『OXANA 裸の革命家・オクサナ』聖女のように、革命家のように。

『OXANA 裸の革命家・オクサナ』聖女のように、革命家のように。

2026-05-19 08:00:00

2018年7月23日に、31歳でこの世を去ったオクサナ・シャチコ。

ウクライナの敬虔な家庭で生まれ育った彼女は8歳の頃からイコン画を描き、やがて『FEMEN』というフェミニスト活動団体を立ち上げ、そしてフランスに亡命したのちも、イコン画家として絵を描きつづけた。

本作『OXANA/裸の革命家・オクサナ』は、彼女の命日である2018年7月23日のパリでの一日と、ウクライナの小さな町で芸術と革命に身を投じていく日々─2つの時間軸を交差させながら、その短い生涯を描いていく。

イコン画家であると同時にフェミニストとして活動すること。その二つには一見、大きな隔たりがあるように思える。しかしオクサナの場合、それらはまったく矛盾せず、むしろ彼女が信じたものに強い説得力を与える。

イコン画は、西洋美術とは異なり、そのキャンバスは表現の場ではなく、祈りのための窓として存在する。それは、作者の個性や意味、美しさ等を鑑賞するためのものではなく、見つめ、呼びかけ、向こう側にあるものへ接続するための像なのだ。

そして、『FEMEN』としてのオクサナの抗議活動。誘惑の対象として消費される身体をむしろ世界へ差し出し、そこに言葉を書きつける。上半身を晒し、花冠を被って立つその姿は、たしかに革命家のようでもあり、同時にどこか聖女画のようでもある。

「彼女は信仰そのものを捨てたのではなく、『教会というシステム』を信じなくなったのです」とシャルレーヌ・ファヴィエ監督は語る。

イコン画を大胆に転用しながらも描きつづけたこと。性差別や抑圧に抗議し、「私は絶対結婚しない」と宣言しながらも、男性を愛することをやめなかったこと。

彼女にとって闘いつづけることは、祈りつづける行為そのものだったのかもしれない。

「わたしの小さなジャンヌ・ダルク」。

オクサナの母親は、幼い頃から彼女のことをそう呼んでいた。その呼び名は、どこか彼女の運命を予感させる。

神の声を聞き、若くして民衆を導き、やがて象徴となり、最期には焼かれ、殉教者となった少女。

パリで迎えたあの日の夜、彼女の部屋を満たした金色の光は、まるでイコン画の背景のように、静かな明るさを湛えていた。

(小川のえ)

イントロダクション

アーティストであり活動家、そしてトップレスによる抗議で知られるフェミニスト活動団体“FEMEN”の共同創設者のオクサナ・シャチコ。

社会不安と政治的緊張を抱えるウクライナに生まれ、花冠とメッセージを記した裸身で闘い続け、31年の短い生涯を革命に捧げた。本作はその実話に着想を得た物語。

監督はフランスの新鋭シャルレーヌ・ファヴィエ。長編デビュー作『スラローム 少女の凍てつく心』では、スキークラブに所属する15歳の女子高校生とコーチの支配と従属の関係を緻密に描き出し、スポーツ界における性暴力の実態を暴くポスト#MeToo映画と呼ぶべき作品で第73回カンヌ国際映画祭選出、第47回セザール賞二部門にノミネートされるなど国際的に高い評価を得た。

主演は本作が映画初主演となるウクライナ出身のアルビーナ・コルジ。ロシアによる侵攻下、Zoomオーディションで抜擢された。

停電やミサイル警報でオーディションが中断されることもある困難な状況のなかでも、ウクライナ俳優の起用にこだわり続けたキャスティングは、映画に一層の真実味を与え、説得力をもたらしている。

オクサナを単に英雄としてではなく、迷い、傷つき、立ち上がり続けた“ひとりの人間”として描き、芸術と抵抗のあいだで生きた彼女の軌跡をとおして、自由とは何か、闘うとはどういうことかを観る者に問いかける、いまの時代にこそ観るべき作品が誕生した。

ストーリー

2002年、ウクライナ西部フメリニツキー。

オクサナはアルコール依存症の父とそれを献身的に支える母と暮らし、イコン画を描いて家計を支えていたが、教会からの不当な扱いや男尊女卑が根深い社会の理不尽に耐えきれず、家を飛び出す。

2008年、街頭討論で出会った仲間たちとともにフェミニスト活動団体「FEMEN」を結成。医療過誤による女性患者の死への抗議を皮切りに活動を拡大させる。

2009年、首都キーウでセックスツーリズム撲滅を訴える中、オクサナは注目を集めるため上半身を脱ぎ、身体を「戦闘服」として使う表現にたどり着く。

やがて活動は国境を越え、2011年にはベラルーシ・ミンスクでアレクサンドル・ルカシェンコ政権に抗議し拘束と拷問を受け、モスクワではウラジーミル・プーチンヘの抗議で重傷を負う。

FEMENへの監視と弾圧が激化するなか、オクサナは政治難民としてパリへ逃れる決断を迫られていく……。

シャルレーヌ・ファヴィエ監督メッセージ

私がこの作品の構想を持ち始めたとき、世界が少し暗い状況でした。

そこで、より良い未来を望むなら、それを想像することから始めなければならないと思ったのです。

この映画で「人を抱きしめるような体験を作ろう」と決めていました。

皆さんにも、大きなハグのような、たっぷりの優しさとしてこの作品を受け取ってもらえたら嬉しいです。

シャルレーヌ・ファヴィエ監督プロフィール

フランス・ヴァル=ディゼールで育ち、早くから「人生そのものを学ぶ」道を選ぶ。オーストラリアで初めてカメラを手にし、映画が自らの居場所であり天職であると確信する。世界を旅したのち、ロンドンのジャック・ルコック校で身体表現と演技指導を学び、ニューヨークではレノア・デコーヴェンのもとで演技演出とアートディレクションを習得。さらにラ・フェミスで脚本を学び、短編映画を多数制作する。長編デビュー作『Slalom』(2020)はカンヌ国際映画祭に選出され、25か国以上で配給、30以上の国際映画祭で受賞・ノミネート。ドーヴィル映画祭オルナノ=ヴァランティ賞を受賞し、2022年にはリュミエール賞4部門、セザール賞2部門にノミネートされた。その後、タンギー・ヴィエル原作『La Fille qu’on Appelle』を ARTE 向けに監督し、ラ・ロシェル映画祭コンペティションに選出、80万人以上が視聴。『OXANA/裸の革命家・オクサナ』は、彼女にとって2作目の長編劇映画である。

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督:シャルレーヌ・ファヴィエ

脚本:シャルレーヌ・ファヴィエ、ダイアン・ブラッスール、アントワーヌ・ラコンブルズ

出演:アルビーナ・コルジ、マリア・コシュキナ、ラダ・コロヴァイ、オクサナ・ジュダノワ、ヨアン・ジメル、ノエ・アビタ

配給:スターキャットアルバトロス・フィルム

2024年/フランス・ウクライナ・ハンガリー/103分

© 2024 - Rectangle Productions - 2.4.7. Films - Hero Squared - France 3 Cinéma - Tabor Ltd