『わたしは最悪。』人生を「最悪」「普通」「最高」にするのも全てはその時、あの時の選択による。「自由は複雑だ!」

『わたしは最悪。』人生を「最悪」「普通」「最高」にするのも全てはその時、あの時の選択による。「自由は複雑だ!」

2022-07-01 09:00:00

世界中で同世代に多くの共感を呼んできた『わたしは最悪。』。その主人公ユリアを演じるのは、レナーテ・レインスヴェ。彼女は、本作で第74回カンヌ国際映画祭女優賞を受賞。デンマークのコペンハーゲンで生まれ、ノルウェーで活動するヨアキム・トリアー監督は、「10年前に監督した『オスロ、8月31日』で端役を演じてくれたレナーテのために今回脚本を書いた」という。「ユリヤのキャラクター造形、複雑な心情を作っていく上で、彼女に助けられたことがたくさんあった。レナーテは大胆で勇敢、平気で不完全な部分を見せることが出来て、虚栄心が無い。明るさと深みのバランスが独特で、コメディもシリアスなドラマも演じられる素晴らしい才能を持っている」。

主人公のユリアの20代後半から30代前半を描く本作、海外メディアの「48歳の男性として、どのように女性の青春ストーリーを書き上げたのでしょうか」という質問にトリアー監督は次のように答える。

「とてもいい質問ですね。私とパートナーのエスキル・フォクトは、登場人物に没頭し、彼らの間を飛び回りながら、全員の行動理由を探ろうとアプローチします。私は何かをジャッジすることに興味があるわけではありません。登場人物の内側にある葛藤をいかに外在化させるかに興味があるのです。最近、ジェンダーの問題がよく出てきますが、これは重要なことです。でも、一番大事なのは、"私たちのジェンダーの違いに関係なく、作家としてキャラクターにどう真実味を持たせるか "ということだと思うんです。映画を作ることを選んだ私たちは、個人のアイデンティティを超え、より広い範囲の人間の物語を伝えることができるようにならなければなりません。年齢や性別が違っても、共感できるキャラクターに心を開くこと、それが私の目指すところです。自分の中にあるユリアを見つけなければならないのです」。

映画の舞台のオスロでもニューヨークでも東京でも、自分の人生を自身で選択することが可能だ。映画の中のユリアについてトリアー監督は「僕たちは選択肢がとても多い時代に暮らしていて、結局は何を選べばいいかわからないと感じている。長期にわたるパートナーを見つけるには複雑な時代だ。でも、それには一種の自由という前向きな点もあるよね。現代の女性は結婚する必要も、ある程度の年齢で子供を持つ必要もない。その一方で、僕たちは恋愛において成功しなければという、大きなプレッシャーを感じている。難しいね。自由は複雑だ! これが本作のキャッチフレーズになりそうだね」と語る。

予告編でも映画の中で新しい彼と出会う最もエモーショナルな時間を凍結したシーンが紹介されているが、本作は、トリアー監督の「人々の表情や太陽の日射しに忠実なものを撮りたい」という方針で35ミリフィルムで撮影し、そのシーンはデジタル処理ではなく、俳優が静止した演技をしていたという。

人の死、生命の誕生、別れ、出会い、人生の様々な時間が映画では描かれ、本編では2カ所現実時間と違う時間が映画的映像で表現される。先のシーンのストップモーションと、ユリアがマジックマッシュルームを試すシーン。人生はリニアに進む時間の中で展開していると思われがちだが、実は、主観による時間は決してリニアではないという象徴的なシーンだろう。

人生の中で選択肢は無数にある。「最悪」「普通」「最高」にするのも全てはその時、あの時の選択による。
監督が提案する本作のキャッチフレーズは、「自由は複雑だ!」

監督インタビュー参考サイト Interview

ヨアキム・トリアー

1974年デンマーク生まれ。世界的に著名な監督であり、脚本家。
批評家に賞賛され受賞もした長編映画『リプライズ』(06)、『オスロ、8月31日』(11)、『母の残像』(15)、『テルマ』(17)はすべてエスキル・フォクトとの共同脚本によるもので、カンヌ、サンダンス、トロント、カルロヴィ・ヴァリ、ヨーテボリ、ミラノ、イスタンブールといった国際映画祭に招待され、賞に輝いた。
デビュー作『リプライズ』は2007年アマンダ賞(ノルウェー・アカデミー賞)の最優秀ノルウェー作品、監督賞、脚本賞を受賞。この映画はアメリカでミラマックス配給によって公開され、2006年のアカデミー賞外国語映画賞ノルウェー代表作品となった。『オスロ、8月31日』は2011年カンヌ国際映画祭のある視点部門に選ばれ、フランス国内で観客動員数20万近くに達した後、2013年セザール賞の最優秀外国語映画賞にノミネートされた。初の英語作品『母の残像』でカンヌ国際映画祭コンペティション部門に初選出された。本作は北欧理事会映画賞に輝いた。『テルマ』は世界的に注目の高い賞を複数受賞し、北欧理事会映画賞にノミネートされた。2018年、彼は弟のエミールとドキュメンタリーの『The Other Munch(原題)』で共同監督を務めた。この映画はニューヨークのリンカーン・センターでワールド・プレミアとなった。
今作『わたしは最悪。』は5作目の長編映画となる。

ストーリー

学生時代は成績優秀で、アート系の才能や文才もあるのに、「これしかない!」という決定的な道が見つからず、いまだ人生の脇役のような気分のユリヤ。そんな彼女にグラフィックノベル作家として成功した年上の恋人アクセルは、妻や母といったポジションをすすめてくる。ある夜、招待されていないパーティに紛れ込んだユリヤは、若くて魅力的なアイヴィンに出会う。新たな恋の勢いに乗って、ユリヤは今度こそ自分の人生の主役の座をつかもうとするのだが──。

 

予告編

 

公式サイト

7⽉1⽇(⾦) Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿シネマカリテ、アップリンク京都ほか全国順次公開

監督:ヨアキム・トリアー (『テルマ』、『⺟の残像』)
脚本:ヨアキム・トリアー、エスキル・フォクト
出演:レナーテ・レインスヴェ、アンデルシュ・ダニエルセン・リー、ハーバート・ノードラム

2021年 /ノルウェー、フランス、スウェーデン、デンマーク/カラー/ビスタ/5.1ch デジタル/128 分/R15+

字幕翻訳:吉川美奈⼦
後援:ノルウェー⼤使館 配給:ギャガ

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