『映画はアリスから始まった』ハリウッドにスタジオまで建てた、今でいうベンチャー起業家アリス・ギイの功績を辿る
アリス・ギイの成し遂げた仕事を、技術面にフォーカスを当てると、音声のシンクロ、染色によるカラー映画、二重焼き、スローモーションなどのトリック撮影など映画技術の革新に貢献した役割は大きいことがわかる。
アクションやメロドラマなどさまざまなエンターテインメントのジャンルを開発し、その中の一つ短編映画『フェミニズムの結果』では、男女の一般的な家事などの役割を逆転させたコメディでメッセージは当時としては先鋭的だ。エンタメとしての物語に作品としてメッセージを込めた映画を監督していたのだ。
映画の中でアリス・ギイたち初期の映画監督を評して、今で言えばパンクロッカーでルールにとらわれず映画を作っていたという発言があり、また別の人が、映画の歴史ははその時代のスティーブ・ジョブズのような実業家と結びつきがあったともいい、さらに、別の人がビジネスと芸術に理解がある彼女は金持ちになるのは必然だったと発言するくだりがある。
1906年、ハリウッドに現在のメジャースタジオが次々と作られた時期に、「ソラックス社」という会社を立ち上げ、撮影所も設立したというエピソードを知ると、まさにスティーブ・ジョブズ的才能の持ち主でベンチャー起業家だった。結局そのスタジオは夫の株式投資の失敗で倒産することになるのだが。
本作の原題は、そのハリウッドのソラックス・スタジオに大きく掲げられていた看板『BE NATURAL』だ。自然であれ、映画というメディアを通して、俳優はオーバーな演技ではなく、自然な演技を求めたアリス・ギイ。そのスタイルの方が観客により物語が伝わると確信していたのだろう。
なぜ、アリス・ギイの功績は映画史から消えていたのか、正確に言えば、男性の映画史研究家から女性であるが故にアリス・ギイの映画における功績が消されていたのである。本作はそこに疑問を抱いたパメラ・B ・グリーン監督が探偵の如くアリス・ギイの映画史における痕跡を探し再評価していく旅の物語である。
監督のパメラ・B ・グリーンはハリウッドで「PIC」という会社の創設者。PIC社の企業宣伝用クリップを見るとハリウッドスタジオのロゴから、CMまで、様々な映像のモーション・グラフィックスを手がけている。本作『映画はアリスから始まった』でもそのセンスは遺憾なき発揮され、アリス・ギイという映画史から忘れ去られた女性を探していくプロセスが、モーション・グラフィックスを多用し、リズミカルに描写されている。
今のYoutubeやTikTokで溢れている、ちょっとした面白動画や、コントはアリス・ギイが映画を撮り出した時代に撮影されたものと同じようなコンテンツだったという。誰もが、撮影手法を手に入れた現在、21世紀のアリス・ギイが現れSNSの動画が発展して全く新たな映画フォーマットが出現するかもしれないことを思わせる映画が『映画はアリス・ギイから始まった』だ。
グリーン監督は次のように述べている。
「本作が将来の世代にインスピレーションを与えることを信じている。将来の世代が、どんなものであれ彼ら自身のツールを手に取り、創作に打ち込むことを。私たち全員のなかにアリスがいるのだ。あなたが夢を持っているのなら、映像にしようと思ったなら、あなたにはそれができるのだ」。
ストーリー
クローズアップ、特殊効果、カラー、音の同期…現在の標準的な映画製作技法を次々と生み出し、世界初の劇映画『キャベツ畑の妖精』や、超大作『キリストの誕生』など 1,000 本以上を監督した映画監督・製作・脚本家として、世界映画史に大きな足跡を残したアリス・ギイ。リュミエール兄弟やジョルジュ・メリエスと並ぶ映画のパイオニアであり、ハリウッドの映画製作システムの原型を作り上げた世界初の映画監督となった女性は、なぜ映画史から忘れ去られていたのか?ベン・キングズレーや、アニエス・ヴァルダ、マーティン・スコセッシら映画界の早々たる面々や、アリス自身と彼女の親族らへの膨大なインタビューと緻密なリサーチ、アリス作品のフッテージの数々によってアリス・ギイの功績とその生涯をめぐる謎が今、明らかになる。
ナレーションを務めたジョディ・フォスターとパメラ・B・グリーン監督インタビュー
(2018年ニューヨーク・フィルム・フェスティバル)
ジョディ・フォスターにナレーションを頼んだのは、彼女がフランス語を話すことができからだという。5年以上も映画に取り掛かるのを待っていてくれ、吹き替えをボランティアでやってくれたと紹介。
フォスターはアリス・ギイのことをグリーン監督が資料を送ってくれるまで知らなかったといい、3歳から映画業界で働くようになったが、業界で働く女性を滅多に見なかったという。彼女の母親役を演じてくれた俳優や、メイクの人くらいしか女性はいなかったという。
「そんな状況だったので女性監督がいるとは思っても見ませんでした。もっと早く彼女のことを知っていれば、私自身の監督のキャリアをより早く始めるための多くの自信を与えてくれたと思います」と語る。
なぜ当時の映画業界は彼女の功績を認めなかったのですかという質問にグリーン監督は次のように答えた。
「私はその時代を1985年のシリコンバレーのファーストクラスと呼んでいます。MySpaceやYoutubeやコンピュータの創世記の時代には、ごく少数の人しか信用を得られず、宣伝もされなかったのです。新しいカメラを手に入れ、それを使って何ができるのか、誰も真剣に考えなかったのです。レオン・ゴーモンが亡くなったときに、ジャーナリストには選択肢があったのに彼女の功績を残さなかった。 歴史家だけでなく、批評家もそうです」
パメラ・B・グリーン監督
米国ニューヨーク出身。人生の大半をヨーロッパとイスラエルで過ごしたため、英・仏・伊、そしてヘブライ語に堪能。ロサンゼルスを拠点とするエンターテイメント&モーションデザイン会社< PIC>の創設者。長編映画のメインタイトル、モーショングラフィックス、クリエイティブ演出、ミュージックビデオやコマーシャルの監督、制作など多岐にわたる仕事で知られる。『映画はアリスから始まった』は初長編監督作。
予告編
公式サイト
7⽉22⽇(金) アップリンク吉祥寺ほか全国順次公開
監督:パメラ・B・グリーン
製作:ロバート・レッドフォードほか
ナレーション:ジョディ・フォスター
出演:アリス・ギイ=ブラシェ、シモーヌ・ブラシェ、ベン・キングズレー、マーティン・スコセッシ、アニエス・ヴァルダほか
2018 年/アメリカ/カラー+モノクロ/103 分/ドキュメンタリー/原題:Be Natural: The Untold Story of Alice Guy-Blaché
配給:パンドラ
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