『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』ベケットの不条理劇を演ずる囚人たちと演出家との奮闘を描いた実話を映画化

『アプローズ、アプローズ!囚人たちの大舞台』ベケットの不条理劇を演ずる囚人たちと演出家との奮闘を描いた実話を映画化

2022-07-25 18:32:00

スウェーデンの実話をベースに、まさに「囚人たちの大舞台」を描いた本作。スウェーデンの俳優ヤン・ヨンソンが1985年にクムラ刑務所(スウェーデンの最大の刑務所)で演劇ワークショップを行い、彼が演出した囚人たちによる演劇が劇場で上演されるに至った、という実際のエピソードを映画化している。

監督はアルジェリア系フランス人のエマニュエル・クールコル。主演の演出家エチエンヌを演じるのは、コメディアン出身でフランスの国民的スター、カド・メラッド。囚人たちには、「CHOUF(シューフ)」(カリム・ドリディ監督作品)の主演で注目されたソフィアン・カメス、ブルキナファソ出身のワビレ・ナビレ、ロシア出身のアレクサンドル・メドベージェフなど、多彩な国籍とキャリアの俳優たちを起用。モデルとなった実際の囚人たちより、年齢的にも人種的にも幅をもたせたこのキャスティングにより、フランスの現代社会がよりリアルに再現されている。

物語の中で、演出家が舞台の演目に選んだのは、アイルランド出身のフランスを代表する戯曲家サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』。ベケットの最高傑作であり、不条理劇の最高峰と称されるこの作品は、日本でも非常に人気が高く、串田和美、柄本明をはじめ多くの名演出家、名優らによって舞台化されてきた。

「ゴドーは何者か?」という問いに対する一般的な解釈は「神(GOD)」だとされている。

囚人たちにとってゴドーは「神」であり「明日」であり「自由」であり、それらを象徴する「何か」である。その「何か」をくる日もくる日も待ち続けている。そして戯曲では、待っても待っても、ゴドーは来ない。その状況がまさしく囚人たちの日常そのものなのである。いや何も囚人でなくとも、これはそのまま私たちの心情ではないか。

本作では、囚人たちがこの戯曲との奇跡的な出会いによって、舞台の上で自らを再生し始めるプロセスが丁寧に描かれてゆく。自身の心の叫びを武器に大舞台と向き合う彼らの姿、彼らのリアルを引き出してゆく演出家の情熱が、とりわけ胸を打つ。

 

 

ストーリー


囚人たちの為に演技のワークショップの講師として招かれたのは、決して順風満帆とは言えない人生を歩んできた崖っぷち役者のエチエンヌ。

彼は不条理劇で有名なサミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』を演目と決めて、ワケあり、クセありの囚人たちと向き合うことに。

しかしエチエンヌの情熱は次第に囚人たち、刑務所の管理者たちの心を動かすことになり、難関だった刑務所の外での公演を実現するまでに。

ただ思いも寄らぬ行動を取る囚人たちとエチエンヌの関係は常に危うく、今にも爆発しそうでハラハラドキドキの連続。

その爆弾は、舞台の上でもいつ着火するかわからない。

ところが彼らのその危なげな芝居は、むしろ観客や批評家からは予想外の高評価を受けて、再演に次ぐ再演を重ねる大成功!

そして遂にはあのフランス随一の大劇場、パリ・オデオン座から、最終公演のオファーが届く!!

果たして彼らの最終公演は、観衆の喝采の中で、感動のフィナーレを迎えることができるのだろうか?

 

 

エマニュエル・クールコル監督 インタビュー


ーー『アプローズ、アプローズ!』はどのようにして生まれたのですか?

数年前、プロデューサーのマルク・ボルデュールが、スウェーデンの刑務所でヤン・ヨンソンという演出家が、受刑者とともに『ゴドーを待ちながら』を上演した時のドキュメンタリーを見せてくれました。その舞台は大成功を収め、イェーテボリの王立劇場で息を呑むようなフィナーレを迎えるまで、ツアーが続けられたのです。

彼は私にこう言いました。"これは君のための物語だ…… "と。私は、現代フランスへ設定の移し替えを考え始めた。ベケットの戯曲は一見、少し乾いた印象を与えるので、アクションを別のフィールドに移すべきではないか? 音楽? 歌? ダンス? あるいは女囚を登場させるのはどうか......?

いずれにせよ、1980年代のスウェーデンの刑務所環境は、現在のフランスの刑務所とは大きくかけ離れていたため、すべてを作り直す必要がありました。そして、このテーマで書くには、キャスティングや演出を先取りして、即興の余地をある程度残しながらリハーサルを撮影するやり方を想像しなければならないことに気づいたのです。一介の脚本家である私には、どう進めていいのか分からず、いろいろ考えた末に、この企画はほぼ保留になりました…….。そんな私に、マルクは「ゆっくりでいいよ、僕が預かっておくから」とだけ言ってくれたのです……。

2016年、私は初長編作品となる『アルゴンヌ戦の落としもの』を監督した後、今度は脚本家としても監督としても、彼のもとに戻ってきました。私は熟考する時間が十分にあったので、この作品のインスピレーションとなった出来事にずっと忠実でありながら、このプロジェクトに戻ることを提案したのです。


ーーこの物語のどこが良かったのでしょうか?

私は、たとえ暗い現実を扱ったとしても、絶望的な映画を作りたくはありませんでした。人間的な要素がある限り、一筋の光は必ずあるものです。マルク、そして『マルセイユの恋』などの監督でもあるロベール・ゲディギャンとともに、この囚人たちの感情的、喜劇的、劇的な可能性をすべて感じることができました。

映画の中でエチエンヌが言うように「ベケットと俺たちの間には距離がある」のかもしれない、しかし一方でその根底では『ゴドーを待ちながら』の世界に想像以上に近いのです。確かに、この戯曲は囚人にとって信じられないような響きをもっている。虚無、不在、待機、完全なる空虚と怠惰が彼らの日常を構成しており、実話では、囚人たちはこの普遍的なテクストに純粋に感動しているのです。

また、この作品は現代劇の中で最も有名な作品であり、その世界的に有名なタイトルだけでも、シンプルなプロットを要約している。そのため、映画の中で、リハーサルや本番で観客を見失うことなく、断片だけを見せることが簡単にできたのです。

また、私が会ったヤン・ヨンソンの人柄もよかった。彼は情熱的で執着心の強い人物で、彼の人生を完全に変えてしまったこの体験に取り憑かれていました。彼はサミュエル・ベケットと友人になり、後にアメリカのカリフォルニア州サンクェンティン刑務所で『ゴドーを待ちながら』を再び上演している。


ーー実話では、脱獄した囚人たちはどうなったのでしょうか?

実話では、一人が刑務所の看護婦と恋に落ちたため、集団で去ることを拒んだ。実際、二人は出所後すぐに結婚した。

他の囚人たちの運命はさまざまです。最も不幸だったのは、脱走の1ヵ月後にアムステルダムのビルの爆発に巻き込まれて亡くなった囚人がいたそうです。

一番若い者は、1年間の逃亡の後、残りの刑期を務めるために戻り、その後、プロの俳優として訓練を受けた後、落ちこぼれ少年のためのケースワーカーになろうとした。

別の囚人はスペイン、キューバに逃げて生活を立て直し、最後はスウェーデンの司法制度に慰留された。

最後の1人は、脱走後すぐに捕まり、刑期を終えて、仲間たちと同じように、職業と家庭を持って普通の生活に戻りました。

彼らは皆、このヤンとの冒険を人生の基本的なエピソードとして記憶し、非常に強い絆を保っている。この最後の出来事を除けば、演劇は彼らにとって社会復帰のための強力な手段になったと思います。


ーーあなたはご自身をどのような映画監督だと思われていますか?

私はもともと俳優で、舞台出身なので、そこから仕事を始めています。その後、CMのキャスティングコールで『パリ空港の人々』のフィリップ・リオレ監督とちょっとした偶然で出会ったことがきっかけとなって、脚本家の道に進みました。私は書くことに意欲的でした。私が書いた戯曲を読んでもらったら、『マドモワゼル』の脚本を一緒にやらないかと誘われたんです。

その後監督になろうと思ったとき、少なくとも対役者との間には問題がないことは分かっていました。私にとっては、彼らは同僚であり、信頼できる立場に置いて、提案できるようにしたいのです。不器用でせっかちな監督を前にすると、俳優はすぐに不安定になり、自分の殻に閉じこもってしまうことを、私は経験上知っています。それに、私はハッピーな現場が好きなんです。

特にセット選びは、私にとってワクワクする作業です。セットでは、劇場での作業とほぼ同じことをします。つまり、空間とセットをどのように使うか、型にはまり過ぎないように検討します。撮影監督であるヤン・マリトーと準備するショットの役割分担については、常に大きな自由度を保持しています。私は、自分自身のために楽しい驚きを用意しておき、役者に合わせていくのが好きなのです。

彼も同様に非常に柔軟で、私たちは良いチームだと思います。私はフレーミングにはこだわりますが、それ以外の照明などは、映画を作るたびに少しずつ学んでいくとしても、詳しい人たちに任せます。私はまだまだ初心者なのは事実です。

書きながら、どこに感動があるかはだいたいわかっていましたが、ゲリック・カタラとの編集作業は、今でも重要なワークパートです。編集を通して、俳優の仕事が明らかになり、私を魅了します。エチエンヌがディランにリハーサルをさせるトレーニングのシーンは、ピエール・ロッタンのおかげで、私が撮影現場で感じた以上の力を持つようになったのです。

私は、映画のすべての段階を楽しんでいます。資金調達は別ですが。ベケットは単純ではないし、刑務所は舞台としてふさわしくないと言う人もいました。地上波のテレビ局からの投資が無いにもかかわらず、私たちは根気よく制作の準備を重ねました。『ぼくの大切なともだち』などに主演している俳優のダニー・ブーンは、このプロジェクトに惚れ込み、制作に加わってくれた。彼のサポートは決定的だった。そうそう、実はあの時が一番愉快な瞬間でした……。

 

 

 

予告編

 

公式サイト

 

2022年7月29日(金) 新宿ピカデリー、ポレポレ東中野、下北沢トリウッド、アップリンク京都、ほか全国順次ロードショー

 

キャスト

エチエンヌ:カド・メラッド
パトリック:ダヴィッド・アヤラ
アレックス:ラミネ・シソコ
カメル:ソフィアン・カメス
ジョルダン:ピエール・ロッタン
ムサ:ワビレ・ナビエ
ボイコ:アレクサンドル・メドベージェフ
ナビル:サイード・ベンシュナファ
アリアンヌ:マリナ・ハンズ(コメディ・フランセーズ所属)
ステファン:ロラン・ストッカー(コメディ・フランセーズ所属)
ニナ:マチルド・クールコル=ロゼス
刑務官:イヴォン・マルタン

CREW

監督:エマニュエル・クールコル
脚本・台詞:エマニュエル・クールコル
協力:ティエリー・ド・カルボニエール、カリド・アマラ、ヤン・ヨンソン(原案)
プロデューサー:マルク・ボルデュール、ロベール・ゲディギャン
アソシエイト・プロデューサー:ダニー・ブーン
プロダクションマネージャー:マリー=フレデリック・ロリオット=ディ=プレヴォスト
ユニットマネージャー:ファブリス・ブースバ
撮影:ヤン・マリトー
音楽:フレッド・アヴリル
主題歌: “I Wish Knew How It Would Feel to Be Free” ニーナ・シモン

[2022年フランス映画|105分|フランス語|字幕翻訳:横井和子|シネマスコープ 2.29:1|5.1ch|DCP・Blu-ray]

宣伝:ムービー・アクト・プロジェクト 宣伝デザイン:内田美由紀(NORA DESIGN) 予告編監督:遠山慎二(RESTA FILMS)
関西地区営業・宣伝:キノ・キネマ 東京・関西地区以外の営業:アルミード
配給:リアリーライクフィルムズ / インプレオ

© 2020 – AGAT Films & Cie – Les Productions du Ch’timi / ReallyLikeFilms

 

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