『サハラのカフェのマリカ』アルジェリアで誕生した新しい装いの美しいロードムービー風ドキュメンタリー

『サハラのカフェのマリカ』アルジェリアで誕生した新しい装いの美しいロードムービー風ドキュメンタリー

2022-08-23 16:46:00

広大なサハラ砂漠のど真ん中に佇む一軒の簡素なカフェ。

その佇まいを遠目から見るだけで、何か大切な時が紡がれる予感のする、不思議な場所。とにかく異国感が半端ない。

中に入ると、小窓のついたシンプルな白い土壁の箱に差し込む太陽光。その光が生み出す、ハッとするほど豊かな「白」の奥行きに、目を奪われる。このシンプルな箱の中に、丁寧に手入れされた日用品と水、冷蔵庫、客をもてなすたった一つのカフェテーブル。

ここは女主人マリカの王国である。ちなみにマリカというのはアルジェリアの現地語で「女王」を意味するそうだ。

監督を務めるのは、現在36歳アルジェリア出身のハッセン・フェルハーニ。初監督作品の短編映画「Les Baies d'Alger」(2006)がいくつかの国際映画祭の公式コンペティションに選出。以後、新進の監督として注目を集め、初の長編『ラウンドアバウト・イン・マイ・ヘッド』(2016)に続く本作は、ロカルノ国際映画祭2019で最優秀新人監督賞を受賞した。

本作では、このカフェを舞台に、女主人マリカと猫を取り巻く淡々と流れゆく日常の時間を、カメラが捉え続ける。

事実、カフェに立ち寄る人はちらほら、出来事らしい出来事が起こるのでもなく、そのほとんどはサハラ砂漠の砂が風に吹かれて流れるがごとく過ぎていく、静かで退屈な日常である。

それなのに、なんだろう? ここには不思議な磁場がある。
マリカは愛想をふりまくのでも、面白いことを言うのでもなく、ただじっとそこにいるだけなのに、そのふくよかな佇まいと身を包むスカーフやジェラバは、彼女のあたたかく深い懐を雄弁に物語る。なによりお洒落で、どれもよく似合う。

「存在が奥深い」とはマリカのような人のことを言うのだろう。
彼女の奥深さと、不思議と醸し出されるカリスマに惹き寄せられて、つい、みなマリカのカフェで今日もコーヒーを飲むのだ。

 

 

ストーリー

アルジェリア、サハラ砂漠。そこに佇む一軒の雑貨店。

そこはマリカという女性が一人で営んでいる。

ほとんどの営業時間中に客が来ることはなく、ネコと共に時間を過ごす。

たまにトラックの運転手や旅人がやってくるとコーヒーやおやつを提供して、他愛もない世間話に興じる。

日が暮れると、砂漠の真ん中の雑貨屋に灯されるろうそくだけが光を放つ。

そして彼女は自分の人生を語りだすのだった。

そんなマリカの日常生活を、カメラは時に鮮やかに時に幻想的に捉え続ける。

 

 

ハッセン・フェルハーニ 監督コメント


サハラ砂漠の逆説的なロードムービー

前作の『ラウンドアバウト・イン・マイ・ヘッド』を制作後、私は旅に出た。そして風景を横断しながら、旅をしながら誰かに出会いたいと思った。制作者としては同時に「ロードムービー」という、魅力的なジャンルにも挑戦したいと思っていた。そして、私は何度も旅に出た。場所、キャラクター、物語を探しに私の足は南へと伸びていった。

そんな中、私は友人であり、コラムニストでもあり、時には俳優でもあるチャウキ・アマリChawki Amariと一緒に周った旅が一つの事件だった。私たち二人はアルジェからアイン・セフラまでのアルジェリア南東地域を旅して、そこからサハラ砂漠の中心に行ってアルジェからタマンラセットを繋ぐナショナル1*を目指した。

ちなみにナショナル1はチャウキが書いた作品のタイトルの一つにもなっていて、読んだ当時は登場人物たちが現実世界に存在するかまではわからなかった。特にその中でも、マリカという人物は文学的で幻想に近い存在だった。そしてサハラ砂漠の中央部に向かう途中、偶然にも私たちはマリカに出会った。こんなに強烈な出会いがあるとは思わなかった。

自分の作品のために面白いキャラクターを探してはいたが、彼女がどれほど面白いか、特に映画的な観点からはまるで想像もつかなかった。しかし彼女のカフェに足を踏み入れた瞬間、私の映画はここにあると確信した。ここではつまり「逆説的なロードムービー」が撮れるのではないかと思いついた。

そもそもロードムービーとは路上で起こる映画なのだろうか?「ロード」(道・道路)で繰り広げられない映画なので、厳密な定義ではロードムービーではないのかもしれない。しかしこの場所は道路とトラックの運転手たちがいるからこそ、その道路の上に存在する。

このカフェはロードムービーでは過ぎ去ってゆくような場所だ。しかし一見何もないところにいるこの女性のカリスマ性と強さに加えて、多くのものを収納しているこのシンプルな場所を私は愛した。こんな辺鄙なところのど真ん中にある素朴な空間の中に、あまりに多くの物が詰まっている。

実際のところ、マリカのカフェは地理的に言えばアルジェリアの丁度真ん中にある。だからさっき辺鄙なところという言い方をしたけれど、現実は真逆で、サハラ砂漠で働く人にとっても旅行する人にとってもここは中心的な場所なんだ。世界最大級の砂漠にある、20平方メートル程度のスペースで、何が語られ、何が起こるのか、全く予測もつかないことが繰り広げられている。

*現在はナショナル・ワンla Nationale 1と名付けられたそのサハラの道は他にも色々な名前をもっています。その中でも有名なのがトランス=サハラ・ハイウェイ(la route transsaharienne)です。


ドキュメンタリーを撮るスタンス

 本音としては「ドキュメンタリー映画」という表現があまり好きではない。私の映画が、ある特定のジャンルの制約が無い映画祭に出品できるとすごくワクワクするんだ。何かのジャンルに縛られる事が少しずつ無くなることを願っているよ。

最後に劇映画とドキュメンタリーの違いは何を重視しているのか。前者は撮る前に脚本、台本を書くが後者は撮ると同時に書いている、少なくとも私はそうしている。ドキュメンタリー映画では何がリアルかが物語を決める。私は何が現実かを追及するため、どうしてもフィクションが混じってしまう。

『サハラのカフェのマリカ』では色んな観点から観たアルジェリアの現状を描いている。でも社会学的観点から映画を撮りたくないので、典型的な人物像は求めてはいない。私はあくまでも映画を作っているから。

アルジェリアで今起こっていることは、あまり目に届かない所で起きているだけで、最初から社会を搔き立てていたことだと思う。この映画の解釈は人それぞれだと思うし、この作品でもあまりその社会問題を中心に何かを伝えようとしてはいない。

 

 

【サハラ情報】

カフェは砂漠のハイウェイのオアシス!?

砂漠、まさに不毛な大地の形容詞ですが、そこは複数の国や民族が跨る一大交易地帯でもあります。

ここでは日夜多くの人々が行き交い、それに伴い現代化の波も押し寄せて来ます。サハラ砂漠には400kmごとに小さな集落があり、それを辿って行くかのように一つのルートが出来上がってきました。

その道の長さおおよそ2400kmーー本作にも登場する北オアシスに定住する卸売業者は食料品、布地、家庭用品さらには建築資材をトラックで移動しながら各地へと運んでいくのです。

 

 

『サハラのカフェのマリカ』予告編

 

公式サイト

 

2022年8月26日(金) ヒューマントラストシネマ渋谷、アップリンク吉祥寺、ほか全国ロードショー

 

出演:マリカ、チャウキ・アマリ、サミール・エルハキム

原題:143 Rue du Désert|英題:143 Sahara Street|アルジェリア・フランス・カタール合作|2019年|104分|カラー|ドキュメンタリー

監督・撮影:ハッセン・フェルハーニ|プロデューサー:オリビエ・ボアショ、ナリマン・マリ
製作:Allers Retours Films、Centrale Electrique|日本語字幕:尾崎俊輔
後援:駐日アルジェリア大使館 配給:ムーリンプロダクション 宣伝:スリーピン

© 143 rue du désert Hassen Ferhani Centrale Électrique -Allers Retours Films

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