『無垢の祈り』DICE+にて独占配信スタート

『無垢の祈り』DICE+にて独占配信スタート

2022-08-26 15:17:00

平山作品の中でも絶大な人気を誇る『無垢の祈り』だが、虐待・宗教・連続殺人などを盛り込んだ小説ゆえに、映画化が難しいとされていた。それを自主製作に踏み切って映像化したのが監督の亀井亨だ。原作者・平山夢明と監督・亀井亨は10年前、独立UHF局によって深夜ドラマとして放送された『「超」怖い話』(TV版)で初タッグを組んだ。平山が織りなす「恐怖」を亀井が地上波で限界突破して映像化したこの作品は、その振り切った持ち味から深夜帯にも関わらず人気を博したが、「エグすぎる」との苦情が多かったことも話題になった。それから10年。監督・亀井は平山の原作を幾度となく企画したが、平山作品が持つ独自の「反道徳的」で「一般論」から遠くはなれるソリッドな作品は映像化がとても難しく、なかなか形にならなかった。そこで亀井は、完全自主製作体制で「無垢の祈り」の映画化を試みたのだ。

 

映画『無垢の祈り』トークショウ 2017/9/3 @アップリンク渋谷

登壇者:亀井亨(監督)、平山夢明(原作者)、BBゴロー(クスオ役)、綾乃テン(人形遣い)、フミ人形

 

――演出について

平山:『悪魔のいけにえ』と一緒ですよ。『悪魔のいけにえ』っていう凄い映画もあるんですけど、あれ残酷描写ってダイレクトな描写は無いんですけど、相当やってるように見えるのは演出力なんでね。亀ちゃんの演出力が凄かった。

亀井:手法として多分、皆さんの想像力に託すという方法論ですよね。結局直接描写は僕の一存でボンって、自分のビジョンを出すじゃないですか。ただ、どこかで変換してお客さんの想像力に任すから、多分そこがより強烈になっていくっていう手法をしてる。本来は、映倫とかでも通ることは通るんでしょうけど、その前段階で本がまず通らないからあえて通してないんですけどね。

――自主規制のR18+

亀井:R18+にしたんですけど、別に映倫がR18+にしてくれっていうわけではなくて。今現時点でそういう状態にある人、とかは多分これを観ると物凄くキツくなるんですよね。それは避けたいし、成人とか成熟していない人間がこれを観て判断することは良くないなと思って自主規制のR18+にして。

尚且つ、主演の美姫ちゃんは当時9歳で。…特に気を遣うのは性的描写なんですよね。これ(人形)が主人公フミの悪い部分を全部もってもらった、悪しき部分を詰め込んだ存在であってっていうところは、美姫ちゃんが見てる風景はカットとしてあるけど、これはカットバックという手法で美姫ちゃんを見てる体だけであって、奥に何が映ってるかっていうのは見ないで置いてたりとか。そういうことにして、性的なことだけはまだ美姫ちゃん自体が未知数なのでそれには触れさせないようには配慮しています。ただ、殴られたりとかいうのは、学校にはいじめっ子がいるだろう、この延長線上で大人になってもこういうことをする奴はいるんだよという説明の中で話を進めてったという感じですね。その辺は時間はかかりますけど、配慮しながら撮ってはみました。

――自主制作のきっかけ

平山:本当に面白いものだとクリエイターが確信した場合には、色んなシステムにのらなくても上映したりとかお客さんに届けることができるんだっていうことは実証されてるような気がするけどね。

亀井:小さいものでもちゃんとしっかり強度があれば、何とかやっていけるとは思います。こうやって自主制作でもやろうとしたきっかけというのは、今邦画界ってどうしても手枷足枷が多すぎて本当に表現したいことが中々難しいんじゃないかなという僕の疑問もあって。やってみることによって失敗したらそれは僕の力量の無さで終わるんですよね。うまくいけば、何か突破口が開けるんじゃないかと思っては作りましたね。邦画界みんなのためなんかは考えてないです。ただ、こうやってしっかり作ろうと思う人が、この成功例があれば何かできるんじゃないかなと。

――平山氏から見た映画『無垢の祈り』

平山:この映画の最大の特徴というのは、よくある児童虐待ものとか、または女性がレイプされたとかってものがあるじゃないですか事件ものなんかで。ああいうものだと、往々にして一体何をされたのかってことに凄いフォーカスを当てられることが多いんですよ。でもそれでは、結局この原作もそうだし、本来映画化する意味が半減してしまうと。それより重要なのは、そういう経験を得た人はどのようにこの世の中のことを見ているのか。例えば僕たちが夕陽を見て綺麗だなと思うようなことが、彼女たちもそう思えるんだろうかっていう。彼や彼女はどういう風に考えて感じたのっていうことを描いてくれればっていうのは思ったんですけど、それは見事にやってもらった。

僕がこの映画の中で一番好きなのは、自転車でフミが疾走するシーンで。あれほど蹂躙された小さな命の子が、それでも自転車を乗る時だけは自由に、自分の行きたい所へ、好きなように行けるっていう、あの美しさですよね。どの瞬間に、どういう立場にいたとしても、必ず何かは美しさが宿るんじゃないかっていうようなことを亀井君が描いたってことは亀井君の祈りに近い部分があの自転車のシーンには集中してるなと思って。僕本当好きなんですよあそこ。何でもないですけどね。女の子がただ自転車でバーッと走ってるだけなんですけど。あそこは凄く、僕はこの作品の背骨になってるとこだなと思ってますけど。そういう意味では、この作品っていうのは今まで描かれていた一連の虐待ものや暴力ものとは格段に別格なものだと思ってますけど。

――亀井氏と平山氏からのメッセージ

亀井:こういうことっていうのが、実はこの時間にも起こっているんだなっていうのをちょっと頭の片隅にでも置いておいていただけると、この作品をちゃんと作った意味があると思って、信じて作りました。何かをしてくださいとは思わないですよ。ちょっと、リアルタイムこういうことが日常の中で、今、この時間にもあるっていうことだけ理解していただけると凄いありがたいなと思って作りました。

平山:僕の方からは、一つ覚えていただければなと思うのは。たった一人の人間によって世の中って変わるんですよ。それと同じようにたった一人の人によって人って救われることがあるんで。是非それは覚えていただければなと思ってます。

亀井 亨監督

2005年『心中エレジー』で初劇場公開映画を監督。同作はベルリン・アジアーパシフィック映画祭最優秀作品賞、シネマパラダイス映画祭最優秀作品賞など多くの賞を獲得。『幼獣マメシバ』『私の奴隷になりなさい』 など劇場公開作品のほか、テレビドラマでも『「超」怖い話』『くろねこルーシー』『アルビノ』など多数の作品の監督を手掛ける。

 

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