『シンシン アンド ザ マウス/SINSIN AND THE MOUSE』
太極拳に励む人々から少し離れた公園の隅。ベンチに座り、目にたまった涙を落とさないようにしているかのように、行き場のない視線を漂わせるちづみ。
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慣れ親しんだ家具の並ぶリビング。家族だけが欠けているその場所で、ダイニングテーブルに腰をかけ、その向こう側を見るかのように天井を見つめるシンシン。
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そして一段一段、階段を軋ませる足音が聞こえる。鼠色のスウェット姿のちづみが居間に降りてくる。
「いつまで寝てるの。いい加減起きなさい。」などと、にぎやかに、そしてやさしく、呼びかける母はもうこの世にいない。
原作は、吉本ばななの短編小説集「ミトンとふびん」に収められた一篇「SINSIN AND THE MOUSE」。
母を亡くしたばかりのちづみと、旅先の台湾で出会ったシンシンの物語だ。
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題名の「SINSIN」とはシンシンのことだが、「THE MOUSE」はちづみを指している。
シンシンよりも身長が頭2つ分くらいは低く、爪も小さいちづみのことを、シンシンはねずみみたいで可愛い、と言う。あまり良い例えには聞こえないが、彼にとってねずみはむかしから特別な存在だった。
父も母も仕事で家を空けがちだった幼い頃のシンシンは、ひとりで過ごす時間のなかで、一冊の絵本に登場するねずみの家族を思い描いていた。天井の向こうには、自分と同じくらいの年頃のねずみがいて、父や母、きょうだいたちと肩を寄せ合いながら暮らしているのだ、と。その姿を想像すると、ふしぎと寂しさはやわらいでいった。
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もういない母を思いつづけるちづみと、姿は見えないねずみを想像するシンシン。目の前にはいない存在とつながろうとすることが、この二人をつなげたのかもしれない。
失われたものや、手の届かないものを思い描くこと。それぞれの現実をよりよく生きていくために必要なのは、前向きなことだけではない。そして、愛し愛されることも、「小さいから」というような、本当に小さな、単純な理由で構わない。
シンシンにとってのねずみのように、そういうちっぽけさが案外、いや確実に、わたしたちの日々を支えてくれているのだろう。
(小川のえ)
イントロダクション
吉本ばななの短編小説集で第58回谷崎潤一郎賞(中央公論新社主催)を受賞した「ミトンとふびん」に収められた一篇「SINSIN AND THE MOUSE」。金馬映画祭 Film Project Promotion(FPP)部門優秀企画に選出され、日本と台湾の合作で映画化を実現した。
主演は、確かな演技力で観る者の心を震わせる岸井ゆきの、そして台湾人俳優のツェン・ジンホア。出演映画が連続で興行収入1億台湾ドルを突破したため、「億万の幸運星(スター)」と呼ばれており、2025年に公開された映画『我家的事(原題)』で、第62回金馬奨にて最優秀助演男優賞を受賞、今最も注目すべき次世代を担う演技派若手俳優。
言葉を超えて響き合う二人の繊細な感情の往復が、抑えきれない悲しみと微かな希望を少しずつ重ね、やがてひとつの“再生”の形を描き出していく。監督・脚本・編集を務めたのは、『ボクは坊さん。』、『すくってごらん』の真壁幸紀。
舞台は台湾。近代的な高層ビルと、どこか懐かしさを感じさせる街並み。日本と似ているようで、少しだけ違う空気が流れている。
“喪失を抱えながら生きる”という時間は、誰にとっても決して他人事ではない。見知らぬ街で交わす何気ない言葉や、ささやかな出来事の積み重ねが、止まっていた心をゆっくりと動かしていく。本作は、その現実をまっすぐに見つめながら、悲しみの先にある小さな光をそっと映し出す。
ストーリー
母を亡くし、深い喪失感を抱えたまま日々を過ごす、ちづみ。
心の空白は埋まらず、時間だけが過ぎていくなか、友人に誘われ、台湾を訪れた。
そこで、台湾人の母と日本人の父を持つ・シンシンを紹介される。
見知らぬ街の風景と、何気ない会話の積み重ねが、止まっていた心を少しずつ動かしていく。
消えない悲しみを抱えながらも、小さなぬくもりを見つけていく――。
真壁 幸紀監督メッセージ

東京と台北の物語をスコットランドの映画祭で初上映したのですが、原作が持つ普遍性、キャストのお芝居は、国や世代を超えて、観客の心を揺さぶっていました。
そんなヨーロッパのお客さんの反応を目の当たりにして、ある一つの条件さえ満たせば、この映画が皆さんの心に届く事を確信しました。
それは、映画館のサウンドで観てもらう事。
是非、小さな音、声まで体感してもらえたらと思います。
真壁 幸紀監督プロフィール
1984年生まれ、東京都出身。株式会社ロボット所属。2012年、短編『THE SUN AND THE MOON』が、ルイ・ヴィトン主催の映画祭「Journeys Awards」でグランプリを受賞。15年に映画『ボクは坊さん。』で劇場用長編映画監督デビュー。以降、TVドラマ『電影少女』シリーズや映画『ラスト・ホールド!』(18)、『すくってごらん』(21)などを手掛ける。近年では台湾との活動を精力的に行っており、坂口健太郎主演のドラマ『CODE- 願いの代償-』(23)は、台湾のドラマ原作をプロデューサーとしてリメイクするなど幅広い活動を行っている。




アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
岸井ゆきの ツェン・ジンホア
藤原季節 中田青渚 伊勢佳代 柄本時生 / 飯田基祐 リン・チェンシー エンジェル・リー / リン・メイジェン
余 貴美子
原作:吉本ばなな「SINSIN AND THE MOUSE」(新潮社刊『ミトンとふびん』収録) 監督・脚本・編集:真壁幸紀 共同脚本:加藤法子
主題歌:藤原季節 as マサミチ「Let Me Feel You」 サウンドプロデューサー:TAKU Tanaka 製作幹事・企画・制作プロダクション:ROBOT 共同幹事:TC エンタテインメント/前景娛樂有限公司 配給:カルチュア・パブリッシャーズ
© 2021 by Banana Yoshimoto All rights reserved.
Japanese original edition published by Shinchosha Publishing Co., Ltd., Japan in 2021.
The permission to use the original novel to produce this movie has been arranged with Banana Yoshimoto through ZIPANGO, S.L.
©2026 映画「SINSIN AND THE MOUSE」FILM PARTNERS
2026 年/日本/カラー/スタンダードサイズ/5.1ch/108 分/G