『ビリーバーズ』実現不可能ともいわれた漫画家・山本直樹の問題作を極めて忠実に実写化
作品の先鋭性によってカリスマ的人気を誇る漫画家・山本直樹が、1980年代から90年代にかけて大きな社会問題として顕在化した「カルト」的な宗教団体をモチーフに、その独自の感性と世界観で人間の欲望をあぶり出した問題作『ビリーバーズ』。
過激な内容ゆえ実現不可能ともいわれて来た伝説の作品の実写化に、近年『アルプススタンドのはしの方』(2020)『愛なのに』(2022)『女子高生に殺されたい』(2022)とヒット作を連発し勢いに乗っている城定秀夫監督が乗り出した。
城定監督は長年敬愛している山本への最大限のリスペクトを込め、原作の世界観を極めて忠実に映像化した。
主人公の「オペレーター」役を演じるのは、本作が映画初主演となる磯村勇斗。先日の第75回カンヌ国際映画祭にて「カメラドール特別表彰」を授与された早川千絵監督の『PLAN 75』にも出演。その他NHK連続テレビ小説『ひよっこ』(2017)や『ヤクザと家族』(2020)など、数々の話題作に参加し注目を集めている。ヒロインとなる「副議長」役には、バラエティにも出演するなど多方面で活躍し、本作オーディションでは「一生、女優として生きていきたい」と強い覚悟を語った22歳の新鋭、北村優衣。そして、名バイプレイヤーとして名だたる監督たちの作品に出演してきた宇野祥平が、もう一人の主要メンバーである「議長」役を演じる。
「みんなのために頑張りましょう」
一見平和的で協調性を感じさせるこの合言葉も、本作を観ていくとその言葉の裏にある異常さに気付かされていく。私利私欲を排除し、皆が同じ服装を身に纏い、「先生」の言葉を盲信してその指示通りに行動する。「ニコニコ人生センター」の会員にとって「先生」は神のような絶対的存在であるから、実際には自分にとって有害なものでも疑うことなく取り入れてしまう。この光景を見ると違和感を覚える人が少なくないだろうが、本人たちは至って真剣なのである。
物語が進むにつれて、孤島で生活する三人は奥底に秘めていた欲望を抑えきれなくなり、感情をさらけ出していく。本作では官能的なシーンも印象的であるが、決して下品ではない。むしろ清々しく透明感があって、一種の神聖ささえ感じられる。これらのシーンには、私たちのありのままの姿やその尊さを象徴する意図が込められているのかもしれない。三人はどこへ向かっていくのか。混迷を極める現代だからこそ、この結末に希望を見出したい。
城定秀夫監督
1975年生まれ。東京都出身。武蔵野美術大学在学中から8mm 映画を制作。同校卒業後、フリーの助監督として成人映画、Vシネマなどを中心にキャリアを積む。2003年に映画『味見したい人妻たち(押入れ)』で監督デビューし、ピンク大賞新人監督賞を受賞。その後 V シネマ、ピンク映画、劇場用映画など100タイトルを超える作品を監督。2016-2019年、4年連続でピンク大賞において「作品賞」を受賞。2020年公開の『アルプススタンドのはし方』がミニシアター系では異例の大ヒットを記録。初日満足度1位(Filmarks 調べ)、TAMA映画祭特別賞、「キネマ旬報」ベスト・テン第10位、「映画芸術」 ベストテン第3位、など数々の映画賞を獲得し、ヨコハマ映画祭・日本映画プロフェッショナル大賞で監督賞を受賞。その後、オファーが殺到し、2022年には瀬戸康史主演『愛なのに』(公開中)、田中圭主演『女子高生に殺されたい』(公開中)ほか、公開待機作品や撮影中の作品などを含め多数の作品を手掛けている。
原作者:山本直樹
1960年北海道生まれ。早稲田大学教育学部卒業。故・小池一夫氏主催「劇画村塾」に入塾し同人誌活動も行う。青年漫画誌での活動以外に、「森山塔」(もりやま とう)、「塔山森」(とうやま もり)名義で成人向け漫画も執筆。2010年、『レッド』で第14回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。1990年代から現代まで、コンスタントに作品が映像化され続けている山本直樹は、時代を越えて愛されるカリスマ性を持った作家の一人。世間からはみ出してしまった人間や、どうしようもない人間の性を独自の世界観で描き、30年以上も第一線で活躍する唯一無二の作家だからこそ、多くのクリエイターが魅了され、長きに渡ってその作品が映像化されているのだろう。
音楽:曽我部恵一
1971年8月26日生まれ。香川県出身。1990年代初頭よりサニーデイ・サービスのヴォーカリスト/ギタリストとして活動を始める。1995年に1st アルバム『若者たち』を発表。1970年代の日本のフォーク/ロックを1990年代のスタイルで解釈・再構築したまったく新しいサウンドは、聴く者に強烈な印象をあたえた。2001年のクリスマス、NY同時多発テロに触発され制作されたシングル『ギター』でソロデビュー。
2004年、自主レーベルROSE RECORDSを設立し、インディペンデント/DIY を基軸とした活動を開始する。以後、サニーデイ・サービス/ソロと並行し、プロデュース・楽曲提供・映画音楽・CM音楽・執筆・俳優など、形態にとらわれない表現を続ける。
ストーリー
とある孤島で生活をする二人の男と一人の女。「ニコニコ人生センター」という宗教的な団体に所属している三人は、オペレーター、副議長、議長と互いに呼び合い、無人島での共同生活を送っていた。瞑想、昨晩見た夢の報告、テレパシーの実験、といったメールで送られてくる不可解な指令”孤島のプログラム”を実行し、時折届けられる僅かな食料でギリギリの生活を保つ日々。これらは俗世の汚れを浄化し、”安住の地”へ出発するための修行なのだ。だが、そんな日々のほんの僅かなほころびから、三人は徐々に互いの本能と欲望を暴き出してゆき……。
予告編
公式サイト
7⽉8⽇(⾦) テアトル新宿、アップリンク京都ほか全国順次公開
原作:山本直樹『ビリーバーズ』(小学館「ビッグスピリッツコミックス」刊)
監督・脚本:城定秀夫
音楽:曽我部恵一
製作:藤本款、久保和明、直井卓俊
プロデューサー:原口陽平、秋山智則、久保和明
撮影:工藤哲也(JSC) 照明:守利賢一 録音:松島匡
衣裳:十河誠 ヘアメイク:重松隆 装飾:藤田明伸
助監督:山口雄也 制作担当:矢口篤史 編集:城定秀夫
整音:山本タカアキ 効果:小山秀雄
ラインプロデューサー:浅木大 キャスティング:伊藤尚哉
主題歌:曽我部恵一「ぼくらの歌」(ROSE RECORDS)
2022年/日本/カラー/5.1ch/シネマスコープ/118分/R-15
宣伝美術:寺澤圭太郎 宣伝協力:プリマステラ
制作プロダクション:レオーネ
製作:『ビリーバーズ』製作委員会
配給:クロックワークス SPOTTED PRODUCTIONS
© 山本直樹・小学館/『ビリーバーズ』製作委員会