『ワタシタチハニンゲンダ!』現在まで連綿と続いている在日外国人に対する差別や偏見の実態を直視すること

『ワタシタチハニンゲンダ!』現在まで連綿と続いている在日外国人に対する差別や偏見の実態を直視すること

2022-08-17 17:57:00

「すべての人間は、生まれながらにして自由であり、かつ尊厳と権利とについて平等である」

これは国連が掲げた「世界人権宣言」の第一条に記されている文言である。一度は聞いたことがある、という人がほとんどではないだろうか。法的拘束力のある条約ではないが、この自由や平等は今の日本において実現されているのか。私たちは、本作『ワタシタチハニンゲンダ!』を通してその答えをまざまざと見せつけられることとなる。

現在、日本には約290万人の在留外国人が暮らしているという(出入国在留管理庁2020年12月在留外国人統計)。2020年以後はコロナの影響で訪日外国人旅行者数は激減しているが、世界規模でグローバル化が進んでおり、昔と比べて何事においても国境を超えることが容易になったのは誰の目にも明らかであろう。日本社会においても日本人と外国人の共生が加速しているわけだが、その一方で在日外国人に対する差別や偏見は未だに色濃く残っているというのが事実である。

本作はそんな外国人差別の歴史の始まりとも考えられる朝鮮人差別を起点とし、「オーバースティと技能実習制度」「民族教育への抑圧」「難民の人権」といった現代にまで根深く蔓延っている様々な課題を歴史的事実と共に紐解いていく。そして最後に焦点が当てられるのが、2021年3月にスリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)が名古屋入管で死亡した事件。彼女の死は、今まで明るみに出されなかった入管の闇や公権力による外国人差別を象徴するものと言って過言ではない。

本作中には、入管内で撮影された衝撃的な未公開映像も収録されている。胸が苦しくなり、目を塞ぎたくたるようなものばかりである。しかし、私たちに求められているのはこの現実を直視することだろう。この作品を観ても「日本は誰もが暮らしやすく、皆が平等な国だ」と言えるかどうか。在日外国人の問題に関心があった人にも、そうでない人にも、より多くの人の目にこの作品が入ることを願うばかりである。

 

高賛侑監督インタビュー

――日本では在日外国人をテーマにした映画は少ないですが、今回外国人をめぐる諸問題を描こうとされた目的は何ですか。

在日朝鮮人二世として生まれ、身をもって民族差別を体験してきた私にとって、外国人差別問題に取り組んできたのは必然的なことだったと言えます。
どの国でも肌の色や文化の違いなどのために人々が偏見や差別感情を抱く現象は皆無とはいえないにしても日本が際立っているのは、国が定めた法律や制度によって公的に差別が行われているということでした。

次に思い立ったのは、日本にある外国人学校の取材でした。各地の外国人学校を取材して回ったのですが、当然のことながら全ての外国人学校も朝鮮学校と同じ差別を受けているという実情を目の当たりにしました。各種学校の資格しか認められないため、国からの財政支援はなく、児童生徒たちは公的なスポーツ大会に出場できず、JRの学割がなく、高校課程を卒業しても国立大学を受験できない。その後、世論の批判が高まって少々改善された部分もありますが、根本的な差別制度は現在も変わりありません。

こうした取材を通じて、私は日本の状況は「ひどい差別」の段階ではなく排他主義に基づく「異常な差別」だと思うようになりました。

――制作過程で特に悩んだことや印象に残ったことはありますか。

外国人差別をテーマとする作品を作りたいという意識が芽生えたのは2020年秋頃からでしたが、なかなか決心がつきませんでした。理由の一つは、日本社会で外国人問題に対する関心があまりにも低いということでした。制作する以上はやはり多くの人に見ていただきたいと思っても観客動員は困難ではないかと。

もう一つは、メインとなる技能実習生や難民などの取材ができないのではないかということでした。私は悶々としながらとりあえずリサーチ的な取材を始めました。転機となったのは昨年(2021年)2月のことでした。長年難民支援活動をされてきた社会活動センター「シナピス」には、難民申請をして仮放免になった人々が集まっていることを知り取材のお願いをしたところ、7名の方が応じてくださったのです。
私は証言を撮りながら、事態は「異常な差別」の段階を超え、「恐るべき差別」であると強烈な衝撃を受けました。被収容者は入管という国家機関の中で、暴言・暴行を受け、病気になっても放置される。命が危険な地へ強制送還される。心身ともに傷つけけられた人々がハンスト、自殺未遂を繰り返し、毎年のように死者が出る。映画の中ではごく一部しか出すことができませんでしたが、現代社会にそんな虐待が行われていることが信じられないほどの証言が吐き出されました。私は戦慄につつまれながら、「観客動員がどうなろうと、この事実を伝えなければならない」と決心が固まりました。

まさにそうした時期に、事態はだれも予想できなかった方向に激変しました。3月に名古屋入管でスリランカ人のウィシュマ・サンダマリさんが死亡したのです。瀕死の状態に陥った彼女に点滴さえせず死に至らしめた事件は巨大な波紋を起こしました。連日、マスコミが大々的に報道し、国と入管に対する怒りが噴出しました。私も「高揚した闘いに役立てるため一日も早く完成しなければならない」という決意が込みあがりました。

 

ストーリー

2021年3月、スリランカ人女性ウィシュマ・サンダマリさん(33)が名古屋入管で死亡した。彼女の死は長年ベールに包まれてきた入管の闇を、公権力による外国人差別の歴史を象徴する事件と言って過言ではない。戦後、日本政府は、在日外国人の9割を占めていた韓国・朝鮮人の管理を主目的とする外国人登録法などを制定した。そして後年、他国からの在留者が増えると、全ての外国人に対する法的・制度的な出入国管理政策を強化してきた。
◇在日コリアン/高校無償化制度から朝鮮学校を排除。幼児教育・保育の無償化制度から外国人学校を排除。
◇技能実習生/長時間・低賃金労働。暴力・不当解雇・恋愛禁止等の人権侵害事件多発。
◇難民/難民認定を極端に制限。認定率は諸外国の20~50%に比べ、日本は1%未満。
◇入管/被収容者に対する非人道的な処遇が常態化。
本作品では、全ての在日外国人に対する差別政策の全貌を浮き彫りにする。

 

高賛侑(コウ チャニュウ)監督

朝鮮大学卒。文芸活動に従事しつつ、詩・小説の創作、演劇の脚本・演出多数。朝鮮関係情報誌『ミレ(未来)』編集長を経てノンフィクション作家となる。(社)自由ジャーナリストクラブ理事。2019年ドキュメンタリー映画『アイたちの学校』監督。キネマ旬報ベスト・テン文化映画10位選出。日本映画復興奨励賞などを受賞。

 

予告編

 

公式サイト

8⽉19⽇(金) アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開

監督:髙賛侑
撮影:髙賛侑、小山帥人、松林展也
撮影協力・編集:黒瀬政男
音響効果:吉田一郎(ガリレオクラブ)
整音:朴京一(ガリレオクラブ)
宣伝美術:高元秀
ナレーション:水野晶子

2022年/日本/114分

制作:『ワタシタチハニンゲンダ!』制作委員会
企画:ライフ映像ワーク
配給:アルミ―ド

 

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