『ARCO/アルコ』ディズトピアでもユートピアでもない、「より良い未来」へ。

『ARCO/アルコ』ディズトピアでもユートピアでもない、「より良い未来」へ。

2026-04-20 08:00:00

2075年に生きるアイリスはある日、上空を走るように動く虹を見かける。虹を追いかけた先には、不思議なマントをまとって倒れる少年がいた。

その少年が、2932年からやって来たアルコだった。

2075年。環境破壊と、テクノロジーの発展と、人間関係の希薄化が、同時に進んでいる。どんな暴風雨も防ぐことのできるドームに囲まれた家で人々は、外で燃え広がる山火事を眺めつつ、人工的な太陽光のもと、バーベキューを楽しみ、何気ない暮らしを営んでいる。家庭の親たちは出稼ぎに出ており、食事や就寝の時間にだけ、ホログラムとして子どもの前に現れる。人型のロボットが、親でも友達でもない存在として、愛情深く子どもたちの世話を見る。

2932年。人々は地上を離れ、上空につくられた居住地に暮らしている。時空を旅し、ほかの時代から植物の種子を持ち帰っては、空中庭園のような世界の中で、過去を慈しむ。

まだ時間旅行が許される年齢ではなかったアルコは、姉のマントをこっそり借りて、空を飛んだ。恐竜の時代に行くはずだった。そして、2075年に落っこちたのだった。

未来から来たアルコに興味津々のアイリスは、アルコが2932年に帰れるよう、お手伝いロボットとまだ赤ちゃんの弟とともに、あれこれと方法を探しはじめる…。

2075年と2932年。それはちょうど、平安時代と現代くらいの時間の隔たりだ。現代の一日分の情報量は、平安時代の人々の一生分の情報量に匹敵するそうだ。

身分を証明する紙ひとつで空を飛び遠くの国へ移動できること。武士という職業の人々が刀を携え人を斬ること。毎日髪を洗うこと。和歌と匂いで思いを伝え、恋愛のかたちは制度に回収されること。

そうした違いを踏まえると、2075年と2932年という距離もまた、突拍子もない設定上の数字として、切り離せるものではない気がしてくる。

面白いのは、近未来はディストピアにとどまることはなく、はるか遠い未来が単なるユートピアでもないところだ。

人と人との距離はディスプレイ越しに保たれ、AIやロボットを頼りつつその有害性を説きもし、危機に無関心に生きる。『ARCO/アルコ』の2075年はそんな現代の延長線上にありながら、AIと人間が共存するように描かれる。

そしてそのおよそ900年後の世界では、危機を見てみぬふりをし続けた先にあるのかもしれないボロボロになった地球を離れ、科学技術を駆使したのか、それとも進化によるものなのか、人類は雲の上で生活している。

もはや人間とは異なる存在である彼らはしかし、私たちが親しんできた植物を愛でる。かつて人間性や多様性と呼ばれていたものに、どうにか触れつづけようとするように。

ウーゴ・ビアンヴニュ監督は、「より良い未来」を想像することの必要を語っている。学生時代、虹をモチーフにしようとして周囲に「ダサい」と一蹴された監督は、むしろそれを自分の象徴にしようと決めたそうだ。

その真っ直ぐさが、アルコとアイリスの冒険譚を通じて、私たちへ、まだ見ぬ新しい未来の感触を手渡している。

(小川のえ)

イントロダクション

アカデミー賞長編アニメ映画賞にノミネートを果たし、アヌシー最高賞、アニー賞、ヨーロッパ映画賞、セザール賞ほか名だたる映画賞を席巻。

孤独な少女イリスと、“空から落ちてきた”虹色の少年アルコの冒険を描き、世界中の批評家と観客から愛された、感動の冒険ファンタジー。

ナタリー・ポートマンが製作総指揮を務め、CHANELが協賛に名乗りを上げ、気鋭NEONが配給権を獲得。

「E.T.の胸の高鳴りと、ジブリ作品の興奮を思い出す、色鮮やかで心ときめく冒険譚」「知性と感情がせめぎ合う、野心的で唯一無二の冒険物語」「エコロジーやAIといった現代の問いを、胸を打つ物語へと昇華させている」など世界各国のメディアが絶賛している。

近未来を舞台にどこか懐かしく温かい物語を、鮮やかな色彩のアニメーションで独創的に表現したのは、本作が長編アニメーションデビューとなるウーゴ・ビアンヴニュ監督。「すべての人に向けた映画。『E.T.』『ピーター・パン』『となりのトトロ』など心に深く刻まれた冒険映画の系譜に連なる作品を目指した」と語るとおり、ロマンとスリルに満ちた新たな“不朽の名作”が誕生した。

ストーリー

気候変動により荒廃が進んだ2075年の地球。

10歳の少女イリスは、ある日、空から虹色の光を放ちながら落ちてくる謎の物体を目撃する。

それは、タイムトラベルが可能になった遥か未来(西暦2932年)から不時着した少年、アルコだった。

未来へ帰る手段を失ったアルコと、閉塞感のある現代を生きるイリス。

二人はアルコの「虹色のスーツ」に隠された謎を解き、未来への帰還ルート=“虹の道”を探す旅に出る。

しかし、そんな彼らを謎の追跡者が追い詰めていき……。

時を超えた友情が、壊れゆく世界の運命を照らし出す。

ウーゴ・ビアンヴニュ監督インタビュー

─長編初監督作『ARCO/アルコ』を制作するに至った経緯を教えてください。

これまで私は、短編やミュージックビデオ、大人向けSFコミックを手がけてきましたが、ある時「家族のためのSF映画」を作りたいと思うようになりました。
私は“子供向けだから”と嘘を語る作品には興味がなく、大人と子どもが同じ瞬間に同じものを共有できる、透き通った冒険譚のような物語を求めていました。

現代は不確かで息苦しい。その延長としての“悪い未来”ばかりが描かれ続けた結果、現実がその一部をなぞってしまっている。だからこそ、作者は「より良い未来」を想像し提示すべきだと感じたのです。
実現可能で心地よく生きられる未来像を描くことは難しい挑戦でしたが、まず自分自身がそれを信じる必要がありました。

私は、技術の延長線上にある近未来を構想し、物事が機能し、人間性や美しさがまだ可能である世界を思い描き始めました。批判ではなく“出口”を探すために、これまでの皮肉的な思考を手放す必要があったのです。


──虹は監督の作品に繰り返し登場します。テーマとの関係はありますか。

虹は希望の色であり、空と大地をつなぐ存在です。固定された現象ではなく、常に変化し続ける点が好きなのです。

学生時代に虹をモチーフにしたいと言ったら「ダサい」と笑われましたが、私はむしろ“自分の象徴”にしようと決めました。虹を駆けるアルコには結晶のような純粋さがあり、その存在が私をこのプロジェクトへと駆り立てました。

観客が映画を観終えた時、虹を以前とは違うものとして感じ、そこに“新しい未来”を思い描いてくれたら――それが私たちの願いです。

ウーゴ・ビアンヴニュ監督プロフィール

フランスのアニメーション作家・映画監督・イラストレーター。世界最高峰のアニメーション教育機関として知られるGOBELINS Parisやウォルト・ディズニーによって創設されたカリフォルニア芸術大学で学び、短編アニメーションや広告、グラフィックノベルなど多彩な分野で活躍してきた。シンプルな線と洗練された色彩、詩情とユーモアを併せ持つ表現が特徴で、アート性と商業性を横断する才能として評価されている。初の長編監督作『ARCO/アルコ』では、未来社会とタイムトラベルを背景に子どもたちの出会いと希望を描き、アカデミー賞長編アニメ賞にノミネート。詩的な映像と温かなヒューマニズムで高く評価され、「現代フランス・アニメーションの新たな旗手」として国際的な注目を集めている。

アップリンク吉祥寺 アップリンク京都 ほか全国劇場にて公開

公式サイト

監督・脚本:ウーゴ・ビアンヴニュ

脚本:フェリックス・ド・ジブリー

製作:フェリックス・ド・ジブリー、ソフィー・マス、ナタリー・ポートマン

アニメーション監督:アダム・シラード

編集:ナタン・ジャカード

音楽:アルノー・トゥロン

2025年/フランス/88分/カラー/ビスタ/5.1chサラウンド/字幕翻訳:浜本裕樹/原題:ARCO/映倫:G

配給:ハーク AMGエンタテインメント

©2025 Remembers / mountainA / France 3 CINEMA