『宇宙人の画家』明らかに製作費を圧倒的にオーバーする発想により製作された大作

『宇宙人の画家』明らかに製作費を圧倒的にオーバーする発想により製作された大作

2022-07-01 11:11:00

『宇宙人の画家』は、2020年カナザワ映画祭で「期待の新人監督」で上映された『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』でグランプリを受賞し、「期待の新人監督スカラシップ」権利を得て製作された。

「期待の新人監督スカラシップ」とは2019年より、カナザワ映画祭で導入され、竪町商店街振興組合がグランプリを受賞した監督の次回作に支援金として200万円を出資するという制度である。

映画祭の主催者であり、本作のプロデューサー​でもある小野寺生哉氏によると​​「残酷な事件は日々ニュースでいつでも流れていることなので、それをわざわざ劇映画で描く必要はないとのプロデューサー判断で本作はかつての失われた黄金時代に存在したような勧善懲悪の映画となった」​という。

呂布カルマの起用について保谷監督は、「小野寺プロデューサーに、今の時代はヒップホップやろ! ラッパーといえば呂布カルマやろ!」と言われ起用したといい、彼のヒップホップのリリックがそうであるように、「『宇宙人の画家』は、もはや誰の発するメッセージなのか分からないというか、 主体がどこにあるのか分からないみたいな映画な気がしています」という。

明らかに製作費を圧倒的にオーバーする発想により、カラー、モノクロ、実写、アニメーション、紙芝居とフレームを越境して作られた大作である。

保谷聖耀監督

1999年11月2日、岐阜県恵那市生まれ。幼い頃より画家を志していたが、中学生の時に父親から「お前は映画監督に向いている」と言われたことをきっかけに映画制作に興味を持つようになる。2015年、恵那高校に進学。初めて制作した短編映画『Craving』がエナデミー賞(現恵那峡映画祭)2015にて「熱血賞」を受賞。高校2年生の時に手塚治虫の短編漫画『雨降り小僧』を脚色し『雨ンジロー』を制作。撮影中にレンタルビデオ店で借りて観た『惑星ソラリス』(72年/アンドレイ・タルコフスキー監督)に大きな影響を受ける。

2018年、京都大学文学部に進学し、宗教哲学を専攻(在学中)。京大シネマ研究会に所属。同年、上矢作風力発電所を舞台に青年が50年前に失踪した少女と出会うSF中編『泉』を制作。2019年、空を飛ぶ能力を持つ男子学生の妄想と幼少の記憶が混雑する長編映画『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』(主演 丸山由生立)を制作し、カナザワ映画祭2020「期待の新人監督」にてグランプリを受賞。

監督インタビュー

―― 映画を撮りはじめたきっかけ

中学の頃から映画を観だして、最初はアメコミヒーローものなどを 多く観ていたんですが、そこから大きな転機となった作品が高2で観たアンドレイ・タルコフスキー監督の『惑星ソラリス』(72 年)です。そこから、普段何気なく見ていた地元(岐阜県)の森が、ただの森ではなく見えるようになった。それを撮りたいと思って、自分でカメラを回しはじめるようになりました。大学で映画サークルに入って、先輩に自分が作った映画を観せたら「これ、(哲学者のアンリ・)ベルクソンっぽい」って言われて(笑)、大学の宗教哲学の研究室に入りました。大陸哲学や日本の京都学派などを勉強しているんですが、映画と結構繋がるところがあるというか、本を読んでいたり、授業を聞いたりしている時にアイデアが浮かぶことがあります。それで、19歳のときに3時間の長編『クールなお兄さんはなぜ公園で泥山を作らないのか』(19 年)を撮って周囲に見せていたら、友人に「映画をしっかり観て評価してくれるよ」と勧められて、カナザワ映画祭2020に応募したんです。それが「期待の新人監督」グランプリを受賞し、 スカラシップで撮ったのが『宇宙人の画家』です。

―― 『宇宙★の画家』とは?

人間ではない、人間より高次の存在が宇宙、そして宇宙を生きる人間たちの有象無象の営みを描きとっている、というイメージ…とでも言えばいいか。最初は『宇宙画家の時代』というタイトルで脚本を書いていたんです。でも「もうちょっとキャッチーな方がいいのでは?」ということで、『宇宙人の画家』に決めました。そういう「画家」のイメージはマルヤマというキャラクターに通じています。彼は漫画のなかの登場人物でありながら、劇中の現実世界にも現れるような、境界線を超えて複数の世界に偏在している人物で。 さらに中性的なイメージもある。人間の想像力を超えたところにいながら、同時にホウスケのような選ばれた人間の側から手を伸ばしたらかろうじて触れることができる。向こうからも、たまに人間に語りかけてくる。「世界のねじをまわす鳥」じゃないですけど、そういう存在なんです。

―― シナリオの書き方

脚本の「京阪一二三」は僕とプロデューサーの小野寺生哉さんとの 共同ペンネームです。最初は一人で書きはじめました。当初は「大人の世界」と「子どもの世界」の2つがあって、両世界で登場人物たちが一対一の対応になっていて、片方の世界で起こったことがもう片方でも起こるというパラレル・ワールド的な発想でした。それがだんだん「辻褄合わせ」や「ストーリーとして面白くなるのか?」みたいな問題が出てきて小野寺さんと一緒に書くようになり「入れ子構造」の物語に変化していきました。「大人パート」に関しては、元々僕が書いていたものを残しつつ小野寺さんが書いて、「子どもパート」は僕が書いて、という形でまとまっていきました。

―― ダルマ光とは?

ある強烈な光を発する機械があって、それが過去の暗い歴史と結びついてるというアイデアが最初にありました。それを小野寺さんが膨らませていったんです。「ダルマ」は「法則」という意味の仏教用語。ダルマ光が放たれると、世の中の全ての「悪人」が死んで「善人」たちの平和な世界がやってくる。「悪人は放っておいてもいずれ滅びる」 という「ダルマ=法則」の発動だ、と。真っ白な光。それは同時に闇でもあると思うんです。絶対的な無、悟りの境地というのはもはや描くことができない。表象不可能なイメージです。

―― 呂布カルマ

ヒップホップは実はもともとそんなに聴いていませんでした。シナリオ執筆時は、ラッパーじゃなくてカルト的なロックバンドで書いていたんです。でも小野寺さんから「今の時代はヒップホップやろ! ラッパーといえば呂布カルマやろ!」と言われて。半信半疑だったですけど、ちゃんと聴いてみたらめちゃくちゃ良くて、制作期間中は呂布さん以外の音楽は聴いていませんでしたね。呂布さんのリリックは一人が歌ってる感じがしない。人称がひとつじゃない。誰が言っているのか分からないけど、声があっちからこっちから飛び交ってきて、折り重なりあいながら一個の巨大なグルーヴを作り上げている。宇宙を感じました。これは『宇宙人の画家』の世界観に繋がるんじゃないか、と確信したんです。

―― 「大★パート」について

手塚治虫っぽいというか、漫画的なゴチャゴチャした世界で、結構ノリノリで撮っていた感覚があります。ラストの銃撃戦なども、絵コンテはもともと全部描いてて、結局本番では一切使わなかったんですけど、今観返してみるとリベンジしたいなって思いますね。劇中に登場する観音様は、石川県加賀市の加賀温泉駅近くにある大 観音加賀寺の加賀大観音です。バブル時代に、大阪のお金持ちが、温泉と仏教が一体になったテーマパークみたいなものを作ろうとしていたらしくて。銃撃戦をしている廃墟も、そこの宿泊施設だった場所です。〈虚無ダルマ〉のアジトは石川県かほく市にある西田幾多郎記念館の「瞑想の空間」。マルヤマ役の丸山由生立は僕の自主映画時代からのつきあいで、俳優の勉強をしている学生です。ワタナベ役の俳優、渡邊邦彦さんは『阿吽』(18年/楫野裕監督)の京都上映の際に知り合いました。ほかにカナザワ映画祭ゆかりの方々に、小野寺さんからオファーを出してもらいました。ある種気狂いで預言者のような役割をするキャラクターは、「カナザワ映画祭で審査員だった稲生平太郎先生がいいんじゃないか」みたいな話になったり。皆さん、いい位置にハマったんじゃないかと思っています。

―― 「子どもパート」について

登場する子どものうち、ホウスケやケイなどは、自分の反映だったりします。中学の時は生徒会などやって、卒業式でピアノを弾かされていましたし(笑)。出演者は、金沢の劇団に所属している中学生の子たちが半分で、あとは完全に演技経験のない子たちです。オーディションをして俳優を決めていきました。それぞれの子の素の良いところが出るように、そして現場があまり緊張しないように、という点を意識しましたね。

―― アニメーションについて

小さい頃からよく漫画を描いていました。親曰く2~3歳の頃には広告の裏紙に絵を描きまくっていたらしいです。劇中のホウスケみたいに、学校に自由帳を大量に持って行って、休み時間は絵しか描いていなかった。映画を始めてからは何年も描いていなかったんですけど、撮影が終わったあとにアニメを作ろう、となって、いくところまでいかないとこの映画を終わらせられない気がして。話を回収しないと、という…。結構なんかもう、すごい精神状態で、あんまり覚えてないんですけ ど、アニメをガーッと最後に作っていて。スケッチブックに黒鉛筆で描いて、それをスマホで撮影して Premiere(編集ソフト)で動かして。もう入り込んじゃって、どんどんアイディアばかり出てきて止ま らなくなってるんだけど期限はあって、という状態で寝ずに作り続けてたら最終的にストップをかけられました。パソコンも動かなくなりましたし、色々と限界だった。これ以上はもう描けない、と(笑)。

―― 撮影日数

金沢に滞在して撮影しました。実質的な撮影は10日弱です。最初はGWの6日間で全部撮り切る予定だったのですが、撮り切れなかった。「大人パート」は4日間で撮影しました。「子どもパート」は追加撮影も合わせて6日間程です。あとは金沢で実景を撮ったり、地元の岐阜に帰って自然のインサート・ショットを撮ったりして、少しずつ補完していった感じです。ポスト・プロダクションを含めれば、制作日数は8ヶ月くらいです。

―― 初の長編劇映画を撮って

今まではスタッフは自分一人という形で自主映画を撮ってきましたが、今回はじめて共同で脚本を書き、スタッフの方達と長編映画を撮りました。呂布カルマさんの楽曲の話じゃないですけど、『宇宙人の画家』は、もはや誰の発するメッセージなのか分からないというか、 主体がどこにあるのか分からないみたいな映画な気がしています。勿論、創作物である以上は作り手が存在しているという前提はありますが。観た人から「森の側から世界を眺めてる」と言われたことがあるんですが、確かに、映画の中を生きる特定の登場人物に寄り添おうというつもりはなくて、目の前で様々な物事が起こっては過ぎていくのをぼんやりと眺めているような、そういう時間の進み方に惹かれます。『宇宙人の画家』は、そうした時間がいくつも交じり合いながらスペクタクルに向かっていく、という一個の実験だったのかなと思っています。

ストーリー

ある片田舎の中学校。転校生オサムは、廊下で一人の少年ホウスケが同級生に自作の漫画を汚されているのを目撃する。漫画の題名  は「虚無ダルマ」。それは、フリースタイル説法で街を支配する〈虚無ダルマ〉と米国のスパイであるジョージ・ワタナベらが、達磨光現器と呼ばれる謎めいた機械をめぐり繰り広げる暗黒の活劇漫画だった…。

漫画の世界と現実が次第に混濁していくなかで、ホウスケは〈虚無ダルマ〉の組織で働く謎の青年「マルヤマ」の姿を見る。憑かれたような表情で登校したホウスケは、謎の言葉を全校生徒に向かって叫ぶ。「宇宙人の画家の絵を見た」と。

予告編

 

公式サイト

7月2日(土)  新宿K’s cinema、アップリンク吉祥寺にて公開 以降全国順次公開
7月29日(金)よりアップリンク京都にて上映

監督・編集・動画:保谷聖耀
脚本:京阪一二三
出演:渡邊邦彦、丸山由生立、呂布 000 カルマ、桐山瑠衣、大迫茂生、シソンヌじろう、平澤由理、みやたに、稲生平太郎、近藤佑磨、杉本心、グーギンズ古田光、山本詩、阿部賢太、石澤彩、速水胡太朗、小林優太、菅原聡、高井咲綺、吉本恵莉菜
製作総指揮:小野寺生哉
制作:大坂健太、瀧源裕仁 製作:細川博史
撮影:新谷瞭、畠山康平、保谷聖耀 ドローン撮影:クーロン黒沢
照明:宮向隆
俗音:近藤崇生
特殊造形:岡田歩 仏像制作:長谷川琢士
CGI:河童和尚、保谷聖耀 ヘアメイク:角谷美由紀
音楽:yuichi NAGAO 挿入歌:呂布 000 カルマ

2021年/日本/97 分/DCP

企画・製作:一般社団法人映画の会、竪町商店街振興組合
配給・宣伝:ブライトホース・フィルム 

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