『めぐる/エイン』ティンダン監督インタビュー  ミャンマーでの拘束から生還したティンダン監督が、撮り続ける理由

『めぐる/エイン』ティンダン監督インタビュー  ミャンマーでの拘束から生還したティンダン監督が、撮り続ける理由

2026-03-07 20:13:00

▼『めぐる』予告編

▼『エイン』予告編

 

日本育ちのミャンマー人映像作家 ティンダン監督の2作品『めぐる』『エイン』が3月6日(金)よりアップリンク吉祥寺・アップリンク京都ほか全国順次公開された。
本作の公開に合わせ、ティンダン監督にインタビューを実施し、2作品の制作経緯や、ご自身の経験を伺った。

ー監督は日本映画学校(現・日本映画大学)のご出身ですが、入学のきっかけや当時の制作環境、そして卒業制作である『エイン』の裏話について教えていただけますか?

ティン・ダン監督: 学校選びの際、色々な映画学校を見学したのですが、日本映画学校の「バカな奴求む」というキャッチフレーズを見て、「俺バカだし行けるかも」と思って入学を決めました(笑)。また映画業界で活躍する先輩を多数排出していたので挑戦しようと思いました
。当時の倍率はすごかったのですが、同級生の中で外国人は僕一人だけで、非常に珍しい存在でした。
卒業制作は企画の競争率が高く、投票で選ばれた演出コースでは5人しか監督できません。しかも当時は16ミリフィルムでの撮影でした。フィルム代が高いので、最初から最後までカメラを止めずに通しで撮る「マスターショット」を使用せずカット割りをしっかり決め、フィルムを節約できるよう計算しながら撮る必要がありました。
実は最初、ミャンマーの88年クーデターをテーマにした政治色の強い脚本を半年かけて書いたのですが、恩師である天願大介監督から「これを学校として認めるわけにはいかない、君の身が危ない」と止められ、ボツになってしまいました。締め切りまであと1週間程度しかなく、悔しい思いを抱えながら、ダメ元で自分の好きな雰囲気のシーンを詰め込んで3日間で一気に書き上げたのが今回の『エイン』です。それが無事に通り、学校長賞(佐藤忠男賞)をいただき、アジアフォーカス福岡映画祭2006などの大きな映画祭にも出品してもらえました。

ー『エイン』の中で「外人」という言葉に対する感情が描かれていますが、監督ご自身は日本社会での差別や偏見をどう感じていましたか?

ティン・ダン監督: 僕は6歳でミャンマーから日本に来ました。「外人」という言葉は、上の世代は悪気なく使うこともありますが、僕らの世代にとっては差別的に聞こえる言葉です。自分自身のことというより、転校生だった友人が理不尽にからかわれたり、僕の弟が「ションベン臭い」といじめられたりした経験があり、そうした記憶が作品のベースになっています。
あの映画から20年経ちますが、今の日本は外国人の受け入れ態勢が大きく変わりました。日本映画大学でも今や3分の1が中国人留学生です。「外人」という概念自体を知らない若い留学生も増えており、時代は大きく変わったと感じています。

ー映画『めぐる』の撮影から、2021年のミャンマーでのクーデター、そしてご自身が国軍に拘束されるまでの経緯を教えてください。

ティン・ダン監督: 『めぐる』は2017年頃から撮影し、紆余曲折あり2020年に完成しました。2021年か22年頃に劇場公開しようと準備を進め、同時にミャンマーに制作会社を作って日系企業のCM制作などもしていた矢先、クーデターが起きました。エンタメ系の仕事はすべてストップしました。
その後、全国で大規模な民主化デモ(Z世代を中心とした抗議活動)が始まりました。香港のデモ以上のすごい熱気で、僕は彼らがなぜそこまで声を上げるのか知りたくなり、撮影していました。しかし、僕が追いかけていた学生運動のリーダーたちが逮捕され、彼らの携帯電話の履歴から僕の足がつき、隠れ家としていたホテルを急襲されて拘束されました。

ー逮捕後、刑務所での過酷な収監生活はどのようなものでしたか?

ティン・ダン監督: 逮捕後、まずは厳しい尋問所に送られ、その後刑務所へ移されました。合計で2年1ヶ月間収監されました。
150人が一部屋に押し込められるという想像を絶する環境でした。刑務所内には独自の社会と経済が形成されています。例えば、差し入れでもらったコーヒーの粉を「寮長(リーダー格の囚人)」に渡すと、寝るスペースを少し広くしてもらえたり、マッサージを受けられたりします。お金があれば薄い毛布を何枚も買って布団代わりにすることもできます。
最初は政治犯だけで固められていたのですが、中でデモが起きるため、国軍は僕らを分散させ、殺人犯などの一般犯罪者をリーダーにして僕らを監視させました。精神的には過酷でしたが、同じ志を持つ無実の仲間たちがいたことが救いでした。最終的には恩赦のタイミングが合い、解放されました。

ー帰国後、映画『めぐる』を公開することになった経緯と、今後の映画制作への思い、そして命を懸けて戦うミャンマーの若者たちについて聞かせてください。

ティン・ダン監督: 逮捕された際、『めぐる』のマスターデータはすべて国軍に没収され紛失してしまいましたが、友人(宣伝物デザインの曽根大樹さん)に預けていた『めぐる』の「完パケ(完成データ)」だけが残っていました。今回はそれをDCP化して、初めて全国の劇場で公開できることになりました。上映に協力してくれたアップリンクさんには本当に感謝しています。
これまでは自分のアイデンティティや、監督としての演出技術に挑戦する作品を作ってきましたが、次はエンタメ要素も入れつつ、今のミャンマーの現状を「フィクション映画」として描きたいと思っています。「めぐる」の脚本の山﨑さんと一緒に長編にも挑戦してみたいです。
現在、ミャンマーの若者たちは平和的なデモでは何も変わらないと悟り、武器を持って国軍と戦う道(PDF:国民防衛隊など)を選んでいます。彼らはジャングルに入り、自らの人生を投げ打って戦っています。
僕はTokyo Docs(ドキュメンタリーの国際共同製作と海外へ番組及び作品販売を支援するための国際イベント)のピッチで彼らのドキュメンタリーの企画を出し、グランプリをいただきました。彼らの中にはすでに命を落とした若者もいます。これからも資金を集め、彼らが生きた証、彼らの物語を何らかの形で映画として残さなければならないと強く思っています。

(インタビュー・文:TA)

ティンダン監督 プロフィール

1984年6月29日生まれ。ミャンマー・ヤンゴン出身。

6歳で日本に来日。日本で育つ。2006年、日本映画学校18期卒業。日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作作品の『エイン』は、アジアフォーカス・福岡映画祭及び伊参スタジオ映画祭に正式出品された。映画学校卒業後、映画の現場制作・助監督として活動開始。芸能プロダクションに就職したが、2017年に退職し、映像の世界に復帰し、『めぐる』を監督。ボンダンス国際映画祭 最優秀短編賞、ライジングサン国際映画祭 日本短編映画部門 グランプリ、小布施短編映画祭 鴻山部門 作品賞、ワッタン映画祭 審査員特別賞を受賞した。広告の現場で助監督や制作として活動しながら、2019年にミャンマーでChamp Asia Productionを設立。2021年、ミャンマーのクーデターに遭遇し、ドキュメンタリーの撮影中に政治犯として拘束され、2年1ヶ月刑務所に勾留される。現在は長編制作に向け準備中。

 

『めぐる』

イントロダクション

『めぐる』の登場人物は、就職活動に奔走する女子大生、吐きダコのある少女、崩れかけた家族を抱える息子と父親、学校でいじめを受ける少女。すれ違う人々の人生が、一本の電車の遅延をきっかけに静かに交差してゆく本作は、時に残酷で、時に愛おしい人間の姿を描きながら、「他人の人生に思いを馳せること」の意味を問い直す。社会の騒がしさに埋もれてしまいそうな“声なき声”に、ほんの一瞬でも耳を傾けることができたなら――。そんな想いを込めた、静かで切実な群像劇。

それぞれを生越千晴、小野花梨、小出水賢一郎、小野孝弘、姫愛奈ラレイナが演じる他、図らずも皆を繋ぐ男性役で泊帝、壊れかけた家族の母親役でししくら暁子が出演する。

脚本は『おじいちゃん、死んじゃったって。』『愛に乱暴』の山﨑佐保子。

ボンダンス国際映画祭 最優秀短編賞、ライジングサン国際映画祭 日本短編映画部門 グランプリ、小布施短編映画祭 鴻山部門 作品賞、ワッタン映画祭 審査員特別賞を受賞した。

監督が拘束され、公開が遅れていたが、監督が拘束前にスタッフへ預けていた動画データを元に、字幕のない上映用データを改めて制作。本来の形での上映は今回が初となる。

ストーリー

大切な入社試験の面接の日の朝も、めぐみ(生越千晴)はいつもの悪夢にうなされていた。その夢とは、放課後の教室で行われる妹・奈緒(姫愛奈ラレイナ)への集団いじめと、奈緒が駅のホームへ向かう光景。

寝坊しためぐみは駅へと走り、途中でスーツを着た男(泊帝)にぶつかりながらも、発車間際の電車に駆け込む。この駆け込み乗車による僅かな電車遅延が、その後さまざまな人々の運命を狂わせることになる。

母親の危篤の知らせを聞き、病院に急ぐ中年の男・圭一(小野孝弘)と、自堕落な大学浪人生活を送るその息子・めぐる(小出水賢一郎)、謎の女子高校生・ユキ(小野花梨)、そして不運なスーツの男。めぐみの行動は、自分とは全く関係ない誰かの人生をめぐりめぐっていく…

出演:生越千晴、小野花梨、小出水賢一郎、小野孝弘、泊帝、ししくら暁子、姫愛奈ラレイナ
スタッフ:撮影監督 山本周平 照明 鳥内宏二 編集 辻田恵美
助監督 稲垣壮洋 宣伝美術 曽根大樹 メイク 鈴木真帆 プロデューサー 江南知幸
監督:ティンダン 脚本:山﨑佐保子

制作/配給:合同会社CHAMP ASIA 配給協力:NEGA

2020/日本語/ステレオ/アメリカンビスタ/30min

©合同会社CHAMP ASIA

 

『エイン』

イントロダクション

2021年4月、クーデター後のミャンマーで取材中に、市民の抗議デモを支持したなどとして拘束され、約2年に渡って刑務所に収容されていた、日本育ちのミャンマー人映像作家ティンダンの2作品が、同時上映されることが決定した。1作は、小さな行動が、見知らぬ誰かの運命を狂わせ、あるいは救っていく様を描く群像劇『めぐる』。もう1作は、監督が自分自身の境遇をテーマに作り上げた、日本に移住してきたミャンマーの兄弟が居場所を見つけていく物語『エイン』。(“エイン”とはミャンマー語で「家」。)

『エイン』の主人公は、家族でミャンマーから移ってきて1年になるアウンメイン。ティンダン監督が、7歳で来日した自身の経験をもとに、「人間関係」、「アイデンティティ」、「家族」をテーマに、「級友」、「家族」、「日本人」全てが敵のように見えていた思春期の少年が、純粋な弟と家出することで成長する姿を描く。

本作は、日本映画学校(現・日本映画大学)の卒業制作作品で、コダック ワールドワイド スチューデント プログラムというコダック株式会社の製作支援活動によってサポートされた。アジアフォーカス・福岡映画祭及び伊参スタジオ映画祭に正式出品され、出演した光石研が2025年の「アナザースカイ」で取り上げた。

ストーリー

家族でミャンマーから移ってきて1年になるアウンメインは、日本人の上司に体調が悪いことも言えず無理をする父親や、新品でなく古着の服を大量にプレゼントしてくる近隣の女性に笑顔を見せる母親の姿を見て、級友たちの自分を見る好奇の眼が、偏見があるように感じてしまう。次第に「学校」「日本人」「家族」に反発。ある日、彼は学校でトラブルを起こして父と衝突し、家を飛び出す。飛び出したアウンメインの後についてくる無邪気な弟のウィンタウンと、行く当てのない二人が目指した先は―――。

出演:フォン・テェッキン・ウィン、ピイ・ピョオ・パイン、タ・タン・モウエ、スウィ・スウィ・ウィン、光石研(特別出演)

監督:ティンダン

2006/日本語/モノラル/スタンダード/45min

制作/配給:合同会社CHAMP ASIA 配給協力:NEGA

©日本映画大学

 

アップリンク吉祥寺アップリンク京都ほかにて全国順次公開中

公式サイト