『平行と垂直』兄と妹。ふたりのあいだに、ともる灯り。
“今日、日が明けてまた今日
また日が明けてまたしても今日。
僕たちは毎日微々たる成長しかないかもしれないけれど
誰かが誰かにおもいやりを持って生きてくれるだけで
どれだけ心強くあったかくて、泣けてくるか。”
安田章大
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この日常は、奇跡なのだ。
きれいごとに聞こえても、月並みな表現でも、紛れもなく。
自閉スペクトラム症(ASD)の兄・大貴とカウンセラーとして働きながら兄を支えてきた妹・希。
当たり前に続いてきた日常は、希の結婚話を機に、ゆっくりと動きはじめる。
これまでと同じではいられない。それぞれの未来を考えなくてはいけない。
「ふたりの世界」が少しずつ広がりを見せるとき、数多の「平行」と「垂直」が交じりあい、支え合い生きてきた兄妹は、ほんの少しずつ、形を変えて前に進んでいく。
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複雑な社会を生きていくうえで、自分を表す言葉や、だれかを理解するための言葉は、ときに大切な手がかりになる。けれど、相手の人生を見つめるとき、言葉にできることはちっぽけで、そこからこぼれ落ちてしまうもののほうが、ずっと多いのかもしれない。
「心の声がききたいって、ずっとそう思っていました」
兄との未来に不安をおぼえ、希がこぼした本音は、だれもが一度は抱いたことのある感情ではないだろうか。
大切に思うほど、すれ違うことがある。
守りたいと思うほど、相手の選択を狭めてしまうこともある。
そのことに気がつくのは、相手を思う気持ちが大きいほど、苦しいのかもしれない。
けれど、支えていると思っていた兄に、実は自分も支えられていることに気がついたとき。背中を預け合うふたりの姿には、言葉ではかることのできない絆と、ともに歩いてきた時間が刻まれていた。
障がいがあること、ないこと。
兄であること、妹であること。
さまざまな言葉で括ってしまうこともできるふたりだけれど、いつしかそんな輪郭を越えてともに生きる姿は、暗い部屋で灯り続ける常夜灯のように、そっと観る者の心を照らす。
そんな寛容な世界に抱かれ、淋しくて、ちっぽけで、いじらしいわたしたちもまた、今日を生きている。
「平行と垂直」の世界にともる灯りが、いつしかわたしたちの日常とも交差していることに気づかないまま。
またやってくる今日の、その奇跡を、ときに忘れながら。
(鈴木栞)
イントロダクション
兄と妹、それぞれの“これから”が交差するとき
浮かび上がる、お互いを想う気持ち
兄と妹は、まるで“平行”と“垂直”。交わらないようで、確かに支え合って立っている――。『平行と垂直』は、自閉スペクトラム症の兄・大貴と、結婚を控えた妹・希が、人生の節目にそっと触れ合いながら、自分たちの“これから”を見つめ直す物語だ。
清掃の仕事に就き、周囲のサポートを受けながら自立した生活を送る大貴(安田章大)。カウンセラーとして働きつつ、兄を支えることを当たり前としてきた希(のん)。変わらないと思っていた日常は、希の結婚話をきっかけに静かに揺れ始める。支えてきたつもりの妹、支えられていると思っていた兄。ふたりは初めて、お互いの存在がどれほど自分を形づくってきたのかに気づいていく。人生の転機は、過去と未来の両方を照らし出す。そこに浮かび上がるのは、言葉にしなくても確かに続いてきた“きょうだい”の絆だ。
安田章大、初の企画作品で光る
俳優たちの誠実な演技と確かな演出
企画段階から参加した安田章大は、山野海によるオリジナル脚本に深く心を動かされ、大貴役に真摯に向き合った。専門家のレクチャーを重ね、丁寧に役を掘り下げたその姿勢は、作品の核となる“人を想うこと”の真実味を支えている。一方、希を演じるのんも、実際に障がいのあるきょうだいを持つカウンセラーから話を聞き、役に息を吹き込んだ。
監督は『毎日かあさん』、『マエストロ!』などで温かな人間ドラマを紡いできた小林聖太郎。大阪・堺を舞台に、ささやかな日常の中に潜む“支えること/支えられること”の揺らぎを、やわらかく、確かな眼差しで描き出す。
そして、物語を締めくくるのは、安田章大が推薦した浮(ぶい)による書き下ろしの主題歌「話そう」。安田章大もコーラスに参加し、これからも続いていく日々に余韻を残す。
忘れがちな思いやり、気づかぬうちに交わしている優しさ。本作は、そんな日常の奥にある小さな光をそっとすくい上げる。胸が温かくなる今年最高の感動作。
ストーリー
ずっと、ふたりで生きてきた
大阪。ある早朝、日向大貴(安田章大)はきっちりと背負ったリュックを揺らしながら、静かな商店街を歩き、阪堺電車の綾ノ町駅から仕事に向かう。自閉スペクトラム症のある大貴は、清掃の仕事に就き、曲がり角や路面の模様に足を合わせて直角に曲がるほど、世界を“平行と垂直”で捉えている。古いビルの廊下を丁寧に掃除し、トイレットペーパーも寸分違わず並べる。そんな几帳面さが、彼の生活を支えていた。
妹の希(のん)はカウンセラーとして働き、寝癖をつけたまま慌ただしく出勤する日もあるが、相談者には真摯に向き合う。兄妹ふたりは長年、互いを支え合いながら生きてきた。
希は恋人の雅也(伊島空)から突然のプロポーズを受ける。だがその喜びは、兄との関係に新たな問いを投げかけることでもあった。
希の結婚と、大貴の自立、そしてふたりの絆。平行線のようにも見えていた兄妹それぞれの幸せは、果たしてどのような新しい交わりを見せていくのだろうか......?
小林聖太郎監督コメント

世界はますます余裕をなくし相互扶助から遠ざかっていくばかりですが、
人の善性を「偽善」だと大声で糾弾する「ホンネ」の荒波に呑まれるがままに
「(経済的に)役立つものにしか存在意義はない」と嘯(うそぶ)くのはもう沢山です。
様々な困難を抱えた人と人とが、
葛藤を抱えたり小競り合いを繰り返しながらも共に歩むことができるよう、
この作品がその一助となればこの上ない幸せです。
小林聖太郎監督プロフィール
1971 年 3 月 3 日生まれ、大阪府出身。
98 年から劇映画の助監督として幅広く活躍。中江裕司、行定勲、井筒和幸、森崎東、根岸吉太郎など、多くの監督のもとで経験を積み、06 年、大阪・十三の映画館第七藝術劇場の復活記念 DV 作品『かぞくのひけつ』で劇場公開作デビューを果たし、第 47 回日本映画監督協会新人賞、新藤兼人賞を受賞。『毎日かあさん』(11)では第 14回上海国際映画祭アジア新人賞部門で作品賞受賞。その他の主な監督作品に『マエストロ!』(15)、『破門 ふたりのヤクビョーガミ』(17)、『初恋 ~お父さん、チビがいなくなりました』(19)などがある。



アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
2026年/日本/118分/5.1ch/ヨーロピアンビスタ/カラー/デジタル)
監督:小林聖太郎
原案・脚本:山野海
出演:安田章大、のん、伊島空、高山トモヒロ、谷村美月、福田転球、芦川誠、早織、久保田磨希、河野咲良、髙田幸季、武藤凪、林英世、神野三鈴、菅原大吉
配給:東映ビデオ
©2026「平行と垂直」製作委員会