『3670』鍾路3街駅、6番出口、午後7時。0の先にある幸せを探して。
北から南へ、孤独から出会いへ。
人生が動き出す、その瞬間を鮮やかに映し出す。
大学生の頃、鍾路3街は住んでいたマンションから地下鉄で数駅のところにあった。
いくら隣の国とはいえ、18歳でひとり海外へ渡るのは怖かったことを、今でも鮮明に覚えている。心もとなさのつきまとう大学生活を支えてくれたのは、国籍も性別も年齢もバラバラな友人たち。
私たちの共通点は、それぞれに夢や目標を抱え、海を渡ってソウルへやってきたこと。生まれ育った環境は違えど、どこか似た淋しさを抱えている留学生たちと過ごす時間は、いつしか確かな居場所になっていた。
同じ街の、同じ時刻。私が友人たちと過ごしていた日常の平行線上に、「二重のマイノリティ」を生きるチョルジュンの居場所もあったのかもしれない。
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本作『3670』の主人公は、北朝鮮から脱北してきたゲイの青年・チョルジュン。脱北者のコミュニティに引け目を感じながらも、韓国社会に居場所を見いだせないでいる彼の姿は、複雑に絡み合う感情を纏い窮屈なグレーに染まっている。
大学進学を志し、必死に勉強を重ねながら、祖国の両親を思い、アルバイトに励む毎日。
代わり映えのない彼の日常を変えたのは、ゲイ・コミュニティで出会ったヨンジュンだった。
鍾路3街駅、6番出口、午後7時。「参加するなら最後に+1を」。
3641 3642 3643...
次々と4桁の数字が送られてくるグループチャット。
街灯のない細い路地を孕んだそこは、外側の静けさを跳ね返す妖艶な光を放ち、繋がりを求めるゲイの若者たちで溢れている。参加メンバーの入れ替わりの激しさは、社会との摩擦を象徴するようで心を抉られるけれど、孤独を抱えた青年が一人の友人と出会い、少しずつ色彩を帯びていく道程は、淡い雪解けのようでもあった。
はじめての場所に一歩踏み出すときの、緊張や恐れ。
不安定なその感情を、あなたもきっと知っているのではないだろうか。
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撮影は、すべて実在のゲイ・コミュニティで行われたという。
急速に変化していく韓国のLGBTQ+コミュニティ。1年も経てば街の風景が変化する鍾路という場所で、たしかに息をしていた彼らの居場所が、圧倒的なリアルを纏って、スクリーンに映し出される。
パク・ジュンホ監督は、本作を観た多くのゲイの方々から「あまりに自分事で恥ずかしくなってしまった」という声が寄せられたと語っている。
これまで、映像に収められる機会に恵まれてこなかった脱北者コミュニティとLGBTQ+コミュニティ。
「二重のマイノリティ」という設定に、つい劇的な何かを想像してしまいがちだけれど、そこに映し出される彼らの日常は、思っているよりもずっと、私たちの日常と地続きなのかもしれない。
だからこそ――。
駅の階段の前、笑い合うチョルジュンとヨンジュン。
二人が選んだ結末を知ったあとでその姿を見ると、焦がれた胸が苦しくてたまらない。
(鈴木栞)
イントロダクション
世界各国で19の賞に輝いた、心揺さぶるヒューマンドラマ
本作は、脱北者でありゲイであるという「二重のマイノリティ」を生きる若者の姿を通して、韓国で生きる脱北者の日常や葛藤、ゲイとして生きる不安や戸惑いを、具体的な手触りをもって描き出すヒューマンドラマである。時に残酷で、時に優しく、そしてどこかユーモラス。居場所のない世界で不器用に生きながら、それでも誰かとつながろうとする姿に、胸を締め付けられる。誰もが経験する「初めての一歩」に、共感せずにはいられない。
2025年、サンフランシスコ国際映画祭でワールドプレミアを迎え、全州国際映画祭にて四冠を受賞。韓国公開時には、独立・芸術映画(韓国映画)部門にて複数日にわたりランキング首位を記録するなど注目を集め、その後もミラノ、バンクーバー、パリ、パームスプリングスなど世界各地の映画祭で主要賞を受賞。さらに青龍映画賞ノミネートを経て、第62回百想芸術大賞映画部門・最優秀新人監督賞を受賞するなど、韓国国内外で高い評価を受けた話題作である。静かな語り口の中に、アイデンティティや理解、「共に生きること」の意味を問いかける。
制作背景
脱北者を『過去』だけで規定してはいけない
『3670』は、パク・ジュンホ監督が大学生時代に約3年半にわたり経験した、脱北した若者たちへの支援ボランティアから直接的な養分を得て生まれた作品である。
学生たちと過ごす時間の中で監督が気づいたのは、「脱北者を『過去』だけで規定してはいけない」ということだった。
メディアが描きがちな劇的な「過去」ではなく、韓国で「現在」を生きる人物として彼らを描きたい——それが本作の出発点となった。
脱北者であり、ゲイでもあるという「二重のマイノリティ」の設定は、その延長線上で生まれた。
「もしゲイの脱北者が韓国のゲイ・コミュニティの中で生きていくなら、どのような経験をするのだろうか」——
その問いから、二つのコミュニティを一つの映画の中で並置して描くという、本作の構想が立ち上がった。
撮影は、すべて実在のゲイ・コミュニティのロケーションで行うことが原則とされた。年々急速に変化していく韓国ゲイ・コミュニティの風景を、忠実に記録に残しておきたい——そんな監督の思いが、本作には込められている。
ストーリー
鍾路3街駅、6番出口、午後7時。
誰かと笑えた、その日から世界は変わりはじめた
北朝鮮から脱北したゲイの青年チョルジュン。彼は、脱北者同士の強い絆に支えられながらも、自らがゲイであることを隠したまま、深い孤独を抱えていた。韓国社会にも脱北者コミュニティにも、完全には居場所を見出せずにいた彼は、やがてソウルの活気あるゲイコミュニティへと足を踏み入れる。そこで出会ったヨンジュンとの関係をきっかけに、初めての仲間、初めてのつながりを得ながら、少しずつ世界を広げていくが――。
パク・ジュンホ監督コメント

他者の中に、自分自身を発見する
北朝鮮脱北者コミュニティとLGBTQコミュニティは、紛れもなく私たちの社会に存在している。しかし、その姿はスクリーンにほとんど映し出されてこなかった。この懸念こそが、映画『3670』の着想を生んだ。この映画は、他者の中に自分自身を発見することについての物語だ。互いへの理解をほんの少しでも深めることができるなら、作り手として、この上ない喜びとなるだろう。
パク・ジュンホ監督プロフィール
韓国・麗水出身。韓国芸術総合学校にて映画演出を専攻し、在学中に短編映画『Almond: MyVoice is Breaking』(2017)、『EUNSEO』(2019)を制作。脚本家として活動した後、長編デビュー作『3670』(2025)を発表した。本作で第62回百想芸術大賞・映画部門最優秀新人監督賞を受賞。














アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開
2025年/韓国/124分/カラー/シネマスコープ(2.39:1)/5.1ch
監督・脚本・編集:パク・ジュンホ
出演:チョ・ユヒョン、キム・ヒョンモク、チョ・デヒ、ペ・ハンソル、イム・ジヒョン、チョン・ドゥシク、ハ・スンウ、ユン・ソル、ハン・サンジョ、チャ・ミギョン、キム・ジンイ
配給:ショートレッグフィルム
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