『マルケータ・ラザロヴァー』驚くほど美しくデジタルレストアされたシネマスコープのフィルム=オペラ

『マルケータ・ラザロヴァー』驚くほど美しくデジタルレストアされたシネマスコープのフィルム=オペラ

2022-06-29 11:11:00

チェコスロバキア映画史上最⾼傑作と⾔われた作品『マルケータ・ラザロヴァー』はフランチシェク・ヴラーチル(1924-1999)監督が1967年に製作した作品。

監督の死後、10年を経てデジタルレストアの国家プロジェクトで、200万クローネ(2600万円)をかけて、オリジナルのネガフィルムをスキャンして汚れや傷を除去して、音声はオリジナルのモノラルのまま修復が行われた。

2011年デジタルレストア版のワールドプレミアがチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でマルケータ・ラザローバを演じたマグダ・ヴァーシャーリオヴァー が招かれ上映された。


女優を務めたのち、政治家と活躍していたヴァーシャーリオヴァーは、『マルケータ・ラザロヴァー』の撮影当時16歳で、ヴラチール監督はスタジオのキャスティングの写真で1メートルもある金髪の写真の少女に注目したのだという。

2022年の日本での劇場公開は、製作から55年ぶりとなる。シネマスコープの驚くほど美しくデジタルレストアされた映像、特にシルバーを感じさせる白い映像の美しさ、そして、普通の劇映画ではあり得ないエコーがかかった台詞、まるで大きな聖堂の中での反響を感じる音響効果は、映画館で体験することを前提としたフィルム=オペラだ。

原作はチェコのヴラジスラフ・ヴァンチュラ(1981-1942)の同名小説。彼は資本主義の世界を告発した作品が多く、貧困、戦争、不条理の底に資本主義の悪を見出し、ナチスに抵抗を続け,非合法活動中捕えられて処刑された。小説『マルケータ・ラザロヴァー』の構造は、語り手が、常に聞き手である読者と接しているというのが特徴だという。例えば、このように。

「御覧なされ、マルケータさまを。みごとな髪の洪水のしたで彼女の哀願する脳は身もだえしている。この脳。そのなかで恐怖が巨大なくちばしのようについばんでいのです。恐怖、恐怖、そして絶望。マルケータは死を欲する。さて、さて、読者の皆さま方。神さまは死の瞬間にもやはり神を信じますような人生の希望を人間に吹きこまれたのです」

原作の構造を映画にも取り入れたのであろう、クローズアップと引きのショット、台詞とテロップなど、そしてカメラの視点に制限をかけることなく自由に作られている。

叙事詩的人間の物語と自然の風景に加えて描写される動物たちのショット、特に狼の群れをどう演出したのかは謎だが、その狼たちがヴラチール監督に従っている、その演出力に驚愕する。

カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭記事
原作引用参考サイト

 

フランチシェク・ヴラーチル監督

 

1924年チェコスロバキア(現チェコ共和国)チェスキー・チェシーン⽣まれ。 1945年よりブルノの⼤学で美学と美術史を学ぶ。在学中に映画製作に興味を持ち、ブルノ漫画・⼈形映画スタジオで脚本家として働く。その後、新しく設⽴された科学教育映画スタジオにて短編ドキュメンタリー映画の制作に携わる。 1951年からは陸軍の映画スタジオで働き、短編ドキュメンタリーを制作。1958年には初の短編劇映画『ガラスの雲』を監督した。その後、チェコの⼤スタジオ「バンドラフ・スタジオ」に移り、1960年に初の⻑編映画『⽩い鳩』を監督。この作品はカンヌやヴェネチアなどの国際映画祭で評価され、チェコ・ヌーヴェルバーグの嚆⽮と⾔われている。

その後、『悪魔の罠』(ʻ61年)『マルケータ・ラザロヴァー』(ʻ67年)『蜂の⾕』 (ʻ67年)の歴史三部作、初のカラー作品『アデライド』(ʻ69年)を監督し、それぞれ⾼い評価を得た。「正常化」以降、ヴラーチルは⻑編映画の製作を許されず、バランドフ・スタジオを去らざるを得なかった。1976年に再び⻑編映画の製作が許可され『焼きジャガイモの煙』(ʻ76年)を監督。『暑い夏の影』(ʻ77年)はカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でクリスタルグローブ賞を受賞した。

ビロード⾰命後、これまでのチェコ映画への貢献に対してチェコのアカデミー賞であるチェコ・ライオン賞を受賞し、チェコ映画テレビアカデミーの会⻑に就任した。1999年死去。

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フランチシェク・ヴラーチル監督インタビュー

「道は似ていて、様々な⽊が並ぶ」「まっすぐな⽊に⾼い⽊、⾵に揺れる⽊」――ヴァンチュラが原作で書いた⾔葉が⾮常に印象的だった。私は映画作りで⾵景を何より重視する。私にとって芸術とは視覚芸術で、昔から映画の⾵景ばかりを⾒ていて字幕を読むのに苦労した。物語の主題は⽬に⾒えないので、映画の主題を決めるのは⼤変な作業だったよ。映画向けに作られたオリジナルの物語でも、⼩説が原作の物語でもどちらでもいい。時代物でも現代物   でも、こだわりはなかった。重要なのは物語の第⼀印象だよ。かすかな印象でも⼗分だ。先ほど、本作の原作について⾔及したが"もう⼀度引⽤したいと思う。

「道は似ていて様々な⽊が並ぶ」「まっすぐな⽊に⾼い⽊、⾵に揺れる⽊」多くの知恵を含みながらも視覚的な印象を強く与える⾔葉だ。頭に浮かぶ第⼀印象は壮⼤であ る必要はない。かすかなイメージさえ得られればそれを踏み台にできる。そして1つの物語に膨らませていけばいい。

映画作りに最も近い芸術形態は恐らく詩だろう。詩を構成する節の⼀つ⼀つにはそれぞれ違う意味がある。映画も同じように数多くのショットで構成されている。違う意味を持つ複数のショットを編集で組み合わせると また違う意味が⽣まれる。そういう意味で映画は詩的な芸術であり、それこそが映画の魅⼒だろう。

『In the Web of Time (V síti času)』(1989年/監督:フランチシェク・ウルドリッヒ)より

 

ストーリー

舞台は13世紀半ば、動乱のボヘミア王国。

ロハーチェックの領主コズリークは、勇猛な騎⼠であると同時に残虐な盗賊でもあった。ある凍てつく冬の⽇、 コズリークの息⼦ミコラーシュとアダムは遠征中の伯爵⼀⾏を襲撃し、伯爵の息⼦クリスティアンを捕虜として捕らえる。王は捕虜奪還とロハーチェク討伐を試み、将軍ピヴォを指揮官とする精鋭部隊を送る。

⼀⽅オボジシュテェの領主ラザルは、時にコズリーク⼀⾨の獲物を横取りしながらも豊かに暮らしていた。彼にはマルケータという、将来修道⼥になることを約束されている娘がいた。

ミコラーシュは王に対抗すべく同盟を組むことをラザルに持ちかけるが、ラザルはそれを拒否し王に協⼒する。 ラザル⼀⾨に袋叩きにされたミコラーシュは、報復のため娘のマルケータを誘拐し、陵辱する。部族間の争いに巻き込まれ、過酷な状況下におかれたマルケータは次第にミコラーシュを愛し始めるが…。

予告編

 

公式サイト

7月2日(土) シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開
7月15日(金)よりアップリンク吉祥寺、7月22日(金)よりアップリンク京都にて上映

監督・脚本:フランチシェク・ヴラーチル
原作:ヴラジスラフ・ヴァンチュラ
脚本:フランチシェク・パヴリーチェク     
撮影:ベドジフ・バチュカ
美術・⾐装:テオドール・ピステック
⾳楽:ズデニェク・リシュカ
出演:マグダ・ヴァーシャーリオヴァー、ヨゼフ・ケムル、フランチシェク・ヴェレツキー、イヴァン・パルーフ、パヴラ・ポラーシュコヴァー

1967年/チェコ/166分/モノクロ/シネマスコープ/モノラル/DCP/原題:Marketa Lazarová

提供:キングレコード 後援:チェコセンター東京
配給・宣伝:ON VACATION 

© 1967 The Czech Film Fund and Národní filmový archiv, Prague

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