『1640日の家族』愛の欠如ではなく、溢れすぎる愛を描いた映画

『1640日の家族』愛の欠如ではなく、溢れすぎる愛を描いた映画

2022-07-27 18:00:00

『1640日の家族』、フランス語の原題は『La vraie famille』(本当の家族)。映画の主人公シモンは、生後1年半で里親に出された。里親先の母親はアンナ、その家族には夫のドリスと、長男と次男がいる。実父のエディは、妻を亡くし、働くためには息子を里親に出すという選択しかなく、月一度の息子シモンと面会を続けていた。

シモンの目線で見ると原題の「本当の家族」は、アンナが母親の里親の家族。物語は、実父が息子シモンと暮らしたいと里親制度の担当者に告げる。残った時間は、シモンが里親家族にきてから4年間が経過する1640日まで。

シモンにとっての「本当の家族」とはどちらなのか。里親との家族なのか、実父との家族なのか。

映画は、里親のアンナ目線で描かれるが、彼女は4年間で家族の一員となったシモンを手放すことが辛い。里親の担当者に、アンナは、シモンに「ママ」と呼ばさないようにと忠告を受ける。そのことをアンナはシモンに告げるのだがシモンは「頭の中でならママと呼んでいいでしょ」とアンナに堅気にも言うのだった。

「愛おしく想う、離れがたい感情を抱く」この感情の強さを方程式で表すならば

「時間」X「愛情の密度」=α

と言えるのではないだろうか。シモンの「本当の家族」は、映画の途中まではアンナの家族と過ごした「時間」X「愛情の密度」が上まっている。でも実父と過ごす未来を想うと、二人が暮らす時間があと1640日を過ぎれば、方程式のαはアンナの家族と過ごした時より上回る。
その時シモンにとっての「本当の家族」は実父エディと暮らす家族となるのだろう。

注:フランスの里親制度とは、さまざまな理由で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れて養育する制度。フランスには現在56,000人の里親がいると言われている。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者である。本作でシモンが経験するように、週末は実の家族と一緒に過ごし、平日は里親の家庭で過ごすなど、柔軟な里親制度は日本でも注目を集めている。

 

ストーリー

アンナ(メラニー・ティエリー)と夫のドリス(リエ・サレム)が里子のシモン(ガブリエル・パヴィ)を受け入れて、4年半が経った。長男のアドリと次男のジュールは、18ヶ月でやってきたシモンと兄弟のように成長し、いつだって一緒に遊びまわっている。にぎやかで楽しい日々が続くと思っていた5人に、ある日、激震が走る。月に1度の面会交流を続けてきたシモンの実父エディ(フェリックス・モアティ)から、息子との暮らしを再開したいとの申し出があったのだ。突然訪れた“家族”でいられるタイムリミットに、彼らが選んだ未来とは――。

 

ファビアン・ゴルジュアール監督インタビュー

この映画は、 私の体験をベースにしています 。私の両親は 私が6歳との時に里親になりました。ある男の子が、生後18ヶ月でやってきて、6歳で帰っていきました。この体験に加え、他の人の体験や証言から学びたいと思い、いろいろ話を聞きました。私は、里親に聞くよりも、どちらかというと映画に登場するような小さな男の子の話を聞いて、それを物語の中に加えていくことがとても参考になりました。この映画は、愛の欠如というより、溢れすぎる愛を描いた映画です。

映画の中では、里親のアンナは、里親制度の契約内容を完全に忘れてしまっているのですが、物語が進んでいく中で、少しずつ思い出していくのです。それは、アンナがこの里親制度を受け止めなくてはならないことです。彼女は里親という仕事であることを忘れ、ただこの子を自分の子のように愛情を注いだのです。

子供を愛するがあまり、どうしたらいいのだろうとアンナは思うのです。この感情をなんとか解決している人たちがいるんですよ。私の母はこういってました。「この子は愛されなければならない、でも愛しすぎてはいけない」と。

インタビュー参考サイトLa Dépêche

 

ファビアン・ゴルジュアール監督

1976年、フランス生まれ。2007年から2016年にかけて6本の短編映画を監督し、 2013年には『Le Sens de l'orientation』がクレルモンフェラン国際短編映画祭で審査員賞を受賞。さらに、代理母出産を引き受けた女性を描いた初の長編映画『ディアーヌならできる』(17)は、マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバルで映画監督審査員賞を受賞した。2019年にはエマニュエル・ベルンエイムの小説を脚色し、舞台「Stallone」を演出。フェスティバル・ドートンヌで選出され、フランス国内でツアーが組まれた。

 

予告編

 

公式サイト

7⽉29⽇(金) TOHOシネマズ シャンテ、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督・脚本:ファビアン・ゴルジュアール
出演:メラニー・ティエリー、リエ・サレム、フェリックス・モアティ、ガブリエル・パヴィ

2021年/フランス/仏語/102分/1.85ビスタ/5.1ch/原題:La vraie famille/英題: The Family/日本語字幕:横井和子

配給:ロングライド

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