映画『トロフィー』の作り方を教えてください【 90分ロングインタビュー】孫明雅監督×小出大樹プロデューサー×内田麻菜美宣伝プロデューサー

映画『トロフィー』の作り方を教えてください【 90分ロングインタビュー】孫明雅監督×小出大樹プロデューサー×内田麻菜美宣伝プロデューサー

2026-09-01 12:18:00

映画『トロフィー』公開90分インタビュー 

収録日:2026年8月5日
聞き手:浅井隆(アップリンク代表)
作品:映画『トロフィー』(2026年/日本/103分) 
監督・脚本:孫明雅 
製作・配給:K2 Pictures
企画:分福 
2026年7月10日よりテアトル新宿ほか全国36館で公開

 

孫監督:孫と申します。90分っていうので、かなり長いですね。

小出:プロデューサーの小出と申します。本日はお越しいただきましてありがとうございます。1時間半あると聞いて結構驚いています。「割と結構突っ込んだ質問をされる」と思っているのですが、僕自身、10年前にアップリンクのワークショップを受講していました。このような機会が持てて、沢山のお客さんにも来ていただいて嬉しいです。よろしくお願いします。

内田:『トロフィー』の宣伝プロデューサーをしております、内田と申します。本当にたくさんの方に見ていただいていて、日々、感想とかを監督と一緒に見ているんですけれども、本当に嬉しく思ってます。今日はよろしくお願いします。

浅井:公開インタビューに来てくださり、本当にありがとうございます。

今日のテーマは主に映画制作、配給についてのお金の部分をお聞きしたいと思います。まず最初に、孫監督は西川監督とか是枝監督の助監督ではなく、監督助手をされていたそうですね。その前に、監督助手と助監督は何が違うんですか?

分福(ブンブク)という会社と、特殊なポジション「監督助手」

孫監督:私が所属している会社が分福って言うんですけど、分福でできた新しいポジションというか、あんまり他にはないポジションなんですよね。是枝さんも西川さんも企画、脚本、監督、編集とか全部一人でされるじゃないですか。
助監督は、スケジュール通りに前に進めていかないといけない。監督助手はあえてそういう責任を負わないポジションで、すごく無責任に監督に意見を言っていくんです。ただ、トンチンカンなことを言ってると、冷たい目で見られるんですね。「あいつ邪魔」っていう感じで。なので、やっぱり芯を突いたことを言っていかないとダメなんです。

浅井:監督助手は、準備段階から監督のそばにいるの?

孫監督:そうですね。私は西川さんの『すばらしき世界』が一番最初についた作品ですが、シナリオを書くための取材をまずアレンジして、その取材にも同行して。それで書き上がったシナリオを「これどう思う?」と聞かれます。

浅井:プロデューサーより先に最新稿を読むのですか?

孫監督:プロデューサーと同じタイミングで読んでいました。

浅井:監督と対等な目線で意見を言えるんですね。

孫監督:言っていいことになってます。

浅井:次に撮影の準備に入る。キャスティングが進んでいき、衣裳部さんとか撮影部さんとの打ち合わせとか、そういう場にも監督の横にいる?

孫監督:そうです。本当にずっと、ロケハンとかも、衣裳打ち合わせとかもずっと居ます。ロケハンで登場人物の家とか見た時に、「それだとちょっと裕福すぎるんじゃないか」とか、そういう意見を出したりしていました。一歩間違えると、助監督さんに煙たがられるんですよ。助監督さんは仕事を進めるために早く決めたいので。ロケーションを担当する制作部の方も、すぐにでもロケーション決めたい中で、「ここはちょっと違うと思う」と言うと、「お願いだから黙ってて」と思われることもあります。

浅井:「監督がそれでオッケーって言ってるからいいじゃないか、なんで監督助手がとやかく言うんだ」って言われないんですか?

孫監督:そう言われることはあるんですけど、結局、助監督も監督助手もいいものを作りたいっていうのは一緒なので、そこが合致してれば結構うまくいきます。

浅井:実際に撮影に入ってカメラを回していくと、監督から「今のテイクどうだった?」と聞かれるんですか?

孫監督:「どうだった?」って聞かれるというよりかは、例えば撮影が始まる前に「カメラポジションはこっちの方が面白いんじゃないですか」ってアイディアを出したりして。監督やカメラマンが「そうかも」って納得してくれたら採用されるみたいな。

浅井:監督助手として、西川さんの他に誰につきましたか?

孫監督:是枝さんの『ベイビー・ブローカー』、韓国での撮影ですね。

浅井:監督助手から見て、二人の違いは何ですか?

孫監督:西川さんは責任感が強いと思います。だから、監督が全部決めないと、スタッフに負担が押し寄せるって分かっているので、ちゃんと決めて、そこに向かって準備していくっていうタイプで。是枝さんの方がギリギリまで決めなくて、スタッフのアイディアをずっと募集しながら作っていく。

小出:プロデューサーとしてみれば、「ここは決めてほしい」という状況で、監督助手の方に言われると「うっ」って感じるのですが、核心を突かれたりします。そもそも、現状の業界では、企画から仕上げまで全部を経験できる、見習いのポジションがなかなかないと思います。そうなった時に、監督を育てるためのポジションとしても必要だと思うんですよね。分福において、監督になっていくためのシステムであると理解してます。

孫監督:本当にちょっと前、分福以外の監督の現場に記録(スクリプター)というポジションとして入った時のことなんですけど。私は「記録兼監督助手」っていうのを西川組の現場でやっていたんです。それで、記録を取りながら監督助手として監督に意見を言うことが当たり前だったので、その現場でも意見を言ったら「は?」みたいな反応が返ってきました。その監督にずっと師事してきた助監督ですら監督に意見を言わないんですよ。もう全部監督が決めるので。「この人のお芝居って今の感じで大丈夫ですか?」って聞いたら、びっくりされてて。「あ、そっか、ここは別の現場なんだ」だと思いました。

浅井:制作現場的に記録も兼ねているのは、記録の分のギャランティを監督助手と合体させているということですか?

孫監督:正直そういうわけでもないです。撮影したものを監督がチェックするためのモニターがあるんですけど、その前に居る理由付けとして何か役割があった方がモニターの前に居やすいんですよね。だから記録という役割を兼任して、監督助手としてモニターを見て監督に意見を言っていくことをやっていました。

小出:分福さんと今年公開作品として4作品をご一緒していまして、プロデュースしているのですが、是枝監督の作品では記録の方もいて監督助手の方もいるという現場もあるので。必ずしも、記録を兼ねるのが監督助手というわけではないと思います。

浅井:是枝さんや西川さんたちの本心は「若い監督を育てる」っていうことですね。

小出:そうですね。ひとつの作品を企画の頭から完成まで監督の近くで見れるというのが監督助手ですね。

浅井:確かに撮影が終わって編集作業になると、撮影現場のスタッフは一度解散になる。全く新たなスタッフと監督でポスプロの作業が始まる。撮影現場にいた助監督もいなくなっちゃいますよね。ただ、監督助手は仕上げ中も居るんですよね?

小出:助監督が編集につくということは昨今の映画業界ではないと思います。編集までかかわることができれば、次の作品でも編集を想定した上での助監督の仕事ができるとは思うんですけど、今の映画業界では、助監督の方は通常は撮影現場が終わると組を離れます。それは予算的にも、助監督の方を仕上げまではつけることができないということもあると思います。それもあって、是枝監督は監督助手というポジションを作られてるのかな、と理解してます。

浅井:分福は月給制度ってある記事で読んだんですけど。

孫監督:3年。所属して、3年だけ固定給が支払われるんですよ。

浅井:3年経った後は?

孫監督:3年で監督になるっていうのは普通に考えて難しいんです。最低でも5年はかかると思います。私はデビューまで10年かかってますから。でも、3年が過ぎたら、作品契約で西川さんの作品についてその分のギャラをもらっています。

浅井:言ってみれば、3年間は分福の社員なわけですか?

孫監督:一応、社員ではなく、契約はフリーランスなんですけど。

浅井:3年経ったら?

孫監督:卒業。でも、監督にまだなれない。

浅井:今聞いて思ったんだけど、「社長助手」みたいな仕事があるといいですね。中小企業で後継者を社員から育てる、まさにそういうシステムはないので。

浅井:監督助手って一日何時間拘束ですか? 

孫監督:拘束時間は特にないです。遅くなると「先に帰っていいよ」っていう感じではあります。でも、大抵は残ります。監督がどこのタイミングで発想するのか、やっぱり見たいですし。監督としては強制してないので、「拘束してる」感じはないです。それが今の働き方で言うと難しい。監督助手が居なくても仕事はできるし、監督は困らない。監督助手は勉強したいなら残る。

浅井:徒弟的雇用形態というふうにも見えますね。やっぱり、監督になりたい人間にとってみれば勉強はし放題だから、それをどう捉えるかというと難しいですね。今の働き方で言うと、このグレーゾーンには「自己研鑽」とかいう言葉が出てくる。「自己研鑽でしたいなら勉強してください、会社はもう拘束してないですよ」とかね。

映画宣伝の仕事でも「参考のDVD、家に帰って見ていいですか」「いいよ」って。で、見た時間は「労働時間で計上してもいいですか」とか。難しいですね、ちゃんとホワイトで働いてもらうということは。

小出:監督になることを考えると、作品の企画の頭から、完成というお尻まで、まるっとひとつの作品で、監督の横で学べるということは素晴らしいと思います。

浅井:見て覚えろっていうことですね。撮影現場だけじゃなく、脚本をどうやって作っていくのかとか。その試行錯誤やキャスティングの過程や、音楽の打ち合わせとか。そこを見られるっていうのはすごいチャンスですね。

小出:本当にそう思います。撮影準備の時は、例えばキャスティングで、プロデューサーがどういうことを考えるかを監督助手の方は知ることが出来ますし、撮影後の編集の時にも、興行との兼ね合いで作品の長さを考えたり、「この商品は俳優の方のスポンサーの問題で、対応させてください」みたいな話を聞けたりします。それが生のやり取りじゃないですか。作品を作って世の中に出すための、実際のやりとりに触れる機会は撮影現場だけでは得られないと思います。

浅井:現代的に「監督助手」って言っているけど、昔の徒弟制度だよね。

孫監督:それは言えると思います。でも助監督はスキルがあるので、いろんな現場を渡り歩けます。是枝さんの組だけじゃなくても、他の監督の作品に呼ばれて仕事ができる。でも監督助手は、分福にしかないポジションなので別の現場で働けないんですよ。だから食っていけない。監督助手の契約が3年で終わって分福作品についてない時は、本当に給料がない状態が続きます。

浅井:昔の日本のスタジオだったら助監督から監督っていうコースはあったけど。助監督はプロフェッショナルな仕事だからね。「助」(アシスタント)ってつくけど専門職。だからちょっとネーミングを変えた方がいいかもしれないですね。「進行責任チーフ」とか。

小出:そうですね。その点、監督助手は潰しが効かないともいえるかもしれません。今回は孫さんの企画をK2Pに提案していただいて、孫さんはこういう形で監督デビューされました。もちろん、これからデビューされる方もいらっしゃると思います。

K2が『トロフィー』を作るきっかけ

浅井:『トロフィー』は、どこでK2と接点があったのですか?

小出:僕は早稲田大学の出身なのですが、大学生の時に是枝監督が教授でいらっしゃっていた出会いがきっかけです。今も是枝監督は早稲田で教えられています。なので、最初は教授と学生という関係でした。

大学卒業後は、僕は映画会社の東映に入りまして、プロデューサーになりました。プロデューサーとして働いていく中で、映画製作のビジネス構造だったり、撮影現場と会社との間のコミュニケーションの狭間に立ったりして、より良い映画製作ができないかと思っていた際に、当時の上司であり、現在のK2Pの代表の紀伊が、「製作委員会方式ではなく、ファンドという形でやったら変えられるんじゃないか」という話をすることがありました。当時は、全く何かわかってなかったですが。その後、紀伊から「一緒にやろうや」って言ってくれて。3年前にK2Pに入りました。

浅井:東映では何を手がけていたんですか?

小出:入社後は特撮番組のテレビシリーズで、プロダクションサイドのプロデューサー経験を積ませてもらいました。映画部に移ったあとは、原田眞人監督作品やアニメ作品での製作委員会窓口や配給側の製作サイドのプロデューサーをやりまして、庵野秀明監督の『シン・仮面ライダー』のプロデュースをしています。

僕はもともと、特撮というテレビ畑から始めたので、制作サイドで経験を積んで、その後映画部に異動して、配給側の出資とかを担当するプロデューサーをやってという感じです。作品によっては、プロデューサーとして実務はほぼ全ての窓口を浅く広くかかわらせてもらいました。製作委員会の対応、映画宣伝、IMAX等のラージフォーマットの制作という映画制作・製作のことから、劇場商品監修、海外上映の立ち会い、ビデオグラムや配信OTTへの提案など各2次利用運用まで、もう全ての窓口業務、各社対応をやれたことが非常に勉強になりました。K2Pに合流した最初は、紀伊の他の常勤は僕だけだったので、2人でした。ファンドに関しては、紀伊が目指したいファンドスキームの話を聞いた上で、「映画の窓口はこのようにありますよね、とか、製作委員会方式でいえばこうなります、とか、成功報酬はこのタイミングで発生します」といったことは僕から補って、制作と製作の当時の現場の最前線の話をする中で、ファンドの設計はされました。K2Pと、西村あさひという法律事務所と、ビズアドバイザーズという会計事務所と、3社でファンド設計を行いましたが、法律事務所と会計事務所が必ずしも、現場の生なところは分かりようがないので、映画に関わる実務の話でもって、ファンド設計にかかわりました。

浅井:紀伊さんに声をかけられてやろうと思ったのは、既存の業界の何が一番不満だったのですか?

小出:すごく分かりやすい例を言うと、東映の中で企画開発をしていたのですが、その時に、分福さんとやろうとした企画があったんです。ただ、「これは東映のラインナップではないよね」っていうことがわかる瞬間がある。東映が製作するような、全国300館でかかるような、簡単に言えば、誰しもがみるエンタメではない企画を作ってみたいと思う時がありました。今回のような、監督助手の方のデビュー作品みたいなものは、監督の実績もないですし、実現させるのは難しい。僕が東映でもし決定権を持っていても、普通に首を縦には振らないと思います。実際、その企画は通らなかったんです。

それは東映が悪いとかではなく、会社によって作ることができる企画は異なるんだということをわかった瞬間がありました。もう一つは、これも当然のことなのですが、所属している会社が最大限収益が上がるようにビジネススキームは組まれていると思っています。営利企業である以上、当たり前なのですが、この当たり前を体感する瞬間がありました。一生懸命にスタッフやキャストと制作した作品があったときに、なかなか現場で汗をかいた人たちに、収益をどうやってシェアするか、経済で還元できるシステムって作れないのかなと、すごく青臭いんだけど思いました。キャリアもなく、会社のこともよくわかってないなかで、感じてしまったことなので、そう感じたことは許してもらいたいのですが。

浅井:それはでも、美術部とか助監督とか、衣裳部とかに成功報酬をバックするってことは普通ないですよね?

小出:ないですね。そもそもの成功報酬を制作会社さんに渡すというスキームも、本当に必死の努力で制作会社さんが勝ち取られてきたことだと思います。それをさらに、制作会社さんだけではなく、スタッフ単位でバックしていくっていうのは非常に難しいことですね。ただ、やっぱり僕とかは、若い分、撮影現場に近いこともあり、日々そのスタッフの方々と顔を合わせていますし、他方で、映画会社としてどれぐらい儲かるか、そもそも投資額を回収できるかできないかの重要さも分かりながらも、やっぱり目の前で汗をかいてくれている人に目がいってしまう。難しいんですけど、映画業界としてこれって持続可能なのかな、みたいなことを考えていました。ただ、いまになって会社の経営にかかわっていると、会社は会社で経営していかないといけないという難しさもあるのをいま痛感しているのですが、当時はそこまで考えられてもなかったです。

浅井:会社が税金を払うほど儲かると、余裕がある中小企業は賞与という形で、働いてきた従業員に還元する。最近は聞かないけど、ひと昔前だったら社員みんなでハワイ旅行とか。そこで全部損金で落として、社員のやる気を次の期に持ち越してもらおうっていうのはあるけど、だけど、映画の撮影現場は一回ごとにプロが集まってきて、また解散していくわけだから、そこでプロダクションや監督には還元が与えられる契約はあるんだけど、それ以外のスタッフにはなかなかないんじゃないですか?

小出:そうなんですけど、その仕組を変えていかないと、いいスタッフの方々は集まらないと思います。僕は映画をプロデュースしていますが、映像業界と言っても、映画だけ作ってるスタッフの方は多分いなくて。というのも、Netflixさんだったり、Amazonさんだったり、テレビのCMだったり、より良い労働環境を整えている映像の仕事はあると思います。その競争にさらされている中で、良いスタッフの方々に作品に入ってもらうためには、経済的にも良い環境を整えないといけないとは思います。

浅井:そうですよね。そっち側に行っちゃうでしょう。当たらないと貰えない成功報酬より、制作時の報酬を高くする。配信会社は、売り上げが動員ではないですからね。映画館でヒットするかしないかは、結構博打要素が強いですから。

小出:なので、そういう成功報酬だけではないんです。うちがやろうとしてることは、「普通だったら撮影を4週間のところ6週間取って、一日の労働時間を調子出来ないか」っていうことを考えたり、子供を持ってるお母さんやお父さんが働きやすいように、ベビーシッターの費用を予算に含んだりみたいなことを考えていて。それをどうやったらできるかなってなった時に、ビジネススキームそのものを見つめ直さないと、製作委員会方式の今の予算方式、収益方式でやっていくことには限界があるんじゃないか、っていうのがありました。そう話してる中で、報酬の話だったり予算の話だったりを解消するために、一度ファンドにトライしている面もあります。

浅井:その前に孫監督に話を戻して、『トロフィー』はどうやって制作に繋がったのですか? 

孫監督:分福では企画会議っていうものがあるんです。所属している監督助手が10人ぐらいいて、その企画会議の場で自分がやりたい企画を出すんですよ。それをみんなで「もっとこうした方がいい、ああした方がいい」と意見して、それをさらにブラッシュアップしていって制作に繋げていくんです。私は当時から在日の話を書いてブラッシュアップしていって。是枝さんがこれは一定の水準まで来てるから制作できるんじゃないかっていうことで、K2に持っていったんですよ。

浅井:誰が企画書を持って行くんですか?

孫監督:分福のプロデューサーの方がいらっしゃって、当時はその方からご提案をしていただきました。

浅井:で、小出さんは脚本を読まれた。

小出:そうですね、脚本を読ませていただいて。どういう企画経緯だったのかとか、どうして監督がこれを撮らないといけないのかとか、そういう話を一つずつ、1時間半ぐらい聞かせてもらいました。

浅井:その時はもうK2の社員なわけですよね?

小出:そうです、常勤の役員としてやっていました。

浅井:この企画は東映だったら難しいかなと思いましたか?

小出:そうですね。まあこれ、東映っていうことに限らず、今だったらどこの会社でも難しいだろうなと。

浅井:どうしてですか?

小出:最近よくいわれるコンプラみたいなものなのか、北朝鮮や在日という題材をあんまり積極的につくる会社は多くないだろうっていうのが一つと、もう一つは、監督デビュー作で、監督のキャリアがないというところです。あとは、作品を見てもらえれば分かると思うんですけど、朝鮮舞踊がかなりガッツリあるので、これを準備していくというのはプロダクションのカロリーとしても予算的にも大きくて不安になると思います。もちろん、公開してどうやって売っていくかのディストリビューションのカロリーとしても見通せないところがある企画だったとは思います。

浅井:監督は新人監督、それはすごくわかる。で、テーマが在日、最後、クライマックスが朝鮮舞踊。それで「難しい」って判断したのですか?その「コンプライアンス」っていう言葉、もう少し詳しく教えてもらえますか?

小出:この作品はK2Pがプロダクションをやったんですが、他の制作会社さんにもプロダクションワークを検討していただいた際に、CMの制作をやられてる会社でもあったせいか、その兼ね合いで「これはプロダクションをお受けできないかもしれないです」みたいな話をされました。そこで、「ああ、なるほどな、そういうことがあるんだ」と。僕も気づいていなかったです。それがコンプラということなのかはわからないですが。プロダクションとして受けるということでも、そこに対して誰かが、ビジネス的にリスクだと捉えられることが検討していく中で分かっていって。毎回、こういうことばっかりなのですが。それで、なかなか積極的に「やろうよ」っていう強いポジティブはなかなか生まれない企画だなという意味で、普通は成立しにくいだろうなっていうのは、結構強く思いました。

浅井:で、それをどうしてK2の中でやるとなったのですか?

製作委員会ではなく、ファンドで映画をつくる

小出:うちはファンドでやってるんで、つまり製作委員会のように一つの作品の当たり外れの世界線ではない。各社のコンプラみたいなものの影響もなくて、基本的にはファンドは経済性でのお付き合いです。公表されていますが50億円集められていますが、その中で映画をたくさん作って、その収益で運用していくとなった時に、一つはポートフォリオ、つまり是枝監督の作品もあれば、井筒監督の作品もあって、アニメーション作品もあったり、若手の作品もやって、多種多様なポートフォリオでやっていきたいということで、ファンド設計時に決めていました。横軸の話です。

最終的に収益がちゃんと取れればいいじゃん、っていうことは大前提ですが、作品への投資を7年とか8年とかかけてやっていくファンドなので、『トロフィー』でいえば、監督のデビュー作の一本目で作品として強いものを作れれば、2年後、3年後、『トロフィー』が名刺になって、孫さんがまた次の作品をうちでやってくれるのであれば、縦軸で年数を重ねてやっていってもらった時に、今回がだめでも、その次の作品が当たれば、監督した映画としては、リスクが分散されるというように考えています。縦軸の話ですね。この横軸の本数と縦軸の年数の中で、そこにおける出資のリスクはクリアされうるな、っていうのがファンドのスキームです。それが一つあります。理想的かもしれませんが。

浅井:ファンドって説明が必要だよね。公開情報だと、日本政策投資銀行や東急不動産ホールディングスが出資会社ですね。紀伊さんが口説いて回ったんですか。

小出:そうですね。紀伊だけではなく、僕や社内の他のスタッフが営業に行った会社もありますし、社外から紹介していただいたりした会社もあります。ただ、最終的には紀伊が会って決めています。

浅井:それで50億円集めたんですよね。

小出:そうですね、本当に大変でした。

浅井:バラエティ誌に出てるのは、さらに金融機関から100億、融資されてるという報道ですが。

小出:それはまだ部分的にしか実行はされていなくて、本格的な融資はこれからです。

浅井:なるほど、銀行融資は金利が発生して返済しなきゃダメだけど、まだ受けてないのですね。

小出:少額で本当に少しやってはあるんですけど、だんだん実績を積み重ねて、それぐらいの規模まで行ければいいよね、っていう段階です。

浅井:さっき「ポートフォリオ」っていう言葉を使ったけど、その一本を当てる外れるじゃなく、一定の期間の中で50本作る。50本企画があるのですか?

小出:いますぐにはないですね。今年は僕と他のプロデューサーも含めて6本ぐらい制作できるかな。投資期間の間に、50本つくっていくことを目標にしています。

浅井:アップリンク吉祥寺も、同じくポートフォリオ編成というのをやっているのでわかります。5スクリーンのうち、ここはスクリーン1で2番目に大きくて63席。一番大きいとこが98席で、スクリーン5が29席。3倍ぐらい差があります。最初に一番大きいところでやって、2週、3週目になったら63、58、52、そして最後は29席に。大体1日6枠、5スクリーンだから30枠。だから30枠に20作品ほどを毎週入れ替えて上映している。年間吉祥寺と京都で650本ほど上映しているので、トータルでプラスにするという仕組みです。K2のファンドもそれに近い発想ですね。
製作委員会っていうのは、基本的に出資する人は、昔はビデオパッケージがあったのでビデオ会社とか、あるいはテレビ局とか。純粋に出資じゃなく、その映画を二次的に利用できるっていう人たちが製作委員会を割と構成してるケースが多いと思います。

K2はファンドを組んで、そのファンドにお金を集める。作品単位ではない。何を作るかはK2にお任せなんですね。

小出:そうです。

浅井:いちいち「この企画で進めていいですか?」って出資会社に聞くこともない?

小出:ないですね。出資者がコミットすることはないです。

浅井:でも「儲かるぞ」っていう確信を持たないと、そのポートフォリオの中の一つには入れないですよね。

小出:ファンドの設計の時に、本当に「儲かるぞ」だけだったら、出版社さんの、よく売れている漫画や小説の原作ものだけをやるみたいな話だと思うんですよね。「原作ものの実写映画をやった方が当たりそうだよね」みたいな話になると思うんです。そういう会社さんもあると思うのですが、うちはそうではなくて、やっぱり「この産業を変えたいよね」っていう思いでやってるっていうところも含めてファンドをやってるので。もちろん、収益が上がらなければ続かないので、商業性も考えますが。

浅井:かっこいいというか、すごいですね。

小出:でも、そういうことがないものには、なかなか共感してもらえないから。「かっこいい」って言われるとちょっと恥ずかしいなって思うんですけど。でも本当に、経済の話でいけば、普通の映画会社さんの手数料の、うちは3分の1以下です、っていう設定をしてはいます。

浅井:何の手数料を3分の1なの?

小出:映画館で映画を上映する時、今、2,000円を払っていただいていると思うんですけど、その2000円は、一般的には、劇場側と配給側で、1対1で分けますっていうふうに説明されますよね。

浅井:ミニシアターでは大体そうですね。アップリンクは50対50が大半ですけど、配給会社が東映と松竹の場合は、契約書上は配給が60%持っていき、入りによって歩率が週ごとに調整される。すごく入らないと、50対50になる。

小出:なので、劇場さんと配給の人たちが、チケット代を50対50で分ける。配給会社が製作会社から作品を預かって劇場に営業する場合、平均で20%の手数料を配給が取る。

100万円売り上がったら50万円が配給に入ってくる。そのうち20%を配給会社が取って、残りの80%を映画を作った人、製作会社に返すシステムですよね。さらに言うと、幹事会社という、製作委員会を束ねてる会社だったりは、その20%とは別に5%取ったりします。配給会社によってはその手数料を30%取ったりしています。そこの手数料を、僕らは約3分の1でやっています。

浅井:制作をK2が行い、配給もK2が行う。だから、さっき言ってた20%ってところが約8%。それはK2が製作もするし配給もやるからという仕組みですね。

小出:そうです。

浅井:K2Pのファンドでは出資側に約45%。普通は配給が20%取ると、製作委員会側に40%しか戻らない。

小出:約45%戻るっていうのを、僕たちは出資者の人たちにお約束できますよ、っていうところで、経済的に投資を促してるっていうのがビジネス構造を変えたところでして、他の映画会社さんとは大きく他と違うところかなと思います。

浅井:ファンドの手数料って取らないのですか?

小出:ファンドの運営管理手数料は取ってます。ファンドの全体の金額から。これは公表してないので言えないんですけど、本当に数%です。それを毎年取らせていただいていて、でもそれは作品の収入とは関係してないです。株などのファンドでも、運営管理の手数料は取られているので、ファンドのビジネスモデルとしては一般的なことだと理解しています。

浅井:でもファンドに投資した方からすると、運営手数料は消えていくわけですよね。

小出:はい。ただ、株などの一般的なファンドでも、運営管理の手数料は1%から3%くらい取られているので、ファンドのビジネスモデルとしては一般的なことだと理解しています。

浅井:50億の1%は、5,000万円ですね。

『トロフィー』の制作費、宣伝費、そしてリクープライン

浅井:『トロフィー』の制作費はいくらですか?

小出: 6,000万から8,000万ぐらいの間ですね。そのレンジではあります。また、芸文振の助成金をいただいています。この額は公表されていますが、バリアフリー補助を含めて、たしか880万だったかと思います。

浅井:そのファンドの方に返さなきゃダメなのはいくらなんですか。

小出:6000万〜7,000万ぐらいです。

浅井:それは制作費だけですよね。

小出:そうですね。もちろんプロモーションの費用もかかってくる。

浅井:宣伝の内田さんはどの時点でこのプロジェクトに入ったんですか。

内田:撮影に入る前の段階からですね。

内田:去年8月にクランクインしたんですけど、私は4月ぐらいからですね。

浅井:内田さんの前職は映画関係ではなかった?

内田:代理店に行って、ブランドムービーだったりとか、ブランドのプロモーションを考えたりみたいな仕事をしてました。その後、ドラマの宣伝をしていて、そこからK2に入って。履歴書を出して面接してもらいました。

浅井:知り合いの紹介って感じ?

内田:私が映画をやりたいっていうことで、紹介ではなくて、宣伝統括の湯口、彼も東映出身なんですけど、彼が面接をして入社しました。

浅井:K2は、紀伊さんが一人で始めた。

小出:最初は紀伊しかいなかったです。そのあと、僕が最初の常勤者として参加してから、気づいたらもう50人くらいかと思います。

浅井:50人はすごいよね。普通に考えて人件費だけで年間1億以上は行きそうだよね。

小出:固定費はしっかりかかってきますね。

浅井:で、その人件費とかはファンドから出していいわけ。

小出:いえいえ、ファンドは会社のランニングコストは関係ないんで。

浅井:じゃあどこから出すの、会社のランニングコストは。

小出:会社のランニングコストは、さっきご指摘いただいたファンドの管理運営費と。それに加えて、ドラマシリーズの受注とかを受けてはいて。配信のシリーズものだったり、最近だとドラマ制作があったりとか。受注の仕事とかもあるので、それらをもとにしています。

浅井:なるほど、収入自体はある。

小出:そうですね。

浅井:宣伝は何人でされてるのですか。

内田:宣伝担当が3人です。劇場営業は営業チームがやってます。

浅井:営業は何人ですか。

小出:現状では5人です。

浅井:社内では作品の公開時期はちょっとずれるけど、もう何本か走ってますよね。そうすると、この『トロフィー』には内田さんと誰かがついてやってるんですか?

内田:基本ほぼ一人ですね。もちろん公開までは社内で連携はするんですけど、公開してからしばらく経った今の段階ではほぼ一人です。

浅井:いや、今はそうだけど、公開直前のピーク時も一人でやってたのですか?

内田:フリーのパブリシティの方に一人入ってもらったり、社内の宣伝チームは私ともう一人の主に二人で動いていました。

浅井:わかりました。『トロフィー』のP&A(プリント&アドバタイジング)って、およそどれぐらいなんすか?

小出:1,000万は超えてるけど、2,000万は超えてない。

浅井:仮にですね、制作費を7,000万として、P&Aを1,500万としたら8,500万。そうすると、劇場と配給会社が、シネコンじゃないと大体50:50。8,500万を回収するには掛ける2で、1億7,000万、興行収入を上げないと、映画の制作費と宣伝費を回収できない。という計算で合ってますよね。

小出:はい。合ってます。

浅井:で、8月1日のホームページに発表されてるけど、3万人突破。公開から計算すると23日後。平均の劇場単価が、これいくらかなって、うちのアップリンクで出したら1,430円だったので。ほぼ4,200、4,300万ぐらいは達成したと。でも、さっき言った1億7,000万には到達してないですよね。業界にいるからわかるけど、これ絶対無理だよね。

小出:絶対無理です。

浅井:ちょうどうちでもやってるけど、NHKが制作して東京テアトルが製作配給をやってる『開戦前夜』が公開3日間で3万人。『開戦前夜』は89館。『トロフィー』は?

小出:公開初日は38館です。

38館から——映画館をどう選び、どう広げたか

 浅井:最初の公開劇場は池袋の新文芸坐に目黒シネマとか。業界の人間からすると「ここで新作やるの?」と思いました。これは営業の山崎さんがブッキングしたんでしょうか?

小出:最初にご相談したメインの映画館はテアトル新宿さんでした。テアトル新宿さんを最初にお願いするところから始まって、その中で、アップリンクさんだったり。ただ、当初ブッキングしていた館数だと、席数の限りはあり、もっと座席数を確保したいとなった時に、どこのエリアの映画館にお願いしたいかねっていう話をした時に、目黒シネマさんだったり、新文芸坐さんだったりが受けてくださるっていうことになりました。

浅井:よく営業しましたよね。

小出:僕も山崎もなんですけど、もともと東映で、シネコンブッキングのなかにいたので、『トロフィー』のような、こういうアートハウスの方々とお付き合いすることが多くはなかったです。それもあって、シンプルに「面白いよね」っていうのも山崎とも話して「やってみようよ」っていうのがありました。

浅井:でも逆に、最近出てきた新しい配給会社が東宝のシャンテにブッキングしたり。東中野のポレポレと東宝日比谷とか。古い人間からすると、今は全然変わってるから、じゃあロードショー作品を下高井戸シネマにブッキングしてもいいじゃないとなると思うけど。

小出:そこは僕らもやってみて、そういうことをやっていいんだなっていうか、やれるんだなっていうのは気づきでした。狙ってやってたっていうよりかは、やっぱり必要性でやってたので。文化通信でも「面白い編成だ」みたいなことは言及されて、嬉しかったです。

浅井:館数を広げようということだったんですね。

小出:経済である以上そう思ったことはありました。もう一つは、この作品を見てもらいたいお客さんは誰かっていうのを考えた時に、映画好きなお客さんに見てもらいたいという話になりました。そのお客さんがかよっている映画館ってどこだろう、っていう発想の中で、目黒シネマさんだったりっていうところは合致するんじゃないか、っていうことでした。

浅井:何週やったのですか。

小出:目黒シネマが2週やらせていただいて、新文芸坐が1週ですね。

浅井:監督はどうでした? トークショーでいろいろ回って映画館のお客さんと会ってきたわけで。なんか映画館のお客さんごとの違いって感じます?

孫監督:お客さんの違いは分からなかったけど、印象に残っているのはカフェがあるところですかね。映画を観た流れで誰かと喋れるっていうのがいい。

浅井:その映画館はどこですか?

孫監督:名古屋の伏見ミリオン座さん、東京のストレンジャーさん、広島の八丁座さんとか。

浅井:なるほど、それは映画館作りで大事な要素ですね。

小出:このシネコンが多い時代において、監督デビュー作をこうやってアップリンクさんをはじめ応援してくれる劇場さんは本当にいっぱいあって、「孫さんの次の作品を期待してます」みたいな声がちゃんと届く距離感で、舞台挨拶だったりができたのは、すごく良かったなと思います。多分20年前、30年前だったらもう少し、シネコンではないかたの劇場が多かったと思うんで、その中でこう広がっていくっていう形があったと思うんですけど、なかなか今ってそういう伝播の仕方をしなくて。ただ、館数をたくさん抑えたいというだけで、シネコンさんにお願いしてもミスマッチして、50館とかブッキングはできるのかもしれませんが、2週間で上映されなくなってしまうと、作品が知られないまま終わっちゃうとかもあるので。シネコンさんはシネコンさんとしてのお客さんを大切にされているので、作品でミスマッチが起きないようにしないといけないと思います。

浅井:K2の是枝監督の『ルックバック』の実写版はアップリンクでは上映しないんですよね。東宝系列の作品なので、吉祥寺はオデオンでやりますが、西川美和監督の新作『わたしの知らない子どもたち』はアップリンクで上映させていただきます。ちなみに『ルックバック』アニメ版はここでやって、4,200万売り上げたので、実写版もやりたかったですけど。

小出: 興行の皆さんとの向き合いは作品によって、ケースバイケースだと思っています。
『トロフィー』に関しては、今日時点で新人の監督で3万人入るって、本当に凄いことですし、劇場さんが枠を空けてくださってるから数字が伸びているのは間違いないので、めちゃくちゃ感謝しています。稼働してもらったキャストやスタッフ、ゲストの方々にも感謝ですね。また、手前味噌ですが、営業の山崎は頑張ったし、宣伝の内田も舞台挨拶イベントを企画して成功してると思います。舞台挨拶施策は大きかったです。

K2は、どんな映画を選び、どう届けるのか

浅井:小出さんに聞きたいんだけど。いわゆる映画業界のエコシステムというか、持続可能なシステムを考えていらっしゃるとは思うんですけど。今後興行においてどこかと組んでいくのですか。やっぱりシネコンになるのですか。

小出:ケースバイケースで、『ルックバック』はTOHOシネマズさんがメインです。投資額を回収しないといけいない部分は当然あるので。制作費だったり事業費の規模に応じて、映画の館数を考えてシネコンさんとお付き合いさせていただくこともあれば、やっぱりミニシアターの方々とご一緒させていただくこともある。それは多分もう企画のケースごとで、「ここと組む」みたいなことを決めてるわけではないですね。T・ジョイともそうですね。来年公開の井筒さんの作品では、T・ジョイさんがメインですし、西川さんの作品はSMTさんがメインです。

浅井:映画を作りたいっていう企画を持ってる人がK2に企画を持っていっていいのですか。

小出:企画は今も持ち込まれることもあります。

浅井:めちゃくちゃ多いんじゃないですか。

小出:多いですね。

浅井:さっき理想を聞きましたけど、でも現実、シネコンを使ったブッキングもしていくし。その選択の基準はどこに置くのですか。K2のラインナップの監督は、ミニシアターで活躍していた監督が多く、めちゃくちゃエンタメかっていうとそうでもないかなと思います。どういう選択の基準なのでしょうか。

小出:今うちで言うと紀伊や僕といったプロデューサーがいるんですけど、紀伊は作品や監督を「これは当たる、当たらない」で見るというよりかは、プロデューサーに信託してるんですよね。つまり、プロデューサーである僕が、今年4本なり今後公開していく作品の中で、ちゃんとバランスを取って収益を上げてくれれば、ある程度任せる。今の時点では、そこは信頼してもらってるのかと思います。証券会社用語で言うと、その点においては完全なファンドマネージャーですよね。その中で、全体ではプラスにする、当然マイナスにはしないということがあります。なんとか、プラスになるように力を尽くして、来年にはまた別の新人監督さんのデビュー作をプロデュースしたいと思いますし、『トロフィー』のような、新人監督のデビュー作はやっていきたいと思っています。同時に、是枝監督や西川監督のようなキャリアのある監督たちともやってみたいです。

韓国公開——アットナイン・フィルムとのレベニューシェア

浅井:カンヌのジャパンナイトとかで発表して、海外マーケットを狙ってるのかなと思う一方で、日本向けのアピールかなと思いました。この『トロフィー』は韓国で今年の12月から公開するんですよね。

小出:そうですね。アットナイン・フィルムという、劇場も持っている会社との共同配給ですね。

浅井:配給権をアットナイン・フィルムに売ったってことじゃないのですか。

小出:「売った」というか……ミニマムギャランティ的なものを設定してないんですよね。完全にレベニューシェアなんで、「売ってる」かっていうとちょっと違います。

浅井:なるほど、業界でそれはディストリビューション・ディールっていう契約ですかね。MGっていうのは最低保証金で、それを払わずに、レベニューシェアっていうのは、売上から経費を引いて、残りを分けていきますよっていうことですね。では、配給宣伝とかで汗を流すことは、アットナイン・フィルムがやってくれる。

小出:そうですね最近で言うと三宅監督の作品『旅と日々』はアットナイン・フィルムさんがやられて、それがすごく当たってたみたいなんです。同じスキームでやりたいと。ディストリビューション・ディールの提案を受けて「面白そうだな」って思って。今、アットナイン・フィルムさんが映画の宣伝を含めてどうやっていくかを進めているところです。

 

浅井:韓国での評判はどうなんですか。

内田:情報解禁を今年の3月の初めにやった時に、この『トロフィー』のロゴが「ハングルっぽい」っていうことで話題になり、ありえないぐらいバズったんですよね。それで韓国の10社ぐらいから問い合わせが来て。「こんなに問い合わせ来るんだ」っていうぐらい、しばらくずっと打ち合わせしてる中で。本当に超大手のメディア系の会社から、アットナイン・フィルムさんのようなアート系の配給まで、一通り問い合わせが来て。ただ、最終的にオファーまで至らなかったところもあって。

でも、実際は作品を見ると「ちょっと北朝鮮が絡んでるのは」みたいなのもあって、引いていく会社さんもいらっしゃいました。日本と同じように、韓国も一様ではないですね。

浅井:韓国でもそう言われるんですね。

小出:そうなんです。そういうことがあるんだなって、分かっていなくて。作品が良くて「やりたい」っていうのが一番強かったので。この人たちと組まない手はないなっていうのと。もちろんリクープしたい、お金を回収したいけれど、孫さんという新人の監督のデビュー作がちゃんと日本と韓国で、映画館で上映されて交流されるっていうことが、一番大事だと思っています。多分、次の作品があれば、もっと価値のあることになればいいな、とか。そういう下心ももちろんあるし。

浅井:下心というか、めちゃくちゃ理想的でかっこいいことを言いますよね。

小出:いや、そう言われると照れますね。

「在日監督」ではなく、「映画監督」へ

浅井:よく聞かれると思うのですが、監督は、次回作とかもう企画も考えてるのですか。一回、自分の中の爆弾をポンと出しちゃったら空っぽになっちゃわないかと。

孫監督:いや、そうなんですよ。

浅井:よく、自分の体験を全部出してしまうと、二作目が本当の意味で監督としての勝負だって言われますよね。

小出: 2作目に続けられるかどうかが勝負なのかなと思います。

孫監督:でもそれは、李相日監督もおっしゃってて。「在日監督になりたいわけではなく、映画監督になりたい」と。もう在日の話はしないと思います。でも興味があるのは、やっぱりマイノリティの立場にいる人なんです。

でもその人達が抱えている現状をそのまま描くと、ただ辛い話になるじゃないですか。そうじゃなくて、フィクションを入れてある程度はエンタメにして、どうたくさんの人に見てもらうかが勝負どころです。

浅井:いくつか企画は具体的にあるのですか?

孫監督:企画はあるけど、どこに最初に見せるかは、小出さんの前では言いにくいじゃないですか(笑)

小出:2作目の話が送られてくるといいなと思います。孫さんがこれからも撮っていけば、うちに持ってこなくても、『トロフィー』もみてもらえる機会は増えると思うんですよね。もう一回リバイバル上映みたいなのもあると。そうなればやっぱりいいのかなっていうか。監督が撮らないっていうのが一番惜しい。一番最初の作品をプロデュースした人間としては、撮り続けてもらえれば、少なくとも「監督デビューしてもらってよかったな」と思える。

浅井:今日は、答えにくい質問にも具体的に答えてくださり、どうもありがとうございました。