『グルスポングの奇跡』はじまりも終わりもない奇跡の物語
この物語のはじまりは一体どこで、奇跡とははたして何を指すのか。
遊園地で乗り込んだくじら型のアトラクションで怪我をしなければ? あの家のキッチンの壁に静物画が3つ、掛けられていなければ? ドキュメンタリーにしてもらおうなどと思わなければ?
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「私たち姉妹が経験した奇跡について、あなたにお話したいんです」。
スウェーデンの片田舎、グルスポングに住む妹・カーリを訪れていた姉マイは、妹宅での療養中、このままこの街に住んでもいいかもしれないと、家探しをはじめる。長年思い描いていたそのもののような家を見つけ、家主の女性オーウラグと対面すると、驚くことにその家主は30年前に死んでしまった姉リータに瓜二つで、聞けば生年月日も同じ。そして遂にDNA鑑定の結果、彼女たちは血のつながった姉妹であり、オーウラグとリータは双子であることが判明する。
「その素晴らしい物語を聞きたい」。
マリア・フレデリクソン監督は人口1000人ほどの小さな町を訪れ、彼女たちの”奇跡”を記録するべく、撮影をはじめる。しかしカーリとマイが監督に差し出した”素晴らしい物語”は、オーウラグの出自をたどり、リータの死の真相に近づいていくにつれて、その様相をみるみる変えていく。
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1941年2月9日。ノルウェーで双子の姉妹が誕生する。しかし当時、ナチス政権の占領下にあったノルウェーでは、双子は人体実験の対象とされる危険があったために、一人目の赤ん坊はくるみに包まれたまま、死産として扱われてしまう。そして47年後の1988年7月29日。双子のもう一人が自らの命を断つ。
一人がオーウラグで、もう一人がリータだ。
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80歳にしてはじめて、オーウラグは生まれた直後に死んだとされた自分自身について知り、すでに本当に死んでしまった双子のもう一人を自分に重ね合わせる。新たな家族との邂逅に驚き、喜び、迷う。「ここに私の居場所は残されているのだろうか」。
カーリとマイに出会わなければ。運命的な出会いとその行く末。いや人の選択や作為も含めて運命であるというどうしようもなさ。
時間を巻き戻せるとして、どこまで戻ったなら、この奇跡が起きずに済んだのだろう。そう考えてみても、奇跡と名付けられたこの物語は、起こらないことにはできなかった、という気もするのだ。しかもこの物語には、めでたし、めでたしのおしまいどころか、何度もつづきがやって来る。
ここで多くを語ることは憚られるけれど、知りたいと願っていた真実は重く茫漠と広がる雲の姿をして、当事者となった者たち、監督までもを覆っていく。真実に近づいていくほどに、視界は悪くなっていく。
オーグラウから監督への本編中の最後の電話。そこで語られることに、分厚い雲が世界の果てまでつづいている様を見たような気がした。
(小川のえ)
イントロダクション
2023年トライベッカ映画祭でプレミア上映され、翌年スウェーデンのアカデミー賞にあたるグルドバッゲ賞で最優秀ドキュメンタリー賞を受賞した衝撃の実話。
これまで女性の視点から社会や人間関係を見つめる作品を数多く手がけてきたマリア・フレデリクソン監督の、待望の長編デビュー作である。
家探しの途中、“神の啓示”のような絵画を見つけたノルウェー人姉妹が、偶然、 亡き姉に瓜二つの女性と出会う。さらに奇跡のような偶然が重なり、姉妹はこの出来事を記録に残すため、フレデリクソン監督に「映画にしてほしい」と依頼したことから、本作の制作が始まった。
スウェーデンとノルウェーの国境を越えて紡がれる再会の記録は、やがて信仰と血縁、そして「真実とは何か」という根源的な問いへと発展していく。
ドキュメンタリーでありながらスリラーのように緻密で、痛切に人間的。偶然の出会いが“奇跡”へ、そして“混乱”へと変わっていき、観る者は現実と虚構の境界を見失っていく⸺。
ストーリー
スウェーデン在住の妹カーリを訪ねていたマイは、遊園地の乗り物で事故に遭ってしまう。
怪我の療養中、気分転換にと2人はスウェーデンの小さな町グルスポングで家を探し始める。
理想の家を見つけた2人は、売主の女性オーウラグと対面した瞬間、息を呑む。彼女は、何年も前に自ら命を絶った姉リータに瓜二つだったのだ。
やがて、オーウラグはマイとカーリの異母姉妹であり、リータの双子の姉であることが判明する。
1940年代、ナチス・ドイツ占領下のノルウェーでは、双子は人体実験の対象として狙われる危険があり、オーウラグはその運命から逃れるために誕生時に“死亡”と偽られ、別の家族に託されたのであった。
奇跡の再会に酔いしれたのも束の間、家族の間にはやがて軋みが生まれ、封印されてきた痛ましい真実が少しずつ明らかになる。
そしてこの出会いは、3人の人生だけでなく、亡きリータの死の真相までも揺るがしていく。
マリア・フレデリクソン監督インタビュー
©Filip Powidzki Casserblad
⸺一体、この物語はどこに向かっていくのだろうとドキドキしなら本編を見ていました。監督自身は、どのような気持ちでこの奇妙な家族の物語を追っていたのでしょうか?
いま改めて振り返ってみると、かなり非日常的な日々だったと思います。この物語を追っていた間の私の感情と言えば、驚き、喜び、苛立ち、怒り、絶望、心配、疲労など、ありとあらゆるものが入り混じっていました。
しかしドキュメンタリー監督として、この物語が私の元に届いて、これほど密着して取材する権利をもらえたことに、何よりも深い感謝の気持ちを抱きました。
撮影に臨む際、撮影監督のピア・レーと「何を撮影したいか」という明確なメージを持っていたにもかかわらず、実際に起こったことに驚かされる場面が何度もありました。時には「これは本当に映画として成立するのだろうか」と不安になることもありました。
「すべての疑問を解消し、伏線を回収できなければ、映画は完成しないのでは」と、何日も眠れない夜を過ごしました。
⸺今でも彼女たちとの関係は続いているのでしょうか?
映画制作中ほどではないものの、今でも電話で話したりはしています。
あの4年間は少なくとも週に1回はそれぞれと連絡を取っていました。今でこそ頻度は減りましたが、彼女たちから近況を聞くのはいつだって楽しいです。
カーリとマイはグルスポングではちょっとした有名人になっていて、今では地元のピザ屋に「ミラクルピザ」というメニューがあるほどなんです。
マリア・フレデリクソン監督プロフィール
2012年、ストックホルム芸術大学で芸術学の修士号を取得。ニューヨークフィルムアカデミーで映画制作を学ぶ。Hot Docsカナディアン国際ドキュメンタリー映画祭、Visions du Réel、シェフィールド国際ドキュメンタリー映画祭、パームスプリングス国際映画祭などのさまざまな国際映画祭で短編ドキュメンタリーを上映してきた。長編デビュー作である『グルスポングの奇跡』は2023年にトライベッカ映画祭にてプレミア上映が行われ、2024年のスウェーデン・アカデミー賞〈グルドバッゲ賞〉では見事、最優秀ドキュメンタリー映画賞に輝いた。女性だけで設立された制作会社であるBallad Filmの創設者のひとりである。






アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開
監督:マリア・フレデリクソン
出演:カーリ・クロー、マイ=エーリン・ストーシュレットゥン、オーウラグ・バッケヴォル・オストビー 他
原題:Miraklet i Gullspång|スウェーデン・ノルウェー・デンマーク|2023年|114分|カラー|ノルウェー語・スウェーデン語|フラット|5.1ch|G
日本語字幕:常磐彩|字幕監修:青木順子|後援:スウェーデン大使館、ノルウェー大使館、デンマーク王国大使館|配給・宣伝:カルチュアルライフ
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