『モネと時間旅行』——未来へ向かう「今」を生きるために

『モネと時間旅行』——未来へ向かう「今」を生きるために

2026-09-14 12:00:00

本作は、4人の親戚が、遺産相続をきっかけに一族の過去を発見していく物語だ。その一人であるセブは、ファッションや動画の撮影をして日々を忙しなく、流されるようにして過ごしていた。だが、自分の祖先の生きざまを「発見」することによって、「今」を新に見つめ直すようになる。彼は言う。「前ばかり見てきたが、後ろを振り返ることも自分のためになる」と。
情報が絶え間なく流れ、何もかもが加速していく現代において、モネの絵画は「一瞬しか掴めない今」を留めようとする試みだ。『睡蓮』と対峙するセブは、モネの画の真意をつかみ、恋人フルールとともに、オランジュリー美術館の睡蓮の間に佇む。
この映画のフランス語の原題は、La Venue de l'avenir(「未来の到来」)。avenir の語源が à venir(来たるべきもの)であることを踏まえれば、「未来とは、それ自体で独立して存在するものではなく、来たるべきものとして過去や現在の側から迎え入れられる」という含意が込められていることになる。

交差する時間旅行
幻影のなかでセブが第一回印象派サロンに紛れ込む場面は物語のハイライトのひとつだ。ヴィクトル・ユーゴーやルイ・ルロワといった文人に加え、セザンヌ、ルノワール、ピサロ、ドガ、そしてモネとの出会い。時代をさかのぼって先人たちに出会うという構造は、時間旅行もののクリシェでありながらも新鮮な感触を失っていない。歴史がすでに評価を下した「巨匠たち」ではなく、まだ名も馳せず、何者でもなかった巨匠たちに出会うことは、歴史とは結果ではなく過程であるという感覚をもたらす。

実はこの作品には、もうひとつの時間旅行が隠されている。多くの俳優陣が二世俳優なのだ。
アデル役を演じるスザンヌ・ランドンは、15歳で自ら脚本を書いた経歴を持つ女優・映画監督・脚本家だが、彼女の母親は名女優サンドリーヌ・キベルランだ。一方、セブ役のアブラム・ヴァプレも、女優ヴァレリー・ベンギギの息子。セリーヌ役のジュリア・ピアトンはコメディ俳優シャルロット・ドゥ・チュルカイムの娘である。メインキャストの多くが有名人の子供たちであることに対してクラピッシュ監督自身は「偶然だった」と釈明している。しかし、フランス映画界の世代間再生産を、この映画においてみることができる。
また、クィアの権利や環境問題を歌うアーティストとしても知られる、シャンソン・フォークポップ歌手ポム(本名クレール・ポメ)がフルール役として歌声を披露している。歌い出すまでポムだと気が付かず、自然な演技で驚かされた。歌手が本業の人物が、素人めいた朴訥さを残したまま画面に溶け込んでおり、新鮮に感じられた。

Annette Nimura Dupuis(アネット・ニムラ=デュピュイ)

イントロダクション

『ダンサー イン Paris』セドリック・クラピッシュ監督最新作
印象派の巨匠モネ没後100年のメモリアルイヤーに
19 世紀〈美しい時代〉(ルビ:ベル・エポック)に没入する、エモーショナルな映像体験
 
優しい眼差しで、パリの街と人々を描き続ける監督セドリック・クラピッシュの最新作。
パリとノルマンディーを舞台に、年齢も職業も全く異なる面識のない親戚4人が、現代と19世紀ベル・エポックの時代を行き来し、屋敷と絵画にまつわる謎を解き明かしていく。モネをはじめ19世紀に実在した芸術家たちが続々登場。名作絵画や印象派の聖地へと誘われ、過去と現在、未来がつながり、人生の新たな扉が開く―。家族のルーツを探る旅を通じて、希望や幸せを感じる、心地よい温かさに包まれる感動作が、モネ没後100年のメモリアルイヤーに日本公開となる。

ストーリー

一枚の絵画に隠された家族の秘密が解き明かされたとき、それぞれの人生が輝きはじめる

ノルマンディーの草原に、⻑い間、閉ざされていた古い屋敷が佇んでいた。相続の権利を持つのは、面識のない30人以上の一族。
土地開発のために屋敷を売るように迫られ、パリで暮らすセブ、アブデル、セリーヌ、ギイの親戚4人は、一族を代表して屋敷の調査をすることに。

やがて、屋敷の中から印象派の作品らしき絵画や、先祖アデルの手紙や写真を見つける。
19世紀にノルマンディーからパリへと旅をし、ベル・エポックの時代を生きた、謎の女性アデル。
彼女と絵画にまつわる秘密が解き明かされたとき、過去と現在、理想と現実が出会い、それぞれの人生に新たな扉を開くー

セドリック・クラピッシュ監督コメント


© STUDIOCANAL - COLOURS OF TIME - CE QUI ME MEUT - Emmanuelle Jacobson-Roques

いま、このような時代だからこそ、戦争を美化するような言説に対して、「そこには美化すべきものなど何ひとつない」ということを伝えたいと思ったのです。戦争は、物語を生むことはあるかもしれません。しかし、それ以上に、人々の人生そのものを壊してしまいます。私自身、家族の歴史をたどろうとすると、どうしても戦争という出来事に突き当たります。戦争は、ときに名もない人々の、ごく小さな人生を、大文字の〈歴史〉へと結びつけてしまう。そのことを、この映画の背景として静かに描いておきたかったのです。

セドリック・クラピッシュ監督プロフィール

1961 年 9 月 4 日、パリ近郊のヌイィ=シュル=セーヌに生まれる。
リセ・ロダンに通ったのち、グランド・ゼコールを目指すも、第一候補としていた IDHEC(フランス国立高等映画学院、現 FÉMIS)の受験に失敗。そのため、最初、パリ第 3 大学で、次いで第 8 大学で映画を学び、学位を得る。ふたたび IDHEC 受験に臨むもまたまた失敗した彼は、進路を一転、ニューヨーク大学に定め直して、そこで 2 年間、映画を学び直す。1984 年に最初の短編“Glamourtoujours”を監督し、その後も次々に短編を発表し始める。帰国後は、レオス・カラックスの『汚れた血』(1986)の現場などに照明担当として参加する一方、1989 年に撮った短編“Cequi me meut”があちこちで話題に。そして1992 年に最初の長編『百貨店大百科』を発表。1996年、『猫が行方不明』はベルリン国際映画祭で映画批評家協会賞を受賞し、大ヒットとなった。その後も、『家族の気分』(1996)、『パリの確率』(1999)、『PARIS パリ』(2008)などパリを舞台にした作品を連打する一方、『スパニッシュ・アパートメント』(2002)、『ロシアン・ドールズ』(2005)など、青春の一時期をテーマにした作品がトレードマークに。長年のバレエ・ダンスファンであり、『オーレリ・デュポン 輝ける一瞬に』(2010)や、パリ・オペラ座の舞台を撮った作品、近年ではパリ・オペラ座のダンサーを主演に迎え『ダンサー インParis』(2022)を手がけるなど、クラピッシュ映画の多岐にわたる魅力も見逃せない。また、作品のどこかにカメオ出演しており、それを発見するのも楽しみのひとつ。






アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本:セドリック・クラピッシュ 『ダンサー イン Paris』

出演:スザンヌ・ランドン『スザンヌ、16 歳』、アブラム・ヴァプレ、ヴァンサン・マケーニュ『画家ボナール ピエールとマルト』、ジュリア・ピアトン『最高の花婿』、ジヌディーヌ・スアレム『パリのどこかで、あなたと』、ポール・キルシェ『Winter boy』、サラ・ジロドー『ベルナデット 最強のファーストレディ』、セシル・ドゥ・フランス『幻滅』、オリヴィエ・グルメ『私は確信する』、ヴァシリ・シュナイダー『モンテ・クリスト伯』、ヴァランタン・カンパーニュ「Coward」

原題:La Venue de l'avenir/2025年/126分/フランス/フランス語/日本語字幕:古田由紀子/1:2.39/5.1ch

配給:セテラ・インターナショナル