『追悼フレデリック・ワイズマン』図書館、市役所、レストラン─。人生を費やしたその膨大な仕事のひとかけらを今。

『追悼フレデリック・ワイズマン』図書館、市役所、レストラン─。人生を費やしたその膨大な仕事のひとかけらを今。

2026-03-05 08:00:00

2026年2月16日、ドキュメンタリーの巨匠フレデリック・ワイズマンが逝去した。

ワイズマンは1967年の『チチカット・フォーリーズ』以来、ほぼ1年に1本のペースで作品を発表しつづけ、そのフィルモグラフィーは40作を超える。

しかし、アテネ・フランセ文化センターや映画祭などでの特集上映を除けば、日本で劇場公開された作品は多くない。1999年の『コメディ・フランセーズ 演じられた愛』を皮切りに、わずか9作だ。

今回は、その数少ない公開作品のなかから、近年の3作─『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』(17)、『ボストン市庁舎』(20)、そして遺作となった『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』(23)を一堂に上映する。

図書館、市役所、レストラン──。一見ばらばらに思える場所に共通するのは、ある制度や枠組みのなかで人々がよりよく生きようとする姿だ。

ワイズマンのドキュメンタリーには、インタビューも、ナレーションも、音楽もない。予断を持たずに始まる撮影、そして、ときには撮影期間よりも長い時間を費やす編集を経て、ただ観察された出来事が積み上げられていく。

捉えられた映像を見て私たちが驚き、考えるとき、きっと彼自身も同じように驚き、考えつづけていたのだろう。そう思えるとき、彼がどんなふうにドキュメンタリーという営みを信じていたかが、少しだけ伝わってくる。

人生の大半を費やし、膨大な仕事を残したワイズマン。その彼自身を記録したドキュメンタリーがあってもよかったのではないか。そんな思いもよぎる。だがワイズマンは、「自分の作品は57年以上にわたる100時間以上続く1本の映画」(『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』公式パンフレットより)だと語っている。ならば彼の作品ひとつひとつが、そしてそのすべてが、彼自身のドキュメンタリーと呼べるのかもしれない。

(小川のえ)

『ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス』

(2017年/アメリカ/英語/205分/カラー/ビスタ/モノラル)

本作の主役は、本館を含む計92の図書館からなる世界最大級の〈知の殿堂〉ニューヨーク公共図書館。世界中の図書館員の憧れの的であり、ニューヨーク有数の観光スポットである図書館の内側へと、カメラは観光客は決して立入れない舞台裏を見せていく。

ハイライトとも言える何度も繰り返される幹部たちの会議─公民協働のこの図書館がいかに予算を確保するのか。いかにしてデジ タル革命に適応していくのか。ベストセラーをとるか、残すべき本をとるのか。紙の本か電子本か。 ホームレスの問題にいかに向きあうのか。

図書館の現実を浮き彫りにするとともに、図書館に集う多種多様な民族を映し出し、必然的にアメリカが現在置かれている状況を明らかにする。

デジタル化による本離れが加速し、「未来に図書館は必要ない」という意見さえ聞かれる現代に、ワイズマンはこんな登場人物の言葉をさし示す。「彼らは図書館の進化を知らない」。

公式サイト 

監督・録音・編集・製作:フレデリック・ワイズマン 

字幕:武田理子 字幕協力:日本図書館協会国際交流事業委員会

配給:ミモザフィルムズ/ムヴィオラ

© 2017 EX LIBRIS Films LLC – All Rights Reserved

 

『ボストン市庁舎』

(2020年/アメリカ/英語/274分/カラー/1.78:1/モノラル/DCP)

ワイズマン生誕の地でもあるマサチューセッツ州のボストン市庁舎。カメラは飄々と市庁舎の中へ入り込み、市役所の人々とともに街のあちこちへ動き出す。

警察、消防、保健衛生のセクションからはじまり、退役軍人や高齢者の支援、公園の管理、さまざまな事業の営業許可、出生、結婚、死亡記録の管理まで、多様化を極める行政、福祉を司る地方自治体の活動を軽やかに描き出す。

市長のマーティン・ウォルシュをはじめ、真摯に問題に向き合う各セクションの職員たち、市庁に集う多様な人々の姿を通して、映像は今のアメリカの実像を知らしめるとともに、日本に暮らす私たちにも無縁ではない 「市民のための市役所」の可能性を見せていく。

公式サイト

監督・製作・編集・録音:フレデリック・ワイズマン

原題:City Hall 字幕:齋藤敦子 後援:アメリカ大使館

配給:ミモザフィルムズ、ムヴィオラ

© 2020 Puritan Films, LLC – All Rights Reserved

 

『至福のレストラン/三つ星トロワグロ』

(2023年/アメリカ/フランス語・英語/240分/G/ビスタ/モノラル)

55年もの間、ミシュラン三つ星に輝き続けるフレンチレストラン〈トロワグロ〉。

トロワグロで友人とテーブルを囲んだワイズマンが、レストランで繰り広げられたもてなしと料理という“芸術”に心を打たれ、その場でドキュメンタリー映画を撮らせてほしいとオファー、4代目シェフのセザール・トロワグロが快諾し実現した。

マルシェでの日々の仕入れ、開店前の予約客のアレルギーとメニューの確認、 ステージのように広々とした厨房で、司令塔の指示のもと多様な国籍の料理人たちが丹念に調理する過程、ホール担当の洗練されたサーブと心躍る料理のプレゼンテーション、博識と感性に基づいたソムリエのワインへのコメント、テーブルに立ち寄り客を会話でも楽しませるシェフ──これらレストランの1日が、朝から夜へと縦の軸として描かれていく。

公式サイト

監督・製作・編集:フレデリック・ワイズマン

原題:MENUS-PLAISIRS LES TROISGROS

日本語字幕:丸山垂穂

配給・宣伝:セテラ・インターナショナル

宣伝協力:テレザ  

© 2023 3 Star LLC. All rights reserved.

フレデリック・ワイズマン監督プロフィール

photo by Erik Madigan Heck

1930年1月1日-2026年2月16日。享年96歳。アメリカ合衆国ボストン生まれ。54年にイェール大学大学院卒業後、弁護士として活動し、その後軍隊に入る。除隊後、弁護士業の傍ら大学で教鞭をとるようになる。63年にウォーレン・ミラーの原作を映画化したシャーリー・クラーク監督作品『クール・ワールド』をプロデュースし、映画製作の道に足を踏み入れる。

67年、ドキュメンタリー映画『チチカット・フォーリーズ』を初めて監督。以降、半世紀以上にわたって数多くの重要な作品を発表。その中でも、ほぼ大半を占めるアメリカ社会の記録は、繁栄と矛盾に満ちた大国の姿を伝える偉大な足跡と讃えられている。

ドキュメンタリー監督作は全44作。これまで、アメリカのエミー賞4回、マッカーサー・フェロー賞、グッゲンハイム賞など数々の賞を受賞。14年にはその功績が称えられ、第71回ヴェネチア国際映画祭で栄誉金獅子賞を受賞、16年にはアカデミー賞®名誉賞を、そして21年にはカンヌ国際映画祭ゴールデン・コーチ賞を受賞した。

 

アップリンク吉祥寺(3月6日(金)〜) アップリンク京都(3月13日(金)〜)にて日替わり上映