『マテリアリスト 結婚の条件』"恋愛市場"という、最も予測不可能な場所。
ニューヨークの結婚相談所でマッチメーカーとして働くルーシー。クライアントに寄り添い、彼らの理想や願いを引き出しては、次々にカップルを成立させる彼女は、恋愛を感情だけでなく“資産価値”として冷静に判断するマテリアリスト(物質主義者)。
彼女はある日、出席したクライアントの結婚式で、新郎の兄であるハリーに声をかけられる。
敏腕マッチメーカーのルーシーは、少し会話を交わしただけで、裕福で高学歴、ハンサムで背も高く、人柄もセンスもいい彼のことを、どんなハイスペックな男性よりも飛び抜けた存在──業界用語でいうところの“ユニコーン”だと分析する。
ハリーに何か飲むかと聞かれ、ルーシーが「コーラとビール」と答えた途端、まるでタイミングを見計らったように、その2つが彼女の元へ運ばれてくる。
驚き、顔を上げた先にいたウェイターは、ルーシーの元恋人で、舞台俳優を目指しているジョンだった。
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予告編にも使用されている劇中歌、マドンナの『Material Girl』と、Japanese Breakfastの『My Baby (Got Nothing At All)』。
この二曲だけでも、ルーシーの二面性、そしてこの映画が見つめようとしているものが、どこを向いているか分かる気がする。
映画『プラダを着た悪魔』の冒頭、KT Tunstallの『Suddenly I See』に合わせ、女の子たちが身なりを整え朝のニューヨークの街へ繰り出していくシーンさながら、『Material Girl』がBGMとして流れる中、ルーシーは洗練された身のこなしで颯爽と街を歩いていく。
ハリーとのデートを楽しみ、仕事もプライベートも順調に見える彼女はその一方で、夢を追いかけつづけるジョンへの思いを捨てきれない。
“Material Girl”と“My Baby (Got Nothing At All)”。物質主義と、(何も持たない)恋人。
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10年ほど前、まだ売れない劇作家だったセリーヌ・ソン監督が、生活費を稼ぐために働いた結婚相談所での経験から、この物語は生まれている。そこで彼女が見たのは、人が恋愛を、家や車を選ぶように語る姿だったという。
年収、年齢、学歴、身長。恋愛はいつしか「市場」になり、人は“より価値の高い存在”になろうと、自分自身へ投資しつづける。
さらにソン監督は、自己啓発すらも「市場価値を上げるための営み」になってしまったと批評する。
「私たちは自己啓発を、“自分の体と心に投資して、自身の価値が十分高くなるように向上させなければいけない”という、あまりにも物質主義的なものに変えてしまいました。恋愛に対する考え方がそれに染まりすぎて、逃げることすら困難になっています」。
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もし恋愛が取引(deal)であるのだとすれば、私たちはその市場で働く労働者(labor)なのかもしれない。
魅力的でありつづけること。愛される存在でいること。感情を管理し、自分を演出すること──いつしか恋愛することは、セルフブランディングという“労働”になる。
しかし、だれを愛してしまうかという予測不可能性が、そうした市場の論理を突き破ってしまうことがある。
プロフィール欄の項目には収まりきらないもの。条件では説明ができないもの。計算できないもの。
ルーシー、ハリー、ジョン。そしてルーシーのクライアントたちの姿を通して、”結婚の条件”とは何なのかを問いかけていく。
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エンドロールを飾る、Japanese Breakfastの『My Baby (Got Nothing At All)』。
“私の恋人には何もない”と歌うその曲は、恋愛市場の論理を知り尽くしたあとにそれでもなお残ってしまう感情を、少しおどけたような、けれどふくよかな甘さで包み込む。
”You're in love/And there's no way around it/My Baby”.
(小川のえ)
イントロダクション
婚活も日々進化を遂げるニューヨークでは、クライアントの理想や条件をマッチングさせ、ベストパートナーを見つけ出す結婚相談所が大流行。
そんな現代の婚活市場を舞台に、凄腕のマッチメーカーが、結婚相手として最高なリッチで優しい恋人と、夢を追う売れない俳優の元カレとの間で揺れる姿を描く。
監督・脚本は、『パスト ライブス/再会』(24)で世界中を魅了したセリーヌ・ソン。主人公のルーシーを演じるのは、『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』でスターの座を獲得したダコタ・ジョンソン。ルーシーの元カレ・ジョンにクリス・エヴァンス、リッチで優しい恋人・ハリーにはペドロ・パスカルがそれぞれ扮し、プライスレスな三角関係が映し出される。
2025年6月に全米で公開されるや初週3位の大ヒット、世界各国でも公開され世界興行収入では、アカデミー賞作品賞受賞作『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』(23)、初週全米No.1大ヒットの『シビル・ウォー アメリカ最後の日』(24)に続く、A24製作作品歴代3位の成績を記録した(25年12月時点)話題作が、ついに日本公開となる。
ストーリー
ニューヨークの結婚相談所で“マッチメーカーとして働くルーシー。
しかし、彼女自身はマテリアリストとして、仕事一筋の独身を貫いている。
そんな彼女の人生が、二人の男性との出会いと再会によって激しく揺れ動く。
一人はルーシーのクライアントの兄ハリー。身長180cm、気が遠くなるほどリッチな投資家、すべてが“完璧”な彼から情熱的なアプローチを受けたのだ。
一方は、元カレのジョン。愛し合っていたが、俳優を目指してバイトを転々とする彼との貧乏生活に耐えられず、破局した。
ルーシーはハリーとの真剣交際に踏み出すが、夢を諦めないジョンへの想いも再燃。
そんな中、クライアントがある事件に巻き込まれ、ルーシーは仕事も恋愛も岐路に立たされる──。
セリーヌ・ソン監督インタビュー

©Matthew Dunivan
セリーヌ・ソン監督プロフィール
1988年、韓国、ソウル生まれ。12歳でカナダに移住。劇作家としてキャリアをスタートし、2019年にアメリカン・レパートリー・シアターでプレミア上演され、2020年にニューヨーク・シアター・ワークショップでニューヨーク初演を果たした「Endling」で高く評価される。その後、TVシリーズ「ホイール・オブ・タイム」のシーズン1(21)の脚本を手掛ける。さらに長編映画監督デビュー作『パスト ライブス/再会』(23)が絶賛され、アカデミー賞で作品賞と脚本賞、ゴールデングローブ賞で作品賞(ドラマ部門)、脚本賞、監督賞を含む5部門、英国アカデミー賞で作品賞とオリジナル脚本賞を含む3部門にノミネートされ、インディペンデント・スピリット賞作品賞、監督賞を受賞する。
アップリンク吉祥寺 ほか全国劇場にて公開
監督&脚本:セリーヌ・ソン(『パスト ライブス/再会』)
キャスト:ダコタ・ジョンソン クリス・エヴァンス ペドロ・パスカル
2025/アメリカ/116 分/英語/カラー/ビスタ/5.1ch/原題『Materialists』/
日本語字幕:牧野琴子
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