『セルビアン・フィルム 4Kリマスター完全版』全世界46カ国以上で上映禁止のトラウマ映画が、クリアな無修正版で帰ってくる

『セルビアン・フィルム 4Kリマスター完全版』全世界46カ国以上で上映禁止のトラウマ映画が、クリアな無修正版で帰ってくる

2022-07-20 12:28:00

世界に注目される映画というと、どんな作品を想像するだろう。感動的なラストを迎える映画か、はたまた目を奪われるような映像美が魅力の映画か。そういった気分が前向きに明るくなるような作品を思い浮かべる人が少なくないだろうが、それとは真逆の方向性で“注目されてしまった”作品がある。それが『セルビアン・フィルム』だ。

全世界46カ国以上で上映禁止、製作に関わったスタッフやキャスト、配給関係者が怒涛の非難と罵声を浴び、ある意味で伝説と化してしまった本作が、4Kリマスター化されクリアな無修正完全版となって全国のスクリーンに帰ってくる。

『ソドムの市』、『ネクロマンティック』、『八仙飯店之人肉饅頭』、『屋敷女』、『マーターズ』、『ムカデ人間』といった数々の映画史におけるトラウマ映画を超えたとも評される本作を手掛けたのはセルビアのスルジャン・スパソイェヴィッチ監督。この『セルビアン・フィルム』がデビュー作というから驚きである。

しかし、インタビューで彼は意図的にショックを与える目的で撮ったわけではないと語る。これは、政治や紛争によってセルビア人が生まれながらに感じている重圧を表現したものであり、性描写や暴力描写はそのための道具であると。このことを知った上で最後のセリフを聞くと、もしかすると言葉の響き、ひいては映画全体の印象までもがガラッと変わってくるかもしれない。

トラウマになってしまうぐらい、刺激の強い作品であることに違いはないが、この監督の表現の爆発を受け止める勇気のある方はスクリーンに足を運ばない手はない。

 

ストーリー

退した元ポルノスターのミロシュは、美しい妻と幼い息子の3人で平穏に暮らしていた。しかし、かつて共演した女優から海外向けの大作ポルノで高額のギャラが支払われるという仕事の誘いを受ける。このプロジェクトを仕切る監督・ヴックミルはポルノこそ芸術であると主張し、それを証明するため真のポルノ作品を制作すると宣言した。それにはポルノスターであるミロシュの力が不可欠だと熱烈なオファーを受ける。

経済的に困窮していたミロシュは依頼を引き受けるが、撮影が始まるとそれはなんとブラックマーケット向けに本当の拷問と殺人を記録する、邪悪なスナッフフィルムだった!

真実を知ったとき、すでにミロシュの逃げ場は絶たれていた。そして、彼はさらに想像を絶する底なしの地獄を体験することになる…。

 

スルジャン・スパソイェヴィッチ(監督)&ニコラ・パンテリッチ(製作総指揮)インタビュー

――映画の制作について

スパソイェヴィッチ:映画の企画中や撮影中に意図的にショックを与えようとは思っていませんでした。最も深い内面の感情を解き放ち、スクリーンに映すことだけを私たちは意図していました。この映画が受けるだろう反響に気づいたのは編集が始まってからです。

パンテリッチ:映画の資金を集めるのが私の最大の懸念でしたね。この映画は本物の自主制作映画ですよ。過去30年間、セルビア政府は自国の映画産業にびた一文金を出していませんから、個人で資金調達したのです。『セルビアン・フィルム』は、この映画の完成が不可能だと言い放った人々への私たちの答えとなる作品です。私たちはセルビア政府の支援を一切受けずにこの映画を完成させました。

――この映画が物語ること

スパソイェヴィッチ:過去20年の動乱の歴史を通して、セルビア人は生まれた時からひどい状況に置かれてきました。ユーゴスラビアの崩壊、スロボダン・ミロシェヴィッチ(元セルビア大統領、独裁者)、コソボ紛争......気が滅入るような恐ろしいことばかりで、セルビアでうまく生きていくことは完全に不可能でした。セルビアはなにが起こってもおかしくない環境で、そしていつも悪い方向に向かうんです。絶え間ない圧力にさらされ、自らの運命を掴み取ることは不可能でした。私たちが表現したかったのは、こうした感情です。これは私たちが国家としていかに蹂躙されていると感じているか、自分たちの政府によっていかに虐待されているかということについての文字通りのメタファーなのです。こうした基本的なアイデアを形作るための私たちの武器がセックスと暴力だったのです。

――特殊メイクと特殊効果を担当したミロスラフ・ラクロビヤ(『ゾーン・オブ・ザ・デッド』)について

スパソイェヴィッチ:彼は素晴らしい仕事をしてくれました。しかも低予算でやってくれたんです。私たちにとってはこれほどの挑戦は初めてでした。ハリボテをリアルに作ることは難しいのですが、ミロスラフは、特に悪名高い“斬首シーン”で最高の仕事をしてくれました。彼はあのシーケンスをとてもリアルなものにしてくれました。

パンテリッチ:映画を観た技術者が完全にビビってしまって、この映画がフィクションだと説明しなくてはならないという馬鹿げた状況になりました。警察なんかは特殊効果がホンモノだと思ってしまった。ミロスラフの仕事ぶりが警察のお墨付きを得たとも言えますが。そのうえ、私たちが嘘をついてないか調べるために脚本を見たいとも言い出しました。本当に馬鹿らしいことですが、映画のコピーをブタペストに持っていった時も同じような目に遭いました。

――影響を受けた監督

スパソイェヴィッチ:私は70年代のアメリカ映画が大好きなんです。たとえばウィリアム・フレイドキン、ブライアン・デ・パルマ、ウォルター・ヒル、サム・ペキンパー、そして特にデヴィッド・クローネンバーグです。クローネンバーグからはこの映画の肉付けにおいて特に影響を受けていますし、映画祭のオーディエンスもその表現に気づいていました。

――母国セルビアの反応

パンテリッチ:この映画を賞賛する素晴らしいレビューが出た後に、セルビアに凱旋帰国しようと思っています。いくつかのセルビアの配給会社はそのことを嬉しく思ってないと思いますが。この映画についてなにをすれば良いかわからないから、嫌っているんですよ。セルビアは奇妙な社会で、50年前の共産主義体制を引き継いでいるんです。自動検閲の風潮があって、みんな他人の言う事を恐れていて、肝っ玉が据わってないと言いますか。これはセルビアの名を上げる映画なのに、なにをすればいいかわかってないんです。本物に残念ですよ。セルビアでは誰も握手を求められませんし、声をかけてくれる人はいません。誰一人です。私たちは無視されているんです。

――『ソドムの市』、『アレックス』、『アンチクライスト』、『マーターズ』の文脈で語られることについて

スパソイェヴィッチ:そうした意見は嬉しく思っています。この映画が人々にカタルシスをもたらしている鍵は“率直さ”にあります。私たちは程度の差こそあれ、鈍感になってしまっていますが、この映画は破壊的で荒々しく、また怒りに満ちていて、観る者を驚かせ足を止めてしまいます。全ての力強い芸術はそうあるべきです。そして、映画の最後のセリフに完全に打ちのめされた時は、私たちセルビア人のことを思ってみてください。この世界からの逃げ場は永遠にないと信じ込まされてきた私たちのことを。

 

スルジャン・スパソイェヴィッチ監督

この作品で衝撃のデビューを飾った監督スルジャン・スパソイェヴィッチは、パワフルな演出力を高く評価されて一躍ホラー界注目の鬼才となり、ホラー・オムニバス『ABCオブ・デス』(2012)の監督の一人にも選抜された。現在彼は『セルビアン・フィルム』が巻き起こした世界的な賛否両論や上映禁止運動などのセンセーショナルな騒動を追ったドキュメンタリーを製作中。

 

予告編

 

公式サイト

7⽉22⽇(土) ヒューマントラストシネマ渋谷、池袋シネマ・ロサ、シネマート新宿、アップリンク吉祥寺ほか全国公開

監督:スルジャン・スパソイェヴィッチ
脚本:アレクサンダル・ラディヴォイェヴィッチ
撮影:ネマニャ・ヨヴァノフ
出演:スルジャン・トドロヴィッチ、セルゲイ・トリフノヴィッチ、イェレナ・ガヴリロヴィッチ

セルビア/セルビア語/104分/カラー/シネマスコープ/DCP/R18/原題:A SERBIAN FILM 

配給:OSOREZONE、エクストリーム

©2010 CONTRAFILM

 

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