『サクラマスのラストワルツ』その命が、帰りたいと思えるように。

『サクラマスのラストワルツ』その命が、帰りたいと思えるように。

2026-10-11 14:25:00

サクラマスの最期の踊り。
それはまるで、川に捧げる御神楽のようだった。

サクラマスへのほんの僅かな興味から本作を観た。
何の知識もなかったけれど、一匹の魚の背後に広がる壮大な宇宙と、そこに横たわる膨大な課題を垣間見て、こんな私にもできることはあるのだろうか、と気がつけば、腕を組み考え込んでいた。

エアコンの効いた快適な部屋で、パソコンの前に座る私にできることなど、ほんとうにちっぽけだろう。それでも、当たり前だと思っていたことを疑い、知り、いま自分にできることを模索しつづける。何かを変えるための一歩は、そんなところからはじまるのかもしれない。

この作品が、サクラマスを知らない多くの人にとって、地球と生きていくことを考える「はじめの一歩」になることを願って。

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川で生まれ、やがて大海へと旅立ち、再び生まれた川へもどるサクラマス。
産卵した直後に息絶えるその姿には、命をつなぐ生き物の圧倒的な尊さがある。

死体と化した母親の周りを泳ぎ回るヤマメ。
この命が帰りたいと思う川を、我々は守ることができるのだろうか。

一匹のサクラマスを追って見えてくるのは、魚の生態だけではない。

圧倒的な力を持ち、太古の時代から畏怖と祈りの対象だった自然。
恵みをもたらす一方で、ときに人の暮らしを脅かすそれと、人類は長い時間をかけて向き合ってきた。

水を利用するために川の形を変え、災害を防ぐために流れを変え、生きものを増やすために放流する。自然を理解し、管理しようと積み重ねてきた人間の営みは、すべてが間違いではなかっただろう。それでも、人間の都合を優先した施策は、自然の循環を変化させ、いま新たな課題となって我々に降りかかる。

「鱒を見て、川を見ず」

森から川へ、川から海へ。
水が巡り、流域を回遊するサクラマスが、川に帰ってこない。
その変化は、果たして流域だけの問題なのか。

水産技術研究所、大気海洋研究所、環境政策課、林業従事者、神社の宮司に科学館のスタッフ。異なる分野に身を置く大人たちが、それぞれの立場からサクラマスと向き合い、その命が再び川へと帰ってくる未来を模索している。

サクラマスを守ることは、その流域を、ひいては地球を守ることにつながっているから―。

自然という大きな存在を相手に、簡単には答えの出ない問いを抱えながら、試行錯誤を重ねる人々。その姿に、地球とともに生きていくための覚悟を見た気がした。

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自然を守る。よく聞く言葉だけれど、私たちは本当に「守る」側なのだろうか。

地球の上で生きながら、自然の力を抑え、危険を遠ざけようとしてきた我々人類。その先にあるのは、本当に共存なのか。

気の遠くなる道のりだとしても、絶えず問い続けることでしか、地球と生きていく術は見つからないのかもしれない。

(鈴木栞)

イントロダクション

『ミルクの中のイワナ』から2年ー。海から川へ遡上し、その流域で命を繋ぐサクラマス。
しかし近代化の波によって、その循環は断たれてしまった。私たちが引き換えにしたものとは何か。その本質に迫るドキュメンタリー。

前作となった『ミルクの中のイワナ』(2024)では、深山幽谷に生息する幻の魚「イワナ」を通じて、上流域の山間地域が抱えている様々な課題と向き合ってきた。
しかし、イワナたちが語りかけてくる問題は、決して上流域や川だけの問題ではなく、流域そのもののあり方を問われているのだった。その問いは、イワナからヤマメ、そしてサクラマスへ、引き継がれていくこととなった。

2024年に公開された映画『ミルクの中のイワナ』(坂本麻人 監督)で描かれた源流域に生息する幻の魚「イワナ」から「ヤマメ」へと問いを引き継ぐ本作は、森と海を繋ぐ「流域」を行き来するアジア固有のサケ科魚類 “サクラマス”と”ヤマメ”たちの生き様を通して、自然界と人間社会の関係性を問い直していく。

ストーリー

私たちは、どの地球と生きるのか。

川に生まれたヤマメは海へと旅立ち、やがてサクラマスとなって再び川へ帰ってくる。その旅路が森と海をつなぎ、流域の暮らしと文化を長い時間をかけて育んできた。
しかし近代社会の発展は、その往還を次第に阻んでいった。防災のために建設された数万基のダムが川と海を分断し、放棄された森林は災害のリスクを高めている。
地球温暖化対策として進められる再生可能エネルギーの開発もまた、自然と社会のあり方そのものを揺るがしていく。
経済発展の陰で失われつつある自然と文化の軌跡を、サクラマスの生き様を通して問いかけるドキュメンタリー。

サクラマス・ヤマメとは

河川で一生を過ごす残留型をヤマメ (山女魚)、海に降る降海型をサクラマス(桜鱒)と呼び、どちらも同じ種である。また河川で暮らす間は、サクラマスの幼魚もヤマメと呼ばれる。 日本では九州から北海道に広く分布、その他にも台湾からロシア極東のカムチャッカ半島などに生息している。西日本に分布する亜種のサツキマスも同様に、残留型をアマゴと呼んでいる。サツキマスやアマゴは、体側に朱点があるのに対して、サクラマス、ヤマメには、朱点がない。サクラマスは、別名として、ヤマベ、ホンマス、ママス、クチグロ、イチャニマス、エノハなどがある。英名は、マスサーモン、またはチェリーサーモン。

坂本麻人監督コメント

釣り人として魚と関わり続けるために。
または人間として自然と関わり続けるために。
私たちには何ができるのか。
本作では、流域における環境問題を単なる告発として描くのではなく、かつての人間社会の営みが、同時に不自然な世界を生み出していった複雑な現実を見つめます。しかし自然と社会の対立を強調するのではなく、そのあいだにある揺らぐジレンマを映し出し、サクラマスとの対話の可能性を探りたい。彼らの命の旅路を通して、自然と社会の関係をもう一度問い直す場をひらくこと。それが本作の出発点です。

坂本麻人監督プロフィール

大阪生まれ、東京在住。ドキュメンタリー作家・映画監督。
ドキュメンタリー映画『ミルクの中のイワナ』(2024)を監督。これまでに死生観をテーマとした映像作品や美術展『END展』のクリエイティブディレクターを務めるほか、2021年より岩手県・遠野にてスタートした民俗文化をめぐるツアー「遠野巡灯篭木」のプロデューサーとして活動。また、代表理事を務める一般社団法人Whole Universeでは、科学技術振興機構(JST)社会技術研究開発センター(RISTEX)の研究領域「人と情報のエコシステム (HITE)」のメディア戦略に携わるなど、自然科学・人文科学などの分野を横断したサイエンスコミュニケーションをテーマに活動している。









アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

2026年/日本/95分/ドキュメンタリー/日英字幕
監督・編集・構成:坂本麻人
出演:長谷川功(水産研究・教育機構 水産資源研究所)、森田健太郎(東京大学大気海洋研究所 教授)、佐藤拓哉(京都大学生態研究センター 教授)、坪井潤一(国立研究開発法人 水産研究・教育機構)、大熊孝(新潟大学 名誉教授)、福永真弓(東京大学 新領域創成科学研究科 教授)、中村太士(北海道大学 名誉教授)、卜部浩一(北海道立総合研究機構 さけます・内水面水産試験場)、余語滋(公益財団法人 山形県水産振興協会)、有賀望(札幌市豊平川さけ科学館/札幌ワイルドサーモンプロジェクト)、島田克也(日本環境アセスメント協会 会長) 他
監修:森田健太郎
構成協力:若林輝
撮影:田中和也、山口雄太郎、澤木亮平、奈良悠生
水中撮影:山内創、知来要、草川城樹、足立聡
音楽:Daisuke Tanabe、Yosi Horikawa
キーアートワーク:永沢碧衣
アニメーションイラスト:Paul Vecsei
企画・配給:一般社団法人 Whole Universe
配給協力:株式会社 weroll
製作:THE LIGHT SOURCE
©️ 2026 Whole Universe Association