『UKI』メイキングレポートfrom『I.K.U.』シュー・リー・チェン監督
2022年4月にベルリンで撮影が行われたシュー・リー・チェン監督の『UKI』(ユキ)のメイキング映像と監督コメントをお伝えする。
コロナ禍での撮影、毎朝PCR検査を全スタッフ・キャストが行い、一人でも陽性者が出ると撮影がストップするというなか、6日間、誰も陽性者が出ることなく無事撮影は終了した。
現在、ポストプロダクションをフランス・パリで行なっている。
シュー・リー・チェン監督コメント
以下、コメント内容の翻訳を記載。
『UKI』は、私が1998年から1999年にかけて東京で製作し、2000年に完成、公開し、その年のサンダンス国際映画祭で発表した作品である『I.K.U.』の続編として思い付きました。『I.K.U.』を発表してから、もしかしたら続編が作れるのではないかと、私はずっと考えていました。そして2009年になって、ついに私は続編の構想を持ち込み、そのタイトルが、文字を反転させた『UKI』になったのです!
私たちは、日本語で「絶頂」を意味する、「イク」という元になった言葉を、『I.K.U.』(アイ・ケイ・ユー)と呼ぶことにしました。その時、私たちは“音”をもっと一種のデータかもしくはある種の違う名前のように使えるのではないかと…「イク」と言うと、日本人にとってそれは「行きます」と「絶頂」のどちらも指すじゃないですか。私は続編を決断し、『I.K.U.』を『UKI』(ユキ)に反転させましたが、実際に映画の中で『UKI』はウイルスの名前になっているのです。
『I.K.U.』の時点で、私は既にウイルスの構想と、いかにしたらウイルスが潜入捜査官のようになり得るかについて取り組んでいました。『I.K.U.』では、“東京ローズ”がウイルスですが、私は働きながらずっとウイルスのアイデアで頭が一杯でした。2009年に、私は自らの活動を、ウイルスとの共存を考える“ウイルス性の愛とバイオ・ハック”と宣言しました。バイオ・ハックに関しては、私は、私たちの身体の構成を変えることができ、設計することができるバイオテクノロジー企業を考えていました。
『I.K.U.』の続編として、『UKI』の元になった構想はウイルスと生物工学から着想を得ました。私たちには、ゲノム社のために人間のオーガズムを収集するレプリカントのREIKOがいました。私は、「冗長なレプリカントをどうするのですか」と尋ねました。『I.K.U.』では、ゲノム社の符号器はあらゆる人間のオーガズムのデータを収集しており、ひとたびハードドライブがいっぱいになると、IKUの使いがデータをダウンロードするために派遣されていました。だから、IKUの符号器は電子ごみとなりました。UKIは、この廃れた冗長なレプリカントを大陸のどこかのE-トラッシュヴィルに捨てるところから始まります。
ここから、REIKOがウイルスとなりゲノム社と戦うという脚本を書きました。最終的に、ある意味で私たちを救うためにウイルスは潜入捜査官となります。UKIを構想したのは2009年ですが、当時はこの映画を作るチャンスはないだろうと思っていました。なので、とりわけ長編映画として考えていたわけではなく、16人の地元のパフォーマーと一緒にトランスミュータントやウイルスとしてのUKIについて考えていたバルセロナのHangar media labにいる間に、このコンセプトを実行し形にしました。
2016年には、アート作品はまだかなり限られた観客しかいないということを考えて、本当に長編映画として作りたいと思うようになりました。2016年までに、フランスで助成金を申請しました。 私は映画設計を始めるための最初の助成金を得ました。そして2020年、グッゲンハイムフェローシップを獲得しました。つまり、長編映画UKIを作るスタートです。脚本に取り掛かるころには、パリではCOVIDのロックダウンの時期になっていました。 私はパンデミックと隔離、ルール、このウイルス時代のワクチン接種にかなり影響されました。
『UKI』は3つのパラレルスペースで構成されています。1つ目はアフリカや大陸にあるE-トラッシュヴィルで、これらのシーンはcinema4DとUNITYソフトウェアを使って3Dアバターとシナリオで作成されています。第二の空間は、ゲノム社が開発した人体搭載のバイオネット、そして第三の要素は、住民が感染し、食堂で出会う感染都市です。 私たちは皆、感染者なのです。ロックダウン この街でロックダウンが起こり、街は感染し、私たちも感染し、ロックダウンは私たち全員に影響を与えました。 例えば、私たちは握手をしてはいけないと言われましたが、この映画では実際に握手をデータ通信の媒体として使っています。 私はこの寂しさ、孤独について考え、そしてエドワード・ホッパーの絵が頭に浮かびました。ホッパーの絵、「NIGHTHAWKS」と「MORNING SUN」を参考に、ロックダウンの時代を描きました。セットは作られており、後で視覚的な特殊効果も行う予定です。食堂のシーンでは、いろいろなキャラクターを登場させました。ベッドルームのシーンでは、ANNAが一人になっています。
ロックダウンの間、私はいとも簡単に絶望の淵に沈みこんでしまいます。アーティストとして、フリーランスとして、私たちはいつも旅をしていて、人と一緒に仕事をしていたのに、突然すべてがキャンセルになりました。 人とつながれない、握手もできない、触れ合うこともできないのは人によっては究極の孤独にも思えることであり、これは世界的な流行でもあるのです。
ある特定の地域だけでなく、全世界に影響を及ぼしているのです。私たちは皆同じような状況にあり、時には悲しみに襲われることもあります。私は一度もありませんが…人は簡単にうつ病になると思います。私は特に落ち込むことはありませんでしたが、ああ!この悲しみは、自分で抜け出さなければならないのですね。誰も助けてくれない、私たちは皆同じ状況にいるのです。