の表情に宿っているもので、ストーリーではないんだなと改めて思いました。僕の場合で言うと、ロウ・イエを越えたいと思い続けて結構映画を作っているので、撮影の石井さんとか、すごく嫌だったかもしれないけど(笑)。初めの頃、ロウ・イエは画数(えかず)の多さだと思ったんですよ。普通に映画を作ると、カットを割ったりしながら作って行くんですが、ロウ・イエの映画は、ここからここまでというカット割りがない、この画欲しい、この画欲しいという感じの、この表情が欲しいと言う感じの、画数の多さだと思って、いつも撮影前に画数を多くしたいということを石井さんにお願いしたりしていました。『無伴奏』の時とかは、『天安門、恋人たち』を暗記するほど見たり、新作の度にロウ・イエを必ず見返すようにしていて、越えたいなといつも思っています。だから新作がいつも楽しみです。
狗飼:『シャドウプレイ』も一体いつ見られるんだろうと思いながら、3年ぐらい待っていましたし。あともう1本出来上がっているのがあるんですよね。それを一体いつ見られるんだろうと思ったから。
矢崎:皆さん、『シャドウプレイ』のスピードについて行けたかしら、と思うんですが、3回ぐらい見た方がいいですよ。もっともっと良さが滲み出てきます。
狗飼:『夢の裏側』も見た方がいいと思います。
矢崎:すごいよね。カメラの動きとか。カメラマン用の滑り台が置いてあるんですよ。人物を追いかけていく中で、主人公が階段を下りて行くんだけど、その手前に滑り台がおいてあって、カメラマンはそこをすーっと滑って、被写体をずっと追いかけていくんですよね。
狗飼:なんだか、パルクールみたいでしたよね(笑)。あんなに運動神経がないとカメラマンになれないんだと思いました。美術さんの話も出てきて、それもおもしろかったです。ロウ・イエの世界感が統一されているのは、それが理由なんだと思うのですが、美術のために脚本を書き替えたりすると言っていて。まあ、ご自身が書いていらっしゃるので、別にいいのかもしれないのですが、私の立場から言うと、大変だなと思いました(笑)。
矢崎:あと凄いのは、これからロウ・イエ監督の過去作を見て頂きたいのですが、同じ俳優が出てるんですが、顔が違うんですよ。『ブラインド・マッサージ』の時の顔と今回の『シャドウプレイ』と、『スプリング・フィーバー』の顔と、表情を変えるとかという問題ではなくて、顔が違うんです。凄いなと思います。
フォトセッションを終え、最後にお二方からご挨拶。
矢崎:ロウ・イエ作品をぜひ広めて下さい。『ふたりの人魚』から『天安門、恋人たち』『スプリング・フィーバー』『ブラインド・マッサージ』、これをきっかけに逆に遡って見て頂けたらうれしいです。メイキングも凄いので、ぜひ見て欲しいです。僕もロウ・イエ監督に負けじと新作を撮っていきたいと思っています。今、ロウ・イエ監督のスピードについて来れないと大変なことになって、映画がどんどんダメになると思うので、応援して下さい。『シャドウプレイ』は素晴らしい映画です。
狗飼:私の言いたいことは矢崎さんが言って下さったので大丈夫です。本日はどうもありがとうございました。
予告編
公式サイト DICE+紹介記事リンク
1月20日(金) アップリンク吉祥寺、アップリンク京都、新宿K'sシネマ、池袋シネマ・ロサ、横浜シネマ・ジャック&ベティほか全国順次公開中
監督:ロウ・イエ
脚本:メイ・フォン、チウ・ユージエ、マー・インリー
撮影:ジェイク・ポロック
録音:フー・カン
オリジナル音楽:ヨハン・ヨハンソン、ヨナス・コルストロプ
編集:ジュー・リン 美術:ジョン・チョン
衣装:マイ・リンリン ヘアメイク:ジョー・イエン
ライン・プロデューサー:シュー・ラー
プロデューサー:ナイ・アン、ロウ・イエ、イー・ジア
エグゼクティブ・プロデューサー:チャン・ジアルー、ロウ・イエ
出演:ジン・ボーラン、ソン・ジア、チン・ハオ、マー・スーチュン、チャン・ソンウェン、ミシェル・チェン、エディソン・チャン
2019年/中国/129分/北京語・広東語・台湾語/DCP/1.85:1/原題:風中有朶雨做的雲
日本語字幕:樋口裕子
配給・宣伝:アップリンク
©DREAM FACTORY, Travis Wei