『undo + PiCNiC』岩井俊二監督初期2作品。リバイバルしない永遠の──。
自転車を失くしてしまったとき、『四月物語』で松たか子演じる卯月が乗っているあの自転車をネットで特定し、本気で探した。(結局、自転車は撤去所に移送されていることが分かった)。それくらい、私たちは知らず知らずのうちに彼の世界に憧憬を抱いていて、やっぱりみんな、心のなかに少なくとも一つは、自分なりの「岩井俊二性」を飼っているのではないだろうか。
1994年の山口智子とChara。山口智子は『undo』で身の回りのすべてを紐で縛りつけるという奇妙な神経症を発症する萌実を、Charaは『PiCNiC』で、親に捨てられ精神病院に入れられたココを演じている。当時20代だった彼女たちは映画の中で、蠱惑的で、刹那的に美しい。しかしその美しさはどこか退廃的でもある。
生成りの糸で自分の両腕、夫のハサミや本、家中のものを縛りつける萌実。
カラスを掴み黒い羽をむしり、手作りのベストに縫い付けるココ。
決して、希望のほうへまっすぐには進んでいけない二人。萌実とココ、どちらになるほうがマシだろう。と考えてしまう。
監督自身、「ここまでカルト的な作品は作ってこなかった」と振り返るほど、『undo』と『PiCNiC』の2作には閉じた世界への執着のようなものが見える。
今年、監督の30周年を記念して、『undo』『PiCNiC』、そして『スワロイテイル』が4Kリマスター化された。「リバイバル上映」と呼ぶのかもしれないけれど、もう一度スクリーンで観るとき、以前と変わらずにうずく箇所が、身体のどこかに消えずにあることを知る。あのフレアは幻のような過去ではなかったし、逆光は眩しすぎて見えない未来ではなかったと。永遠はリバイバルしないから。
(小川のえ)
イントロダクション
『undo』
山口智子と豊川悦司共演のこの一風変わったラブストーリーは、1994年10月にシネスイッチ銀座にて 1 週間限定公開されるや否やレイトショーながら連日長蛇の列が発生し銀座を騒然とさせた。さらに翌年、95年8月のテアトル新宿でのロードショー公開においては劇場動員記録を塗り替えるヒットを記録し、再上映を求める声が殺到した。

『PiCNiC』
1994年の夏に撮影されながら1996年6月に公開されるまで、その謎めいた存在が伝説と化していた。後の『スワロウテイル』へとつながる〈岩井俊二監督×Chara〉初タッグの作品。

『undo』ストーリー

アトリエのような住まいで暮らす萌実と由起夫。
ある時、萌実は身の回りの物をヒモで縛りつけるという不可解な行動をとるようになる。ペットの亀を縛り、編み物をする自らの手を縛る萌実を危惧し、萌実を精神科医のもとへ連れて行く由起夫。診察を受けたところ“強迫性緊縛症候群"の診断を下された。症状は進行し、萌実はついに目に見えないものまで縛り始めるのだった。
脚本・監督:岩井俊二
出演:山口智子、豊川悦司、田口トモロヲ
撮影:篠田昇
美術:細石照美
音楽:REMEDIOS
日本初公開日:1994年10月7日 / 日本 / カラー / 47分
©FUJI TELEVISION/PONY CANYON
『PiCNiC』ストーリー

どんよりとした街にたたずむ精神病院で出会ったココとツムジとサトル。
施設を取り囲む塀の外に出ることを禁じられていた三人だったが、「塀の外に出なきゃいいんでしょ。塀の上なら、いいのよ」というココの提案に、塀の上をつたい街中へと歩き始めるのだった。
地球の最後を見届けるために―。
脚本・監督:岩井俊二
撮影:篠田昇
照明:隅田浩行
美術:細石照美
音楽:REMEDIOS
出演:Chara、浅野忠信、橋爪浩一
日本初公開日:1996年6月15日 / 日本 / カラー / 72分
©FUJI TELEVISION/PONY CANYON
岩井 俊二監督コメント

当時、ドラマや映画ではできない、ちょっと変わった企画というお題目の下とにかく自由に、クリエイティブの翼を広げて創作したのが、『undo』と『PiCNiC』でした。
改めて見返してみると、ここまでカルト的な作品は、意外とあんまり作ってこなかったなと、もっと作るべきだな、とそんな思いにさせられました。
撮影が16mm で、かつ実験的に増感現像や減感現像を施してもいて、リマスター作業も苦心しましたが、納得できる仕上がりになりました。
改めてみなさんの目にどう映るか非常に楽しみです。
岩井 俊二監督プロフィール
1963年生まれ、宮城県出身。1988年よりドラマやミュージックビデオ等で活動し、93年 「打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?」で日本映画監督協会新人賞を受賞。 『Love Letter』(95)、『スワロウテイル』(96)、『四月物語』(98)、『リリイ・シュシュのすべて』(01)、『花とアリス』(04)、『花とアリス殺人事件』(15)、『リップヴァンウィンクルの花嫁』(16)、『ラストレター』(20)、『キリエのうた』(23)などを手がけ、国内外で高い評価を得る。2025年には長編映画監督30周年を迎えた。小説家、音楽家、プロデューサーなど多彩なジャンルでボーダーレスに活動している。
アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開