『いろは』大人になりきれない私たちへ。
5年ぶりに大嫌いな姉が帰って来た。父親のわからない子どもをお腹に宿して。
「私、妊娠してんの。男に会いに行くけん、ついてきてよ」。
佐世保、長崎市内、諫早、雲仙―—
不安定な自分と、不透明な将来と、ままならない今に揺らぐ姉妹の長崎横断ドライブが始まる。
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明朗活発で自由奔放、親元を離れ大胆に生きる姉・花蓮(かれん)。
波風を立てず静かな暮らしを望む、消極的で内向的な妹・伊呂波(いろは)。
正反対のふたりには、言葉にできない不安や互いへの劣等感があった。
ちぐはぐで、あいまいで、不安定。
互いを想いながらも、一向に歯車がかみ合わないふたりの姿は、もどかしく、歯がゆく、愛おしい。
たまに帰ってきて特別扱いされるお姉ちゃんが大嫌い。
でも、愛されない自分はもっと嫌い。
でも、でも、傷つきたくない。変われない。
矛盾した気持ちがぐるぐる渦巻く伊呂波の心の叫びが、彼女の物憂げで反抗的な瞳からぐさぐさと突き刺さる。
その痛々しいほどの青さは、不器用に大人になってしまった私たちの中の、「大人になりきれない私」を鮮明に呼び起こす。
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本作の舞台は長崎県。
長崎出身の横尾監督が「故郷を継続的に盛り上げること」を目的に、オール長崎ロケで制作された。
穏やかな商店街と昔なじみの顔ぶれ。
明け方の港の静けさと、人の行き交う中心街。
住み慣れた居心地の良さと、逃げ場のない閉塞感が同時に漂う風景は、どこか懐かしい。
気取った御曹司・DV気質の年上男性・借金を抱えた元恋人—
笑ってしまうほどダメ男ばかり現れる父親探しの旅は、そんな見慣れた景色の外へとふたりを押し出し、不格好な感情を少しずつ剥き出しにしていく。
怒鳴り合ったり、泣きじゃくったり、ちょっと楽しそうだったり。
バカな男と、バカな自分たちに出会うたび、伊呂波の中に宿りはじめる怒りや葛藤は、人に合わせることで自分を守ってきた花蓮のペースをぶち壊し、内側に閉じこもっていた彼女自身をも大きく揺さぶっていく。
傷つけ合い、振り回し合いながら、大嫌いな自分の弱さを互いの中に見つけていく伊呂波と花蓮。
その姿には、不器用でままならない20代の煌めきが満ちていて、矛盾だらけの美しさを、ふたりだけがまだ知らない。
いやでも大人になっていく。
不透明な未来は不安でたまらないし、「海が心を洗ってくれる……わけない」。
けれど、ハンドルを握り、遠くを見つめる彼女たちの横顔は、旅に出る前よりほんの少しだけ凛々しく見えた。
(鈴木栞)
イントロダクション
自主性ゼロ。自己主張ナシ。お姉ちゃんが大嫌い。自分のことが大嫌い。
姉の帰省をきっかけに動き出す姉妹の物語。
実家の茶舗を手伝いながら、 “揺らぎのない日々”を送る妹・伊呂波(いろは)。
ある日、姉の花蓮(かれん)が、5 年ぶりに実家に帰ってくる。消極的で内向的な伊呂波と対照的に、自由奔放で明るく、誰からも好かれる花蓮。だが、花蓮の突然の帰省には、思いもよらない理由があった。
「私、妊娠してんの。男に会いに行くけん、ついてきてよ」。
唐突な頼みに戸惑いながら、花蓮のお腹の子の父親候補を探す旅に付き合うことになる伊呂波。
思い当たる父親候補は3人! もちろん両親には内緒。
互いに口に出せない葛藤や不安を抱えながら、佐世保、長崎市内、諫早、雲仙へ、ぎくしゃく姉妹の長崎横断ドライブが始まる。
メガホンを取るのは、『おいしくて泣くとき』(2025)で繊細な人間ドラマを描き、注目を集める気鋭・横尾初喜監督。
柔らかな映像美と、人物の感情に寄り添う繊細な演出に定評がある横尾監督が、故郷・長崎県の海や坂道、港町の空気感を背景に、等身大の青春を描きます。
本作は、2019 年の『こはく』、2023 年の『こん、こん。』に続き、横尾監督が長崎オールロケで完成させた作品です。
横尾監督を筆頭に、長崎県出身者によって立ち上げられた「長崎 MOVIE PROJECT」の一環として制作されました。
映画を通して「故郷である長崎を継続的に盛り上げること」を目的とする本プロジェクトは、映画制作における準備から撮影から公開までを、
毎年の「お祭り」として県内の人々に周知するだけでなく、国内、海外に向けて長崎の魅力を発信しようとするもの。
地域とともに映画を育てる取り組みとしても注目されています。
ストーリー
長崎県・佐世保市。時田伊呂波(川島鈴遥)は実家の「時田茶舗」の手伝いをしながら、母・和葉と父・昭次の 3 人で暮らしている。
カレシもいなければ、友達も少ない。唯一の趣味は、人知れず続けているラジオ番組へのメッセージ投稿だけ。自分の投稿がラジオで読まれることだけが密かな楽しみだった。
ある日、5 年ぶりに姉・時田花蓮(森田想)が実家に帰ってくる。花蓮は、社交的な性格で、家族や近所の人たちからもかわいがられる存在。
伊呂波は、姉妹なのに自分とはまったく違う姉のことが、大の苦手だった。そんな花蓮が、伊呂波と 2 人きりになった時、衝撃的な告白をする。
「私、妊娠してんの。男に会いに行くけん、ついてきてよ。姉妹やろ...」。
自由奔放で恋愛体質。いつも自信満々で人生を謳歌しているように見えた姉が、抱えていたのは「妊娠し、父親も誰かわからない」という現実。
しかも自意識過剰な御曹司・DV 気質の年上男性・借金を抱えた大学生と、心当たりのある男性が 3 人もいて、どの関係にも‟愛”とは呼びきれない曖昧さが残っていた。
花蓮は、なぜ傷つくとわかっている恋愛を繰り返してしまうのか。
半ば強引に父親捜しに同行させられた伊呂波は、姉とともに長崎県内を巡りながら、花蓮の恋愛の裏側にある孤独と承認欲求を目の当たりにしていく。
誰かに選ばれることよりも、まず自分を認めること。誰かに愛される前に、自分を受け入れること。
ぶつかり合いながら本音をさらけ出した姉妹は、ようやく互いの弱さを知っていくー。
横尾 初喜監督コメント

地元長崎で、映画を撮り続けようと決めた 2019 年の『こはく』から、3 作目になりました。
長崎のたくさんの方々と触れ合う中で生まれた映画『いろは』です。世界へ届きますように。
横尾 初喜監督コメント
1979 年生まれ、長崎県佐世保市出身。
横浜国立大学在学中より竹内芸能企画にて映像制作を学ぶ。
サザンオールスターズの MV や数々のドラマの監督を経て、映画『ゆらり』(17)で商業映画監督デビュー。
柔らかな映像美と繊細で暖かな演出に定評がある。
オール長崎ロケ作品『こはく』(19)の撮影後、故郷・長崎を盛り上げることを目的とする株式会社 BULE. MOUNTAIN の設立に携わる。
妻は女優の遠藤久美子。







2026 年|日本|カラー|アメリカンビスタ|5.1ch|94 分
監督:横尾初喜 /脚本:藤井香織 /音楽:上田壮一
エグゼクティブプロデューサー:髙田大、枝折祐紀、川口福太郎、諏訪貴彦、外間広一
プロデューサー:加藤毅、福田済
撮影:松本康平/照明:前田香奈/美術:渕上聖/録音:木戸翔太/スタイリスト:芦原豪/ヘアメイク:成美/制作担当:長沼優可
編集:松山圭介/サウンドデザイン:安藤友章/音響効果:梅本佳夏/カラーグレーディング:上野芳弘/デザイン:おかもとゆりこ
製作:BLUE .MOUNTAIN
配給:BLUE .MOUNTAIN / LUDIQUE
助成:文化庁
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