『セイント・フランシス』「今の自分はイヤ、誇れる自分になりたい」34歳独身ブリジット
『セイント・フランシス』主人公のブリジットを演じるのは脚本を書いたケリー・オサリヴァン。その脚本を彼女のパートナーであるアレックス・トンプソンが監督したのが本作だ。
観客に何を受け取って欲しいかという問いにトンプソン監督はこう答える。
「ジャッジするのではなく共感してくれるといいなと思う。登場人物のことを好きになってほしい。これまでとは違った視点で女性たちを見てほしい。この映画によって、中絶、産後うつ、生理、子育てといった人が恥ずかしいと感じているかもしれないこと全てに関して、正直な会話が生まれてくれることを願っている」
34歳独身、大学1年で中退、現在はレストランのホールのバイト。そんな自己肯定感の低いブリジットは、友人に一夏限定のバイトを紹介された。それはレズビアンカップル、アニーとマヤの娘フランシスの子守りの仕事だった。
フランシスの両親をレズビアンカップルにした理由についてケリー・オサリヴァンは「同性愛者の両親は普通だし、普通になっていく流れが続くべき。この映画で両親のアニーとマヤが苦しんでいるのは彼女たちのセクシャリティについてではなく、多くのカップルと同じように子育てについて。マヤが産後うつで苦しんでいる一方で、アニーは家族を支えるために一日中は働かなければならないといったように」と語る。
現実のアメリカは中絶の権利を女性から奪う法案で世論が二分している。オサリヴァン監督自身が中絶を経験し、子守りもバイトで経験しその二つの経験から書き上げた『セイント・フランシス』。
監督が望むように作品をジャッジするのではなく、共感するポイント探しに映画館に訪れて欲しい。
ストーリー
親友は結婚をして今では子どもの話に夢中。それに対して34歳で独身、大学も1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジットは夏のナニー(子守り)の短期仕事を得るのに必死だ。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは歳相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシスや彼女の両親であるレズビアンカップルとの出会いにより、少しずつ変化の光が差してくる――。
アレックス・トンプソン監督&ケリー・オサリヴァン(脚本・主演)インタビュー
――ケリーに聞きたいのですが、『セイント・フランシス』のブリジットのストーリーが浮かんだきっかけは何でしたか?どのようにしてこのストーリーが始まったのでしょう。
ケリー:20代の頃にナニーをしていて、いつかこれについて書きたいと思っていたの。だってこんなに奇妙でエモーショナルな仕事はないから。お世話をする子どものことを本当に愛おしく思うようになるし、ある意味その家族の一員になるのだけど、一方で部外者のままでもある。家にいれば時々、その家族のとてももろい部分を目撃することもある。だけど仕事が終われば自分の家に帰るというね。それでその後、30代のときに私は中絶をして、この二つの経験、つまり中絶とナニーが重なったらどうなるのかなと考えたの。だから映画のほとんどはフィクションだけど、リアルな場所から始まってる。
――ブリジットの中絶に対して、ほぼ躊躇することなく真正面からアプローチしていますよね。なぜですか?
ケリー:女性が中絶することに対して恥ずべきことは何もないと思うし、テレビや映画でトラウマじゃない中絶は描かれていない。私は、ブリジットが妊娠を知った瞬間から、彼女は100%の確信を持って中絶して、決して撤回することも、一度も後悔することもないというようにしたかった。ここで生まれる感情に罪悪感は含まれていないということ。中絶はクライマックスでも決定的な出来事でもなく、誰かのストーリーの一部であり得る。私は中絶が話してはいけないタブーであることにうんざりしているし、少なくともひとりの女性の経験として正直に絶妙なニュアンスで、時には面白くさえ描くことができるのではないかなと思った。
――34歳の成人女性が主役というのは珍しいですよね。この映画ではブリジットが自分自身の成功や失敗の定義について疑問を持ちます。ティーンエイジャーや20代ではなく、34歳の女性でこのテーマを扱おうと思ったのはなぜですか?
ケリー:20代で本当に失敗することってないと思う。20代のうちはもがき苦しむことは想定内だし、祝福すらされること。30代だと、「急いだ方がいいよ」って言われる。同僚との会話も「どうか妊娠していませんように」から「6か月以内に妊娠できなかったら不妊治療の専門医に見てもらう」というものに変化する。30代になると、周りの人が当然のように期待してくるものがあるし、成功していることも期待される。それはつまりキャリア、結婚、子どもがいるかどうかということ。ブリジットはそのどれも持っていなくて、だけど彼女の同僚たちは持っているからと社会が彼女にもそれを期待するので、ブリジットは出来損ないのように感じる。これはもっと掘り下げて語られるべきことだと思う。
――本作では、フェミニズム、人種差別、同性愛嫌悪、階級差別、”現代的な家族”、ミレニアル世代といったタイムリーなトピックに焦点が当てられています。ブリジットのストーリー以外のものを描くことはあなたにとって重要でしたか?
アレックス:すべてのキャラクターにできるだけ感情移入をしてアプローチすることに決めていた。とっぴな脇役たちとして捉えてはほしくなくて、むしろ生身のリアルな人々という栄誉を与えてほしかった。こういったイズムが僕たちの根底にある。観客が物語の中に真実を追い求めることにすこしでも興味があるなら、このイズムが見えてくる。
アレックス・トンプソン監督
ケンタッキー州出身。デポー大学を卒業後LAのキャスティング会社であるLessall Castingでアシスタントを務めた。数か月後、トンプソンは自身の初監督作品となる短編『Irene & Marie』の役者を選ぶ。映画にはオリンピア・デュカキス、ローズ・グレゴリオ、バート・ヤング、ルイス・ゾリックが出演した。シカゴで数本の映画を撮り続け、その中にはオースティン・ペンドルトンが出演して、ローマ国際映画祭で最優秀審査員賞を受賞した『Calumet』も含まれる。これによってオースティンとの友情関係ができ、いくつかのミュージックビデオ、1本のウェブシリーズ、2本の長編映画『Our Father』『King Rat』にプロデューサーとして携わる。2017年に、ケリー・オサリヴァン脚本・主演の『セイント・フランシス』が初の長編監督作品となった。本作は2019年3月にSXSW Film Festivalでプレミア上映された。現在はイリノイ州シカゴ在住。トンプソンはNew City’s Film(シカゴの映画情報サイト)の“Chicago’s Screen Gems”(シカゴのスクリーンの宝)リスト50に最近選ばれた。
予告編
公式サイト
8⽉19⽇(金) ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、シネクイント、アップリンク京都ほか全国順次公開
監督:アレックス・トンプソン
脚本:ケリー・オサリヴァン
プロデューサー:アレックス・トンプソン、ジェームス・チョイ
音楽:アレックス・バビット、クイン・ツァン
撮影:ネイト・ハートセラーズ
編集:アレックス・トンプソン
美術:マギー・オブライアン
出演:ケリー・オサリヴァン、ラモーナ・エディス・ウィリアムズ、チャリン・アルヴァレス、マックス・リプシッツ、リリー・モジェク、ジム・トゥルー=フロスト、マリー・ベス・フィッシャー、フランシス・ギナン、レべッカ・スペンス
2019年/アメリカ/英語/101分/ビスタ/5.1chデジタル/カラー/原題:Saint Frances
日本語字幕:山田龍
配給:ハーク 配給協力:FLICKK
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